第19話 母の笑い声。

私は新田樹に言われた通り、帰宅してお母さんにお兄ちゃんの遺書を読んだ話をした。

お母さんは蒲生葉子さんから連絡を貰って知っていた。


「朝写真を送った子が、学校で発作になって助けてくれた子で、それが蒲生葉子さんの弟で驚いたよ」

「本当、運命ね。でもその子のお陰で色々知れたんでしょ?良かったじゃない」


お母さん達が私に教えたくなかった理由は、私までお兄ちゃんの幸せになって欲しいという言葉に引きずられない為と発作の事だった。


私は皆に感謝しながらも「んー、あんまり良くないんだよね」と言う。


「あら、なんで?」

「新田と蒲生葉子さんは親が離婚していて、お弁当に飢えてるから私のお弁当が食べたいんだって」


「毎日?」

「言われているけどそれはやだなぁ」


私の返しにお母さんは「うふふ。いいじゃない。全部色々教えて?優斗は教えてくれないと思ったらアレだったから知りたいわ」と言った。


確かにそうだな。


「じゃあ…おかずの減りが激しくなっても許してくれる?」

「ええ、勿論よ」


私は仕方ないと思いながら、新田樹に[お弁当、お母さんの許可が出たから作ってあげる]と言うと、新田樹は返信ではなく電話をかけてきた。


「え!?」

「あら、どうしたの?」


「電話、相手は今話した蒲生葉子さんの弟」

「何かあったのかしら?出てあげなさい」


私は恐る恐る電話を取ると、「関谷!あんがと!お弁当箱って2個買えばいいよな?食べたら洗ってくるから、もう一個で次の日のを頼んでいいよな?」と挨拶もなく言われる。


電話の声は漏れていて、お母さんがクスクスと笑っている。


「ん?声がする。誰かいるのか?」

「お母さんだよ」


新田樹は頭のネジが何本か飛んでいるのか、「挨拶したい!」と言い出した。


マジか?

普通嫌がらないか?


「えぇ…。お母さん、新田が挨拶したいって」

「あらあら、じゃあスピーカーにしなさいな」


私が諦めてスピーカーにすると、新田樹は「お母さん、初めまして!新田樹です!」と元気よく挨拶をした。


「あらあら、お姉さんとは違うタイプの元気な子なのね。はじめまして」

「あ、そっか…」と言ったが新田樹はキチンとしたテンションで、「ねーちゃんがお世話になってます」と挨拶をすると、「俺は娘さんの運命共同体なので、安心して高校生活を見守ってください!」と言う。


「はぁぁ?新田?何言ってんの?何を言うの?」

「何って、お母さんは心配だろ?発作だって俺は止めたし、綺麗な袋もキチンと常備してる。制服の埃っぽさもキチンとなくしてる。無いのはお弁当だったが、関谷が居てくれれば問題なくなった。だからキチンとお母さんにご挨拶だ」


お母さんはお兄ちゃんが死んでしまってから、初めてかも知れない笑顔でニコニコと話を聞いていて、私と新田樹の「お弁当?それの為に今日も一緒に出歩いたの?じゃあ仕出し弁当でよくない?」、「ダメだ!関谷弁当がいい!もう俺は2度とパンを買って学校に行かないからな!」、「ちょっと!休む日だってあるの!発作が出たらお弁当は作らないよ!」、「…安心してくれ。俺はなんなら関谷弁当のためにシルバーに乗って、関谷邸の掃除に行っても構わないと思っている」、「構うわよバカ!だったら自炊覚えなさいよ!」のやり取りに、声を出して笑うと「ふふ。楽しい。家庭料理に憧れがあるのなら、今度食べにいらっしゃい」と言ってしまう。


「お母さん、新田って本当に来るの!ダメだよ!」

「絶対お邪魔します!シルバーで行きます!」


もうこのやり取りだけでケラケラと笑ったお母さんは「ありがとう新田君。こんなに笑ったのは久しぶりよ。会える日を楽しみにしてるわ。愛をよろしくね」と言ってしまったので、私は「切るよ。じゃあね」と言って電話を切った。

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