苺のケーキ

 ログハウスのような作りの店内は、想像していたとおりに混み合っていた。

 最後にこの洋食店を利用したのは、就活に明け暮れていた大学時代だったように記憶している。

 だとすればもう、かれこれ五年ぶりにもなるというのか。

 時の流れの早さとは実に恐ろしいものがある。


 着席してから十分と待たずに運ばれてきたハンバーグに舌鼓を打ち、柄にもなく食後にはデザートまで頼んでしまった。

 それもこれも、テーブルの向かいに座る彼女が喋る方にばかり口を使うせいでなかなか食事が進まず、僕がハンバーグを平らげた時点で、彼女のそれはまだ半分以上残ったままだったからだ。

 手持ち無沙汰を解消するためにオーダーした苺のケーキだったのだが、おかげで旬の味を存分に堪能することができたので良しとしよう。


 たっぷり一時間ほど滞在して店を出ると、ほんのわずかではあったが西の空の端に夕方の成分が混ざり始めているのが見て取れた。

 ここ数日などはすっかり春めいてきたとはいえ、僕も彼女も薄着のまま家を出てきてしまっていた。

 海岸は風がある分、ここよりも幾らか気温が低いことが予想される。

 まあその時はその時で、長居しなければいいだけか。

 それに正直なところ、今はそんなことなどどうでもよかった。

 懸念すべきは海に着いてからのことではなく、現に目の前で起ころうとしていることなのだから。


「流風さん」

「なんですか?」

「なぜ運転席に?」

「なぜって――あ、ところで弦さん。エンジンってどうやって掛けるんでしたっけ?」

 もとより神仏を信じる殊勝な心など微塵も持ち合わせていない僕だが、この時ばかりはオレンジ色を増しつつある西の空に向き直ると、丁寧に手を合わせて身の安全を願ったのだった。

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