だいすき

「まま」

「うん? どうしたの?」


 ついこのあいだ三歳になったばかりの幼子は、母親ゆずりの大きな瞳に疑問の色を宿らせていた。


「ぱぱは?」

「え? パパならそこにいるでしょ?」


 端正な顔に笑顔を浮かべながらそう口にした母親は、リビングの壁に掛けられている色とりどりのフォトフレームを指差す。


「その青色のお写真のパパは、ママを海に連れて行ってくれた時のパパ」

「その隣の桃色のお写真のパパは、ママと”けっこんしき”をした日のパパ」

「その下の、黄色のお写真のパパは……ママのお腹に……あなたが来てくれた時の……」

「まま? だいじょうぶ? いたいいたい? なでなでする?」


 幼子は自身が普段そうしてもらっているように、もみじのような赤く小さな手で母親の華奢な背中をそっとさする。

 溢れ出た涙を見られぬように背を向けていた母親だったが、嗚咽を必死に堪えながらふたたび笑顔を作ると、先ほどまでと同じ優しい声色で言葉を続けた。


「……ごめんね。その黄色のパパも、他のたくさんのパパも、ぜんぶぜーんぶあなたとママのことが大好きな、優しくて素敵なパパだよ」

「うんっ! ゆみちゃんもままとぱぱだいすき!」

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