4話 部活見学
学校生活が始まって一週間ほど経っていた
これといってなにかが起こることもなく日々は過ぎていった。
そんなある日の朝のこと
「今日から二週間くらいの期間
部活見学を放課後やってるから部活に入り
たいと思ってるんなら行ってみるといい
テニス部にもぜひきてくれよ?」
そう言って笑いかけてくる先生
中瀬先生はテニス部の顧問だしな
人員確保に勤しんでいるらしい
『部活か。サッカー部くらいは見に行ってみようかな』
入るかは分からないけど色々な部活を見学するのも良いかもしれない。
サッカー以外に心惹かれるものがあるかも
「勇人は部活どうするんだ?」
前の木村が
興味津々と言った感じで話しかけてきた
「悩んでる。単純にバイトでもしようかなと思ってるし。木村は?」
「俺はノータッチ。
生徒会に入りたいんだよ」
「生徒会?頭良くないのに?」
「おい言うな」
まぁそれぞれやりたいものは自由だしな
「でも野球はちょっと見てみようかな
みる方は好きだし」
「そっか。俺は野球はからっきしだし興味が
ないしなぁ、、」
そんなやりとりを木村として朝のHRは終わる
結構木村とは打ち解けてきたんじゃないだろうか?
そう思いたい。
昼休み
いつものように購買でパンを買って教室に戻ろうかと言う時だ。
「購買でパンを買ってきたんだな。」
「中瀬先生?こんちは」
「おう」
昼休みに校内を見回っている途中のようだ
腹減ってるだろうに大変そうだなと思う
「この学校はどうだ?楽しいか?」
「えぇまぁ。割と楽しんでると思います
自分が持ってたイメージとだいぶ違います
けどね」
「ははっ 正直だなあ工藤は
まぁ確かに外から見ればそういった悪いイメージを持つか。散々だからな、この学校に対する悪評は」
この学校で過ごすうちにそこまで悪くないと思っている自分がいる。
入るまでにもってた緊張とか不安が
全部空振りだ
「先生からしたら、自分が教職をとってる
学校が悪く言われてるのはあまり良い気は
しないんじゃ?」
聞いてみたくなった。
教員や大人の立場から見たこの学校を
中瀬先生は悩ましげに顔をしかませる
「そうだなぁ。
まあ確かに何も知らない外の人たちが好き
勝手言いたい放題なのはあんまりだと思う
それによって劣等感を抱く生徒が少しいる
のも現実だ。でも実際噂になるような問題
行動を起こす生徒がいるのも事実。
悩ましいことだ。」
中瀬先生は生徒に結構人気がある人らしい
その人気の一端に触れた気がした
よく生徒を見ているのが人気の一つか
「そういえば工藤は部活に入るのか?
聞けば中学時代はサッカーをしてたそう
じゃないか」
「今のところは入る気ないですよ
サッカーはもう充分やりました」
「嘘つけ。顔に書いてある」
少し怒ったような声色だった
「・・・・どういうことですか?」
顔を見てみれば結構真剣な表情で
こちらを見ていた
「心残りがあるって顔してるよ
これでも教員生活は長いんだぞ?
・・・何か理由があるのか?」
「ないですよ
単純に『サッカー部』にうんざり
なだけです」
「そうは見えないんだけどなぁ
まぁ本人が言うならそうか、
悪いな時間取らせて」
「いや、良いですよ
見回り頑張ってください」
「おう!ありがとな!」
そういって先生は去っていった
心残りねぇ
そんなものがまだあるんだろうか
放課後
サッカー部の部活見学をするために
荷物をまとめグラウンドにでる
この学校は第一グラウンドがサッカー
第二グラウンドが野球や陸上といったふうに
分けられており、それぞれ部活に励んでいる
俺はサッカー部が練習している第一グラウンドに足を運ぶ。するとグラウンドから
アップをしている部員の人たちを見つける
少し懐かしい。
部活やってた時はあんなふうに声あげて
サッカーやってたっけ
「くっどうくーん!」
「・・・・・ん?」
あれ、おかしいな
俺に話しかけてくる女子いたっけ?
声の方を向いてみたらクラスメイトの
佐藤由紀さんがこちらに走ってきていた
「・・佐藤さん?」
「そ!佐藤由紀。名前覚えててくれたんだ」
「そりゃクラスメイトだし・・」
屈託のない笑顔を向けられる
なんて明るい笑顔だろうか
眩しいよこの人
「工藤君はやっぱサッカー部はいるの?」
「やっぱ?俺が元サッカー部なのなんで知ってんの?」
「えっ、、逆に覚えてない?マジ?」
「???」
あれ、昔会ったことあったっけ?
このテンションと笑顔なら
一回会ったら覚えてそうだけど
「ほら!朝凪中の!」
「・・・あ」
そういえば
朝凪中のマネージャーにいた気がする
俺がサッカーをしていた
山原中はその時、部員人数が少なく
試合すらできない状態だった。
そう言った事情から同じく部員が少なく試合が出来なかった近くの朝凪中と合同で部活をしていた時期が1年ほど最初にあった
「思い出してくれた?
あの時のこと」
「思い出したわ
ごめん。忘れてた、久しぶりじゃん」
「うんっっ!久しぶり!」
さっきより顔を綻ばせて言う佐藤さん
近くのベンチでサッカー部を見ながら
話し始める
「陽千高にきてたんだな」
「そうだよー!勉強苦手で、、」
少し恥ずかしそうにしながら言ってくる
少し可愛いと思ってしまった、
「俺も似たようなもんだわ
机にずっといて勉強するの苦手でさ」
「だよねー!
それに退屈だしー」
「高校でもマネージャーやんの?」
そう聞いてみると
佐藤さんは少し首を傾げて悩んでいる
「どうしよっかなって思ってるんだよね
もうモチベがあまりないの。でもさ」
佐藤さんはこちらに顔を近づけて
揶揄うように
「工藤君がサッカー部に入るなら
私も入るかも、、なんてね」
「・・・人を揶揄うんじゃありません」
「あ、照れてる
顔少し赤くなってるよ笑」
そういってくすくすと笑う
全く油断も隙もない
というかほんと元気だなまじで
「で!?サッカー部入るの?」
サッカー部の掛け声を聞きながら考える
確かにサッカー部に入ってサッカーをするのも良いかもしれない。、、でも
「ごめん、サッカー部に入る気はないんだ
見学だけで済まそうと思ってる」
「・・・へ?なんで?」
心底驚いた顔でこちらを見ている
そうか。この人は俺の昔のプレーも見ているんだった
「そんなに珍しいことでもないだろ
単純にサッカーはもういいかなっておも」
「嘘だよ!そんなはずない!」
途中で遮られたんですけど
最後まで言わせてくださいよ
「確かにそういう人もいると思うよ
でも工藤君に限ってそれはない!」
「・・なんでそう思ったの?」
「工藤君だけ違ってたもん」
佐藤さんは昔を懐かしむように空を見上げながらぽつりと話し始めた。
「みんな諦めてた
強豪相手に善戦してるだけで、
ギリギリ戦えてるだけすごいだろって。
でも工藤君だけはあの時違ってた。」
おそらく佐藤さんが話してるのは
合同チームになって初めての公式戦の時
の話だ
さっきも言ったが元々メンバーも集まってない学校同士、強いなんてこともなく
間違いなく弱小校だっただろう。
だが
「相手の攻撃を誰よりも防いで
誰よりも走って誰よりも攻めて、
そんな風に『勝ちに行ってる』人は
工藤君だけだった。」
そうして目を細めて
こちらを見つめる
「魅せられたんだよ・・・
あの時会場にいたみんなが、
まだ入ったばっかりの小さい中学1年生に
見せつけられた。
君の戦いぶりを。どれだけ差があっても
諦めずに『勝ちに行く』その姿勢に。だから勝てた。
そのこころが、みんなの心に火をつけた」
その試合は少し地元のサッカー界では有名になったものである
発足したばかりの弱小対優勝候補の強豪
そんな試合で勝ちを掴み取った
紛うことなきジャイアントキリング
それは俺の人生での誇りでもある
「だから続けて欲しい!
単なるワガママなんだけど・・」
気まずそうにこちらをみながら問いかけてくる佐藤さん。
まずったなぁ
佐藤さんに合わなければ、
見学に来なければすんなり決められただろうに。きっぱり諦めれたかもしれないのに
「・・・どうだろうなぁ
即決はできないな」
「それでも嬉しいよ!
ようは悩んでくれてるってことでしょ?」
少し嬉しそうにはにかんでこちらを見てくる
「ありがとう!
悩んでくれて。嬉しいよ!」
「なんでそんなにサッカー部に
入れたいんだ?」
こんだけ説得までして勧誘まがいなことを
して意味あるのだろうか?
「工藤君のサッカーが見たい!」
「・・それだけ?」
「それだけ魅力があるのっ!
工藤君は!」
ぷりぷりしてちょっと怒ってる
そんなに?俺のサッカーは?
「まぁいーや!あ、あとLINE交換しよ!
はいこれ」
そうして渡されたのは小さい紙切れだ
中には番号のようなものが書いてある
「これ私のLINEのID!
気軽に連絡して!」
「あぁ、ありがとう・・」
あまりの圧に少したじろぐ
そして
「じゃあまたね工藤君!
LINE待ってるねー!」
そうして笑顔で手を振りながら
台風のような少女は帰って行った。
『連絡しないと怒られるやつだろうなぁ』
部活のことも考えなきゃな
あれだけ慕ってくれてる人がいるのは
初めて知った
知らないことだらけだ
慕ってくれるからこそ
悩ましい。
「ふぅ。よかったぁ」
「完全に乙女だねー由紀?」
「うっ、うるさい!」
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