82話 救世主
打ち上げはそんな感じで結構色々
知らないことを知れた。
みんなクラスマッチのこと以外でも、
それぞれで話題を出し合い、
会話が途切れることはなかった。
「あれ、外でなにしてるの?
勇人くん」
「ん?彩花か」
少し外の空気を吸うために
店から出ていたが、
入口の方から彩花が出てきた。
「少し、空気でも吸いたくてさ。
ここら辺の空気を」
中原さんのカフェは俺の地元から遠い。
俺の地元は県庁所在地ということもあり、
夜になったところで街が
暗くなるわけじゃない。
むしろ夜になってから賑やかになったり
するところが多いくらいだ。
「なかなか、こんな自然の中で
過ごす機会がなくてさ。
だから、新鮮だなって、、」
耳をすませば、何かの虫の鳴き声が
聞こえる。
風が多くの木を揺らして、
自然の音が鮮明に聞こえてくる。
そして、
「家の近くで見る夜空と、
全然違って見えるからなぁ、、」
交流合宿の時もそうだったが、
やはり自然の中で見る夜空というのは
綺麗なもんだ。
ここら辺は都市から結構離れた山の方で、
外に出れば自然の風景が一望できる。
中原さんは田舎だから不便だよって
言ってたけど、
俺は静かなここはかなり好きだ。
心が安らぐ気がする。
「私も思ってた、、
星がよく見えるし、良いよね。
中原さんが羨ましい、、」
俺の隣に来て、夜空を一緒に見る。
「店の中の賑やかな雰囲気もいいけど、
たまにはこんな安らぐような、
落ち着いた雰囲気も好き、、」
店の中での喧騒が少し小さく聞こえる。
皆が楽しそうに会話している声。
笑い声や、時には驚いた声だったり、
様々な声が聞こえる、
「彩花はこの安らぐような感じの方が
好きなんじゃないか?
元々わいわいするタイプじゃなかった
だろうし」
「うん、、、、
でも今はおんなじくらい、
みんなと一緒にわいわいするのが
楽しくて、、、
ほんと、毎日退屈しないなぁ〜って」
そうして彩花は少し体を伸ばす。
なんやかんや結構長い時間座って
話していたし、体が固まったのだろう。
俺もそれに倣って体を一緒に伸ばす。
「ふふっ、真似されたっ、、」
「嫌だったか?」
彩花はふるふると首を横に振る
「違うよ、そんなことない。
私だって、勇人くんの真似してて、
高校生活送ってるしね」
「そんな真似してる?」
「たまに、、ね?
だけど、最近なんとなく自分でも、
人と仲良くする方法というか、接し方が
分かってきてね、、、!
だから、最近楽しいのっ!」
嬉しそうにこちらを見ながら
穏やかに笑う彩花。
「昔はずっと、遠くから楽しそうなクラスの
人たちを見るだけだった、、、
でも今は、みんなの中に入って、
一緒に笑って、一緒に練習して、
支え合って、、、」
店の中にいるみんなを見て彩花が言う。
その顔は微笑んでいて、
優しい顔をしていた。
「もっと早く輪の中に入れてれば、
何か違ったのかな、、、」
「まぁ、少なくともあんなに
取り乱すことはなかっただろうな。
凄かったぞ?あの時、、」
「む、、確かにあんな恥ずかしいことは
しなかっただろうねっ」
俺から顔を背けて、ツンとした声になる。
恥ずかしいのか、、?
少し拗ねてしまった、、、
「でも、もし最初から輪に入ってれば、
ここに来なかったかも知れない、、
そうなってたら、うん、、、」
先程より穏やかな声になって、
俺の方を見て、、
「あなたと、、
会えなかったかもしれないから、、、
それだけは、、嫌だな、、、」
そう彩花は言った
「私は色々なことを諦めてしまった、、、
でも、そんな私を気にかけてくれて、
立ち直るきっかけをくれた。
そんな勇人くんと出会えなかった未来は、
想像したくないんだ、、、」
自信をなくして、何をすればいいか
分からなくなっていた少女。
そんな弱かった少女は、少しづつ前を向いて
今も生きている。
きっかけをくれたと言っていたが、
そのきっかけから大きいものを掴んだのは
彩花自身だ。
「そのきっかけをものにしたのは彩花だ。
俺はほんのちょっと背中を押しただけ」
「そのほんのちょっとがなければ、
今私はこんなに笑えてないよ?
きっかけを与えてくれるって、それだけ
ありがたくて、その人にとっては、
本当に救いになることなんだよ、、」
たかがきっかけを与えただけ。
しかしそれがどれだけすごいことかを
説明してくれる。
「勇人くんに助けられた私は、
そのきっかけがどれだけ大きいものかが
分かる。そして、
それを与えてくれた勇人くんが、
どれだけ優しいかも。
私にとっては、勇人くんは救世主で、
勇者さまなんだよっ!」
「そんな大袈裟な」
意外と乙女チックなことを言うもんだ、、
俺は勇者でも救世主でもない。
ただ困っている友達を助けただけだ。
「助けることは難しいことなんだよ?
だからこそ、それをする勇人くんは、
もっと自分を褒めていいのに、、、」
「十分褒めてるよ。俺自身、
そうしなきゃ
途中で終わってただろうしな」
自分を褒めながら生きていた。
他人からの賞賛は二の次。
自分が納得できるかが全てで、
自分が納得できるレベルが
サッカーで勝つことだった。
「勇人くんはいつも頑張ってる、、
でも、少しは周りをみてくださいっ!」
彩花が俺に近づいて来て、
俺の胸に耳を当てる。
「じゃないと、私にこんなこと
されちゃうよ?いいの?」
「そりゃ、、気をつけなきゃな、、、
油断大敵だ、、、」
俺の背中に手を回してさらに
体を密着させる彩花
「勇人くんも、私もクラスマッチで
頑張った。だから、
それだけ自分を褒めてあげようね?
もちろん、私のことも褒めてくれても
いいんだけどなぁ、、、」
「はいはい、、、
よく頑張ったな、、
慣れない経験ばっかな中で、
よくやった、、」
丁度良い位置に頭があったので、
彩花の頭を撫でる
「熱くないのか?夜とはいえ、
もう夏だし、、、」
「うん、なんか顔が熱いけどね、
心がふわふわしてる。
不思議な感じ」
そう言って俺から体を離す。
その後、俺の手を引き
店の方に歩いて行く。
「もう少しで時間的に終わっちゃいそう、
早く戻ろうかっ?勇人くんっ!」
「おう、そうだな。」
そうして二人でまた賑やかな喧騒の中に
戻った。日が沈んで結構経ってるし、
あと少しで解散になるだろうしな。
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