80話 打ち上げ

「「乾杯!」」


大二郎と由紀の合図で、

飲み物が入ったグラスを

皆がカチンと合わせる。



クラスマッチで総合優勝した俺たち1組は、

お疲れ様会みたいな感じで

とある喫茶店に来ていた。


なんでもクラスメイトである中原さんは、

家が自営業の喫茶店であり、

そこを使って打ち上げをしようという話に

なったらしい。


木造建築で落ち着いた雰囲気の店内が、

学生特有のわいわいとした雰囲気が

上書きする。


昨日あれだけのことをした次の日なのに、

皆の元気に少し怖くなりました、、、


「乾杯、工藤くん!」

「あぁ、乾杯、、」


隣に来た中原さんとグラスを

合わせる。


「こんなうるさくしていいの?

 なんか申し訳ないんだけど、、」

「いいよいいよ!

 元々今日は定休日だし、うちの両親も

 ワイワイするの結構すきだから、

 そこらへん分かってくれるしね〜」


そう言いながらもコーラを一口飲む。


ソファー席とか、テラスの席とかの

それぞれの場所で好きに話し合っている

クラスのみんなを見る。


「逆に嬉しそうだったけどね、

 こんなに早くクラスのみんなと私が

 馴染めてることがさ。

 世間からの風当たりが結構強い学校だし、

 不安とかもあったっぽいから、、」


なるほど、確かに娘さんがクラスに馴染めて

いる風景が見れるのは嬉しそうではある。

まだ三ヶ月とかしか経ってないけど、、

かなり気にかけているんだろうな


「親バカだし、、、」

「誰が親バカですかっ!」

「あてっっ、、、!」


中原さんの頭をお盆で軽く叩いた人。


「親からの愛情を、そんな言葉で

 片付けてはいけませんっ!」

「酷いよぉぉお母さん、、!」

「そんな痛くなかったでしょ」


痛そうに頭を抑える中原さんを見ながら、

呆れた表情をする女性。


「今日はありがとうございます。

 あと、すみません。

 こんな大人数で押しかけて、、、」

「いいのよ!

 みんなが楽しそうでよかったよかった!

 いらぬ心配だよ、工藤君」

「あ、そうすか、、、」


そう言って明るい表情になる中原さんの

お母さん。

結構明るい性格をしているらしく、

元気な印象を強く受けるような笑顔を見せる


「今時珍しいね、こんなクラスのみんな

 仲がいいなんて、、

 何か特別なことでもやってるの?

 陽千校って、」

「いえ、今のところは何も、、

 ただ単純に、皆が協力して来たから、

 仲がいいんじゃないですかね?」

「あ、日菜から聞いたよ?

 すごかったらしいね?

 クラスマッチ、、だっけ?」


日菜っていうのは、中原さんのことだ。


「なんでも男子は全勝で、

 女子も一回負けた以外は全部勝ったって

 日菜は言ってたけど、、

 このクラスはたまたま

 みんな部活をやってて

 運動神経が良かったとか?」

「違うよお母さんっ!

 みんなが真剣に勝つために練習して

 来たから、勝てたんだよ!!」

 

お母さんを見上げて自慢するように

説明をし始める中原さん。


「経験者なんて、逆にこっちが少ない

 くらいだよ?なのにその差をみんなが

 埋めるくらい頑張ったってだけ!」

「はいはい、、

 なんにせよ楽しそうだね、日菜。

 こんなやかましい子だけど、

 よろしくね?工藤君」

「はぁ、、?

 まあ、はい、、」


なんか任された。


「まぁ、君になら任せられそうだしね。

 サッカーだって、工藤君がいたから

 勝てたって言ってるよ。」

「ちょ、お母さん!!

 それは言わないって、、!」

「初めて見たよ〜?

 日菜がバレー以外であんなに」


思い出すように、その時のことを

話し始める。


「バレーで一筋だった娘が、

 今まで触れてこなかったサッカーに興味を

 持ち始めたんだから、私としては

 もうびっくりだ」

「、、、いいじゃん。悪い?」

「いやいや、それだけ面白かったんでしょ?

 良いことだよ思うよ。

 瞬も喜びそうだっ」

 

笑顔で自分の娘を見る。

それだけ色々なことに興味を持ってくれた

ことが嬉しいんだろう。

親バカというのは本当のようだ。


「瞬には言わないでよ、、、

 絶対めんどくさいんだから、、」

「ははっ、そうだねぇ、、

 一回話しだすと、

 止まらないからなぁあの子」

「瞬?」


二人が話している瞬という名前が

気になった。兄弟とかかな?


「あぁ、ごめんね?

 中原瞬。今は中2で、

 私の弟なの。工藤くんと同じ

 サッカー部っ!」

「お、サッカー部か、、!」


サッカー部なら、機会があれば

話してみたいもんだ。

今の中学サッカーのこととか諸々。


「姉弟そろってアグレッシブだから、

 こちとら面倒を見るのが大変だよ、、

 よく汚れて帰ってくるし、

 よく食べるし、、」

「成長期なんだししょうがないですよ。

 俺もそうですし、、」


中学の時とかは成長期の真っ只中だしな。

部活生なら尚更。



「工藤くんは兄弟とかいないの?」

「いないよ。俺一人っ子」

「そうなんだ、いいなぁ、、

 そっちのが気が楽そう」

「兄弟いたほうが楽しそうじゃん、」

「いたらいたでめんどくさいよ〜!

 特に今の時期とか、変にかっこづけたり

 するしさぁ」


なるほど、そういう時期か。


「工藤くんも身に覚えあるんじゃない?

 変に意地張ったり、親と喧嘩したりとか」

「そうなんかな、、?

 俺そんな時あったっけ、、」

「あら、そうなの?

 思春期特有のあの感じ、

 なかったの?工藤君は」


中原さんのお母さんが聞いてくる。


あまりそんなことになった記憶はない。

だが、先生とかに対しては少しあったのかも

しれない。

そこまで信用していたわけではなかったし


「親に対しては、多分なかったですね、、

 自分で言うのもなんですけど、、」

「へぇ〜〜!いい子なんだね?

 工藤君は」


そういって俺の頭を結構雑に

わしゃわしゃする。


「なんかありそうな感じしたからさ。

 この年にしては、妙に落ち着いてるし、

 周りを見れるかんじとか、、」


案外鋭いのかも知れない。

大人の勘。ひいては、

親の勘と言ったところか、、



「大人びてるとか言われない?

 いろんな人からさ」

「あんまりないですよ?

 落ち着いてるとはたまに言われますけど」

「そうかい、まぁ、高校生になったとはいえ

 まだ子供さ。

 日菜も、君も。悩みがあるなら、

 存分に悩むといいよ、それが子供の仕事

 だと私は思うからね。」


そう言って俺たちから背を向けてカウンターの方に向かって行った。

おそらく、飲み物とかの準備

でもするんだろう


「良いお母さんじゃん。」

「過干渉なんだよ〜〜、、、」


頭を片手で押さえて首を振る中原さん。

複雑な親子事情である。



「や、勇人くんっ!

 クラスマッチお疲れっ!」

「おう、おつかれ!」

 


由紀がグラスを持って中原さんとは

反対側の俺の隣に座った。


「改めてありがとねっ!中原さん。

 みんな楽しそうだからさっ!」

「気にしない気にしないっ!

 今日は楽しむ日だ!

 ほら、工藤くんもっ!」


3人で改めてグラスを交わし合う。

そしてコーラを一口。


うん、うまい。

久しぶりにコーラ飲んだけど、

こんな美味かったっけ、、


「凄かったね、勇人くん!

 最初から最後までっ!

 特に最後のあのシュート!」


ジタバタし始める由紀。

なるほど、舞とかが言うのは

こういうことか、、

話すと止まらなくなるっていうやつ。


「めちゃカッコよかったっ!」

「、、、、、ども」


俺は誤魔化すようにコーラをまた

一口飲んだ。

流石に面と向かって言われると

恥ずかしいな


「そんな自慢できるようなもんじゃない。

 危ない場面はかなりあったし、

 最初の段階で一点決めてればもっと

 楽だった。

 まだまだだな、俺も」


改善点、技術の向上など、まだまだやりたい

ことは山積みだ。

あの感覚のことも自分なりに解釈して

落とし込まなければ


「あれだけ活躍してたのに、まだまだ

 やるんだね。さすが、、!」


感心したような顔をした中原さん。

俺の体に肩をぶつけて自慢げになる

由紀。


「勇人くんは、向上心の塊みたいな

 人だしねぇ、、

 いっつもサッカーのことばっかり、」

「だから色々気づかないわけだね」

「???」

「あ、こっちの話だよ。

 気にしないでねっ」


なんのことか分からない、、

俺なんか悪いことでもしてたっけ、、


「キックとかドリブルとか上手かったけど、

 それでも足りないかんじなんだ?」

「そう、自由度が高いスポーツだから、

 単純な技術だけじゃ限界があるんだよ。

 技術以外の、時々の動き方とか、

 戦略とかも結構重要なんだ」


技術がどれだけ高い相手でも、癖があったり

弱点というものは案外あることが多い。

それを見抜ける観察力だったり、

それを踏まえてどう戦うかなどの

作戦の考案力だって必要だ。


一芸だけじゃ勝てないのがサッカーの、

あるいはスポーツの面白いところだ。


「ほぇ〜〜、、、

 奥が深そうだなぁ」

「案外ね、、」


サッカーが上手いやつは結構いる。

だが、それよりサッカーが強いやつの方が

止めるのは難しいと俺は思う。


「ま、工藤くんは色々つよいもんね。

 そこらへんの努力があってこそか、、

 昔も今も」

「、、、、え?

 昔も、、?」

「うん」


キョトンとした顔で俺を見てくる

中原さん。



「少しだけだけど、私工藤くん

 見たことあるし」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る