73話 読み合い

「上がれッ!ここで決めるぞッ!」


工藤の掛け声で1組の生徒が前に

上がってくる。

経験者の少なさをカバーするために、

パスコースや味方のサポートに徹して

いるようだ。



ボールを持っている木村をサポート

するために近くに行く。


「来いッ!」

「おう!」


近い距離でのパス交換。

左サイドにいた4組の生徒を

ワンツーで抜き去る木村と工藤。


そこに牧田も近づく。

4組のセンターバックの生徒の前で

体を張り、声を上げる


「俺も使えッ!」


工藤が牧田にパスを出し、

牧田がボールを奪われないように

キープをする。

牧田の体格を使い、ポストプレーを

することで攻撃の幅を増やすためだ。


「くっ!?体格がつえぇ、、!」

「挟んで殺せッ!」

「挟まれるぞ、、!出せッ!」


キープしている牧田に他の生徒が

プレスを仕掛ける。

近づいてくる生徒の間に工藤が

顔を出してパスを要求する。

そこにパスを出す牧田


「勇人ッ!」







「ぬりぃパスだなぁオイ、、

 見え見えなんだよ、、」



工藤へのパスをカットした千葉。


「読んでんだよクソ野郎、、

 そりゃ奪われそうになったら動くよなぁ

 テメェは、、!」

「チッ、、

 ストーカーかよお前、、」


味方のサポートに徹する工藤がつくる

パスコースさえ塞げば潰せる。

工藤の考え抜かれた思考から生まれる

パスコースやスペースは脅威だが、

それ以外の選択肢がなくなることで

逆に読みやすい。


初心者ばかりだからこそ、

工藤に頼りすぎている。

工藤の戦術に従順すぎるせいで

逆に読みやすくなっている。


「ワンマンになってんぜ、、、

 体力的に厳しそうだな心臓さんよぉッ!

 走り回ってくたくたじゃねぇのか!?」

「そんなやわじゃねぇッ!」


立場が逆になり、再び二人が向かい合う。

ボールをキープしている千葉と、

それを奪う為に近づく工藤。


千葉がシザーズで工藤を揺さぶる。

それに最低限の動きでついていきながら

距離をさらに詰める工藤。




シザーズを終えた千葉は、

そのままノールックで横にパスを出した。



「ぶち抜くばっかが脳じゃねぇ!」


「アウトサイドのパス!?」

「速っ!?」


右足の外側でのパス。

1組の生徒二人の小さな間を通す

正確なパス。


そこに、、


「カウンターだよ、、、

 行けや天才ッ、、、!」

「イエッサー、、、」


千葉から高鳥へ、、

高鳥から夜羊にロングパスが出された。



(やばいッ!今俺たち1組は攻撃に人数を

 かけ過ぎてる、、、

 今夜羊がドリブルしたらとめらんねぇ!)


牧田は全速力で前線から

後ろに戻っていく。





「頭空っぽで踊れ、、!」

「踊り相手が少なくてすまんなぁ、、

 ここで止めてやるよ、、、

 自称天才野郎、、!」


(チッ、、!

 いちいちくっついてきやがって、、、

 ストーカーの素質でもあんじゃないの、?

 橋本、、、)



右足でロールをした後に左に少しボールを

弾く。

弾かれたボールを今度は左の足で

瞬時に前に弾く。

スルッと橋本の股を抜いた。


「頭に血でも登った?

 品がない突っ込んでくるだけのプレス、、

 これじゃ、、」





「何抜いた気になってんだぁ、、?」

「はっ!?」



(コイツ、、、)


抜いたと思ったら即座に体の向きを切り替え

後ろへのステップで後ろに戻りやがった、、

完全に同じではない、、

だがこの動きは、まるで、


「結局モノマネかよ、、!

 つまんないプレーだねぇ、、!」

「これが俺なんでなぁ、、!!

 真似ばっかするやつに止められる気持ちは

 どうだ?天才くんよぉ、」


橋本が腕を伸ばして体を入れ込もうとする。

それを胴体の向きを変えて手が届かないよう

キープする夜羊。


「おいどしたぁッ!!

 キープしかできねぇのか!

 カウンターなんだろッ!?

 早く抜いてみろやオラァッ!」

「暑苦しんだよ、、、、」


橋本の手を振り払い、

距離を詰めて足を動かした。

細かいタッチから繰り出される

ダブルタッチ、、

それに反応した橋本の足を躱して

再び股抜きした。


その技術に戦慄する牧田


(やば、、、

 あれだけ近い距離でのダブルタッチに

 喰いつかせての股抜き、、、

 タイミングも速さも完璧、、、

 鬼上手ぇぇ、、、!?)



これは流石に橋本も、、、


砂を蹴り上げる音が聞こえる。

抜かれた橋本が体の向きを変え即座に

反転。

そのまま夜羊に横からタックルをした


「うぇっっ!?」

「相性良いかもなぁ、、、

 色々実現できるぜ、、!

 工藤のモノマネは、、!」

「クッソがぁ、、!」


体幹の強さでは橋本の方が上

このままでは、




「モノマネごときで、、!」


高鳥が近くにいきパスを要求する。


「来いや、、」



「行かせねぇぞ!」

「なッ!?

 クソ木偶の坊、、!」


そこに牧田が体をぶつける。

体をぶつけ合いながら近づいていく

牧田と高鳥。

そこに夜羊がパスを出す。


(俺が奪るッッ!)


体格こそ劣るがスピードは

高鳥の方が勝っている。

体を牧田の前に入り込ませれば、、!





その時、高鳥と牧田の間に一つの影が

飛び出した。

その影によってボールが高く宙を舞う


「え、、!?」


牧田も驚く、

その飛び出した影、、

スライディングでボールを弾いた

高森凌哉の姿に


「しゃあぁッッ!」


(俺らの戦いに入り込んできやがった、、

 読んだんじゃない、

 一か八かのギャンブルで

 体を入れて来たのか、、?)


「こ、こぼれ球!」


宙を舞うボールを奪るために

人が殺到し始める。


「俺がとる!」


4組の生徒がジャンプしてボールをトラップ


(先にトラップさせて、

 ジャンプのタイミングずらして、、

 そこを、、、!)


着地の瞬間、

鹿島悠太は4組の生徒から

ボールを横取りトラップした。


「テメッ!」







「よそ見すんなやイケメンボーイ、、」

「うえ、、!?千葉君、、!」


横取りのさらに横取り。

奪われるところまで読み切った千葉が

ボールを鹿島から奪った。


「使いこなせ、、、」


千葉が小声で自分に言い聞かせ、

パスを出す。

出した相手は宮本。

スピードが売りの4組の生徒




「いいぞ指揮者、、、!

 さぁ行くぜ、、!!」


広いスペースを活用して

攻め上がっていく宮本

走りながら足を動かして器用に

人を抜いていく。


「クソ速い、、!」

「高速カットイン、、!

 人数使ってスペース消して!」

「遅えよノロマ共が、、、」



ノーモーションからの一気に加速。

高速で道を切り開いていく宮本に

追いつくものはいない。


一人を除いて



「待て、、、!

 俺も混ぜてよ、、、!」


宮本の進行方向に立ち塞がる佐伯。


(俺のスピードについて来やがった、、

 コイツ、、、)


「初心者の一人や二人、、、」


どうということはない、、!


左に加速すると思わせ、

それをフェイントにして右に加速する。

0から百に切り替える動きができない。

それが俺とお前の差だ、、!



「くっ、、!」


体勢が崩れて追いつけなくなった佐伯を

右へのカットインで抜く。

ペナルティエリアの中に入った瞬間、

右足でのシュートの体勢に入る。




その時、不意に体を衝撃が襲った



「あと一歩だったな、」


(工藤!?)


「クソッ!!」

「俊足ってのは急に止まれねぇもんなぁ」


体を入れ込まれてシュートが打てない!



(シュートは無理だ、!

 せめて誰かに、、!)


「こっちだッ!」



「クソがぁ、、!」


かろうじて4組の生徒にパスを出す宮本。

それを受けた生徒が

シュートモーションに入る。


「止めるッ!!」


牧田が止めに入る。


それをシュートモーションで躱わす。

右から左足に切り替えてのシュート。

強い威力は望めない。

だが、相手のキーパーは初心者。

ワンチャンある、、!





「打たせないッ!!」

「な、、どこから、、!?」


シュートコースに体を入れ込んで

コースを消してきた渡辺

初心者のはずなのに、、

カバーリングができてやがる、、!


息のあった連携プレス、、

示し合わせた?いや、

この土壇場だからこそ、

コイツらの意識下で変革が

起き始めたのか、、!?



「どんどん知れ、、、サッカーを。

 俺たち全員が考えて行動すれば、

 コイツらにも勝てる、、!」



ボールを奪った渡辺から

工藤にボールが渡る

再び1組の攻撃、、

さっきより全員の動きが良くなっている。

学習したってのか?サッカーを、、、





(なんなんだコイツら!?)


勝利に対する貪欲さ、

工藤からそれがチームに伝播した。

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