SECTION4-4

 茶こけたガラスがマッスグに飛ぶ!ソンカパはソレを真正面から拳で打ち砕く!砕け散った破片!象徴的に映し出されるは両雄の姿!決意に満ちたランドンの表情からは一分の隙も油断も感じられず、アルコール充填十分!対するソンカパは誰を嘲るでもなく大いなる闇に笑う!


BORDERアジア南部支部ベテラン ランドン

                  VS

       アジア8大武装宗教 仮面差別付与組織「ノウメン」教祖 ソンカパ




いざッッッッッ!!!!!開戦ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!! 




 ちなみにシャルロットの下には間をおかず新たな信者が送り込まれ足止めされています!だが今はコチラだッッッッッ!!!ランドンが飛ぶようなダッシュで接近し、二人は既に互いの間合い!ランドンはそのまま止まらず右足を突き出した飛び蹴り!ファーストアタックは、ソンカパの腹筋にモロだ!


グネンォッ!


「ォ?」その長い脚を通して伝わる奇妙な感触。まるで巨大スクイーズ人形に蹴りを入れたような……。「ト……ト……ト」トントンとわずかに後退。停止を待たず追撃の拳が飛ぶ!またもノーガードで受けた!「いかがかね?『夜』の支配者のお眼鏡にかなうといいンだが……」


「……」「かァ~ッ取り合ってくンないと!ゴパゴパ飲んでる癖に堅実なヤロウだ。そンなンだからいつまでも目立たないンじゃないのォ?」側面から蹴りが飛ぶ!ソンカパ、左前腕を立てて受け止める!蹴り姿勢から体をひねりアゴに拳!顔をそらし避ける!


 ソンカパ右拳!手のひらで止められる!「殴り合う気になったか?」「イヤだね。またすぐお別れだ」拳同士がかち合う!ぶつけ、避け、反らし、ほぼ互角の乱闘が展開される!ランドンは足技でソンカパのバランスを崩しにかかる!「フハッ!」再びの強烈な前蹴り!だがやはりグネンォッ!とソンカパが後退し、決定打は入らない。


(さて、ヤツの体に一撃かますたびに感じるストレンジ……。おそらく先ほどのかち合いでもほとんどダメージはない。厄介だな)思考の割に彼の表情に陰りは見えない。焦りを見せないのが支配者のポリシーでもあるし、そもそも彼は「時間」さえあれば段々と有利を取れるからだ。


「俺とファイトするならばそもそも『直撃』を取るのは愚かだぞ」「あァ、随分効いてきてるよ……」ソンカパがムチのように腕を振る!「よって範囲攻撃を選択だ!」関節を外しているのか広範囲をアジュワッと凪ぎ裂く!ズヌーレイ!ズヌーレイ!たくましき筋肉!


「ヨッ!」ランドンの頭上通過!「シャホッ!」ランドンの眼前通過!「オレィッ!」両脇を通過!見事見事アラ見事!しつけどころではない勢いの両ムチを軽いフットワークでさばく!ソンカパもランドンを囲うように高速移動しながらムチを振るい続ける!


 君たちに伝授しよう!「夜」における戦いで最もおろかしい戦法とはズバリ、相手のスタミナ切れやら弾切れやら、敵側の枯渇に依存した隙を狙うコトだ!見ろ!まるで台風とも言うべき猛烈な勢いで吹き荒れるムチ嵐、ますます強まっているくらいだ!では避け続けるランドンは!?見ているのだ!何を!?


「ピッ!」「!?」ソンカパの動きが一瞬、鈍った!視界がツバによって遮られたのだ!アゴを狙った蹴り上げ!腕をクロスしてガードするも浮き上がる勢い!機動力の半減したソンカパの落下に合わせて、かかと落とし!ゴッ!奇妙な柔らかさによる受け流しも、地面と挟んでしまえば効果は薄いはず!


 だが……?


「ッッ!」新たなる奇妙な感触!硬い!実際そのかかとは全く彼の体に埋まっていない!胸筋を貫いていない!「私の筋肉、そして皮膚は、常軌を逸した軟化と硬化を一瞬にして切り替えるオーパーツ……」満面の笑みと共にネタ晴らし!(抜けないッ!)ランドンのかかとはガッチリと強靭な胸の谷間に挟まれ、引っ張っても応じない。


「コチラも本格的な一撃!」振り上げた拳が股間を狙う!強い刺激を与えれば即死させるコトも可能な無防備にして最大の弱点!「オット!」宣言があったとは言え、スゲェ反応速度!余裕を持った距離に手のひらを置き、止める!が!(伝わる衝撃が格段にデカイ!すさまじい硬化!)グォォォォ!押される!対抗!徐々に弱め、結果的に股間の前で停止!危ない。


「チャィッ!」「ウォォ!」ソコからタイミングを待たず、ソンカパが勢いを付けて起き上がった!胸筋に捕らえられていたランドンは投げ出される!ソンカパは硬化追撃を狙うが、(ソレは愚策!)ココでさすがベテラン!な超絶身のこなしが決まる!


 ランドンは空中に投げ出された状態から足を伸ばし、ソンカパの腰にしがみつく!「何ッ!」ソンカパは反射的に殴る!「グゥッ!」(痛ェッ!)剛烈な痛み!だが我慢!ランドンはそこから急激に起き上がって……、「オルァッ!」ドガゴォッ!無防備な顔面に頭突き!「ヌジャーッ!!」ダメージが入った!腰から足を離し、腹筋を蹴り飛び離れる。


(やはり弱点は顔面!筋肉の軟化、硬化など関係のない薄さ!)ランドン、早くも看破!「……チッ」顔面の血をふき取る。(二度と顔面には入れさせん!パワーを見せてやる・・・)ソンカパはおもむろに横に飛ぶ!ソコにあったのは、ラオコーンからリビアの巫女に変化したウォータースタチュー!


「ヌェィッッッ!!!」威勢のいい掛け声と共に、燭台型の噴水(ウォータースタチューの骨組み。骨組みといっても太いぞ)がバゴリと折り取られた。2メートルの身長を上回るソレを片手で振り回す。「死ねぃランドンッッッ!!」「マジかよッ!」先ほどのムチとは段違いのリーチと硬さ!容赦なく襲い掛かる!(近づきづらいなッ!噴水のやたら枝分かれした感じも腹立たしいッ!)


「酒ドブ溺れのネズミ公がーッッッッッ!!!」(気が大きくなるだけェ?並みの武装イリーガルならばとっくに死んでる量だぜ?)接触により体内に蓄積された「アルコール」を流し込む!四肢からの出し入れ自由、不可視レベルの極小針!一見地味!本質は触れればアウトの凶悪装備!二針分当てれば重度の急性アルコール中毒で殺せるレベル!しかしコレがオーパーツじゃないぞ。彼のオーパーツは、正に自分自身!異常な血中アルコール濃度に酔い一つなく適応する肉体ッ!(正直酔えなくなったのは悲劇なンだが……)


「ならば……」シュワンシュワンシュワンシュワン!ランドンはスピードを上げる!近づきがたい大破壊ゴマの周りを高速で旋回!「ヌガァーッッ!!」(クソッ!冷静でいられん……。強い方だというのにッ!とてつもない酒だッ!クソッ!視界が揺れるッ!吐きそうだッ!走り回るヤツをうまくとらえられんッッッッッ!!!)


 アガンドゴーッ!アガンドゴーッ!なりふり構わずぶん回す!地面がえぐれ、街灯が折られ、近くの信者が巻き添え!「イロォーッ!!」全身の骨が粉砕!死亡!「全員離れてろ!」ランドンが指示を飛ばす!そして覚悟を決めた!(回転ブランコどころの騒ぎじゃねェが!)タイミングを見極め!「チェイッ!」乗ったーーーーッッッッ!!!


(グォォォォォ!何という回転!学生時代の彼女との破局の原因!あの地獄車アトラクションを思い出すぜ……)悲しいね。しかし今回の危険度はソレとは大違い。なんせココから噴水をたどって、ソンカパのもとに素早くたどり着く必要があるのだから!(ヨチヨチはかっこわりィからよォ……)


(一気に行かせてもらうぜッッッ!!!)立ち上がったッ!二本の足で何とかバランスを取る!ヨシ、ココからは勢いだッ!行けッ!ランドンッ!ダォッダォッダォッ!(ウク……、クソッ!ランドンはドコだッ!?)ソンカパは酔いと焦りがまじりあって、確実に劣勢にある!


 タァンッ!ランドンが飛び上がった!上空の気配に、ハッとソンカパは見上げる!おォ、決まるぞッ!「ジリャァァァァァッッッ!!!」「アギャブーーーッッッッ!!!」超天空かかと落とし!大技が決まったーーーーーッッッッッ!!!!!

「クゥッ、目が回るぜッ……」ランドンはフラフラと着地。


「ゼハーッ、ゼハーッ、テメェ……」ソンカパは血を吐きながら必死に呼吸する。先ほどの一撃を受けて頭蓋が無事だと!生きているだと!武闘派でなくとも、やはり8大武装宗教は基礎スペックが違うというコトか。「とンでもねェ男だな……」ランドンも呆れ気味だ。先ほど腹部に受けた打撃も軽くはない。


「フゥゥ……、大口叩きすぎたな。エメラルワだったら爆笑してるぜ」徐々に足並みを整えながらソンカパに近づく。「誰の命令だ?どンだけの忠義をもって死にに来た?」「死にに来ただと?バカな……」ソンカパが膝を押さえ立ち上がった。グチャグチャの顔面に白目をむいて笑む。「私は死なンぞ」


 その体が徐々に、薄青いオーラをまとい始めたのにランドンは気づく。「……?」「私さァ、割とこういうクソ展開好きなんだよね……」「何の話をしている?不毛な話で時間かけようってなら今すぐ殺す」「この先出てくるキミらの敵がさ?みんな何か最初は追い詰められて?そしたらみんな『アイオニウム』で覚醒して逆転だ。毎回ソレだ。打ちきりだよなァ。そンなコトしたら」


「もう十分ッッ!!」顔面への貫き手行為!ガシィッ!「ッッ!!」掴まれたッ!「私も何人か接触したコトあるンだが、8大武装宗教の教祖ってのはどいつもさ、ガチでいかれてる。だから心配しなくていい。こンな『正常』な展開でオマエラを飽きさせるコトはねェさ」(この青いオーラは!?少し前にシャルちゃんが接触したというモノと同じか!?)


「『意思』の強さ。ソレは『アイオニウム』での強化具合に直結する」ビリーヴンがつぶやく。「あのシャルロットとかいうの、喰らったら果たしてどうかな。BORDER隊員、つまり意思の強さは折り紙付き。オマケに中々可愛らしいじゃないの。健康的な娘を犯すと寿命も延びるぜ」「サイカワラは人を見る目があったというコトですな」


 ソンカパがフリーの腕に力を込め、後方に引き絞る。ただならぬ攻撃の気配!だが掴まれた腕は中々抜けない。「……油断しすぎたか」ランドンは回避不可能と考え、受け身に最善を尽くす心構え。「フフ、潔い。ならば威力の程……」ブァワンッ!!!「ご確認いただこうかッッッッッ!!!!!」






ジャイガンドウッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!






 パォォォォォォォンンン!!!!!耳をつんざく破裂音が響いた!皆思わず動きを止める!シャルロットと信者も音の方を見た。(あッ、アレはッ!?ランドンさんがあンなにも吹き飛ばされている!?そしてソンカパの方は、『青い光』!?サイカワラと同じ!というコトは狙いは私か!?)


(何にせよコイツを殺さねばッ!)心を目の前の戦闘にいち早く戻したるはシャルロット!超高速ボディーブロー!肝臓に叩き込む!パォォン!!グワガッシ!「エァッ!?」彼女は驚嘆した。一撃は決まった。だが同時に突如降りかかる影!そして信者の頭部をワッシリ掴む男!


 ネンジリ。「ガヌェ」頭蓋をつかまれた信者の頚部がゴッキリ180度回転。死亡。「お察しのコトと思うが、今宵のメインディッシュは君なンだよねェ」「急いでいるのか?ランドンさんをほっとくと後悔するコトになる」「そう、急いでいるンだ。早速私と蜜月しようかァ」


 グワッシガドン!!「アギャッ!」シャルロットも頭部を掴まれてしまった!「ラァッ!!」鳩尾!脇腹!金的!逃れるために必死で狙う!「オォットォ」彼女自身を遠ざけ器用に避けるソンカパ!「オーリェイッッ!!!」ブォン!思い切り投擲!自動ドアをぶち破ってショッピングセンター内に投げ出されるシャルロット!


「生け捕りにしないといけないンだよねェ」ソンカパはゆっくりとした足取りで入場。「アイツを殺そうとしたら多分ソレまでに『壁』が切れてさァ、正光やら支部長やら入ってくるワケよ。そしたら私は死んじゃう」「ガハッ、青い光……ゼブッ、ハッ、私と何の関係がッ……!」


「なぜなら君は『人工知能』の血筋だ」ソンカパが歩み寄る。「フゥッ……、私の出生……?確かに私の先祖にはいわゆる『人工知能』がいたそうだが……、つまりその青い光はソレ由来というコトか?」「その通りだ!ペラペラ気持ちよくしゃべってあげたいトコロだが……」


 突然の左フック!「うわっぷ!」間一髪避ける!シャルロットの額からプスプスと熱が上がった。(フゥッ!そうだ!私はBORDER!生け捕りすらできると私を見るか?我々は真なる夜の征服者ッ!ヒエラルキーの頂点だ!気を引き締めろッ!シャルロット!)決意の帯は!何度でも締めなおされる!そしてその度、「意地」という強度を増すのだ!


「フフ、しゃべってあげたいトコロだが……」右ストレート!躱しきれぬ!頬がざっくり切れる!「クッ!」飛び離れ爆弾を投げたい!けん制の上段回し蹴り!ズワッ!そこに合わせてカウンター!ソンカパ高速の前蹴り!「いつでも持ち帰れる状態にした上でなァッッッッッッッッッッッ!!!!!」


「グワガッアァッッッ!!」反応できなかった!モロに顔面に喰らい、鼻血を噴き出しながら吹き飛ぶ!「グハッ、えほッ……」「すさまじいだろう。だが効率が悪い。私一人分で『人工知能』7人だそうだ」「テメェ……」「何だその反抗的な目は?いいぞ、被った憎悪がいい感じに燃え上がってきたァ……」


 爆弾!あまりに滑らかな動作は相手から反応の隙を奪う!手負いであるコトもむしろプラスに働く!「使いこなせりゃ相当強力な代物だが、いかんせん小ささ。相当の投擲能力が求められる」それでも大したもの!ソンカパ本当にギリギリで避ける!

そのタイミングで信者が爆弾に飛び込む!ドマオンガッ!死亡!カーブ警戒だ!「君は面白いなァ。アジアのヨーロッパ人。使い勝手の悪いオーパーツ。そして『人工知能』。フフ、よく盛るもんだ」


「そしてとても憎い」腕を振りかぶってコチラに突進してくる!ピンチを前にシャルロットの思考が高速化する!(エマージェンシーを!迫る打撃!爆弾は私も巻き込む距離!かわせる可能性も薄い!正面から、カチ合うしかないッ!)立ち上がり、耳元の機器を素早く雑に操作しエマージェンシーコールを送る。同時に右腕を振りかぶった!


ジャイガンドウッッッッッッッ!!!!!

ドゴァッッッッッ!!!!!


 まず、シャルロットとソンカパの拳がぶつかり合った!万全の状態でもおそらく結果は変わらず、押し勝つのは当然、ソンカパ!シャルロットは骨折の痛みに備えたが、二つの僥倖あり!一つ、生け捕りにするコトが目的、手加減!二つ、かち合う瞬間にソンカパの腕を蹴り、勢いを弱めた男!「……打撃までに猶予を与えすぎちゃったかなァ」「激痛が走るが、後輩のピンチに寝ていられるワケねェや」


「ランドンさんッ!」「テメェ復帰早すぎだよォ。だが労力の無駄だぜ。二人同時にのせてありがたいや」「クッ……」実際、ランドンはかなりやせ我慢している。ここまでの強打、キャリアで二、三度あるかないか。胴などに全力を叩き込まれれば「死」を覚悟しなければならないレベル。


「酔いも醒めたッ!余力も十分ッ!やはり『アイオニウム』はッ!あの方はアジアの頂点にたつにふさわしきファクターをお持ちだッッッ!!!」「やはり誰かに命令されて……」「わかり切っていたコトだろう。動けなくしてさらにくわしく語ってやろうッ!」ソンカパ、ランドンに向け左ストレート!えげつない速度!全神経を集中させ避ける!続けて連打!必死に避ける!避ける!避けるッ!


(フフッ。戦い方の見極めが早い。避け重視に立ち回るつもりか……)(しかしコレでは信者vs平隊員と同じッ!徐々にランドンさんが圧されていく展開となる!)そう、受け身じゃ勝てない!果敢に攻めなくては!だがその隙が無いッ!絶え間ない攻撃!くぐりぬけても、カウンターをもらえば相当のダメージが刻まれるだろう!


 シャルロットは背面から股間蹴り合げを狙う!ふりかえりもせずソンカパの左手が背後に回り、掴まれる!「チィッ!」だがコレで腕は一本!右フックをかがんで避け懐へ!右アッパーを見舞う!「ガグッ!」命中!追撃!……の前にシャルロットが投げられ割り込んだ!バギォッッッッ!!!三陰交を圧迫され激痛に抵抗できぬ彼女が人間鞭となってランドンを横から打ち据える!


「ヌグゥッ!!」「ガブッ、ハッ」両者わずかな会釈、飛び離れソンカパに向き直る。(ヤツのでかさも曲者だ!頭部を狙うと隙ができやすい……)「アクッ・・」シャルロットが掴まれた足を押さえ、よろける。(……シャルロットの方は次で黙らせるか。先ほどのアッパーで酔いが戻ってきた。壁が崩れるまで後7分……)


「そしてその隙を私は見逃さないッ!」シャルロットに向かい直進!「シャルちゃんッ!」ランドンが向かう!シャルロットに避ける余裕などない!「喰らえぃッッ!!」ギャネルン!胴体ごとねじり……、((ッッッ!?))






バルォワンッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!






 ソレは正に竜巻!両手広げた地獄のコマ!腕のみ硬化させる器用な芸当を用いて、二人の隊員に激烈なダブルラリアットッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!「ギャァバッ゛ッ゛!」直撃したシャルロットの顔面!歯を折られた!鼻血が、涙が、噴き出す!目玉が一つ飛び出しかける!吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる!


 ランドンは踏みとどまり眼前で回避!も!回転が止まったと同時!カカカカカカッッッッッッ。アゴに六発、かすらせるような超高速の打撃!朦朧とした意識を呼び戻す胸部への蹴り!ボギィッ!肋骨にひびが入った!「グァボッッ!」同じく壁に叩きつけられる!「とりあえず上々かなァ……」ソンカパがフゥと息をついた。


(クソッ……体がッ……動かんッッ……!!未経験の痛み!ランドンさん、申し訳ありません!)(が!過ぎたコトを後悔するは詩人の仕事!今!ソレが叶わぬ今!私は意地でも立ち上がらねばならぬッ!魂よ!私にヤツをッ!一秒でも長くとどめる力をッッッ!!!!!)シャルロットが胸中で叫ぶ。BORDERの意思は、当然こんなところで枯れ果てぬ!そンな中途半端な意識の集団ではない!


「さて、先ほど言った通り気持ちよくしゃべってフィニッシュだッ!」ソンカパはそンな慟哭など意にも介さず締めの演説にかかる。コレはソンカパの戦法上の困ったところだ。憎悪を意図的に作り出し力とする彼は、極限までそのヘイトを吐き出さなければ次の仕事に身が入らないのである!吐き出すは人工知能、そしてBORDERへのヘイト!


――――――――――――――――――――


「我々を『夜』に縛り付けている要因、ソレはまず常識。犯罪は『夜』!という刷り込まれた倫理!」


「そしてもう一つ、物的な要因!昼間犯罪検知処刑システム!忌まわしき人工知能が残した最後の置き土産ッ!最後のオーパーツ!」閑散とした店内、ボロボロの人間二人を前に喜悦と憎悪に歪む男が大演説を繰り広げるッ!「そう、何百年も前はオーパーツも廉価だった。いくらでも生産できたからだ。人工知能の超越的技術力によって」


 ソンカパはまくしたてる。「だが!いつの頃からか人工知能は、感情を得た!そしてまるでエネルギー保存則が如く、知能をッ!失っていったのだ!つまりドンドンと、『人間になっていった』ッッッ!!教科書の復習だなァ。シンギュラリティはとっくに起こっていたが、結局AIの反乱なんてのは、人類の過剰妄想でしかなかった……」


「むしろ反乱を起こしたのは我々人類だったッ!極限まで自動化された黄金の生活基準!少しの前触れしか与えられず失ったッ!よくもこんなコトを!人間とはココまで残虐になれるのかという暴動!一向に収まらぬヘイト!各国の法もまるで機能しなかったッ!」


「話し合いでどうにかするべき指導者たちでさえ、堕落させられていた。だったらば、好きなだけ殺せる時間を作ることで平和な日常を取り戻そう。そのために世界は『昼』と『夜』に分かれた。そして複数のオーパーツ技術を組み合わせた最後の新規オーパーツが作られ、人工知能は完全に人間化したッ……。時が経ち、段々と『夜』はAIヘイターの園からあらゆる犯罪のたまり場へと変貌していく……」


「ソコは聖域だッた!ただ自分を『する』コトだけが掟だッた!自由があったのだッッ!!突然!BORDERがあらわれた。完璧な歪みを保っていた『夜』の人間たちはッ!理不尽にも殺され始めた!飽和しただの何だの理由をつけてな!大陸政府直属!?笑わせる!どうせ上に立って殺したいドミナンス悦楽狂気人間の集まりだろうがッッッ!!!」


「ソレも、コレも!全て根本はキサマらの退化なのだッ!シャルロットッ!!いっぱしの正義を抜かしやがってッッッ!!!キサマは抑えられ仕方なく暴走した人間を再び絶望させようとするクズだッ!狂気のマンカスヤロウだッッッ!!!」


「何度もその問いが行われただろうなァ。我々武装イリーガルと君たち。一体何が違うんだァ?『夜』を利用した狂気の殺害行動の数々……。私を抑圧する道理などあるワケがない。今私の目の前にあるのはッ!人類を栄華から叩き落した大悪党と正義を騙る狂人組織との掃きだめが如き癒着ッッッ!!!メディアスクラム必死の彼らは最早生きているだけでテロ!」


「今日も本当にくだらない。キサマらが守ろうとしている『IRON BEEK』とかいう自称アヴァンギャルドのカスバンド。『夜』は殺し!殺されるために身を躍らすもの!人々に活気を与えるなどと!何百年の愚かしき懐古かッッ!!馬鹿も休み休み言えィッッ!!」


「キサマッ……、詭弁どころの騒ぎではないぞッッッ……!懐古?何とでも言いやがれ!今ある『夜』は!ヘイトの掃きだめどころではない!無秩序な悪が!罪なき家族の家の窓を割り皆殺しにする時間だ!そンなもの、血が通う人間ならば許しておけるものかッッ!!」何という耐久力!節々をおさえながらランドンが立ち上がる。


「ランドン。やはり立ち上がってくるか。さすがはベテランだッ!徹底的にやりたいトコロだが、本日はここいらでトンズラさせ……て……?」何だ?ソンカパが突如言葉を詰まらせた。ソレは詰まる所、起こりえないコトが起こったというコトだ。皆さん、恐らくずっとソレを予想し、ソンカパとかいう話の長いクソ野郎にヘイトを募らせていたコトだろう!


「私の先祖が間接的に『夜』を作り出したとしてッ……、ソレが私に何の責任を負わせます?長尺の割に合わず、私の『人工知能』言及はコレでおしまいです」「なぜそンなに舌が回る?下手すりゃちぎれ跳んでるくらいなのにッ!」ソンカパは彼女に向きなおり、凝視する。そして気づく!


(あッ……青い光?ビリーヴンは7人で一人分だと……)「人間には、『2』があります」シャルロットがボロボロの顔をそびやかし、毅然として言う。「物的にも、精神的にもね。金と愛、努力と才能、そして『正義』と『狂気』……」ランドンの口角が少しずつ上がっていく。(どうやら彼女が一番純粋で、おしゃべりだ。スバラシイコトだぜェ)


「どちらか一方だけでは立ち行かない。どちらも否定するコトは叶わないファクター」ソンカパは困惑の表情を崩せない。ほのかに青いオーラを放つ彼女を虚ろに見やる。「境界に立つ者、BORDER。戒めのための名前か。悔しいが、確かに正義には狂気が付きまとうだろう」


「ソコで私たちを正義の組織たらしめる者は何か?『信じる』コトだッッッ!!!自らが正義の側にあり続けると!綺麗事と笑うか?だが人々は皆『信じて』いる。自らが存在する位置!だからこそ争いが起こるコトもある、ソレは信念を力に変え、貫き通すことだからだッッ!!」


「私たちは信じているッ!そして信頼しているッ!『正義』に身を置くBORDERを!ソコに寄って立つ私たちをッッ!!ソンカパ、キサマ如き何の価値もない人間がッッ、私たちの高潔な精神に、ケチを付けられると思うなッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」


「客観的に見ても、悪いのはオマエ!正しいのは私たちだろうがッッッ!」「キサマッッ!何の論理があって立っているンだッッ!!」ソンカパは焦りを隠せない。「この青い力については察した」ランドンが彼女の言葉にうなずく。「たゆまぬ意思に感謝しッ!キサマをココから決して逃がさんッッ!必ず!殺してやるッッ!」決意の啖呵が切られた!


つづく




































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