66話 最後の試合
グラウンドの片隅。
ベンチがあるところで悠太と俺は
試合を見ていた。
その時、体育館の方から女子が出てくるのが
見えた。
どうやら女子の方はひと足先に終わった
ようだ。
「女子は終わったみたいだね。」
「そうだな。
みんな集まって来てるみたいだし」
体育館のほうから女子が出てくるのを
横目に、今行われている試合を見る。
2組と3組。
彼らにとっては最後の試合だ。
「さっきはかなりギリギリだったね?
最初から勇人くんが出れば、
もっと楽に勝てたんじゃない?」
「3組と試合した時のことか?」
「うん。
というより、その前の2組と試合したときも
最後の少しだけ出るだけだったしさ」
疑問を持った悠太が問いかけてくる。
これまであった試合で、
俺は最初から出ることはなかった。
二つの試合どちらとも、
後半の方に少し出ただけ。
「なんで最初から出なかったのさ?
2組も3組も僕たちより経験者が多いから、
かなりギリギリだったよ、、
勇人くんがもし最後の方でなかったら
負けてたかもしれないくらい、、」
「守るので手一杯って感じだったな。」
「そう。正直守るだけで手一杯だった。
牧田君や橋本君がいるとは言え、
経験者が遠慮なく人数使って攻めてくる
から、いやでも守りに人数いるでしょ?」
言ってしまえば、一点も取られずに
守り切っただけでもかなり良い。
こちらよりサッカー部が多い相手だし、
何点かは取られるかと思っていた。
経験者の人数の差から、
大二郎や橋本君も守備に入らなければ
いけないレベルまでいった。
「でも、やっぱりすごいね。
勇人くんが入った途端に
攻めやすくなって、
すぐ決めれたし、、、」
「決めたのは俺じゃないよ。
ていうか、悠太が決めたろ?
3組の時」
極力目立たないようにしたかった。
なので、さっきまでの試合はどちらとも
パサーと守備に回った。
ちなみに点を決めたのは大二郎と悠太だ。
「決めたけど、それまでの過程だよ。
目立たないようにパスしてたけど、
全然自分で決めれたでしょ?」
「まぁな、、、
念には念をってやつだよ。
極力実力を隠して最後に行きたい。」
「それはやっぱり、4組が強いから?」
「勝つための布石ってやつだよ。
最後の試合ですぐに分かるさ」
千葉や周。あとは、夜羊あたりか、、、
そこらへんのやつに対してはさほど
意味はない。
だが、その他のサッカー部に対してなら、
この布石が役に立つ可能性は大いにある。
「へぇぇ〜、、、
なら、最後の試合は
全部出るの?最初から最後まで。」
「当たり前だ。
最初からフルスロットルで行くよ」
「それが聞けて安心した。」
視線の先で、試合が動く。
どうやら、2組の方が点を決めたようだ
もう少しで、この試合も終わる。
そのあとが本番だ。
「なるべく、みんなに守備を
してほしかったんでな。
本番での守備を」
「そのために、最後しか出なかったと?」
「正直、守備で手一杯になることは
分かってた。
分かってた上で、そうしたんだ。」
きっと最後は厳しい戦いになる。
サッカー部の多さで負けている以上、
攻めより守る時間の方が長くなる
かも知れない。
しかも、前線で動く3人が全員エース級ときた
少しでもみんなに経験を積ませたかった。
練習だけじゃなく直に、
サッカー部とのマッチアップを。
「止めれなくとも、ある程度時間稼ぎと
抜かれる方向さえ予測できれば、
俺や他の二人がインターセプトできるかも
知れないしな。
守備の面での地力の底上げだよ。
付け焼き刃ではあるけどな」
だからこそ、さっきの経験が
後に役に立つと思った。
そういう判断
「攻めの方はいいの?」
「そっちは大丈夫だ。
元々大二郎と橋本君がポジション的に
前線なこともあって、
守備よりは全然良い。
それ以外も連携とか練習してたしな。」
攻めの方は念入りに練習してきた。
非経験者が多い中だ。
技術より、それぞれが持っている
身体能力を活用する方向で行こうと思う。
悠太に関してもそう。
テニスで鍛えられた体と足。
素早く動けるところで暴れてもらう予定だ。
「でも、勝てるの?
思ってたよりやばくない?4組」
一つ前の試合だ。
4組は3組に対して大差で勝った。
試合運びも圧巻という他なく、
改めて彼らの凄さが周りに思い知らされた。
勝てるのかと、皆が思い始める。
不安感が募っていく。
今俺の隣にいる悠太のように。
「僕たちがギリギリ勝てた相手にあれだけ
差をつけて勝った、、、
思ってたよりずっと凄かった。」
「そう、俺たちが勝たなきゃいけないのは
そんな凄いやつらだぞ?」
他のクラスも
思っているだろう。
優勝は4組だな、、と
あれだけの大差で他を寄せ付けない
勝ち方をしたんだ。
周りがそう思うのは当然。
「でも、諦めはしない。
最初から分かってたことだ。
アイツらが凄いことなんて、、」
分かった上で、俺たちが勝つ、、
下馬評を全てひっくり返す
思い知らせてやるんだ、、
俺たちの力を。
「底辺と高を括っていれば良い。
お前たちは、
そんな奴らに負けるんだ」
1組以外
誰もが信じて疑わないであろう、
4組の勝利を、、
俺が壊してやる
「こりゃ、俺たちが優勝するのは
決まったようなもんだな!」
近くにいるクラスメイトがそう言う。
大差でオレたち4組が勝っていることで、
次も勝てると思ってるんだろう。
「次も勝てるんだろ?」
「当たり前だ!
1組なんか一捻りで潰してやんよ!」
クラスメイトの質問にそう答える
サッカー部の一人の男子。
彼らは自分たちの勝利を疑わない。
相手は1組。
彼らにとっては底辺の連中で、
サッカー部だって、全クラスで
1番少ないからだ。
「千葉も頑張ろうぜ!
警戒してるみたいだけど、
全然大丈夫だって。
さっきの見たろ?本気になって、
3組とかにギリギリだったじゃん」
オレが1組を何故警戒をしているのかが
分からないといったように言う。
「牧田と橋本だろ?
攻めは良いかもだけど、守備が
あんまできないから
肝心の攻撃もままならないよ。
アイツらにこっちの攻めが止めれるとは
思えないんだけど?」
当然そう思う。
オレや高鳥、夜羊だっている。
サッカー部での攻めの要が
全員揃っているようなもの、
おまけにサッカー部もこっちが多い
攻撃の火力の高さがオレたちは
他と段違い、、
果たして彼らに止めれるのかと
コイツらは思う。
(チッ、、節穴も良いところだ)
さっきの試合、、
工藤がほとんど出ていない時点で、
1組の本当の力が発揮されてない。
守りも攻めも中心になれる男がいて、
初めてアイツらの勝ちが生まれる。
それが最後の方に少し出た、
工藤であることにコイツらは気づけない。
ここで説得したところで無駄だ。
言葉で説明するのと、実際に体験したかは
雲泥の差だ。
(あれが本気だと、、?
冗談キツいぜ、、、
あんなんなら、とっくの昔に
潰せてるっつーの、、)
少し出た試合でも、目立たないように
していた。
わざとパスを中心にして、周りを使うことで
自分の実力自体を隠したわけだ。
アイツの本来のプレーを見たことがない
奴らに対して、警戒されないように、、
「千葉、ちょっと来い」
「わかった、、」
考え事をしていたら、
高鳥から呼ばれた。
クラスメイトから
少し離れたところにいくと、
そこには高鳥と夜羊がいた。
「弛緩した空気だねぇ、、、
まるで警戒してない」
夜羊がそう切り出す。
「千葉さ、一応確認するけど、、
あれが本来の工藤?」
「馬鹿か、な訳ねぇだろ。
ほぼ周りの力だけ使って勝ったんだ。
あのプレーに、アイツ自身の実力は
ほとんど含まれてない」
「だよねっ、なんとなくそう思ってた。
なんか、わざと動いてないような
気がしてさ」
夜羊は案外、感が鋭い。
違和感のような物を感じたわけか
「見えてるのに動かない。
代わりに、ボールが取られそうになったら
最低限パスコースにはなる。
シュートも、全部他任せ。」
「注目すれば分かる、、、
意図的に目立たないようにしたんだ。」
高鳥もそう付け加える。
この場で1番、奴を近くで見て来た高鳥
だからこそ、
奴のすごさは身に染みてわかっているはずだ
「もし勇人が最初から出て、本気で
やってたなら、
多分、俺たちと似たような結果に
なってたかも知れない、、、」
そうだ、、
それだけアイツは本気でやばい
一人だけで全てを変えるレベルのことを
平然とした顔でしやがる、、、
その時、コートの方から
ホイッスルが鳴った
試合が終わったようだ。
「2組が勝ったみたいだね♪」
2組が勝ったらしい。
ほとんど見ていなかったので
わからなかった。
「行くぞ、、!
絶対アイツは本気でくる。
準備しとけ、、」
「おうッ!」
「イエッサー♪」
この二人をどう使うか、、、
そう思考しながら
グラウンドに向かった。
グラウンドの中央
観戦に女子も加わり
全クラスから見守られるなか。
二つのクラスのサッカーをする
メンバーが並んでいた。
4組と1組
周りから見れば、
素人でも目に見える戦力差。
すでにほとんどの生徒が結果を半ば確信
している。
4組が勝つと
だが、1組は不思議と不安な顔を
していない。
俺たちが勝つと息巻いている。
「よし、両クラス礼!」
審判を務めるサッカー部の顧問の教員の
合図で、両クラスの全員が
一斉に頭を下げた。
その後、目の前にいる人と
それぞれ全員が握手を交わす。
その列の端の方
サッカーの試合ではキャプテンが
向き合う場所で、
「今日こそ潰させてもらうぜ?
『心臓』の工藤君?』
腕にキャプテンマークをつけた
千葉洋介が言った。
心臓、、、
工藤勇人の通り名みたいなものである。
彼が出るか出ないかでの影響力の
大きさから名付けられた名前
「それ恥ずいんだけど。
昔の名前だしてくんなよ、
『指揮者』様?」
同じく腕にキャプテンマークをつけた
工藤勇人がそう言う
指揮者、、、
これは千葉洋介の通り名である。
勝利という曲を完成させるために、
全てをまとめるような
プレーから名付けられた。
「なんだよ気に入ってないのか?
心臓なんて、テメェにピッタリの名前
じゃねぇか、」
「当たり前だ、、
恥ずいのなんの、、」
実は、心臓という名前は
ある一人の女子から広がっていった
ものである
「指揮者なんて呼ばれてるんだ。
お前、、恥ずかしくないの?」
「実際、そういうプレーをしてる自覚は
あるんでな。なのにテメェはいつまでも
自分の力を過小評価しやがって、、」
「さっきのが全力なんだ」
「嘘つけや化け物が、、、」
そうして、、
二人は握手をやめて、
互いのポジションにつく。
お互いのクラスが完全に
ポジションについたあと、
千葉洋介が4組に伝えた
「いいか、全力で潰すぞ。
相手が底辺かどうかなんて関係ねぇ!
全員、勝つことだけ考えろッ!
思い知らせてやれ、俺たちの力をッ!」
「「「「「おうッ!」」」」」
工藤勇人が1組に伝える
「練習の成果を出すんだ、
周りの声も、視線も関係ない。
どれだけ敵が強かろうが関係ないッ!
ただ信じろ、、、!
俺たち3人のサッカー部を!
何よりッ!努力して来た自分自身をッ!」
「「「「「しゃあ!!」」」」」
互いのキャプテンは同じトップ下。
それぞれがぶつかり合うだろう。
その事実にお互いの気分が高揚する。
絶対潰すと、、、
勝つと、、!
「「暴れろお前らッッ!!」」
あるのは勝利か、敗北か、
そうして熱くなった戦場に、
開戦の笛が鳴り響いた
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