11話 躍動

(やっぱ流石に無理があるって、、)



その授業の最後の試合。

コートの外から、

浅野舞は試合を観戦していた。


ただでさえ身長差があるにも関わらず、

4組のチームはバスケ部が4人。

対して、工藤のいるチームはバスケ部なんて

いない。

鹿島君がテニス部だったり、

工藤がサッカー部だったとしても、

バスケをするとなれば話は違う。


経験者が無双して当然。

しかも最後だからかほぼ本気でやっている。


極め付けはあの暴言のような発言。

隣の由紀は気まずそうに顔を伏せていた。


(ほんと何言ってんだか、あのバカ達はッ)


さっき工藤と目が合った時も、

申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

1組の人も、工藤も、由紀も、

何も悪くないのに・・・



仕方ないんだ。相手はバスケ部4人。

どうやったって勝てない。


『ある程度戦えてるだけ凄いんだから・・』


そういう冷たい空気が場を支配していくのを感じる






(あれっ?このフレーズ・・・

 どこかで聞いた気が・・)


そしてふと由紀を見ると

工藤に何か口パクで伝えていた。

がんばって、?


それを見た工藤は少しくすっと笑ってこちらに背を向けた。チームメイトと何か話している。



そして次に前を向いた工藤は、、







自信に満ち溢れた顔をしていた。










試合が再開される。

仕上げに入ろうとした4組のメンバーは

その時、違和感を感じとる。


さっきまでとは顔つきが違う。

さっきまでの気まずそうな、しおらしい顔が

消え失せている。


何より


「チッックソめんどくせぇッ」


さっきまでとはプレーも豹変していた。

さっきまで突っ込んでくるしか脳のなかった木村というやつが、落ち着いてプレーをしている。


先ほど中央にいたやつがしていたような1on1

の守り方。

ボールを取ることを優先していない。

ただ相手に抜かせないような守り方。


「調子に乗んなやッッ」


だがそれがどうした。

所詮素人、こちらがさらに上回るプレー

をすれば良い。


足の間にボールを通しながら敵を揺さぶる。

チェンジオブベースなどを使いながら

速さに緩急を生み、目の前の敵を翻弄する。


身体能力は高いようだが、所詮素人。

こちらから見て右の方に隙ができたので

そこをロールターンでつく。


(ほらな?どんなに足掻いても無駄無駄)


木村を抜き、右の方から侵入する。







それを見越していた人間が一人


「よっす。こんちは」

「えっ??」


驚くほど鮮やかに、

まるでバスケ部のように、

スポーツをするには少し小さな少年が、


すっ


華麗にボールを奪い去っていた。





「ナイス勇人!!」


その少年はボールを奪った後、

左の方に切り込んでいく、人が多い場所に。


「いかせねぇ!」


一人バスケ部が止めに行く。


少年は右へ左へフェイントをかける。


そして


「よっっ」


そのまま左にロールターンで躱した。

バスケ部がやるようなクオリティで。


「は!?」


そのまま少年は左から切り込む。

後ろにいた、唯一の非バスケ部は

その少年を止める。


(落ち着け、動きをよく見ろ。)


観察し、動きを見極める。

敵の目線や体勢が、前と同じ左に傾いていることに気づく。


(左か!)


読み切ったっ


そう確信したのも束の間、

少年は目線を左に向けたまま

右方向に鋭いパスを出した。


「は?どこにだして・・」


ダンッ!


その少年がパスを出したのとほぼ同時。

右後ろから別の少年が走ってきてパスを

受け取る。爽やかな見た目の男。


「さっすがぁ」


その爽やかな少年はそのまま、

シュートモーションに入る。

ボールを奪った少年の計らいで

左にある程度人が集中しているため、

ブロックがギリギリ間に合わない


ラインのギリギリ外、コートの端からそのまま放たれたシュートは、ネットだけを揺らし


鮮やかにゴールに吸い込まれた。



「まぁ、工藤君と同じだね」


爽やかな少年はこちらを向き

静かに微笑んで言った。










「あんなこと言われて、

 僕も黙ってられないから」





先ほどまでと違い、

その瞳には確かな熱があった













一人の少年が、

周りに火をつけ始めていることに気づくものはいない。










「・・・始まった、

 久しぶりに見れるのか。

 勇人の活躍が・・・」


一人を除いて


























 






































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る