SECTION4-2

 壁の上を走る鳩避けが窮屈そうにうめいた。理由は単純である。彼らが乗るアーチが、まるで配慮のない無秩序な形をとっているからだ。丸み、角張り、先端尖り、動物を象ったものまでもが何の規則もなく次々にアナーキー稜線を形作るソレは人工知能発達時代の栄華の名残。チェスの駒に例える方も多いであろう。


 立ち止まらないで!観光名所ではない。美術的価値を持つ代物ではない。アナーキーを生きる彼らにとっちゃ、こんなものは日常風景なのだ。ほら、次はあそこを見て!見えるだろう。列車的ガタンゴトン音声もどこか上品に、かさばるパンタグラフも携えず、貴族的を装ってやってきた9両の車両が。


 だが皆さん、ギャップがあった。ノブレスオブリージュがどうのとか言っているお嬢様学校の生徒会長が、ピンクのモヒカンを全身に生やして登校してくるようなギャップ、そう、つまり見てくれである。しゃなりしゃなり、近づくごとにその雰囲気はロックスター、一体何色入りの絵の具を使った?補色だの何だのをまるで知らないサイケデリック配色、壁面を覆いつくす均整の取れた落書きと色の地獄。


 停止、ガコンプシュー。ドアが開いたコトを知らせるためだけにその雄叫びは上がる。私はソレを漢らしいと思う。そしてその猛々しき列車に乗り込む一団、乗客の迷惑にならぬようドアを分けて搭乗する黒スーツどもこそ、我らがBORDERアジア南部支部皆々様である。彼らは何も遠足に行こうというのではない。事件は現場で起こるというコトなのだ。


 「ノウメン」の実質的な宣戦布告から時をまたいで、今日が予告のライブの日である。メイン支部(シャルロット達が出勤してるトコロ)の精鋭と、戦場に近いサブ支部(メインよりも小規模、自宅の都合などでメイン支部が遠い隊員が出勤する)のメンバーが車内で一際存在感を放つ。


 車内は外側とは打って変わって清潔な様子だ。並の武装イリーガルでは車壁と強化テレビ水晶の窓を破ることは到底できないし、並以上の組織はそもそもそンな小さいコトはしないからだ。その分外側には恨みつらみが叩きつけられているが。今朝洗い流したであろう窓の汚れは、若干日本語の輪郭を残していた。(チクショウ)


 通勤ラッシュの時間帯は過ぎ、もともと少ない人口と相まって車内には随分余裕がある。高い天井から下がるつり革をつかむ手はまばらで、人工木製の荷物置き兼座席に胡坐をかいて座っているモノも、エメラルワを除いてはほとんどだ。「家族といるときゃ、ちと遠慮しちまうモンだからよォ……」エメラルワが高所からの景色に顔をほころばせながら言う。


 彼女の真下でつり革をつかむシャルロットは美しい立ち姿勢で、列車の揺れにも微動だにしない。隣の正光は出勤途中のサラリーマンと見まがうほどのくたびれ中年の感じ、だがやはり姿勢がいい。「……」彼は列車内で口を開かないタイプだ。「同じブロックになると思うから、ヨロシクネ」「よろしくお願いします」彼の隣ではシャルロットとランドンが交友を深めている。


(「ノウメンについてわかっているコト、どンな小さなコトでもいい。吐けばその瞬間首、吐くまでは指を一本ずつ、10秒ごとに最大限苦痛を与えるよう切る」「オレのいとこの腕はふてェぞッ!」「10ッ!」スパオンッ!右手親指!「アピャァァオオーーーッッ!!言いますッ!」)


 ここまでの間、「ノウメン」について、夜間物理的聞き込みでわかったコトはほンの少しであった。武闘派として名をはせているわけではないコト、確認されているメンバーが全員何らかに対する強い差別意識を持つコト。とはいえBORDERの追跡を今日日まで振り切ってきたのだから、確かな実力を持った組織だというコトは間違いあるまい。


 一方、そンな組織が何故急に宣戦布告なぞ行い、首を狩られに来たのか。(裏で動く何者かがいるのでは)正光は勘ぐっていた。横からの視線に気づいて見やると、年のころ10にも満たないであろう男の子が正光に向かって手を振った。正光も微笑をたたえて振り返した。


「まもなくネーピードー三界庭園ショッピングセンターです」「着いたな」

20分ほど列車に揺られ、間もなく到着のアナウンス。ハインハインハインハイン、ガコンガコーンプシューッ。停車。黒スーツが次々降車だ。「はぐれるなよォーッ」エメラルワが後続に声をかけ誘導する。アジア南部の頼れる姉貴分だ。


 先頭のエメラルワに続いて、蟻の行列が如く隊員たちが行く。広い駅構内は所々崩れ、用途不明のオブジェクトが散在し、もともと複雑な構内を更に入り組ませている。単独で初見攻略をはかるなら一時間以上は覚悟しなければならない。家族でよく来るというエメラルワの歩調にはまるで迷いがなく、拍子抜けするほどアッサリ改札口にたどり着いた。ベボーン。「ア」エメラルワはチャージが必要であった。


――――――――――――――――――――


 ネーピードー三界庭園ショッピングセンター!地に雄大にかまえ、天空に何を象徴するでもなくそびえ、氷山が如く地下に根を張るこの商業施設こそ、血肉のアブクが空気を畏怖(ビビ)らす戦場だ。地上に三角、地下に逆三角、合わせて八面体を為すココでそろわないモノは無く、体験できない娯楽もない。そう言われているほどである。


 荘厳にそびえるソレの天辺近くにそのライブスペースは存在する。ソコをゴールに据えるダンジョンクライマー武装イリーガルの祭典、ソレが今日である。買い物客の中に潜むギラギラした眼光を隠さぬ攻略班が、何かを感じ取り顔を上げた。大気が渦巻き黄金とペンタブラックに分かれた。「彼ら」が入場したのだ。


――――――――――――――――――――


第3階層フードーコートエリア


「こいつよォ、マジでどこ行ってもハンバーグなのよッ」エメラルワが正光の豪快な食べっぷりを横目に見ながら言った。「最初は何か日本の思い出とかそういうのなンかと思ってたんだけど、日本発祥のスシチェーン皆で行った時によォ、コイツマジ何の魚も取らんのよ。ハンバーグと、卵焼き」「オレはオレに取ってウマイモンを食うだけだ」「別におちょくってねェッて」二人の隊員としての付き合いは長く、軽口は軽い。


「ほぅーん」シャルロットは口内のオムレツを咀嚼しながら、二人のほほえましいやり取りとオムレツの程よい甘みにダブル鼓だ。当たりハズレの大きい旧フランス領のオムレツ事情をアジアにも当てはめる必要は無さそうだ。シュク、ハクン、プリャツ、モグモグ、クラトロン、ゴク。彼女の好みに合うとろけ具合だ。「そういやシャルちゃんってイイ名前してるよな」エメラルワが方向転換した。シャルロットは慌ててオムレツを飲み込んだ。


「そうですね、旧領規格の珍しい名前ですし、両親にもらった誇らしい名ですから」彼女は胸を張ると、正光とエメラルワは頷いた。「イイよなァ、そういう伝統大事にする場所。アタシも世界規格なんかじゃなくて、旧領タイ人っぽい名前つけてもらいたかったぜェ……」「名前だけタイ人ぽくってもなァ」「何だとッハッハァ!」


「……隣いいかね?」アイン?三人が声の方向を振り向く。シャルロットはスプーンが頭部の無意識旋回についていかず口端を引っ張ったため慌てて引き出した。「ファフッ」声の主、コフラクジョウはわずかに噴き出し、「失礼」咳払いと共に席に着いた。カロカロカロ、と彼は右手の入れ物を三振りし、転がり出たミントタブレットを口に含んだ。


「何すか?三人でおさまりが良かったッつーのに」エメラルワが口をとがらせ、冗談交じりの口調でコフラクジョウを諭した。「ゴメンよォ。柔和な雰囲気の中で切り出した方がいいかと思ってさァ……」ピタリ。途端正光のナイフ&フォークが停止した。「そろそろ催促してくるだろーとは思ってましたが……」


 正光は気だるげに目をそばめた。「確かにオレの中にわだかまりはもう殆ど無いと言っていいですが……」「じゃァ支部長変わってくれよォ~ッ。支部長会議とかさァ、配置重点地域決めたりさァ、筆頭殺害候補団体まとめたりさァ、老体には応えるのよ、小さな文字も見えない」「妖怪が何か言ってやがるぜ」エメラルワがシャルに耳打ちした。


「マジ再来期くらいからで良いからさァ。正直言うとさァ、あんまり正光、君が最強なモンだから、オレ傀儡支部長なんじゃねーかッて武装イリーガルに思われてンの!そンでソレをダシに愉悦顔で煽ってくるワケ!もうむかつくのなんのッたらありゃしないのよォ!ソレに他の支部長もキミにまた会いたいって言ってるぜェ!」


「正直また支部長張りたい気持ちもあるンですが……」正光は知っている。軽口の裏に隠れたコフラクジョウの、アジア南部支部の気遣いを。ソレに応えたいとはいつも思うものの、あと一歩のトコロでストップをかける青髪は昼夜構わず彼を身勝手にさいなまんとする。かつて極東の地で戦った仲間は必ずアジア南部に似通って背を押してくれるだろうに。


「……まァ、検討しておきます」条件反射的にコフラクジョウのフェイスが輝く。正光は感じ取った!八割、過去と手をつなぎ、同時に振り切る手助け!二割、マジ支部長めんどくさくてやめたい50代!正光はわずかに開口した。コレは驚いたトキの彼の無意識仕草である。


「クハッハハハハ!すごいテーブルだなありゃァ」ソクッとニアラクが頷いた。「支部長コフラクジョウ、実力最強のマサミツ・ツブラヤ、ベテランの実力者エメラルワに、期待の新人シャルロットだッ!」「一画面におさまってるとなりゃァ、マニアが垂涎で家の三つ四つ積みますよ」「クハッハハハハ!資金源な!」ランドンがジョッキを傾けて酒をあおった。当然、微塵の酔いもない。


 モク、モク、モク。シャルロットと正光は咀嚼を再開した。コフラクジョウとエメラルワは世間話を始める。ランドンとニアラクはその様子を眺めながら、同じように雑談に勤しんだ。他テーブルも同様に、これから狂乱の花が咲くことになるとは思えぬ調子で各々の個性が出た昼メシを楽しんでいた。


――――――――――――――――――――


「いよォーし、皆トイレとか大丈夫かな?」校外学習中の学生が如く3階広場に隊員たちがたむろしている。午後4時、「夜」突入2時間前。ついに彼らが本格的に動き始めた!「既にメールで通達しとりますが、改めて配備の確認をしたいと思います」コフラクジョウは担任の雰囲気ではない。今夜8大武装宗教が一角を殺せるかもしれないとの期待を抑えきれていないのだ。


「えェー、東西南北の入退場門、そして内部にそれぞれ均等になるよう一旦配備します。えェー、わざわざ襲撃を予告したというコトは、つまりイタズラでない限り、『我々BORDERとドンパチしたい』という明確な意思表示と言えます。よって配備に合わせるよう向こうが現れてくれると思いますが、万が一30分前までに相対できなかった場合、事前告知した隊員は内部の指定位置にお願いします」


「モチロンノウメン以外の武装イリーガルにも注意してください、ハイ、じゃ配置ついてお願いしあーす」支部長の一声で黒塊は散りじりになり、紅い闘気をばらまきながらそれぞれの持ち場へ向かう。「ウィー、じゃーシャルちゃん頑張れよォー」「うん、何かあればすぐ連絡しろ」「アイ、任せてくださいッ!」ベテラン二人からの激励、シャルロットは今宵自分が一歩先に行くことを実感しながら受け取った。ソレは更なる夜闇への恐れ、ソレは自らに課された責任、わずかな高揚。


「クハッハハハハ。もしもの時はオレがついてる。気負いすぎンなよ」「アイ。頼りにさしてもらいます」シャルロットが配置される場所のベテラン枠はランドンである。43歳、目立った実績はないが20年近く「夜」に鍛えられてきた確かな実力者だ。その背中は雄大な貫禄の大地にして、悪を髄まで焦がす黒の燎原。


 彼女の右腕が内なる闘志にふるるとわなないた。必ず殺す。そしてアジアに金色の朝日を!ガンバレ、シャルロット、ガンバレ!入隊しばらく、若者よ!更なる高次へ桃色の花を!私も応援しているぞッ!頼れる仲間たちとともにッ、今こそ瘴気を増した月光の戦場へ!


――――――――――――――――――――


「緊張しているかい?」ランドンがシャルロットに聞いた。「モチロンです。先ほどから無意識的深呼吸が止まらないところです」「クハッハハハハ!そりゃいいこった!体が深層レベルでリラックスしようとしてんだ!」「そういうモノでしょうか」シャルロットは拳を何度も開閉し、体を振るう。


「ホントに来ますかねェ、ノウメンとやら」「来ない方がいいなンて言えないさ。迎撃のために我々がココにいるワケだから」「そうですよね……」シャルロットは目をつむり、何度目かの深呼吸、今度は意識してのモノ、つまり覚悟を決めるスイッチだ!ほほを叩き、前を見据え、さァ深層に立ち向かえ、シャルロットッ!


「シャルちゃんさァ、隊員としてスゴク純粋で俺、いいと思うぜ。そういうスイッチの切り替えとかね」「ありがとうございます」「新技のお膳立てとかいるかい?」「どうしてもの時は、お願いします」そう!シャルロットが大一番のために携えてきた新技もあるのだ。全員が気合十分で待つ。


 10秒、1分、10分・・・。否応なしに刻まれる時間は、空の色という実感を伴って鋭利な狂人の唇たる月を向かえるお膳立てを進める。そして30分、確かに空気が張り詰めた!わずかに笑む者、拳を鳴らす者、長い息を吐く者、隊員たちの受け取り方は様々であった。シャルロットはうつむきがちになっていた視線をハッと上げ、そして悟った。






ザッザッザッ…………






 門からのぞく街の景色、その中に少しずつ、続々と薄闇を切り取り白衣が混じり始めた。東西南北、余すところなく行進が行われている。来た、来たッ、本当に来やがったッ!(コイツラがッ)そうッ、アジア8大武装宗教、その一角!仮面差別付与組織ッ!名はッ!ノウメン!


 各方向の白衣は完全集結した模様。果たしてどんな幾何学文様を描いているかは知らねども、極めて正確な隊列で歩を止めた。ランドンが一歩進み出ると、ノウメン側からも一人、明らかに他と違う雰囲気をまとった白ローブの男が進み出た。「お手数ですが、名乗っていただけますか」「ええ、アジア8大武装宗教『ノウメン』と申します。私は教祖ソンカパ」おお、自らその名を……間違いない。


(教祖だと?よりにもよって、なぜ西門を選んだのだ?わざわざ宣戦布告しておいて、トップが正光やコフラクジョウを避けたのか?何故?相対的に弱い箇所から潰していこうと?いやそンなコトをしても結局あいつらにいずれ当たる。どうにも腑に落ちん……)ランドンは高速で考えを回しながらも、ベテランとしての仕事を着実にこなす。


 ランドンは耳元の機器を操作し、素早く各方向のリーダーとのヴォイスチャットにつないだ。「西、確認取れました」『東もオーケーっすよォ』『北も来たッてね!』『南も取れました』「あと、教祖を名乗る男が西に」『ンだとォ?正光ンとこじゃねェの?』『オレのトコは幹部を名乗るやつ二人。多分他は一人だろォから戦力は傾けてきてるンだが……』『何にせよ頑張ってくれたまえッ!』


(さて、『夜』開始まで残り45分……、大体計画通りの頃合いだ)開戦までのその瞬間、ソレはどんな僅かな火花すら無常の因縁と化す神経摩耗空間!たった45分、されど45分、双方この時間、まさかずっとにらみ合って消費するつもりか!?いや、よく見てみようッ!


「じゃァとりあえず、何人か誘導手伝いお願いできますか」「ええモチロンです。……オイ、事前告知の数名、行きなさい」「「「わかります!」」」ノウメン側から数名の人員が進み出、隊員の列を割って施設入口前に進んでいった。オイ、いいのかBORDER!?いや、よく見てみようッ!


 傾斜緩やかなピラミッド型の建物、側面にはグルグルと避難用スロープ的広めの通路がかけられている。通路の各点から、駅直結の橋が伸びており、今そこには無数の人影!「走らないようお願いしまーす」「絶対間にあいますンで焦らずーッ」ぞろぞろと施設から這い出して来るお客さんを内部担当の隊員の内数名が誘導しているのだ。


 皆落ち着いている。「夜」になるまでは絶対に安全だからである。そして冷静なるざわつきの人海にノウメンのメンバーが合流だ。「スイマセン、向こうのおばあちゃん、お願いできますか」隊員がノウメンに言う。「了解しました」そう、先ほども言ったが「夜」までは絶対安全……、争うコトはできない!数十分後には殺しあう彼らの奇妙な助け合い!




「さて、見た目じゃわかンねェな。どンなモンだァ?オマエ」さて、現場は、アツイですよ……。先ほどエメラルワに向かってイショヒョエイと名乗ったその男は何も言わない。(フム、どーせ絶縁体だら何だらの電撃対策は講じてあるンだろーが……)なるほど、先ほどから目につくイショヒョエイの白衣のテカリはそういうアレか。が、果たしてその程度でベテランを下せるかッ!?


「ンンーッ。久しぶりの大仕事だが……」東門。エメラルワは勇み立ってしょうがないという感じだ。乾いた空気に向かって何度も正拳突きを繰り出す。「てめェら、ギャップがある奴らだとイイなァ。仕事だけどもよォ、真っ平な面の戦闘機械みてェなのだったらたぎらねェもンなァ」そうだね。しかし昨日の集会を見るに、彼らは演技派仮面であろう、心配せずに拳を振るうんだッ!




 カロカロカロ、と北門のコフラクジョウは右手の入れ物を三振りし、転がり出たミントタブレットを口に含んだ。「潔癖すぎやしないですか?そンなしなくても支部長もともと臭いとかないタイプっすよ」「自分じゃわかンねェから気になるのよ」水色モヒカンの部下が言うと、コフラクジョウは自らの手のひらにハァと息を吐き、ハネッ返りを吸った。多分大丈夫だ。


「あ、そうだ、君は……」「オレはタッツェモと申します。アナタと同じ『カマエ・マスター』有段者だ」「ほう……、ソレを知って……」コフラクジョウは何だか嬉しそう。ソレは悪意と求道者的エッセンスを恥知らずにも混ぜ合わせてきた相手に対する嘲笑と挑発だッ!




 さて、南門はと……オ!?少ない!配備があまりに少ないぞッ!?だが人員を見て納得。そう、円谷正光、戦闘力で言えばアジア南部支部最強の男である。一応控えている数名の部下も、相手の力の程が正光という器に収まり次第、すぐに別門の援護に向かう手筈である。読者の皆さんにはそこまで言われる程の実力をお見せできてはいないが、今回の大仕事、こうご期待ッ!


「……」「「……」」明らかに武闘派であろうとういう見た目をした幹部がなんと二人、正光と向かい合っている。互いに仕事上の確認以外は口を開かないタイプであり、もののふどもが醸し出す荒涼なる殺人空間を静かに感じている。ワビサビの中紅い花を咲かせるのは果たしてどちらかッ!




 シャルロットは一体何事か、教祖ソンカパと相対するコトになってしまった。(周りの雑魚を散らして……、ソレも簡単にはいかないかも知れないが……、ソンカパとやらはランドンさんに任せましょう)言葉を交わさずとも彼女はランドンと顔を合わせ、その思考が同じであるコトを確信した。


「……」教祖ソンカパはまるで蝋人形が如く微動だにせずBORDERを見据えている。不気味な男だ。豊かな口髭と炎のような盛り上がりを見せる白髪、2メートル近いであろう身長とローブの下に感じる確かな屈強さ。そこらのチンピラとはまるで「格」が違う。




 四方ソレゾレ一筋縄ではいかぬ曲者たちが集結、そして「夜」が始まろうとしている。




――――――――――――――――――――


「ハイ、深呼吸して。もうすぐ10カウントが始まるから、0になったらもう全部忘れろ」「でッでもまだ人格が変わらないンだッ……」「いやオマエ毎年そンな感じよ?」オット、そもそもこの舞台があるのは君たちのおかげだった。正直すっかり忘れていたよ。「IRON BEEK」のお二人だ。


 今回私はあまり彼らに視点を当てる気はないので、各々、ライブとか、行ってください。ともかく、私が今彼らに視点を向けているのは、先ほども会話に出ていたカウントダウンのためだ。ソレをもって「夜」が、戦が始まるのだ。あとついでに言えば、センネンオーコクは割と扇情的な服装をしている。男だけど。


「「「「10!」」」」いきなり来たッ!途端センネンオーコクの人格は残虐無慈悲音楽家のソレに豹変したッ!「よろしい行くぞッ!」「アイサーッ!」「「「「9!」」」」「「「「8!」」」」「「「「7!」」」」「「「「6!」」」」「「「「5!」」」」「「「「4!」」」」


「始まるぞォ……」エメラルワが腕時計を眺めてつぶやく。「「「「3!」」」」隊員と白衣があからさまに隠されていた殺意を抑えなくなる。「「「「2!」」」」ついにソンカパが焦点を確実に標的に定めた!「「「「1!」」」」夜を知らせるアラートが………………「「「「0ッ!」」」」パヨォーーーッ!鳴ったッ!






開戦ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!






 ゾアキョパキュウンッッ!!瞬間!樹上から容赦ない狙撃!ノウメンのゲリラ遠隔射撃!がッッッッッッッッッ!「しゃらァッッッッッッッッッ!」エメラルワが脊髄反射で固めた両こぶしから雷球を放つ!




ゾアライドウッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!




 サッカーボールほどの大きさの雷球が弾丸ごと樹上の狙撃手の体を抉りぬいたッッ!!脊髄を中心として直径約19センチの穴が狙撃手に空く!つまり二分割され地に落ちた!両手分、二名が極めて凄惨に死亡ッッッッッッッッッ!!!ノウメン一般信者がざわつく様子はない!思い知れ!BORDERは、やばいぞッッッッッッッッッ!!!


「今宵を彩るイカレヤロウどもを紹介するぜッ!」センネンオーコクのメンバー&楽器紹介!そう、この地に集ったイカレヤロウども、彼らに合わせて紹介するぜッッッッッッッッッ!!!


ズギュズギュズギューーーンッッッッッッッッッ!!!!!


 ゾアゾアゾアゾアゾアッッッッッッッッッ!!!東門ッ!泣く子はそのまま死ぬ地獄の雷球連打が信者どもを見舞うッ!エメラルワッ!そしてかいくぐり接近するノウメン幹部、イショヒョエイッ!


ズギュズギュズギューーーンッッッッッッッッッ!!!!!


「来なさいッ!」北門ッ!手招きするは我らがアジア南部支部支部長、コフラクジョウッ!対するタッツェモは中腰姿勢とクロスした腕の奇妙な構えッ!そして奇妙なリズムの呼吸ッ!コレが「カマエ・マスター」!?何らかのエネルギーをチャージしたのか、「キシャェェェィッッッッッッッッッ!!!!!」タッツェモがコフラクジョウに突進だッ!対する老兵は打ち付けられたように動かずッ!何が見られるッ!?この勝負ッッッッッッッッッ!


ズギュズギュズギューーーンッッッッッッッッッ!!!!!


 襲い掛かる山脈が如き筋肉宮殿が二つッッ!その白衣の袖は破られているッ!やせ型の正光、豪快な二人の飛び掛かりを最低限の動作でかわし、抜刀ッ!着地した一人の背中を切りつけたッ!「ギャブッ!」血ッ!吹き散らされるヒガンバナの先陣を切ったッ!


ズギュズギュズギューーーンッッッッッッッッッ!!!!!


「さて、始まった。コチラも行こうか」「「「ハイッ!」」」ランドンの声かけでシャルロット含む隊員たちが一斉に臨戦態勢だ。同時にソンカパたちも各々の構えを取り、にじり寄った。「さて、始めようかね……」ソンカパがついに口を開くッ!


「エイヤァッ!」シャルロットが威勢のいいシャウトと共に信者の一名に向かう!シャカコギンッ!彼女の右拳と相手のヒジ打ちがかち合うッ!(ヌゥッ!やはり練度が全く違うッ!)そう、彼らはアジアに名を轟かす恐るべきネームド武装宗教!末端だろうともその戦闘力は通常の武装イリーガルの比でないッ!


 ソンカパは悠然と後方に立ち動かない!口元にたたえた微笑の裏に何の狙いがあるのかッ!果たしてBORDERは彼らを皆殺しにできるのかッ!視点が多くなりスマナイッ!引き続き現場の熱気をそのままに読者の皆様にお伝えするッ!


つづく

































































































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