SECTION4-3
皆さんご存じだろうか。ネーピードーは旧領時代、ミャンマーという国の首都だったらしい。今この地に残っているのは地名だけだ。仏教、葉巻、モヒンガー、ヤシの酒……、民族意識を持つ人々が潤沢に存在していたころの「らしさ」は、果たして残っているのだろうか。
今この場、ネーピードー三界庭園ショッピングセンター入り口前庭園を彩るは、東西南北一つずつのウォータースタチューの美男子、大理石の巨大隔壁の内側にずらりと並ぶヤシの木型の街灯(実の部分が光るのだ)、虹の如き色彩に並べられた花々。アッ!今ソレラの脇を金色の一閃が通過したッ!そうであった!
ゾアゾアゾアゾアゾアゾアゾアゾアゾアゾアッッッッッッッッッ!!!!!!!!!
「ヒュウゥーッ!景気づけだぜェーッッッッッッッッッ!!!」電撃が球状を取って直進し、次々にインゴット軌跡を描くッ!いかなる仕組みか大理石隔壁に激突する前に次々と消失している!イショヒョエイは小手調べとして放たれる雷球を身軽な動作でかわし前傾姿勢でエメラルワに接近だッ!
(フム、避けるのか。ブラフか……?多分否だな。アタシの雷球に耐えられる絶縁耐力の装備がコソコソした組織の予算に収まるワケがねェ)そう、イショヒョエイのコートはあくまで一縷の望みである。エメラルワの一発目でソレを見抜き、回避に転じただけ彼は聡明だと言えるだろう。
他の隊員たちはノウメンの平信者と一対一、拮抗している。(フム、一応打ち合えるワケか。確かに並みの武装イリーガルとはちげェ)「いよッ!」「ッッッッッッッッッ!」シャゴォンッ!頭突き対決が如く、直進するイショヒョエイに雷球が正面より迫る!勢いそのまま、横に飛ぶッ!……間に合ったッ!急ブレーキをかけ、エメラルワをにらみつける。「……」「だが、わざわざ予告してまで挑みにくるほどのタマじゃねェな」エメラルワは不思議そうに言った。
拮抗しているものの、恐らく時間と共にコチラが圧していくだろう。エメラルワは考える。(もしかしてアタシらを引き寄せて本命が『IRON BEEK』に何かするとかか?イヤ、でもコイツ、『顔』がなァ……)「顔」?そう、エメラルワの動体視力は捉えていた、走り回るイショヒョエイの顔に張り付いている尋常でない「憎悪」の表情を!
眉間にしわを寄せ、目尻をとがらせて一分のブレもなくエメラルワをにらみつけるその眼差しはどの瞬間を切り取っても全くそうであった。まるで憤怒が表情のデフォルトにされてしまったかのようだ。いや、恐らくパレットにも憤怒しかないであろう。(頭部だけ超精巧な美術品ですげかえたみてーな……)エメラルワは彼らが武装「宗教」であるコトを改めて思い出し、その黒水の深さに少し畏怖(ビビ)ッた。
「どうしたエメラルワァッッッッッッッッッ!!!!!」雷球の射出が一瞬、止まった!そのスキを逃すイショヒョエイではない、瞬き一つにも満たぬ間に距離を詰める。「フンッッッッ!!」飛び掛かる勢いのまま胸部を狙ったストレート!が!パシィッ!「ッッッッッッッッッ!!」「どうした言いたいのはアタシの方だ」エメラルワは左右の手のひらを重ね、ストレートを造作もなく受け止めた。
「とりあえず聞きたいのは、まずどうしてソレッぽっちの実力でアタシらにケンカ吹っ掛けたのかってコト」エメラルワが握力でイショヒョエイの拳を拘束したまま質問する。「聖戦の火ぶたを切ったのは教祖の意思よ。我らには行動があるのみ。理由でもなく、結果でもなくな」「フム、いかれ宗教の海水はアタシにゃなじまねェな。どうせ納得できないだろうとは思ってたが……」
エメラルワはわざとらしくため息をつき、二つ目の質問に移った。「ではもう一つ、その顔はなんだ?」「なんだとは?」「そンな筋肉強張らせっぱなしで疲れねェの?オマエはなんでずっとそンなブチギレ面をしてンのかって聞いてンだよ」今夜初対面だとういうのに、イショヒョエイが浮かべるソレは先祖代々、百年近い因縁すら錯覚させる。
「アナタが憎いからだ」その面から読み取れるアンサーとしては至極順当な、ソレでいて不可思議な即答であった。「オマエはBORDERを憎むか?」「そうだ」「アタシとオマエは初対面だよなァ」「そうだ」「BORDERの何が憎い?」「全てだ」「何故だ?」「教祖が、憎めとおっしゃったからだ……!」「……」(「ノウメン」か……。ノウってのが何なのかは知らねェが……、コイツの顔にビッチリ貼りついてやがる……)問答の間も、彼がかぶる憎悪の面は一切崩れない。声の調子に関係なく。
「クダラン問答をッ!メス豚が悠長に構えおってッッッッ!!」「オット」ズヴァッ!ありったけの力を腕にこめ、引き抜く!エメラルワから一定の距離をとり、自らの仮面に気づかぬまま戦士は構えをとった。「オッ、ソレも尽きぬ闘志とかじゃねェんだろうなァ……、プログラミングされたみてェに」「?、挑発したいのだったら私に通じる言語で行うことだなッ!」
「ちょいと実験してみるか、絶望で自我が戻ってくるかな……」エメラルワは構えを取るが、ソレは雷球発射時の正拳突きの構えではない。腰を落とし、握りこんだ拳は少しずつ開いて……、猫の手?否、指を丸めるのではなく、前方に突き出し、わずかに内側に曲げた!コレは・・・虎形拳か?
「来いよォ……」エメラルワのどこかおちゃらけた雰囲気が完全に鳴りを潜め、むきだしになった殺意が何を隔てるコトもなくイショヒョエイに突き刺さる。「フン、オーパーツなしで十分と踏んだか、舐めおって……」だが彼はソレを恐れるどころか気づいてもいない様子だ……!
イショヒョエイの近接格闘は、構えから推測するにボクシングに似たスタイルのようだ。両腕をアゴを守るように組み小刻みなジャンプと共に間合いを計る。先に仕掛けたのは……エメラルワだ!虎形拳が如き鍵爪ハンドが顔面に襲い掛かる!イショヒョエイ、コレを鼻先で回避する見事なスウェー!
が!バチォッ!鼻先で止まった手のひらが極めてスムーズな動作で指パッチンを行った!音がデカい!一瞬、ほんの一瞬の動揺がアゴを狙った右拳を鈍らせた!その瞬間!ガジュェッ!「ヌグッ!?」コート越しの左脇腹にエメラルワの五本の爪がワッシリと食い込んでいる!そうか……、この手の形、ネコ科の切り裂く爪ではなく……。
グワジュッ!!「グギャーッッッッッ!!!」何が起こったのか!?エメラルワは食い込ませた爪を……、さらに食い込ませッ!そのまま腕を時計回りに回転させたのだ!脇腹の肉が円形にえぐられる!そう!トラではなく……、ダルマザメ!ねじり切るが彼女の技ッ!
「フム……、痛みとか、悲鳴とか、そういうのは感じンのな。動揺もしてるらしい」コートの裏からえぐられた肉塊がボトリと落ちた。ソレと同時に、エメラルワの固めた拳が傷跡に叩き込まれる!「ウグォォォッッ!!!」たまらず傷を押さえて後退!
「ハハッどうよ?まず徒手がある。ソレからオーパーツだ。ウチには、リッチな技術に溺れてオンリーそれだけで突っ走るカワイコチャンは期待できねェのよ」「……象形拳の一種かッ……、こざかしいッ!」しかし、痛みをもってしても、どうしたって勝てない現実をもってしても、凪ぐどころかますます波立つ彼のヘイトのなんと不気味なコトか……!顔を上げたイショヒョエイのかぶる面はいよいよもって極まってきた様子だ。
「キサマッッッッッッッッッ!!!許さンぞッッッッッッッッッ!!この狂人がッッッッッ!!名目にかこつけて殺しを楽しむサイコメギツネめがッッッッッ!!!!」慟哭!「アー、その辺わざわざ語らないぜアタシゃあ。もすこしマジメな奴と当たってりゃァ説教もしてもらえたろうになァ……。アタシらの決意も知らず、自分の視野も知らず……、何も知らぬままオマエは死ぬ」
「まァ少し自分語りするなら、オマエラには『大好き』ッて気持ちが足りねェな。アタシは大好きだぜ。同僚、伴侶、息子、このアジアも、全て大好きだ。ソレがアタシに無限の力を与える。ヘイトを力に変えるオマエラには頭打ちか自滅しかねェ」エメラルワの目が据わった!終わらせる気だ……。
「ケジョォォォッッッッッ!!!!!」絶叫しながら飛び掛かるッ!「まァ、ソコまで極まってるトコ見せてくれたンなら」ゾアッ!「アッ?」突き出そうと後ろに引いた拳が、突如力を失い垂れ下がった。「もうイイや」何が……?(そうか)沸騰する意識の中、やけに冷静に鎌首をもたげたもう一つの意識で、イショヒョエイはソレを知覚した。
痛みはまだこない。ソレがやってくるまでの刹那に彼は理解した。自らの右腕の付け根近くから大胸筋にかけて、ポッカリ空いた円形を。マグマが如くソコから溶け流れるみずからの肉を。エメラルワの拳がバチバチと黄金の火花を散らしている。そしてその勢いが増し始めた。再びの雷球……!今度は頭部に狙いを定める!
鈍化する景色の中、彼は逃れるすべがないコトなどとっくにわかり切っていたが、ソレでも本能は教祖の役に立とうと脳回転潤滑油を必死に流した。空回り、空回り、空回り。何もアンサーは浮かばない。(教祖のために生きなくては……!生きてお役に立たねばッッ!!)その時!彼の虹色、いや油色の尊き献身が、無意識に一つの、極めて効果的な文言を放った!
「シャルロット!」
「ァ?」黄金が霧散した。同時に世界のスピードも等速に戻る。(よしッひとまず舞い戻ったッ)シャガッ!気づけば目の前にエメラルワがいた。イショヒョエイの首根っこ引っ掴まえ、無表情で彼に問う。「オマエの恋人かなんかか?同姓同名の?」「桃髪ショートヘアの、ヨーロッパ人……!」「……チッ。爪はがすのとか嫌いなンだよ。あまりに痛そうで」
カモッ。エメラルワは耳元通信機をオンにする。「エメラルワっす」『……(スンゴラッ!スパオンッ!)』『アーイどうしたの?』『……(ドマオンガッ!音が遠い)』(フム、三者三葉だが……)正光は戦闘中、コフラクジョウはいつもの性格の悪さ、一番気になるのはランドンだ。(アラートねェから機器が壊れたワケじゃねェ。この沈黙、遠くからの破壊音、もしや懇切丁寧に気絶してる?)
「とりあえずどーすか」『ワシはね……(ショガガガガガッ!!)……ガンバリ屋さんがいるよ』「ハァ……、正光、二言三言オネガイ」『一人は殺った。問題はない……ォ?』突如全員にピリリ!『エマ-ジェンシーアラート!?この音色はシャルロットだッ!!』「マジかよ!?」さすがに正光も焦っているように聞こえる。
「アタシが相手してるヤロウがシャルちゃんの名前出したのよ!シャルちゃん狙われてんのか!?ランドンも繋がんねェンだ!」『急ピッチで向かうッ!』『ワシも遊んでられんな……!』「いちおつけっぱにしとくな!」エメラルワは機器越しの喧噪に心を粟立たせながらイショヒョエイに向き直る。
「エー、アタシは拷問します。何を企んでいるのか言ってね。ただし手短にな。シャルちゃんのトコに直出向いた方が手っ取り早いだろーから」その時既にイショヒョエイは方向性を決めていた。「言わぬ」そして死ぬ。彼らを焦らせるコトには成功した。「どうしても?」「言わぬ」
イショヒョエイの左手小指の爪がはがされた。するどい痛み。「言わぬ」イショヒョエイの左手薬指の爪がはがされた。するどい痛み。「言わぬ」イショヒョエイの左手中指の爪がはがされた。するどい痛み。「言わぬ」イショヒョエイの左手人差し指の爪がはがされた。するどい痛み。「言わぬ」イショヒョエイの左手親指の爪がはがされた。するどい痛み。「言わぬ」
イショヒョエイの左腕が切り落とされた。「言わぬ」イショヒョエイの右足が付け根から切断された。「言わぬ」イショヒョエイの左足が付け根から切断された。「言わぬ」イショヒョエイの右腕が切り落とされた。「言わぬ」イショヒョエイの頭部が雷球で弾けた。イショヒョエイは死んだ。
「さて行くか」『オーパーツとおぼしき壁が張ってある!立ち入れん!』「ンだと!?やけに周到なッ!」『ザ・ラインと酷似した性質だが、あらゆる面から考えて、制限時間付きの簡素なモノだろう。もどかしいコトだが、その瞬間を待つ!モチロンできる限り破壊に努めながらなッ!』コンプリケイティド……。(チクショウッ!)
部下は皆、だんだんと圧している。既に決着が着いたトコロも見られる。(ヨシ、問題ねェな……)「アタシはいったん離れる!もし手に負えないのが出たら即連絡な!」「「「了解!」」」迅速なコミュニケーション!(ランドンもシャルちゃんも無事でいてくれよッ……)
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「今の聞いてた?というワケで、ワシャもう行くな」「フザケルンじゃないぞォッッッッッッッッッ!!!!!」ショガガガガガッ!貫き手型に固めた連打がコフラクジョウの胴に突き刺さる。かなりの切れ味の証拠にコフラクジョウのスーツが裂けている。もっとも、その先の金剛にも例えるべき美しい筋肉には傷一つつけられていないが。
「君が段を授かっているコトに異論はないが、ワシとは差がありすぎたな。さらにかみ合いも悪い。君が瞬発力を強化し、無数の連打を叩きこむ『おおげさなリフューザルのカマエ』なのに対してワシはオリハルコンが如く身体を固める『不動のカマエ』だ。手数での攻略には向かんよ。まァ、君が一撃にかけるカマエを行っていてもワシを貫くコトは叶わなかったろうがな」
コフラクジョウはしゃべり好きだ。しかしそのしゃべりを油断と取った者はことごとく散ってきた。調子に乗っているようで、その実用心深いジジイなのだ。「カマエ・マスターってのは難儀よなァ……。なぜならカマエで終わってしまっている。ポーズだけがあって、攻撃手段がない。そのため実践に組み込みたいのなら、もう一つ、格闘技を修める必要がある」「やかましいぞッッッッッッッッッ!!」
カマエ・マスター。2000年代より、各国の暴力組織やエージェントに秘密裏に伝わっていた格闘技であり、1992年に一人のマフィアのボスにより生み出されたと言われている。千以上あるという様々なカマエに、特定のリズムを刻むよう呼吸を合わせるコトで、身体機能を操作し、多様な戦闘上のアドバンテージを得るというモノで、一つのカマエを極めるのに十年以上かかるにも関わらず、実践には相当な練度が必要とされる極めて使い手の少ない技である。
「最後に全部吐き出しときたいンじゃよ。えェ続きを……。もう一つ修める必要がある。ワシは若いころコイツのロマンに憧れてなァ……。実践使用のため二十以上の格闘技を身に着けたモノじゃが……」その時、何かを確信してタッツェモは息をのんだ!対してコフラクジョウは息をほとんど吸わなかった!ソレが答えであった!
わざとらしく老兵の頬が膨らみ、口がすぼめられた。得も言われぬ異様にタッツェモがにらみつきを強めたその瞬間!ブォンガッシュッッッッッッッッッ!その一陣ッ!一瞬の沈黙、理解しようと心静かに努め、そしてタッツェモは叫んだ。「ヌゴォォォォォォオォオ!!見えん!」左目の箇所に激痛が走る!
スウゥー。ロングな余韻ののちコフラクジョウはしゃべりを再開する。「コイツと何十年、かつてのフィジカルは、もう残っておらんじゃろうなァ」オーパーツで強化された肺に大量の空気を圧縮して蓄え、吸う動作なく殺人的な量と勢いの吐息を放つ。コレを「不動のカマエ」と並行して操る姿。ソレを突破するビジョンなど相手には刹那も浮かばない。
空気が貫通した左目を押さえる間もなく、右目に同様の激痛が走る。「クォア゛サァァァァアァ゛ァ!!」絶叫して痛みを散らす!「ハァ、ハァ……、オマエの性根は……歪んでいるッ!筋密度のみ優れた脳粗しょう症の絶倫クソジジィめッ!!」「アー、ワシャ君のそういうトコロが早く見たかったよ」コフラクジョウはわずかにたたえていた笑みを消し去り、極めて冷淡な声色で言った。
「キミみたいな奴がワシャ一番嫌いなンだよね。8大武装宗教の幹部となって?罪なき人間を大勢かどわかして?我々に恥知らずにもケンカを売って?そのくせ道にマッスグな純粋求道者ぶりやがって。テメェのその態度が認められンのは土下座道だけだろうが。まずソレを極めるンだよ。テメェみたいなカスはな」
「クッ!キサマらだって同じような畜生どもだろうがッ!大陸政府公認とはいえ、所詮血と殺しにまみれた武装イリーガルだろうがッ!」彼もイショヒョエイと同じだ。教祖に憎悪の面を被らされたであろう意志薄弱の操り人形。だが彼への同情は憚られる。少なくともコフラクジョウにとってはそうだ。
「卵が先か鶏が先か?今みたいな言い訳ばかりの生命体が収まり切らなかったからワシらが出てきた。自分の意思を見るな、目の前の人を見ろ。そうすりゃオマエらがクズだとわかる。そしてその機会は永遠に来ない」ガシィッ!身長190センチを超える巨体が無慈悲に見下ろす。その剛腕が肩をつかむ。
「さらばだ」眼前のささやき。そして、ブワォッッッッッッッッッッッ!!!!!……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
パオンッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!
勢いよくタッツェモの頭部がはじけ、彼は死んだ。コフラクジョウはしばらく何の感情もなしに邪悪な脳みそがまき散らされる様を見つめた。そうして彼は真剣に顔を固めて見やる。「ワシャ移動するよッ!そっちゃどうだ?」彼は背後の戦況に振り向く。「ソァッ!」ちょうどニアラクが敵の心臓を踏みつぶし殺した!「大丈夫です!」彼のスーツと顔面に多少の傷。
(このタッツェモとかいうのも不遇よなァ……。相手にワシを選んだばかりに、下っ端よりも貢献できずに死んでいった……)「ウム、よく頑張った!ニアラク君!君師匠と似てるな!」「目立たない男だと」「派手にやってる裏で実直にこなす男だってコトだよ。いつの間にかワシの給料を抜いてるかもな!」
「増援が来てもまだ大丈夫です!気兼ねなく!」「アイヨ!」コフラクジョウはランドンとシャルロットのいる西エリアに向かい走り出した。(正光が破れていないオーパーツなンだったらワシなンぞに破れるワケないンじゃが……、とにかく中のヤツラが心配だッ!実力で劣るノウメン、一体何を狙っているのだ!?)
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ジャギオン!ジャギオン!カギュンカギュカギュンカギュ!!名刀「クラマテング」は決して刃こぼれしない。いかな仕組みかは誰も知るコトがない。オーパーツだからだ。しかし彼の出自やプライベートを一切知らずとも、長年のキャリアで構築された信頼関係が正光と彼の間にはあった。
正光は露骨に焦っている。その焦りが刀運びに微塵も影響しないにのは感嘆の一言であるが。(ザ・ライン、日本支部、陸上溺れ事件、……ネオウォーター……、まさか関係しているワケはあるまいが……。イヤ、そンなコトは関係ない!一刻も早くコレを破壊し、中の隊員を助ける!ソンカパとやらを殺す!)ジャギオン!ジャギオン!カギュンカギュカギュンカギュ!!
ジャギオン!ジャギオン!カギュンカギュカギュンカギュ!ジャギオン!ジャギオン!カギュンカギュカギュンカギュ!ジャギオン!ダッダッ、ジャギオン!カギュンカギュカギュンカギュ!ジャギオン!ダッダッダッ!ジャギオン!ダッダッダッ!カギュンカギュカギュンカギュ!ダッダッダッダッダ!
スンゴラッ!ジャンプ!そして空中からの叩きつけるような巨拳ッ!後方から飛んできたソレを正光は振り返ることもなくかわす!「私をバカにしているのかァ゛ッッッッッッッッッ!!!!!」巨体に見合う爆音の叫喚!「どうせついてくるンだからコッチを優先した方が良いだろうッ!」
ブォァンッ!大振りな横なぎ!丸太なみの太さが正光に迫る!正光!タイミングよく丸太を手のひらで叩き、体を横たえ勢いで回転しながら飛び越えた!共に刀も回転し、壁に無数に切りつける!カギュンカギュカギュンカギュ!だが一つの傷もつかない!
「何故オレに切りかからぬッッッッッ!!」憎悪のショルダータックル!回転し、横にそれて回避!「ギャゴッ!」巨人はそのまま壁に激突!正光は回転切りを壁に決める!だが一つの傷もつかない!「オマエがいる方がリズミカルに切りつけられて良いッ!モチロン離れようとすれば殺すッ!この壁が割れれば殺すッ!焦るンじゃないッ!」
「得てしがな!見てしがな!」
「チッ!」武装イリーガル麿だ!一帯にはびこる「やばさ」を器用に感じ取って皆避けていたというのに!とんだアホが入り込んできた!鋼鉄烏帽子を投擲!同時に巨人の拳が振り下ろされる!正光はムーンサルトで回避!ひねりの際に油断なく切りつける!「クソッダメだ!支部長はどうだ!?」『針の先ほども空かんッ!』
「FBI!」
「チッ!」武装イリーガル偽FBIだ!一帯にはびこる「やばさ」を器用に感じ取って皆避けていたというのに!とんだアホが入り込んできた!乱射!アギュンアギュンアギュン!鋼鉄烏帽子を投擲!同時に巨人の拳が振り下ろされる!正光は刀に猛烈な回転をかけながら投擲!本人は回避!バギャギャギャギャギャギャ!パシィッ!「クソッダメだ!エメラルワはどうだ!?」『全部散っちまうッ!』
三人がかりでも全くダメとは!このノウメン!実力では劣るくせに小癪にも焦らせていやがるッ!皆さんはご察しのコトだろう!この奇妙な騒動の裏に暗躍する人物を!アジアに迫る危機の足音をご存じのことだろう!現時点!今宵集結した人間で最もその野望に近い人間「ソンカパ」!一体無敵の檻の中で何をしている!?
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時間は少し遡る……。
「エイヤァッ!」シャルロットが威勢のいいシャウトと共に信者の一名に向かう!シャカコギンッ!彼女の右拳と相手のヒジ打ちがかち合うッ!その重み!(ヌゥッ!この前の奴などまるで話にもならんッ!コレが武装宗教!)相手のミドルキック!早い!が、かする程度に後方ステップ!相手の足が戻る前に右拳でアゴを狙う!
相手は後方に大きく飛び離れ回避!ウォータースタチューの向こうに身を隠す!(愚策!)シャルロットの右手から排出される爆弾!排出と同時投擲!最短距離で迫る!ドマオンガッ!爆風は最小限、視野を遮らない!(当たったか……?)油断なくシャルロットは構える!
シャオンッ!精神を研ぎ澄ます彼女に向かって爆風の中から影!(こンなモノには惑わされんッ!)靴だッ!も一度シャオンッ!(何度やっても同じコト!)またも靴!
そして間髪入れずに……、バォッッッッ!!!靴が飛び出して来た位置とはずれた場所から相手本体!「セイッ!」
高速のショルダータックルだ!左手に力を集中!突き出した相手のヒジと手のひらを合わせ、受ける!タックル到達と同時に下半身を狙って膝蹴りが飛ぶ!視界をそらしてそのスキを突くテクニックだ!だがシャルロット!空いた右手を滑り込ませキャッチ!「やるな!」力を込められ、「クッ!」離れられる!拮抗した勝負だ!
一方ランドンはソンカパへの道を阻む大量の兵を次々に片づける!ソンカパ用にオーパーツは秘匿だ。確認できるだけで7名がランドンに迫る!一旦動きを止め、包囲されるランドン!彼を囲む輪の内……、三人が動いた!二人が前方両側から攻める!迷いなき高速突進!「オッいい位置だぜ……」
二人も油断していない。視線をずらすためさらに横にばらけようとしたその瞬間!「遅いな!俺の足はオマエらが思うより長いンだぜッ!」体をわずかに傾け、右を軸足に左足を内から外へ!ゴウ!一陣吹き抜けるほどの勢いで内回し蹴りが飛ぶ!「アゾッ!」「ゴドッ!」両者のアゴにヒット!その隙に三人目が後方より迫る!
「アッ!」ランドンは素早く体をひねり今度は左を軸に右を相手の胸部へ!後ろ蹴り!「ハドッ!」後方に吹き飛ばす!四、五、六、七人目が取り囲みスクエアの頂点からそれぞれ迫る!中段蹴り!ランドン背をそらし回避!顔面へかかと落とし!さらにそらし回避!勢いでサマーソルトキック!「ギャゴッ!」
落下を狙って両端より拳!(安全着地!ありがてェぜ!)二人の拳を両手の平で止める!空中で両手を伸ばし静止!倒立状態から勢いよく元に戻り、つかんだ両拳を引っ張る!「ワワッ!」「ヒアドッ!」備える間もなく、ゴチンッ!顔面が正面衝突だ!「ア”ボッ゛!!」「デッ゛!!」手を離された二人は地面に倒れこむ!
再び後方!手刀が振り下ろされる!ランドン無言で背中に両手を回し受け止める!そのまま引っ張り、前に投げた!「ギョッ!」地面に叩きつける!からのかかと落とし!「ジーッ!」顔面陥没!死亡!「よし、一人一回ずつはダウンしたな。一匹死んじまったが……」
その様子をソンカパは横目に見る。(フム、足技をメインに据えた格闘スタイルか。さすがはベテラン。7人相手をものともしない活躍。アイツでコレなら予想通り……)「アーアーアー、やっぱりだ」「!?」ランドンは突如声を発したソンカパの方を見る。
「やっぱりダメか。こりゃ私以外は全滅だな」ソンカパが軽い調子で言った。「わかっていたのか?ソレが?」ランドンが問う。「ああ。だけれどもやはり、十五年近く育ててきた組織が振り出しに戻るってのは、悲しいコトだなァ」そしてシャルロットの方を指さす。「なァ、あの子が入ってどんくらいだ?」「……」
「アジアの移り変わりと我々8大武装宗教はともにあった。シャルロット、入隊して一年もたたぬ新人なのに対して、彼女と戦ってるアイツは4年近く暗殺術を学んできた。ソレでアレだ。BORDERとは素地が違うワケだ。敵うワケがないのだ」「名前を知っているのは何ら不思議ではないとして……、ならばオマエはなぜ?」
「理由はモチロン語らんが、実力に関しては心配ご無用だ」「ほう?」ランドンの目が冷酷に狭められる。すぐにでも飛び掛かりそうな勢いだ。「私はエメラルワとランドン、二人には問題なく勝つコトができると思っているよ?」「言うじゃねェか……」ランドンが構えを取る。
「おッ、お待ちください教祖ッ!あなた様……がッ……、わざわざ手を汚す必要……はッ、ございません!」倒れ伏していた一人が立ち上がると、憎悪の鎖で繋がれた信者たちは、呼応するように次々と起き上がる。「我々がッ……、必ずや……!セァッ!」殴りかかる!が!?
スカッ。「アレ?」ヨロ……。「ヌ?」(何だ……?うまく動け……)体が麻痺している。周りの同士も皆……、ランドンをまともに攻撃できない。(……コレは?)バタリ。全員が意識を失い、動かなくなった。「よしよし問題なしと。調べはついてるんだろうが、なるべく見せたくなかったンだがね」「殊勝な心掛けじゃないか。ククッ」ソンカパが手を口に添えて笑む。
彼が理由を語らずとも、皆さんはとっくにお察しだろう。今回もやはり腕組み足組み、愉悦と期待の笑みをたたえて、彼の実況席!「ココから本格始動だな!」「ええ、私も昂るのを押さえられませんな」愉快で邪悪な極悪二人組、ブロドマ・ビリーヴンとその側近!「コンキレィ、二番目に高い酒を持ってこいッ!」
210センチの巨体から生える六本腕をバタバタと忙しなく動かす様は形容するに「ガキ」だ。恐らく本人に言っても否定しないだろう。大画面隔てて展開される大戦を心底楽しそうに見つめている。とても、「ノウメン」を、アジア8大武装宗教の一角を動かせるカリスマがあるようには見えない。だがその肢体の隅々は、あまりに底知れない無邪気で潤っていた。
さて、ランドンとソンカパはついに開戦だ。と、いうトコロでいきなりソンカパが相手から視線を外した。ランドンは一升瓶を傾けるのを止め、その視点をなぞる。その先にいたのは、信者と激しい打ち合いを展開するシャルロットだ。「君が行ってやれば瞬殺だろうに」「エメラルワはそういう甘いコトしちまうかもしれんがな。勝てるモノを手伝っちゃ、伸びしろを奪っちゃイカンわな」
ランドンは顎鬚をいじり、サングラスをかけなおす。ウーン、男前だ。しかし相変わらずソンカパの焦点はソコに向かない。不意に教祖は口を開いた。「君たちの長い歴史の中には、完全に解決できなかった事案もそれなりに存在する」そしてコートのポケットから、一つのディスクを取り出した。
間に口をはさんでも相手の言は進むだろう。ならばこの場は黙って聞こう。「例えば、40年前、君たちの世代の少し前……、旧タイ領バンコクにあるハイスクールで起こった事件……。ある日の『夜』、発狂した一人の男子生徒が同じハイスクールの生徒で構成された武装イリーガルと共にクラスメイト一人ひとりの家に訪問し、殺して回った事件……」ククッとソンカパは軽く笑い、ヒラヒラと手に持ったディスクを振った。
「あの事件の犯人は死んだはず……、そう思ったか?確かにそうだ。完全な狂気に落ちた彼は未成年躊躇に反してBORDERに襲い掛かり、夜明けまでの尋問にうんともすんとも言わず日の出の10分前、死亡した。結局動機はわからずじまいだったワケだ。あァ、わざわざあいづちを打つ必要はない。つまりその動機というのが私だ」彼に限らず、「夜」のヒエラルキーの上層にいるものは自分語りが好きだ。語れるほどの自己を持たないものなど、「夜」では通用しないからである。
「彼にささやいたんだ。クラスメイト一人ひとりのパーソナルデータを基に、あるかなしかもわからぬ視線、ささやき、足音でさえも全て私が解釈して、少しずつ彼に埋め込んだ。同胞たちが君のコトを悪く思っているよ。アイツはこんなコトを言っていた。あのグループがコッチをみて嘲笑したのわかったか?くどすぎないようにちゃんとさりげなくね」シャルロットが打ち付けあったヒジ越しに左拳!信者顔を傾け避ける!
「そしたら彼はその事実無根と現実の区別がね、段々つかなくなっていったワケだよ。最終的に全員に対する憎悪を無事叩き込み、彼を凶行に走らせた。その時から『夜』で食ってこうとは決めててね、力には自信がなかったから、別の能力を試したんだ。そして今日まで通ずる教訓を得た。そう、『差別は、憎悪は、作れる』とね」シャルロットの右拳!さばききれず信者の頬にヒット!
「今回は、『あの子』を差別するよ。理由は言わない。クヒヒヒヒヒ、さて、語り終わった。気持ちいいなァ。こンな良い月の夜に、こンな大儀を預かり、こンな特上の相手と拳を交える!」ソンカパがコートに手をかける。バリイッ!掴んだ箇所の布が裂ける、そして……。
バサッ!
脱ぎ捨てた!現れ出たのはパンプアップにパンプアップを重ねた、宮殿と呼ぶにふさわしき美しい筋肉だ!ソンカパが両手をサイドに広げ、構える!「始めようか!」ランドンも自然体の構えを取る。「クハハッ!とことんエゴイスティックなヤロウめ……!」
トラース・キックが信者を吹き飛ばす!再び彼女は爆弾を取り出し、信者に向かって投げた!「フンッ!」一度見切ったものに油断するな!「甘いぞッ!」シャルロットが吠える!「何ッ!」爆弾はカーブを描き信者を通過!そしてフリスビーのように戻ってくる!男の視線がソチラに誘導され、ウォータースタチューがラオコーンを模し、シャルロットの突進掌底が飛んだ!「ちぇいッ!」
「ザオー!」吹き飛ばされる信者!背中から……、ドマオンガッッ!!爆弾に激突!全身爆砕!死亡!そして四肢の一つが地面に落ちる。ビチャッ。同時に、ソンカパとランドン、向かい合う二人が動いたッ!8大武装宗教教祖とBORDERのベテラン、大いなる存在感同士がぶつかりあうッ!
つづく
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