69話 演奏
(クソッ、、、、
まじでギリギリだなぁオイ、、!)
最初のあの一撃。
俺自身を囮にした奇襲のような
一手は不発に終わった。
その時点で、ある程度こうなってしまう
ことは読めていた。
だが、実際のところかなりきつい
(油断なく、徹底した安定的な攻め。
さすがの指揮者様だな、、、)
千葉洋介を見る。
記憶の中のアイツと、
少なくとも判断力が違う。
前までは咄嗟の判断力があまりなく、
作戦立案ができても、それが覆されると
脆くなるという弱点があった。
(当たり前だけど、周も千葉も
強くなってるってわけだよな)
周を俺にぶつけるという判断。
攻撃力そのものは落ちるが、
その分俺をある程度封じれる。
それに、、、
(さっきのあいつみたいに、
奪われた瞬間に即プレスが
徹底されてやがる、、、!)
カットはできても、その後のカウンター
が機能しない。
ボールを奪った瞬間にはもう目の前に
二人三人と集まってくる。
(このままじゃ体力的にも限界がくる。
他のやつも、攻められたままじゃ
気持ち的にもキツイ、、、)
打開しなければ、このまま点を取られる。
そうなれば勝ちの目はほとんどない。
油断も隙もない今の4組から
逆転するのは無理だ、、、!
(勝つために、、アイツら、、、
千葉にとっての予想外の事態を、
作り出すしかない、、、!)
そのために、
俺は行動を開始する。
ここで鍵になるのは俺じゃない。
鍵がうまく刺さるように、、
俺がなんとしてでも死守だ、、、!
一気呵成に攻め続ける4組。
それをかろうじて止める1組。
今もまだ、ギリギリの戦いが続いている
「止める、、、!」
高森凌哉が高鳥周を止めに入る。
繰り出されるフェイントに足が
釣られそうになるのを懸命に堪え、
チャンスを待つ。
(突っ込んだらおわり、、、、
すぐ抜かれて終わるんなら、
少しでも時間を、、、)
右に傾く高鳥の体、
右を警戒していると、
ふいにボールが高鳥の体の後ろに行く。
軸足の後ろを通したと思えば、
瞬時に左に向かって加速した。
(う、、!
なんだそりゃ、、、!?)
距離が短くなる。
それに伴い高森が足を伸ばすが、、
「どきな、、、」
もう一度逆に切り返した。
(クソっ、、、!!
俺じゃ、時間稼ぎにも、、)
「いや、よくやった、、!」
そこにカバーリングに入る牧田。
高鳥の進行方向を読んだ牧田の
即プレス。
「俺がッ、、、!」
「おせぇよ木偶の坊、、、」
横にパスを出す高鳥。
パスを受けた千葉と、
牧田の裏抜けを狙う高鳥。
(高速パス交換、、!?)
高速で動く高鳥に対して、
絶妙なタイミングでパスを出す千葉。
オフザボールで敵を翻弄しながら、
高鳥自身は、敵の重心の逆をついた動きで
前に進んでいく。
「いいね、、、頭働く、、!」
「だろ、、?
もっと俺のために働けや、、」
千葉洋介のパスセンスと、
高鳥周の突破力。
掛け合わされた二人のエース。
一定の距離でパス交換をしながら
進んでいた二人。
そこに一人、止めに入る1組の生徒。
「大人げねぇなぁ、、!」
「橋本、、!」
二人の間に割って入る
高鳥の俊敏な動きにかろうじて
着いていく。
「悪りぃな、、、
参考にさせてもらうぜッ、、!」
「くっ、、!モノマネかよ、、!」
高鳥が工藤をマンマークしていたときの
動き。
それをトレースする。
橋本の強みは、その時々の
対応力。
高鳥周の動きを止めることが最優先だと
判断し、自分の力で他の人間の力を
ある程度トレースして、
本来の自分のスタイルと掛け合わせる。
「だから?
お前一人じゃなにもできねぇぞ、、」
高鳥から千葉に戻されたボールが、
今度は違う方に向く。
「こっちの武器はフィールドプレイヤー
全員分の10。
はなからお前だけじゃ無理だ。」
ロングパスを出すため、
キックモーションに入る千葉。
(ヤベッ!?
ここで夜羊に出されたら、
壊される、、、!)
夜羊の単独での突破。
それが一番効率が良い。
高鳥と千葉が中央にいる今なら、
夜羊が1番警戒すべきだ、、、!
せめて夜羊へのコースだけでもッ!
ダァァァン、、!
「え、、、!?」
だが出されたのは、
夜羊じゃないのほうではない
夜羊とは逆のサイド、
ほとんどフリーの左ハーフの生徒。
綺麗な高軌道のパスが出される。
「アイアム囮なり、、!」
「俺は指揮者だぜ?
一人だけ活躍させるなんてつまらないこと
はしないんだよ、、、、
使える駒と武器を全て使う、、!」
「それが俺にとっての、、
最高の演奏なんだよッ!!
怪物を超えるためのなぁッ!」
出されたパスの先は、左。
夜羊がいる場所とは逆。
1番警戒されていた夜羊ではない。
それを囮にするように、
隙をうかがっていた生徒が一人。
宮本鈴。
サッカー部のハーフの生徒であり、
スピードタイプのドリブラー
「来た、、、!」
「決めろや、、、宮本、、」
ここで受け取る!
人数が少なくノーマークの今なら、
ここからドリブルで2、3人抜けば、、、!
俺が点を、、!
「なにが最高だよ、、、」
「あ、、!?」
パスを受け取った宮本の前。
工藤が立ち塞がる。
(ここで、、
こいつも抜いて、、)
走って近づいてくる工藤。
(舐めんな、、、!
そんな強引で速さ任せな
プレスなんか、、、!)
右の方から奪いにくる。
なら左に、、
切り返して工藤を抜く。
特攻のようなスピードだった、、、
こちらに体すら向けれてない。
(なんだ、、、)
別に、、、
思ったよりもそんなじゃ、、
「安直なんだよッ!」
「はぁ、、!?」
気づいた時にはもう、
工藤の体が、
自分とボールの間に入り込んでいた。
(うっそだろ!?
いつのまにか入り込んできやがった!?
さっきまで体すら、、、)
完全に逆をついたはず、、、
「思考が見え見えなんだよ、、、
右に傾いてるから左、、?
安直で分かりやすい思考だなぁ、、!」
「チッ!」
体を入れ込まれた、、、
その後、高速でブロックとターンで
瞬く間に抜かれた宮本。
「挟めッ!
ソイツ潰せば何もできねぇぞ!」
即プレス。
工藤にボールが行ったとしても
考える時間そのものを与えない目的の
プレー。
それと同時にパスコースも塞ぐ。
4組全員が示し合わせたもの。
「孤立させてやるよ!
今日こそお前を引きずり下ろすッ!」
「俺がとる、、!」
三人。
パスコースを効率よく消されている。
出す場所はない。
マークされている牧田と橋本も動かない。
「孤立、、、?」
後ろから迫って来た足を
一瞬で躱わす。
その後、左から来たやつの股を抜き、
狭いその場から脱出する。
「え、、!?」
「は、、、なんでわかって、、?」
「止めるッッ!」
「どけクソ指揮者」
詰めてくる千葉
「う、、!?くそはぇぇ、、、!
高速シザーズ!?」
(抜かれることがワースト、、、
ほかの1組の奴へのパスコースはない。
ボールは取らずに攻撃を
おくらせれば、、)
「つまんねぇんだよ、、、!」
「あっ、、?」
シザーズで近づいた工藤が左から
突破を図り、
それを読んだ千葉が体をぶつける。
だが、その体は工藤に当たらない。
左に向いた体が、
その場でターン。
その流れに身を任せ、
左から右に、、、
「ルーレット、、!?」
「安定思考ばかりじゃ、
叶うもんも叶わねぇ、、、」
その姿に、千葉は昔を思い出す。
千葉の出身校である青海中。
そこで見せた工藤のプレー
その時のエースを完封し、
弱小が強豪に勝ったあの時を。
彼の強さを目の当たりにしたあの時を、、、
「今からそれを魅せてやる」
体が震えてくる。
自分の自信と、自尊心を
粉々にした化け物。
工藤勇人の姿
化け物が、、、来る、、、
「さぁ、、、、
今まで攻められた分を
まとめて返してやるよ。
俺をまだ知らないクソ共」
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