77話 心臓
「凌いだ、、、!」
夜羊の単独での全抜きを読んでの
体を張ったディフェンス。
夜羊の一撃をすんでのところで防ぎ、
ボールは中央に、
「やば、、、!!
すっご、、、!」
隣にいる浅野舞も興奮気味に
試合を見ている。
浅野舞だけではない。
1組も4組も、他のクラスのみんなも、
この試合に夢中になっている。
「っしゃあ!工藤!!」
「ナイスディフェンスッッ!!」
「まじかよ!?あれでもダメっ!?」
「あと少しなのにッッ!!」
(すごく盛り上がってる、、、)
たかが学校の一行事にあるまじき
凄まじい熱気。
それがこの場を完全に飲み込む。
気づけば皆が夢中になり、
それぞれで先の展開を予想する。
どっちが勝つか。誰が決めて終わらせるか、
時間は少ない。
もう少しで終わる。終わってしまう。
「勇人くんッッ!!」
頑張ってッッ!!
盛り上がる他の生徒。
その声が次第に小さくなる。
フィールド以外のものが
自分の意識から遠のいていく。
見るべきは、、
勝利のみ
「クソがぁぁ!!」
止められた夜羊が叫ぶ
その声を横目に中央でキープしている
橋本君に近づく。
(死んでも渡さねぇ、、、!)
「来いッ!!」
「シャオラッッ!!」
橋本君と近い距離でのパス交換で
前に押し上げる。
さっきよりキレが良くなっている。
俺の意識下で彼が暴れている。
「工藤ッ!!こっち!」
渡辺が声をあげ、そこにパスを出す。
パスを受け取った渡辺は、
木村にパスを出す。
そこに悠太も加わり、そこで
トライアングルが作られた
「殺せ、、!」
「いつまでも初心者でいられるか、、
俺らだってやれる!!」
動き回る木村がマークにつかれたことで
一瞬綻ぶ。
そこを千葉は見逃さない。
「そこだッッ!!」
出されたパスコースに千葉が
割り込む。
「おっといかせねぇぜ、、?」
「な、、、
ウゼェ、、!!」
そこにさらに割り込んだ大二郎が
千葉を妨害する。
体格で言えば大二郎は唯一無二レベルの強さ
千葉も一瞬では奪えない。
その一瞬がでかい。
「勇人ッッ!!」
そこにフォローに行ってボールを受けとる。
左での攻防から一転、
今度は右の方を見る。
(もっとだ、、
もっと思考しろ、、、)
フィールドの人間一人一人が、、
なにができてなにができないか。
そこから綻ぶ戦場の綾を見つけ出せ、、
ゴールを描くために、他の人間も、
俺自身も使え。
一つの駒として自分を認識しろ、、、
俺というピースがいることで
可能になることがあるはずだ。
それを最大限活用しろ。
思考の波が押し寄せ、
それに意識が流されて倒れそうになる。
「抜いてみろやクソ野郎、、」
近づいてきた宮本という選手に対して
ドラッグシザースで重心をずらして
綺麗に抜き去る。
そこから見える景色
右に一人分空いたところで
佐伯君が待っている。
だがそれは千葉や周もわかっている。
彼の単独でのスピード突破は難しい
だから、、
「俺が、、!」
(前に3人、、、
ハッ、、!上等だッッ!!)
近づいてくる相手を最低限の動きで
突破する。
より繊細に、より正確にボールを動かし、
最短で、それでいて最速で、、
「は、、!?」
張り巡らされた壁を、
細かくボールを浮かしたり、
逆に低い高さで突破する。
1から100の速度変化、、
一気に加速と一気の減速。
足の負担がすごいが、
今は関係ない。
次なんかいらない、、、
今ここで勝ちたいッッ!!
「勇人くんッ!」
悠太がサポートに来る。
そこからまた思考の波に
入り込む。
鹿島悠太という一つの駒ができること、
俺の周りを悠太が動き回り、
パスコースを作る。
それを囮に前に進む
悠太へのパスをフェイクに
次々突破する。
そこからフェイクに引っかからないような
人間、、
千葉や周、夜羊、
それを橋本君とのワンツーで躱わす
「動きが速い、、、!」
「無駄がない、、!」
近いて足を伸ばしてくる千葉、、
その裏、、
今走り込め、、そうすれば
「うッ!?」
千葉の頭上を越える浮上パス。
それをそのままワンツーに組み込み、
橋本君と千葉を抜く。
「今ここで、、俺がぁ、、!!」
周が近づいてくる。
パスを出し、佐伯君へ
「フゥ、、、、!!」
繰り出される高速カットイン
その速さにさすがの周も
追いつかない。
だが、その先にもまだ敵はいる
(警戒されてたか、、、
このままじゃとられて終わるな、、)
「こっち、、!!」
(いい位置でのサポート、、、
さすが我らが1組のキャプテン、、)
近くに来た工藤にパスを出す。
そこからキープしてふと逆を見た工藤。
そこから逆にサイドチェンジ?
(いや、、)
それならもうパスを出しているはず、、
なら、こちらのサイドでできることも
あるからまだキープしているわけで、、
それは自分のスピードを活かした裏抜け??
そうだ、それしかないッッ!!
右サイド
自分の目の前にいる人間を動きながら躱す
「裏狙いか、、!」
右や左に体を動かして自分の体が
相手を超えるように工夫する。
だが流石にサッカー部。
簡単には抜けない。
そうしていると、自分よりさらに右、
ほとんどラインの上を走るような感じで
一人が突破した。
「今ッッ!!」
佐伯を囮にして裏抜けをした牧田。
逆のサイドの方にさっきいたはず、、
こっちの方にきて、、
しかも裏抜けを狙っていたなんて、、
走り込んで侵入した牧田大二郎に
完璧な裏抜けのパスが出された。
牧田が走り、スピードを落とすことなく
それをトラップ。
そこから内を一瞬見た。
(まだ、、、
まだクロスを出すには早い、、)
まだ中の人数が足りない、、
何より1番うまい勇人がまだ後ろだ、
ここは一旦キープ、、
「牧田!!後ろ!!」
「俺のこと忘れんじゃねえぞ、、、
クソ木偶の坊ッッッ!!」
(あ?な訳あるかよ、、!)
後ろの方から声がして、
そこから伸ばされる足、
スライディングを躱わす。
「は、、!?」
「忘れてねえよ、、
かたときもなぁ、、」
スライディングを躱して
さらに右奥に走る。
そこに中から一人とめにくる。
「よぉ、、、、
追いついたぜ木偶の坊、、!!」
牧田の前に立ち塞がる宮本、
(ほざいてろ、、!)
自分の後ろからサポーターがくる。
宮本の裏を狙い空いたところに
走り込んできた橋本。
「テメェらなんざ、、
俺たちの思考の枠内に収まってんだよ、」
裏抜けを狙った橋本、当然そこを警戒
してくる宮本。
橋本へのパスコースを一瞬塞いだ宮本の隙をつき、
左の方にカットインで侵入する。
「な、、!?
橋本は囮、、!?」
見えるクロスのコース、
見える最善は、、
勇人へのラストパス!
「行け、、、決めろ、、!」
右足での鋭いカーブクロス。
だが、、
「まだまだぁぁ!!」
「クソっ!?」
ギリギリ追いついた宮本の足が掠り、
クロスの軌道が少し変わる。
(ダメだ、、、!
これじゃ手前で誰かに止められる!)
「クリアできる、、、!!」
やばいッッ!!
「アイアム肉壁、、、」
「うが、、!?」
手前で4組の生徒がクリアしようとした時、
一つの体が割り込み体を張る。
「なんとしてでも、、
勇人にッッッ!!」
木村が体を張りながらさらに中に
ボールを送った。
そこに、、
「完璧!」
工藤がいた、
「待てコラ、、」
「読んでんだよテメェの動きは、、!」
だが、工藤の動きを妨害する二人の男。
千葉と夜羊
二人で工藤を挟み、
そこで工藤が前を向けないようにする。
ゴールに向かってシュートが打てない。
「詰んでんだよ、、、
こんな状態じゃ、、
どう足掻いたところで、、!
お前は点を決めれねぇ、、!!」
「決めるのはおれじゃねぇ、、」
工藤は後ろに踵でバックパスをした
「俺の方がまだまだ先を見てるぜ、、、
4組の天才コンビ、、、」
パスの先は、、
高森凌哉、、
工藤が封じられるのはわかりきっていた。
だから、それに備え
ポジショニングしていた。
「打てぇぇッッ!!」
「決める、、!」
空いている右上のコース。
そこに狙いを定める。
ここで外せば、、
みんなの頑張りが無駄になる
全員奮闘してここまで来た絶好のチャンス
絶対に外せない、、、
シュートモーションに入る
左で軸を作り、
右足を振りかざす。
迷いはいらない。
野球のように全力でッッ!!
目の前で二人がこちらに向かってくる、、
そして、、
千葉洋介にシュートコースが
塞がれた。
「どんまい、、、!!
初心者には荷が重い状況だよな、、!」
一瞬力んで、モーションが遅れた、、
塞がれたコース。
初心者の自分にカーブシュートなんて
できやしない。
「う、、嘘だ、、!」
「そんな技術じゃ、
俺は超えられねぇぜッッ!!」
あ、、、
あぁ
凄いな、
ここまで彼は読んでたなんて
狙うは右のシュートじゃない。
自分から見て左
そこに移動している工藤勇人
ふわっと、、
柔らかい軌道のループパス
それを彼に捧げる
「え、、、、、」
「最ッ高だ、、お前ら、、!」
工藤の方に飛ぶループパス
そのままヘディングで、、
「行かせるかぁぁッッ!!」
(高鳥君!?マジかよ、、!?)
完全に予想外、、
工藤もここまで読めていない。
ぶつけられる体、
それによってゴールに向かって
シュートが打てなくなる
「俺がお前を自由にさせると
思ったのか?
どんだけ心理戦しても、
一対一のインファイトじゃ、
俺に分があるッッ!!」
ボールをトラップする工藤
ゴールは背中、、
「終わりだ、、勇人ッッ!!」
高森凌哉にたいして近づいていた
二人ももう戻ってくる
挟まれて終わりだ
「で、、、?」
トラップしたボールを高く上げる
「終わり?」
工藤が飛ぶ、、
ゴールは背中
そしてそこから工藤の体が
高く舞い上がる
工藤の足が、
工藤の頭の位置を越す。
浮いたボール
ガァァァンッッッ!!
観客のどよめきと、
驚愕の声
それもそのはず
「オーバーヘッドッッ!?」
「いちいちうるせえよ、、、
お前らの次元で俺を語るな」
驚愕のオーバーヘッドシュート
そのシュートは、
キーパーの生徒も反応できない。
普通、あんな状況ではシュートなんて
打てない
相手が工藤だったことが、
最大の要因か、、、
反応できなかった強烈で正確な
シュートが左下に突き刺さり、
ネットを揺らす
そして、笛の音、、
幕が降りる
1組全員で、最後に工藤へ繋がるプレー
それが決め手になり、
この試合は1組の勝利で幕を閉じた。
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