79話 英雄
背中に走る痛み、
足に残った衝撃、
気づけば背中から地面に落っこちた、、
「痛って、、、、」
背中が痛い、、、、
「でも、、、」
立ち上がってゴールを見る。
ゴールに入ったボール。
感覚が蘇る。
半ば勝手に体が動いた。
もっと良いやり方とか、
他の誰かにパスするとかもあったかも
しれない。
でもあの時、、、
できると確信した。
昔一度だけ経験した思考回路。
なにをするにしても、、
どれだけ難しいことでも、、
誰にもできないようなことでも、、
自分ならできると、、
自然にそう思ってしまう思考
根拠なんてどこにもないし、
なにもない。
でも、気づいた時にはそう思っていて、
気づいた時には行動していて、
思い描いた景色をどこまでも
描ける。
大袈裟だろうと鼻で笑われるかも知れない。
でも、これが覚醒ってやつなんだろう。
テレビとか、ネットとかで
たまに見かける、、
ゾーンとか、そんなやつ、、
時間がゆっくり流れてるように感じるとか、
敵の動きが全部わかるとか、
どれだけ走っても疲れないとか、、、
色々なことが言われてるやつだ
「中1の時の、、
アレも、、そうだったのか、、?」
「勇人ッッ!!」
「うおっっ!?」
体を思いっきりぶつけて来たあと、
俺の肩に手を置いて、
思いっきりジャンプする大二郎。
重い、、、
しかも身長あるしコイツ、、
「工藤ッッ!!」
「勇人くんッ!」
他のやつもどんどん集まってくる。
気づけば1組の奴らに
囲まれていた。
それぞれが好き勝手に感想を言う。
「最後の何あれ!?
超カッケェじゃんッッ!!」
「オーバーヘッドキックってやつだよね?
テレビでプロの人とかがたまにやってる、
あの派手なシュート」
「でもプロでもほとんど見ないぞ、、?
あのシュート、、」
プロの世界で活躍しているフォワードとか
の選手でも、数えるくらいしか無い
くらいのシュートだろう。
プロが決めた何百とかのゴールの中でも、
数本あるかないかのシュート
オーバーヘッドシュート、
または、バイシクルシュートとか
言われたりもするらしい。
そりゃ他のやつも、
観客も沸き立つはずだ、、
なんせ素人でも分かりやすいくらいに
派手なプレーで、高難度な技。
それを実現した男、、
「どこまで強くなんだよお前はぁッッ!?」
思いっきり肩を組んでくる大二郎
「しらね、、、
というか、、
みんな元気すぎ、、、」
あれだけ全力でずっと走り回ってたのに、
これだけ騒げるんだ、
もっとコイツら走らせればよかった、、
「勝てたからよかったよ、、、」
「というか最後、全部読んでたのか?
千葉とか夜羊とか、高鳥が止めにくる
とこまでさ、、?」
橋本君が聞いてくる
「ある程度は、、な。
あの三人、、
特に千葉と周は、
俺を自由にするわけがないからな」
最後にあの二人が止めにくることは
分かっていた。
だからこその、凌哉とのあの連携。
凌哉がフィニッシャーと思わせて、
その一瞬の隙をフェイクにして
俺へのラストパスに繋げる。
俺自身を囮にして、他の奴に打たせる。
その裏の作戦それ自体すら、
また囮にする
裏のさらに裏
読まれること前提のプロセス
「まぁ、それすらも周は読んでたみたい
だけどな、、、」
周があのタイミングで来たことは予想外
ではあった。だが、タイミングは予想外
であっても、どこかで止めに来ること自体
は読めていた。
だから、あの時咄嗟に止めに来た周に対して
一瞬で判断ができた。
周が来ることを読めていたからこそ、
思考が硬直することもなくノーモーションで
シュートに繋げれた
「最初の段階で、
あの3人からは警戒されてたしな、
それも分かった上でのあの
ラストの連携だ。」
「は、、なら全部、、
俺たちがそれぞれで勝つのも、、
自分に来ることも分かってたわけだ、、」
手を挙げてやれやれと言った感じで
首を振る橋本君
「敵わねぇわ、、、
その思考回路。
それだけはどうやっても真似できねぇ」
「真似されたら困るわ、、
物真似上手のカメレオンみたいな
プレーだったしな、、」
こんな言い方になってしまったが、
実際彼のプレースタイルは目を見張るものが
あると思う。
俺がディフェンスをする時の
バックステップワークを、
ああも簡単に実現してくる身体能力
数回見ただけでそのプレーを自分の中で
落とし込んで、
自分流の使い方ができるくらいの観察力、
これが自在に使えるようになれば、
かなり戦略の幅が広がる。
この試合でも、彼のその力は大いに役に
たったわけだしな。
「普通に興味湧いて来たよ。
どういうふうにしてんのかとか、
どんな感じで他の人のプレーを
真似てるのかとか、、」
「それは俺もだよ、、
あんな守り方は初めて見たし、
まじでビビることばっか起きた、、、
そんなやり方があんのかってさ、、」
語りたいことは山ほどあるが、
今はそれどころじゃない
まだやることはある。
「お前ら!早く並べっ!
最後の礼がまだ終わってないぞ!」
サッカー部の顧問の先生らしい人が
そう声をかける。
その合図に従い、
両チームが並ぶ。
「この試合、1ー0で、
1組の勝ちとするッ!
両チーム、礼ッ!」
「「「「ありがとうございました」」」」
最後の試合が幕を閉じる。
礼をして顔を上げたあと、
俺の前にいる千葉が声をかけてくる。
「最後のあれは、咄嗟にでたやつか?
あのシュートは、、」
「ああ。勝手に体がそうした。
俺の思考より先に、、」
「、、、、、そうかよ」
そう言って少し下を見たあと、
再び俺の方を見る。
「後で教えろ、、
あの感覚のこと、、」
そう言えば、千葉も今まで俺が見て来た
中で1番強かった。
一回り思考回路も、技術も、
記憶より凄かった。
「俺だってまだまだ分かったわけじゃない。
探りの段階だ。
中1の時以来だからな、
あんな感覚は、、」
「あの時のか、、」
「これからの課題になりそうだ。
この感覚の正体を掴むことが」
とりあえずは感覚を忘れないよう、
練習と実践あるのみかもな、、
「俺も俺もッッ!!
俺にも教えてよッ!
なんなんあの感覚ッ!?」
「んだよウルセェな、、
お前は黙ってろ、、」
「いや酷くないッ!?」
夜羊と千葉が戯れ合う、、?
ほんと仲良いよなコイツら、、
「また今度な、、
今日は勘弁してくれ。
死ぬほど疲れた」
「へいへい、、
勝ったやつは余裕そうでいいな」
「な訳あるか、、
余裕なんて吹き飛んだわ」
俺は千葉を今日の千葉をみて
素直にそう感じた。
「今日のお前は今までで1番動きが良かった。
俺の記憶じゃ、あんな動きができるやつ
じゃなかった。
それだけお前は強くなっていってる」
成長している。
どいつもこいつも、、
それだけ俺が部活をしていない期間が
大きいということだ。
「慰めのつもりかよ、、、
つまんね、、、」
「照れ隠しやめなよ、
逆に恥ずかしい」
「はぁ!?
一回ボコるぞクソ天才ッ!」
また始まったよ、、
「最後の礼は終わったんだから、
さっさと並ぶぞー。
閉会式あるから速くなー」
担任である中瀬先生の言葉で、
他クラスも集まってくる。
そうしてクラスマッチの閉会式が始まる。
結果で言えば、俺たちが優勝した。
まぁ男子に関してはどちらも全戦全勝
女子に関しても、
バスケで一度負けただけで、
それ以外は勝っている。
誰が見ても明らかだ。
俺たちが全員で勝ちに行った結果だ。
特に最後のサッカーなんて、
分かりやすい劣勢を覆しての勝利
これで底辺なんて言う奴は、
ほとんどいなくなるだろう。
一件落着
よかったよかった
その日、俺たち1組はみんなで
喜びを分かち合った。
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