67話 オープニング

笛が鳴り響き、試合が始まった。

ボールを持っているのは4組、

千葉洋介の元、ボールが前に運ばれていく。


一度後ろに戻し、空いてるスペースに

効率よくパスが出せるよう周りも動く。

千葉洋介は、その中でも一際いい動きの

男にパスを出す。



「Go、夜羊」

「いえす、、!」


千葉から夜羊へパスが出され、

前に進んでいく夜羊



「行かせてたまるか!」

「おっと、、、

 動きがいい元気な人♪」


コート中央

木村が夜羊を止めに入る。


プレスの速さは及第点。

夜羊から見て、縦パスが通せない。

的確に一つはコースを潰しているわけだ

最初のマッチアップはこの二人。

抜き去ることを決める。



「ようござんすか、、、?」


(う、、速え、、!

 それに動きが滑らかで、、

 軸が読めない、、!)


夜羊が細かく足元でボールを動かす。


素早く吸い付くようなボールタッチと、

左右の足の軸を細かく入れ替えている。

それでいて上半身が前のめりにも

なっていない。

安定したボール運び。


無数の選択肢があるにも関わらず、

初手を打ってこない。

目の前の相手を煽るように挑発する

そのプレー。


(いや、ためらうな、、

 奪いに行かなきゃ始まんないっ!)


足元でボールを転がしている夜羊に対して、

近づき足を伸ばす。

それを



「はいBlake♩」


伸ばされた足を躱わして、

股抜きで突破した。

突破したあと、一気に加速して

置き去りにする。


「初心者じゃ俺の相手は

 務まんないよ?」



「やってみなきゃわかんないでしょ」

「ここで止める!」

「わお!」


木村を抜いたと思えば、

それに合わせて二人のディフェンスが

立ち塞がった。

鹿島悠太と渡辺直哉である。


(よくできたカバーリングだこと、、、

 示し合わせてたわけね、、)


カバーの速さと、同時に距離を詰めて来た

二人。

初心者ならなおさら、アドリブで

できるとは思えない。

抜かれることを読んでいた。


「関係ないね。

 いっちょ行きますかっ♫」


距離を詰めていく夜羊




「だろうな、、!

 無理矢理行くと思ったぜ!」

「なっ、、?」


後ろから声。

ツートップの片割れであるはずの

牧田大二郎がディフェンスに戻って来ている

それに加えて抜いたはずの木村も

戻ってくる。

前にいる二人と後ろにも二人。

囲まれた。


「はっ!数で勝負ってわけだ。

 まぁ必然の思考回路だね。」


技術で劣るなら数で抑える。

だが、それは他に回す人数を

減らすことでもある。


「はいよっ!」

「そうだ、一人で突破するなよ。

 周り使って効率良く進めるんだ」


夜羊が動きながら作ったコースに

千葉が入り込んだことで

千葉にパスが出された。

フォローに来た千葉を使い、

前線の3人がパス交換で前に押し上げていく。


「はっやっ!」


元々サッカー部の中でも特に

目立つ三人、

パス回しも他のサッカー部より

速くて鋭い。

瞬く間に翻弄され始める1組



「うし♪このまま、、、」






「簡単にゃ行かせねぇよ」


トライアングルの先を読んで

インターセプトをしに来た少年



(え、、いつのまに、、、

 工藤、、!?)



わからなかった。

近づいて来たことさえ、

意識できなかった。


「連携使ってくれてありがてぇよ。

 そっちのがやりやすい」


工藤は考える。

4組の強さの肝はやはりあの3人。

千葉、高鳥、夜羊。

この3人をどれだけ抑えるかが

勝敗を分ける。


1番警戒すべきは、

3人のそれぞれの個としての強さ。

まず何より、彼らが本気でドリブルを使い

突破を図れる状況を作らないこと。


それぞれが別の場所で暴れることに

なれば、

いくら工藤でも同時に対処はできない。

そうなればジリ貧になる。

初心者が一対一であの3人を

止めれるはずがないからだ。



先ほどのディフェンスでの

過剰なまでの人数。

それは、彼らに一人で攻めるという発想を

与えない目的があった。


そして思惑通り一人での突破が難しいと

判断した彼らは、1番効率の良い

エース級の3人での

トライアングルで前に押し上げていく。

そこを工藤は先読みしてカットした。


「こんなつまらん楽譜じゃ、

 俺には一生勝てねぇぞ?

 指揮者さん?」

「チッ、、、!」


千葉洋介は後悔する。

完全に読まれた。

思考そのものが浅はかだった。

誰でも思いつくようなものじゃ、

目の前にいる男は壊せない。


「勝った気になんなよ!

 底辺ごときがっ!」



ボールを奪った工藤に対して、

4組の一人が距離を詰める。

4組の中でも機動力が高い生徒で、

小回りのきくスピードを活かしたプレーで

勝負するタイプ。


(良い反射体幹、、、

 完璧に抜け切らなきゃすぐ

 追いつかれるか、、)


反射体幹がいいので、

咄嗟の瞬間的な速さにも対応してくる。

なら、



足を動かし、フェイントを織り交ぜながら

体を揺らす。

相手の体が右に傾いた瞬間、

工藤は一つ技をだす。


ダブルタッチ

左右の足の内側を使い、

右から左、、あるいは左から右に

高速でボールを移動させる技。

サッカーを知らない人でも、

知っている人が多い技


右から左に、その技を出す。


工藤は、そのダブルタッチでの

左右の足の距離感。

それを気持ち広めに取る。


(ワイドダブルタッチ、、)


だがその分、広めに取ったことで

スピードがほんの少し落ちる。

なので反射神経が高いこの相手は、

それに対応してくる。


それに喰いつかせる



「もいっちょ、、、!」


伸びてくる足に対して、

再び同じダブルタッチをする。

ワイドダブルタッチよりも速く、

その代わり最小限の動きだけにして、

最低限の動きで相手を躱わす。


喰いついてきた相手を置き去りにするような

テンポアップ。

それには当然、相手も対応できない。


ワイドダブルタッチを読んだと思ったから

こそ足を伸ばして来た。

なので、足が伸びている状態では

致命的な隙ができている。



「うっめぇ、、!?」



綺麗に相手を抜き去った少年の姿に、

4組に少し動揺が流れる。


さっきまでと全然ちがうと、、、



「前方不注意だ、、、!」

「言ったろ、テメェはここで潰す!」


だが、動揺していないものもいる。


先程と同じ二人の同時カバーリング。

示し合わせたわけではなく、

その二人の、相手に対する認識が

自然にそうさせた。


カバーしなければどんどん壊されると、

千葉と高鳥の二人は、

決して目の前の人間に対して

甘い考えなど持たない。


それが前にいる、

少年の形をした怪物なら尚のこと。



「だからなんだ?

 前方不注意、、?

 そりゃテメェらの勘違いだ!」


そのカバーリングをもろともせず、

左にパスを出す。

そこには、前に駆け上がっていく

牧田大二郎がいる



「死ぬまで走れ、、

 名誉は挽回、、なんだろ?」

「あぁッ!」


走り込んできた牧田にパスが渡り、

ボールが前に運ばれる。

牧田、木村、鹿島の3人が

トライアングルを組みパス交換。



(、、??

 工藤は使わないのか、、?)



実力を考えれば、ここは彼が前線に、、



「いや、喰いつくなッ!

 無理にボール取りに行くな!」

「もう遅い」



パス交換をしているうち初心者が二人。

だからこそ、4組の生徒たちは

前のめりになりボールを奪おうと

躍起になっている。


前のめりになったことで、

裏のスペースが空いてしまった。


(やばい、引っ張り出された!)


そしてその空いたスペースに

牧田大二郎が走り込んでいる。


「牧田が入り込んでくるぞッ!」



裏抜けを狙う牧田と、

そこにパスを出そうとする工藤。


パスを阻止するため、

千葉が工藤の元に駆ける


(パス出すなら、、

 牧田がオフザボールでマークを

 外す瞬間だろ!)



ボールを動かして牧田が

マークを外すのを待っている。

圧巻のキープ力だ。

もはや体の大きさの差なんて関係ない

レベルの体幹技術。


(キープする気になったコイツから

 奪うのは得策じゃない。

 狙うのは蹴る瞬間のみッ!)


そうして牧田大二郎が素早い動きで

マークを外して、裏抜けする。


(今だッッ!狩るッ!)



そうして蹴り出す瞬間を狙った足は、

ボールを奪うことはなかった。



「な、、フェイク!?」



足首の柔らかさを使って逆に

変速突破を図られた。


牧田が動き回ってパスコースをつくり、

そこにパスを出すと見せかけ

キックフェイントで逆に突破していく工藤。


「これが、、、工藤、、!?」


(こいつ一人に、

 全員が踊らされてる、、、

 やべぇ、、、!)


今も一人、牧田との連携で

4組の生徒を抜いた。

その後、彼は大きく前にパスを出した。



「っ、、牧田じゃない!?」


牧田は完全な囮。


彼が蹴り出したボールは大きく右に。

右ハーフの位置にいた1組の生徒に渡る



「了解、BOSS」

「風穴開けなよ、瞬足BOY?」


佐伯実。

1組の陸上部の生徒であり、

短距離での速さが売りの男。


牧田や中央にいる生徒にマークが集中

していたため、

佐伯に対するプレスが普通と比べて

半歩遅れる。


「間に合う!」

「フゥ、、、、」


佐伯は、右サイドの前。

空いた広大なスペースにボールを蹴り出し、

一気に加速した



「はッ、はぁ!?」


一瞬で相手を置き去りにした佐伯。

彼がフルに速さを発揮できる場所が

この右サイドとこの状況である。


「俺の足跡だけ踏んでなよ」


一気に右サイドを駆け抜けて

風穴を開けた佐伯。

右サイドから突破されたことで

ゴール前に人が殺到し始める。


(誰に出す、、?

 この場で1番いい動きのやつは、、)


高鳥周は、全速力で前線から戻りながら

思考する。


観察と全体を広く見るように視野を広げ、

佐伯のパスにドンピシャで合わせようと

している人間が一人いることに気づく

そしてそこにパスは出された。

地を這うような低いパスが


(だよなッ!)


狙う標的は、工藤勇人。



密集したゴール前の少し右後ろ、

完璧なタイミングで入り込んでいく

工藤に対してマークにつく。


「周、、、!」

「絶対殺すッ!

 決めさせねぇ!」


体をぶつけてゴールの方に体が

向かないようにする。

この体勢ではいくら彼でも

強いシュートは打てない。



「どうだッ!いくら勇人でもこれじゃ、、」

「点を決めれないと?」

「は、、、?」


高鳥やゴールに対して、彼はあろうことか

背を向けた。


(ボールキープでもする気か、、?

 そんなもん、、!!)


そうして迫ってくる佐伯から

送られた低いクロス、

それを



工藤は股の間を通してスルーした



「はっ、、!?」


工藤の股の間を通り、

中央にいくボール。


工藤が打たないんなら、、、

誰が?


「待ってたぜッ!この時をッ!」

「牧田!?」


工藤がなるべく佐伯の近くに行って

ボールをもらおうとしたことで、

一瞬ではあるが、その分スペースが空いた。

そこに良いタイミングで入り込んできた

牧田大二郎、



「まずは一点ッッッ!!」


一瞬のフリー。


それはシュートを打つのには十分な時間



ガァンッッッ!!!



その強烈なシュートは、

ゴールの方に飛んでいき、、、





「クソ木偶の坊に、、、

 入れさせるかぁッ!」



すんでのところで千葉洋介に止められた。

弾かれたボールがラインを割り

1組のスローインになる。




千葉洋介は内心で歯噛みした。



危なかった、、、

もし気づくのが一瞬でも遅れていたら、

あのまま一点入ってしまっていた。




 

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