71話 決闘
「千葉のあんな顔、、
初めて見た、、、」
フィールドの外。
工藤と千葉が向き合っているところを、
観戦している生徒達。
そこの一角
「いつも遠巻きに何かを見てるような、
冷めた感じだったのに。
今は、本気で目の前のことに向き合って」
「そう。まあ、私にとっては見慣れた光景
ではあるけどね、、、
いっつもあんな顔してる。
勇人くんと戦ってる千葉君」
浅野舞が思ったことを口に出すと、
それに補足をする佐藤由紀
佐藤由紀にとっては見慣れた光景だ。
中学時代、
千葉率いる青海中は、強豪の名に相応しい
ほど完成されたチームだった。
その完成されたチームを千葉が率いて、
地元では無類の強さだった青海中。
それでもやはり個人としては、
千葉は工藤を越えられなかった。
チームとしては青海中が山原を
圧倒していた。攻めも守りも。
だがそれは、工藤を抜きにした話。
毎度試合をする時。
山原中は守りに定評があるチームである。
その最大の要因が、、工藤勇人。
どれだけ強いフォワードであっても、
個人としての強さで敵うものはいない。
工藤にマンマークをつけられたが最後。
試合が終わるまで自由がなくなる。
それは千葉も、高鳥も同じ。
だからこそ、他のチームにとっては、
どれだけ工藤が封じれるかが鍵になる。
工藤を自由にしてしまえば、
一気に状況は変わる。
昔、合同チームの時を思い出せば
自ずと導き出される答え
工藤が自由であれば、他が活性化する。
実際、高鳥周は工藤のサポートによって
無双していた。
身体能力を基盤にした戦い方に、
それを完璧に把握した工藤のサポート。
合同チームはその時、
間違いなく最強とも呼べる強さだった。
だが、逆に考える。
工藤さえ封じれば、攻撃も守備も
そこまで。
それが山原中である。
工藤が守備に回ることで、山原は
攻めの起点が完全になくなる。
一人では勝てないのがサッカー。
いかに工藤が強かろうが、
工藤以外のところから攻められることで、
山原は負けることがほとんどだった。
千葉洋介は、それが悔しかったのだろう。
「いつだって山原中に勝つときは、
勇人くんを避ける勝ち方になっちゃう。
いつも、正面戦闘を避ける戦い方。
千葉君は、勇人くんに勝ちたいのにね、」
「ずっとリベンジに震えてたわけか、、、
昔から今までずっと、、、」
「うん、、、
試合の中で一対一が実現しても、
全部勇人くんが勝ってたのもあると思う。
今考えてみれば、1番勇人くんの
影響を受けてるのは千葉君かもね、、」
いつだって個人の戦いは工藤が
勝っていた。
その度に千葉は強くなって、
それに負けないくらいに工藤も強くなった。
「今回はどっちが勝つと思うの?」
「、、、分からない、、」
「そうなの?てっきり勇人が
勝つって断言すると思ったのに、、」
佐藤由紀は工藤の強さをよく知っている。
だが、それを考えても。
「今の千葉君。なんか今までとは違う
気がする、、、
必死さというか、勝つって気持ちが
今までより断然強い気がする。
それに、、、」
なんとなくではあるが、、、、
あの雰囲気、、、
それを佐藤由紀は以前見たことがある。
彼女がサッカーというものに夢中に
なるきっかけの人。
その人の圧倒的な存在感。
「今の千葉君は、、
一筋縄では行かなそう、、」
その存在感を、千葉洋介は
持っているような気がする。
それでも、、、
「信じてるよ、、、!
勇人くん、、、」
自分が一番信じている人間に
思いを馳せる。
彼なら勝つと、、
超えてくれると。
二人の男が向かい合う、
それぞれの気迫をぶつけながら、
二人は目の前の敵を超える為
ぶつかり合った。
体が正面からぶつかり合ったあと、
ボールを持っている工藤が
一気に抜き去ろうと目論む。
それにギリギリついていく千葉。
(うっま、、、!
右に一気に抜くと見せかけて、
左に行こうとする勇人に、
身体能力と読みでついていく千葉、、)
この一瞬で色んな思考がぶつかりあっている
二人だけの勝負。
その二人の決闘を遠巻きに見つめる
他の生徒たち。
「千葉ッ!フォローするッ!」
「勇人ッ!俺使えッ!」
牧田や高鳥がフォローに
入ろうとする。
「黙ってろッ!消えろ外野共ッッ!!」
「なっ!?」
「マークでもしてろよ、、、
コイツは俺が殺すッッ!」
(クソ、、、!俺らは
蚊帳の外かよッ、、、!
舐めやがって、、、!)
周りに囲まれながらも、
二人は力をぶつけ合う。
「見てるだけしか、、
できないのか、、」
牧田大二郎は自分の不甲斐なさと、
改めて工藤の力に自分はなれないことに
歯噛みする。
(いや、考えろ、、!
この時間で少しでも予測して、
試合の流れを掴む為に頭回せ、、)
ボールを奪う為に体をぶつけながら
足を伸ばす千葉。
そのタックルを工藤は肩で受け、
千葉の足が届かないところに
ボールを置く。
(うまい、、、、肩でのキープ、、
千葉のタックルを軸にして
反転、、、)
ブロックからのターン
一瞬工藤の体が前に出る。
いや、、、
(千葉はそれも読んでる、、!)
ギリギリまだ喰らいついてる、、
一進一退の攻防!
「抜かせねぇ、、!」
「チッ、、」
そうしながら、工藤の動きが変わる。
「な、、なんだありゃ、、、」
さっきまでは身体能力を活かした
一瞬の攻防。
だが今は、工藤のスタイルが変わった。
(さっきまでと全然違う、、!
タッチがクソ細けぇ、、、)
足で常にボールを動かして、
相手の行動を誘発しようとしている。
体全体ではなく、足を常に動かすことで
相手を左右に振ろうとしている。
そう思っていると、
ふいに距離を詰めてきた。
(こいつの得意技、、!)
ダブルタッチフェイント。
そこから足元を見た工藤。
(からくる、、、!)
左への切り返し、、、
いや股下、、!
「やべッ、、!」
半身抜けた、、、
「まだ、、!」
負けたくない、、!
まだまだいける、、!
ボールを持った工藤に追いつく。
その時、、
ふいにボールが宙を舞う。
工藤と千葉が止まった瞬間、、
千葉の頭上をボールが
通り過ぎた。
(止まると見せかけてのシャペウ!?
マジかよッ、、!)
本来、左右にフェイントをかけたあとに
使われることの多い技、シャペウ。
相手の頭上を越すように、
つま先でボールを弾くように上に上げる技。
(勇人の正面突破、、、、
一気に雪崩れ込んでくる、、!)
決闘の勝者が進んでくる。
そこに、高鳥周は昔の彼を重ねる。
(敵としてやり合うのは初めてだな、、!
この状態の勇人は、、!)
彼もまた、工藤に勝つことを
信条としている。
余計な物を捨て、目の前に集中する。
そして、高鳥周もまた、
決闘のなかに飛び込んだ。
自分の勝利を信じて。
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