9話 自分と他人と...
「なぁ、勇人。
昼休みの時、あれからどこにいってたん
だよ?結局帰ってこなかったじゃん?」
「・・・まぁ変な人に絡まれたわ」
「変な人?」
そう会話しながら
木村にバスケットボールを投げ返す。
あの騒動から少し時間が経って、
現在は6限の体育の時間である。
体育ではどこかのクラスと合同で体育をすることになっており、この時間は浅野さんがいるクラスと合同でバスケをすることになっていた
今自分は試合をした後の休憩時間であり、
木村と少し話しながらパスの練習だ
ちなみに凌哉や大二郎、渡辺と成田は別のチームだ。
「なんか、金髪と銀髪のヤンキーみたいな
人にいちゃもんつけられてさ。」
佐藤さんと浅野さんのことは一応黙っておいた。変に吹聴するのも良くないだろうしな
「あー....、新田さんと西木さんね・・・」
「知り合いなのか?悠太」
脇に座って休憩していた悠太がこちらに
歩いてきて、はなしをする。
少し呆れたような、微妙に顔を顰めながら
話してくれた。
「知り合いというか、
こっちが一方的に知ってる感じでね?
色々有名な人だったからさ、、
中学の時は。」
「・・なるほど。中学は朝凪なんだな・・・
ちなみにどんな感じで?
やっぱ暴力とかで問題起こしたり?」
「それもあるんだけど、なんか他にもあった
よ。例えば金銭を奪ってくるとか、
気弱な人に対して悪口言うとかかな?
良いイメージはまったく無いね・・・・」
「なんじゃそりゃ、今時そんな人いんのか?
昭和のヤンキーじゃあるまいし。」
話を聞いた木村も顔を顰める。
確かにここにはそういった人が
一部いるとは聞いてたが、ここまで露骨に何か問題な生徒は初めて見た
・・ああいうのはもっとこう、
静かにバレないようにやるものだと思っていた。
「というか大丈夫だったの?
その二人と話したんでしょ?」
「大丈夫。殴られてもないし
近くに中瀬先生もいたしな」
「そっか。よかった。」
少し安堵したように微笑む悠太
心配してくれていたようだ
「それより練習しようぜ勇人、悠太!
次も勝とうぜ!」
「はいよ」
「はいはい」
ふと女子の方をみてみる。
向こうのほうでは浅野さんのいるチームと
佐藤さんのいるチームが今休憩中だった
(よかった。変に引きずったりしてない
みたいだな、安心だ。)
浅野さんの方は見るからに震えてたし
佐藤さんも怖かったはず、
だが二人とも気にしてないのか
普通に笑いあっている。
いらぬ心配だったな。
「どした勇人。あ!まさか・・」
「んぁ?」
ニヤニヤしながらこちらに来る木村
「好きなやつとかいるのか!?」
「なわけあるか。ほら練習するんだろ?
悠太もほら、離れた離れた。
「あ!誤魔化したろ今!?」
そうやってけらけら3人で笑いあった後
練習を再開した。
「ふぅ」
体育館の外にある冷水機で水を飲み、
近くの蛇口で顔を洗い、近くの階段に
座る。
あれから次の試合、木村と悠太と一緒にでた
試合はこちらの勝利で終わった。
終始木村は動き回り相手を撹乱したり、
ゴールをきめていた。
それに劣らず悠太も、動き回る木村と
俺に的確なタイミングでパスが出せていた
他のチームメイトふたりも良い動きだったと思う。
(ほんと、勉強以外は優秀なやつ
ばかりだよな。ここの生徒。)
木村は勉強についてはからっきしだが、教えていくとすんなり公式を覚えることができる
覚えが早いし、応用も普通にできる。
身体能力はさっきのプレーを見れば
一目瞭然だろう。
悠太もテニス目的でここにきたなら
普通に勉強もできるかもしれない。
さっきのプレーを見た感じ、
周りをよく見ている。
(ほんとに、ひとにぎりの『一部』が
原因ってことなんだろうな。)
今日の昼に見たあの二人や
他にも少しいるその『一部』の生徒。
その生徒たちが問題を起こしてしまうと
外からは、また『陽千高か』と言ったふうに
まとめられてしまうんだろう。
そういったことで劣等感を抱く人もいるんだとか。
(一部の生徒が更生すれば、
外からの批評もなくなる、、というような
簡単な話でもないんだろうな、まず更生
それ自体が難しいわけだし・・・・)
「あれ?工藤君?」
「あ、ほんとだっ」
「ん?」
階段の下の方に座っていたが、
上の方から声がしたので見てみると
浅野さんと佐藤さんがいた。
「よっす。お疲れ、二人とも」
「お疲れ!」
「おつー!」
そういって俺が座っている左に座る佐藤さん
右に座ってきた浅野さんが話しかけてくる。
「工藤も今休憩?」
「そ。さっき試合があったからさ」
「そっか。というか、さっきの試合
見てたけどねー?うまいね工藤。
経験者だったりする?」
「バスケ?いや、初心者だけど」
「まじ?動き方とかうまかったから
そうなのかと思ったよ」
「そりゃどうも、というか、浅野さんの
ほうがすごかったじゃん、動きとか
色々」
浅野さんの方も少し見ていたが、
経験者とはいえ明らかにレベルが違っていた
浅野さんが戦っていた相手のチームには
経験者が二人いたようだがそのハンデを
もろともしないうまさだったと思う。
「うちはバスケ部だからねー。
未経験者には負けられないのよ、
意地みたいなものだね。」
「舞はすごいんだよー?」
佐藤さんから聞いた感じ、浅野さんは結構地元じゃ有名な選手らしい。
浅野さんは女子にしてはかなり背が高い。
そういった理由もあるが、純粋にプレーの質が高く、年上相手でも物怖じすることなく戦える心の強さもあったとか。
あの二人相手にある程度言い返せていたのはそういうことか
「工藤は?サッカーやってて、
有名で強かったってのは、
由紀から散々聞かされたけど?」
「・・・そんなに?」
「もうことあるごとに・・
耳にタコができるレベル。」
「あー....なるほどな、」
「私そんな話してるっけ?」
確かに部活見学の時も熱弁されたっけ。
ていうか自覚ないのかこの子
「私はあいにく工藤のプレー見たことないんだけどさ、
『工藤君が出るだけで空気変わるー!』
とかめっちゃ聞かされたよ。」
「だってそうなんだもんっ」
「そんなことないです。」
そんなことで空気は変わりません
「ならいつか見てみたいな、工藤がやる
サッカー。部活には?
サッカー部入らないの?」
「そうだよー!結局返事もらってない!」
晴れている空を見ながら思い出す。
黒白のボールばかりを追いかけていた日々を
その時は、試合に負けたとしても楽しかった。
練習をしていく過程で強くなっていくのが
実感できた。その感覚が好きで、さらに
のめり込んでいったと思う。
練習して強くなることに。
思えばそんな、純粋な向上心。
それが彼らをいつのまにか腹立たせていたのかもしれないなと、今更ながら考えた。
「いや、今も考えは変わってない。
入るつもりないよ。自分でサッカーは
できるしな。」
「・・・そっか」
佐藤さんが悲しそうに目を伏せる。
浅野さんも少し察したのか、
空を見上げる。
少しそうした後、打って変わって
提案してくる。空気を変えるかのように。
「ならさ。バスケ部に入ったりは?」
「は?」
「へ?」
俺も驚いたし、悲しそうにしていた佐藤さんも素っ頓狂な声を上げる。
勧誘、されてるのだろうか?
「さっきのバスケ見てたけどさ、
経験でもあるのかと思ったくらいうまかった。バランス考えて後ろにいたりとか、
目立ってない生徒にパスを出して意表を
ついたり、
明らかに初心者じゃ考えないようなことまで考えてプレーしてるし。」
「そうか?、悠太とか木村の方がうまかった
と思うけど」
実際目立ってたのは点を決めていた木村や
そのサポートをしていた悠太だ。
「なんだろ。工藤がいると他の人が際立つというか、みんながより輝くように動いてるっ
て感じた。」
「あっ、それ私も思った。
工藤君がみんなのサポートして輝かせてた
みたいな感じ。」
「自覚ないんだけどなぁ」
あの試合でやったことといえば
周りにパスしてディフェンスしながら
味方のサポートはしていた。
まあ、個人的に
サッカーとバスケは似た部分があると
思っている。だから良い動きができていたのもしれない
輝かせていたうんぬんは正直分からない。
「バスケ部かぁ。」
「そ!サッカーの事情はうちにはわかんない
んだけどさ。気分転換といったら違う気が
するけど、バスケもありだと思うよ」
バスケ、か
まぁ確かにありかもしれない。
サッカーのことは一回頭から外して
ほかのことでも
「ダメですっ」
「うっ!?」
左側から腕を急に引かれた。
なんだと思いそちらをみると佐藤さんが
俺の腕を必死に掴んでいる。
なんだか柔らかいものがあたった気がして
非常に居た堪れない気持ちになりました。
というかなんで汗かいてるはずなのに
良い匂いがするんですかねー?
「工藤くんはサッカー!!
これは譲れない!」
「・・・なんで佐藤さんが決めてんの」
「そうだよー由紀?
ねっ工藤?一緒にやんない?
練習とか付き合うぞー?」
そう言って浅野さんも
肩に手を置いてくる
でもなぁ。
この前の部活見学や中瀬先生と話していくうちに、やはりまだ心残りがあるのではないかと思う。
自分で思うのもなんだが、あれだけ熱中して
三年間全てを使っていたような感じだ。
正直、ガチでサッカーをやりたい気持ちも
少しある。
だけど。
『なんでお前なんだよ』
『何本気になってんの?気持ち悪っ』
『調子乗んなよお前』
『お前いるとサッカーつまんねぇわ』
『マジで邪魔』
閉じ込められた記憶が蘇る
俺は人一倍努力していた。
小さい頃からサッカーをしていた他の奴らに追いつき超えていくために。
中学から始めたと言うハンデと小さめな体で
戦い抜くために。
他より多く走った。
他よりずっとボールを触って練習した。
他より多く相手に体をぶつけ、
この小さい体で何回吹っ飛んだか分からない。
そうやって、強くなっていく自分と引き換えに、
俺の周りからは人がいなくなっていった。
「やっぱ、『あのとき』のこと
気にしてる?」
「・・・まぁ、そうだな」
佐藤さんが腕を掴みながら問いかけてくる
佐藤さんは俺が1年の時に合同だったので
事情をある程度知っている
流石に1年以降のことは知らないだろうが、
そのことを心配してくれているんだろう。
「工藤くんがさ、あのことを気にしてるなら
伝えておきたいんだけど、」
「??」
俺の目をはっきり見た上で
優しい声で、慈しむような目で言った。
「私はずっと前から工藤くんの味方!!
そしてずっとこれからもね?
だから安心して?絶対離さないから!」
そういった後
俺の腕を大切そうにギュッと抱きしめる。
「・・・・・そうか、そりゃ、
ありがたいな、」
「でしょー?んふふ〜」
二人で静かに笑い合う。
思えばこの人は昔からそうだった。
俺がプレーでミスをしても、
黙って支えてくれたっけ。
他の人が俺のことを嫌いになっていく中、
この人はずっと変わってなかったんだっけ。
心強い。
味方がいるということが、
この人が味方でいてくれることに安心する。
「あの〜〜
お二人さん?」
階段上を見ればそこには悠太がいた。
佐藤さんがばっと俺の腕を離す。
いつのまにか顔が赤い。
「鹿島君!?
あのっこれは、その」
恥ずかしそうに言い訳をする
「悠太、なんか用か?」
「あぁ、次もう始まるよ?
次で最後の試合でしょ?」
「そっか。ありがとな
今行くわ、」
そう言って立ち上がって階段を登っていく。
その途中で止まり、
浅野さんと佐藤さんに言う。
「ありがとう。話せてよかったよ。
改めて、部活のこと考えてみる」
「うんっ!」
「考えといてねー!」
そうやって二人と別れ、
悠太と共に体育館にはいる。
「ほんと仲良いね?工藤君?
いつのまに浅野さんとも?」」
「・・・色々あってな」
そう言いながら次の準備をした。
「もはや告白では?」
「ちがいますー!そんなんじゃ・・・
とにかく!私たちも行くよ!」
「はいはあい」
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