10話 経験の壁
「それじゃあこの授業の最後の試合を
始めるぞ!それぞれ
1組と4組のチーム。出てきてくれ!」
体育の先生の合図で俺達は
準備を急いだ。
その時、準備を終えた悠太から声をかけられる。
「今からやる相手、
やっぱめちゃくちゃ強いってさ」
「マジで?そんなに?」
軽くストレッチをしながら
木村、他のチームメイト二人もこちらに
やってくる。
ちなみに他二人は音村君と佐伯くんという
「なんでもバスケ部が4人いるから、
圧倒してるらしいね」
「大人げねぇなおい」
「まっ、関係ねぇな!
勝ちゃいいんだ。それだけだ」
木村が脳筋すぎるんですが
音村君と佐伯君も
木村のこのやる気に驚いている。
「なんか木村くん燃えてんね?」
「負けず嫌いなんじゃない?
まぁいいや。工藤くんも頑張ろう!」
「おう!」
そういって音村君と佐伯君とハイタッチする
そう、こっちは経験者ゼロの初心者である
勝つより楽しんだほうがいい。
まぁ、一名勝つ気満々だけども
「時間だな。それじゃあはじめる!
両チーム礼!」
「「「「「お願いします!」」」」」
挨拶をしてそれぞれポジションにつく
ポジションはそれぞれ
俺がPG、ポイントガード
木村がSG、シューティングガード
悠太がSF、スモールフォワード
佐伯君がPF、パワーフォワードに
音村君がC、センターといった感じだ。
まぁ簡単に言えば
俺が中央
木村が左、悠太が右、
佐伯君が左後ろで、音村君が右後ろだ。
「それでは、始め!」
先生の笛の合図で試合が始まる。
この体育の試合は時間制ではなく
15点マッチ。
最後だからと先生に打診した生徒が
4組にいたとかで急遽変更になった部分だ。
この試合が最後なので
この試合に出ている10人以外は見学、
試合の行く末を見守る形だ。
「よっし。じゃぁ軽く行きますかー」
相手のPGがドリブルで切り込んでくる。
木村が必死に喰らい付いているが
着いていくのに精一杯のようだ。
「めんどくさー。しつけぇ」
「まだまだ!」
それにしても体力あんなー木村。
休憩してるとはいえ、さっきまで全力だったのに今この試合でも全力だ。
「ま。初心者には負けらんないんで」
そういいながらスルッと木村を抜き去って
左から切り込んでくる。
そしてそのスピードのままに左にいる
佐伯君をもろともせずそのまま抜き、
レイアップを決める。
速いから間に合わなかったな。
「まぁこれくらい余裕っしょ」
そう言いながらあくまで淡々と見せながら
自陣に戻っていく。
4組のいる方からちょっとした歓声が起きた。
みんなが見ているからだろうか?
さっき少し見た試合より速い。
それにバスケ部だから当たり前だが、
ドリブルする時のボールコントロールも
絶妙だ。
「ヤッベっ。
わりぃ皆んな、簡単に抜かれちまった」
「俺も抜かれてごめん!油断してた・・」
抜かれた木村と佐伯君が
謝りに来た。
「どんまいどんまい。仕方ないさ、
やっぱバスケ部は違うねぇ」
「それな、全く駄目だった」
まぁさっきより速かったってのもあるし、
なにより経験者のあのドリブルだ。
「まっ、切り替えていこうぜ?」
「そうだね。いうてまだ2点だし」
「うしっ!!次は止める!」
試合が再開する。
木村がドリブルで切り込んでいく
だが、動きが速いがいかんせん直球なので
先読みされている。あっけなく
ボールを取られてしまい、
逆に相手のSFの人が
こちらに攻め込んできている。
俺はその人の前に立ち、
進行方向を妨害する。
「チッ、うぜぇなお前」
「どうも」
相手と適切な距離を保ち、マッチアップする
無理にボールを奪いに行くより、
この距離を保て。
どうせ経験者と真っ正面から1on1しても
木村みたいに抜かれて終わるだけだ。
ならある程度時間を稼げ!
そしたら
「ナイス勇人!」
戻ってきた木村と挟み撃ちができる
だが、
「こっちだこっち!」
「・・・クソッ」
横からコースに入ってきた生徒に、
不服そうにしながらもパスを出される。
悠太も直前に気付いたようだが
ギリギリ間に合わずパスが通る。
「よっと」
「くっ!」
パスを受けた生徒はするりと悠太を
かわすと、即座にシュート。
急いでフォローに行った音村君も間に合わず
打たれたシュートがネットを揺らす。
「しゃっ!」
そしてこのシュートは
ラインの僅か外から放たれた
スリーポイントシュートで3点。
もう5点差だ。
それからの試合
相手の純粋なうまさに圧倒、翻弄され、
気づいた時にはもう相手に11点が入っていた
ドリブル、パス、シュート、コントロール
バランス。
バスケ部の4人は当然としても、
もう一人の初心者の人もめちゃくちゃ上手い。
的確にこちらの攻めを潰してきており、
木村は何度もその人に止められていた。
悠太も懸命に動いてパスを出すが、
行く手を阻まれ、奪われる。
俺がある程度相手を足止めできても
パスを出されれば終わりだ。
簡単に点を決められる
「これじゃ練習にもなんないわ
もっと頑張れや」
そんなことを相手の生徒が言ってくるが
無理な話である。
ほとんど本気に近いバスケ部が4人だ。
なおさら難しい。
「はぁー。まぁ『1組』に期待した
俺らがバカだったか。なあ?」
その言葉は明らかにこちらを馬鹿に
していた。
ここ陽千高校は3つの学科があり、
それぞれ偏差値が違う。
だが、偏差値が違うと言っても
気にするほど差があるわけではない、
ほとんど誤差のようなものだ。
外だけではなく内側もか。
しょうもないことが起きているのは。
見れば先生もその発言を黙認していた。
聞こえていたはずなのに
「まぁ頭悪いからなぁ、仕方ねぇか笑」
その言葉で場が凍りつく、なんてことはなく
4組の生徒がヒソヒソ笑っている。
笑っていないのは浅野さんとかの
一部の少数の女子とかだけ。
逆に1組の生徒は気まずそうにしている。
そりゃそうだ、こんな面と向かって
煽られるのなんて初めてだろう。
こんな大勢の前で。
少し浅野さんと佐藤さんの方を見る。
佐藤さんは気まずそうに顔を伏せており、
浅野さんは少し咎めるような視線で
4組の男子を見ていた。
俺の視線に気づいた浅野さんは
申し訳なさそうに頭を少し下げる。
(そんなことしなくても
浅野さんなんも悪いことしてないよ)
しているのは相手の男子だ。
そしてさっきまで顔を伏せていた佐藤さんが
こちらを見つめているのに気づいた。
口パクで何か話している。
が ん ば っ て
そうやって最後に笑顔を浮かべた。
相変わらずだ、あの人は。
でも、今はありがたい。
やる気が出てきた。
・・・案外俺ってチョロい?
「なぁみんな」
「・・どした?勇人」
体力のこともあってか
それともさっきの発言が原因か
いつもより覇気がない木村が聞いてくる。
俺は小声で話す。
「一瞬だけどさ。
作戦会議しようぜ?」
「作戦会議って、何のために?」
疲弊した悠太が聞いてくる。
音村君と佐伯君も
不思議そうにしている。
俺は笑顔で言う。
「なんのためって・・・・
決まってるだろ?」
「あの腐れ野郎どもに勝つためさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます