70話 覚醒
遠い昔の記憶。
まだ千葉が中学一年生の時に遡る。
その時の千葉はまだまだ弱くて、
フィールドの外から試合を見ていた
だけだった。
そこで見た同じ一年生。
最初はただ防戦一方で、
自分たち青海中の攻撃を必死に
耐えているだけだった弱小校
だが、ふと途中からそれが
変わった。
連携の先を読み、他より断然動きが
鋭くなっていく。
一対一でも無類の強さを誇り、
ついには青海中のエースさえ
完封した男。
自分と同じ一年生によって
変えられていくフィールド
圧巻のプレーの連続に、
自分の目を疑った
(なんなんだ、、、アイツ、、、)
序盤での動きと終盤での動き。
明らかに試合途中で何かつかんで
劇的に強くなっていた。
でなければ説明がつかない。
(なにがアイツを、、あんなに、)
必死なあの顔。
自分の勝ちを確信しているようなあの眼、
なにがあっても諦めないプレーと、
それを叶える体力、技術。
サッカーに命でも賭けているような、
そんなプレー。
率直に言って、衝撃の連続だった。
千葉洋介だって、その時から誰よりも
負けないくらい努力を重ねていた。
小さい頃からサッカーに夢中で、
小学生のサッカークラブに入りそこで
遅くまで練習した。
泣きたい時だって、挫けそうな時だって、
数え切れないくらいあった。
中学時代、部活で強豪の青海中で
練習する時もそう。
誰にも負けないくらい、
ボールを蹴って練習した。
そんな自分をゆうに超える人が、
目の前にいた。しかも、
自分と同じ一年
先輩たちを圧倒するほどの力。
信じられなかった。自分の目を疑った。
(負けたくない、、、!
アイツに、、、)
弱小校のやつなんかに、
負けてたまるか!
千葉洋介は必死に練習した。
今までよりずっと、
彼が相手になることを空想しながら、
体を動かした。
そして、千葉洋介にとっては初めて。
青海中にとってはリベンジの機会が
訪れた。
練習試合を顧問が組んでくれたらしい。
歓喜に震える。
(戦える、、!
つぶせる、、、!アイツを、、!)
今では恥ずかしい。
あの程度で奴に勝てるなんて、、
思っていた自分が。
結果は、、言わなくても分かるだろ?
俺があいつへのリベンジに燃えてる時点で。
粉々に打ち砕かれたよ。
笑っちまうくらいに完敗だった。
俺も、青海も。
ただでさえ強くなった工藤によって
活性化されたあの合同チーム。
その圧倒的に完成された集団。
俺自身の自信も、プライドもズタズタに
された。悔しかったし、泣きたくなった。
努力を重ねた。死ぬ気で走って練習した。
それでも、勝てない相手がいる。
いくら練習しても、勝てない、、
結局そういった
持っている人間とかが全てを
掻っ攫うんだって、、、
そう思っていたら、俺はもう終わっていた。
でも俺には、アイツが天才だとは
思えなかった。
最初は、アイツが作り出す空気感とか、
戦術とか、技とか、
ほとんど曖昧な知識だった。
俺からしたら、なんかすげえこと
して、みんなの中心になってるって感じ。
でも、強くなっていくにつれて、
その技術の凄さがわかるようになっていく。
パスの意図、一つ一つの動きの意味。
理想を体現するための体、
それを作る為の努力。
窮地に立たされても、最後まで諦めずに
道を探し続ける貪欲さ。
自分が納得するまで登り続ける、
ストイックな精神。
その全てを使って行われる、、
一つの作品
蹴り描かれるアイツの理想
考えて、考えて、考え尽くされたもの。
自分以外の10通りの力。
それをフルに発揮するための、、力。
アイツが作り出したフィールドで、
合同チームのやつらさ、
ほんと生き生きしてんだよ、、
全部自分が正しくて、
ただ俺が全てだって思ってるように、、
楽しそうで、、、
そんなやつに、、、なりたいと思った。
どうしようもないくらい、
俺もそんなプレーがしたかった、、、
だから、、、
「待てよコラ、、、!」
突き進もうとする工藤の前に、
千葉洋介が立ち塞がる。
「何イキってんだよ、、、
テメェの強さなんざ昔っから
知ってんだよ、、、!
知った上で、殺そうとしてんだよ、、!」
目の前の男を倒す為に、、
思考がクリアになっていく。
いくつもの選択肢から勝ち筋を
選ぶ。
そこに不安感などありはしない。
できないなどという恐怖もない。
自分ならできるという絶対の自信。
初めての感覚。
今なら、、なんでもできると思う、、、
「ここで、、お前を超える、、、
ここで、俺は俺自身の理想を
体現してやるッッ!!」
ここで、、憧れを超えるッ、、、!
目の前の男の迫力が増す。
本気で奪いにくると言った様子。
「奪ってみろや、、、!
俺から、、俺たちからッ!
奪えるもんならなぁッッ!!」
「奪うさ、必ず。それが俺だ」
今までと同じ。
どれだけ差があろうと、どれだけ劣勢
だろうが、どんなに相手の気迫が
凄かろうが、、、
「全部を手に入れるのは、俺だ」
自分の中で意識が変わる。
勝つことにだけ執着し、
他全てを捨てる。
そうすれば、、自ずと視野がクリアになる。
慣れ親しんだ集中のルーティン。
俺自身の理想を体現するために、
今、、
理想を叶える為に、没頭状態に入る。
目の前の敵に集中する。
数は見えるだけでも8。
慢心するはずのないコイツらなら、
全員守備だってしてくるだろう。
関係ない、、、!
没頭した頭から浮かぶ勝利のイメージ。
いくつものルートの中から選ぶ最適解。
恐怖、不安、周りからの視線。
後のこと、、、、
そんな雑念はもう、、、ない。
浮かんでくる絶対的な自信
勝利を疑わない強固な自負。
以前に一度だけ経験したこの感覚。
今ならなんでもできる、、
昔経験したような極限状態。
そこから作り出す一つの
栄誉ある勝利。
「超えさせねぇよ、、、!
お前にオレは超えれねえ、、、」
実現してみせる、、、
目の前の怪物に勝つという理想を、、!
この絶望の状況下での
勝利を、、、!
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