83話 理由
「勇人、少しいいか」
もう打ち上げも終盤くらいに差し掛かる
という時、
俺は大二郎からそう声をかけられた。
いつになく真面目な表情、
結構真剣な話のようだ。
「いいよ、外に行くか?」
「あぁ、少し歩きながらでも、、」
「あいよ」
そう答えて、俺は席を立つ
大二郎は俺の隣に座っている
由紀に問いかける
「すまん佐藤、、、
悪いが、勇人を少し借りる」
「なんで私に聞くの?
大事な話なんでしょ?
私のことは気にしないで話しなよ。
話さなきゃいけないこと、
いっぱいあるんでしょ、、?」
「、、、、そうだ。
今まで、ずいぶん時間がかかって、、
その分を、少しでも、、」
少し俯く大二郎、
その大二郎に俺は声をかけ、
俺たち二人は外に出た。
皆が集まってる店から少し離れるように
二人で暗い道を歩く。
「クラスマッチの時、改めて勇人の
力を垣間見て、思った。
やっぱり、俺じゃお前には
勝てないんだなって、、、」
「勝てないってのは、
なんでそう思ったんだ?」
大二郎が切り出したその独白のような
物に対して、疑問をぶつける
「俺が言ってるのは、
サッカーのことじゃない。
勇人が作り出す空気、
工藤勇人という人間の強さだ、、」
暗くて、大二郎の顔はよく見えない。
今、コイツはどんな顔をしているのだろうか
「技術じゃ計り知れない、そんな、、
俺にはない力を、勇人は数え切れない
くらい持ってる。
それが、、、、、おれは、、、、」
「大二郎、、、」
「悪いな、、わざわざここまで来たのに、、
俺たちから離れるために、、
こんな遠い陽千高に来たのに、
俺までついて来ちまって、、、」
気づいてたのか、、、
俺が陽千高を選んだ理由に、
「単純に勉強したくなくて、サッカー部も
結構強かったから俺は選んだけど、
勇人は、、俺たちが嫌で、、
そんな俺らから遠ざかる為に、、
ここを選んだ。
すまなかった、、、、」
「なんで謝る。どこの高校に行くかなんて、
それぞれの自由だろ?
大二郎にも選んだ理由があって、
それでたまたま被っただけだ。」
サッカー部が強くて、この高校を選んだ。
単純な理由であり、その可能性を
考えなかった俺も甘かっただけ。
まあ、昔とは違い、変わって来ている大二郎
そんな大二郎を見るのは嫌いではない。
誰だって成長する。
ただ、俺が成長するのがコイツより
速かっただけで、、、
「対等に話せるようになったからこそ、
聞きたい。あの時、なんでお前は、、
俺に対してあんなことをした?」
「、、、、、、俺は、、」
「正直に答えてくれ。
昔のことで、もう変えれないことだ。
だからこそ、単純な好奇心として、
今聞いてるだけだ」
純粋に気になった。
俺個人としては、俺が力をつけてきたことに
対しての嫉妬で、いじめられていたと
思っている。
「、、、、言わせないでくれよ、、、
醜い感情に囚われた結果、、
取り返しのつかないことをした、、
俺の話を、、、」
「俺に対して、
申し訳ないって思ってんなら、、、
せめてもの贖罪と思って話せ。
少しでも罪滅ぼしになると思ってな」
「そんな甘い考えは、、持たない、、
でも、お前が話せって言うんなら、、
話さなきゃな、、、
その権利は、、ある、、、」
そうして一呼吸置いたあと、
大二郎は話し始める。
昔を、、
中学の時を思い出すように
「俺は、、自分は才能がある方だと
思ってた。何を始めるにしても
すぐに上手くなれたし、勉強とかもあまり
しなくても、テストで良い点を取れた。
覚えが速くて、それほど苦労せずに
中学生までいった」
そう、大二郎はかなり恵まれた人間だと
俺は思っている。
恵まれた体格を持ち、スポーツをするに
しても、覚えが速くて、すぐに上手くなる。
小学生の時、そんな大二郎を見ていて
羨ましいと思ったことは一度ではなかった。
どうしても皆から人気になる大二郎が、
言ってしまえば、憧れでもあった
「昼休みにサッカーをみんなでして、
サッカーにハマって、、
それでサッカー部に入った。
そこで、、スタートが同じだった勇人と、
差が出来始めて来た、、」
「どんどん強くなっていったよな、勇人。
先輩からも、先生からも褒められて。
始めたての初心者にも関わらず、
他と同じレベルになっていく勇人を見て、
俺は羨ましかった。それで、、
俺は思った」
「その時、自分が持ってる側の人間だって
疑ってなかった俺は、、思った。
俺より速く、強くなっていく勇人は、、
間違いなく才能があるからだって、、、
才能があるから、強くなれるんだって」
才能がある人間と、ない人間。
二つの間には確かに差がある。
俺が才能を持っている人間なのかは、、
今でも分からない。
でも、その時の大二郎は自然にそう思った。
他でもない彼自身が、
才能というものを認知して、才能があるから
こそ、自分が強いことを知っていたから。
そんな自分より強い人間は、
皆全て才能を持っている人間だと、、、
そう自然に思考してしまったのだろう。
「才能っていう分かりやすい指標しか
見えていなかったから、、、
だから、お前の努力も解らないで、、
知ろうともしなかった。
俺は、、知らなかった」
「才能が全てじゃない。
血が滲む努力を、死ぬほど積み重ねた
人間が到達できる場所。
それが、、勇人が立っている場所なんだ。
その努力が生んだ力を、、、
俺は知らなかったし、、
信じれなかった。」
「千葉や夜羊があの時、突然覚醒したのも、
努力の先にある勝利をどうしようもなく
求めることで初めてそこに踏み込める。
夜羊から言われた通り、俺はそこに
辿り着けない。お前たちのように、、、」
何か感じるものがあったのだろう。
あの感覚はそうだ。
勝利という結果をどこまでも追い求め、
狂おしいほどにそれを掴みたいという想い
があってはじめて、、
あの感覚が芽生える、、
と、、俺は思う。
「そんな、一種の狂気を知らず、、、
内面を知ろうとしなかった結果、、、
才能があるという分かりやすい答えに
逃げて、、、、お前をいじめた、、、!
自分の中に生まれた、、初めての敗北感。
それが受け入れられなかった」
「才能なんて言葉じゃ表せない、心の強さ。
才能を超える狂気的な努力。
それが存在することに気づかず、、、
俺はあの時、一時の感情に身を任せて、、
お前を陥れた、、、、!
自分の弱さを棚に上げてッ、、!」
「今思えば、、ほんとにクズだよなぁ、、!
自分が弱いだけで、、、
強いやつの足引っ張ってッ!
才能なんて言葉でお前の努力を
見ようともしないでッ、、、!!
自分の弱さから目を逸らし続けて、、
そんなことをしてるうちにも、、
お前や千葉達は強くなってるのに、、」
「おれは、、、、どうすればいい、、??
才能だけしかないおれは、、、
努力をしらないおれは、、、、!!
血が滲む努力を知らないおれは、、、、
できないおれはッッ、、、、!」
どうすればいい、、、、?
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