CHAPTER4 「正義の『BORDER』、狂気の『ノウメン』」

SECTION4-1

彼の復讐計画は綿密であった。相手が相手だ、もとより簡単に行くなどとは思っていない。そンな生半可な覚悟の目つきではない。浮浪者にたかる蛆虫だろうが、化学物質で虹色に輝く泥水だろうが、復讐の養分にする決意はできていた。必ずや彼の妻を奪った「ノウメン」に地獄を見せてやるのだ。


二週間前の面会、彼の妻は既に夫の名前すら思い出せない程の手遅れであった。イヤむしろ、彼が夫であるコトすら最早記憶にないかもしれない、そんな有様であった。彼女はただひたすらに教祖ソンカパへの盲目的な絶対服従を口にした。妻の寄り添うような言葉の数々も、全ては教典の引用であり、彼はソレを知らずとも、妻が操り人形となり果てたコトを悟った。許さぬ。決して許さぬ。


憎悪の足音が「夜」の喧噪から隔絶された一本道によく響く。彼は練りに練った作戦を脳内で反芻する。教団内部に侵入し、信者の一人としてソンカパに近づくのが一番手っ取り早く、ローリスクだ。彼はそう考えていた。アジア8大武装宗教組織として名をはせる「ノウメン」ではあるが、8つの組織の中で最も無駄な戦闘、殺生を好まない。彼はソコを利用し、妻を追って自らも、身をささげる敬虔な使徒を演じるワケだ。


しばらく歩くと、壁一枚隔てていつものように説法が響いてきた。ソンカパの低く、よく通る声だ。(・・・?)男は胸中に疑念が芽生えるのを感じた。何かがおかしい、今日は何かが違う。彼の神経を逆なでする平調子が、なんだか揺れている。興奮しているような声色だ。過激学生運動の決起集会のようなブラッディな決意、彼らのテロリストとしての側面を色濃く感じさせるのだ。


「『BORDER』!『昼と夜』!『昼と夜の原則』!『オーパーツ』!口に出すのもはばかられますッ!忌むべき残滓ですッ!」「わかります!わかります!」信者は口をそろえて同調、まくしたてる勢いを加速させる。「我々には力がなかったッ!BORDERと正面から渡り合うほどの力がッ!その事実が我々をッ!言論という檻に閉じ込めていたのですッ!」「わかります!わかります!」


「救われるまで信じるのですッ!受け身ではいけないッ!教義を胸に邁進してきましたッ!排斥!差別!糾弾!トゲのある言葉として悪に遠ざけられてきた世の真実ですッ!最も大切な教えですッ!遂に聖戦の時が来たのですッ!」「ウォォォォーーーッッッ!!」一斉に信者達が腕を振り上げ空気を揺らす。男は焦っていた。あまりにもイレギュラーな事態だ。


無駄な戦闘、殺生を好まない。つまるところ現状は彼らにとって有益な戦いの到来を意味していた。「屈辱を今一度想起してくださいッ!無責任にも残された遺構ッ!強制的に握らされていたバトンッ!彼らがもたらしたのはネオンに照らされた電子リバティーでも、タービンとメカニックに代表される蒸気インダストリアルでもなかったッ!」


「無責任が過ぎる話ですッ!ソレは『残りかす』だったのですッ!旧時代、発展に発展を繰り返しッ!ある時を境にッ!人工知能どもは技術をまるきり放棄し、姿を消したッ!結果!誰も種を知るコトができぬ数多の技術がッ!一貫した体をなさぬ建物群がッ!そうアナーキーがッ!全世界に広がったッ!」ソンカパは両手を広げ夢虚ろな瞳で叫ぶ。


信者たちの自我は、既に残らずソンカパの教えに掌握されていた。ソレは教祖と信者という上下関係というよりも、互いに脳を接続されたミームを介しあう巨大群体生物のようであった。だとするならばこの演説も自己満足の茶番でしかないようだが、その不気味さはかえって壁越しに男を恐怖させた。気が付くと足は止まっていた。


もはや妻はいないのだ。ソンカパという巨大サーバーのもと、自立思考が許されているようでありながらも、その実、全てのデータは彼から提供されたモノなのだ。妻を取り返せたとして、邪悪なるサーバーを破壊できたとして、妻は廃人になってしまうのではなかろうか。彼を殺すことは、即ち妻を殺すコトではなかろうか。一瞬のうちに彼の脳内に言い訳が駆け巡った。彼は小心者であった。


気が立った武装宗教に単独で乗り込むなど自殺行為に等しい。そう、今日はコンディションが悪かったのだ。彼は自分を納得させた。(突き詰めればそもそもの計画にも随分直情的な粗があったかも知れねェな。更なる改善と共に戻ってきてやろうじゃねェか)彼は物事を前向きに捉えるのが得意な男であった。テクニカル・スクールの入試、就活、幾度失敗してもその度前向きな言い訳をうまいことひねりだした。しかし、そうのらりくらりと避けられるコトばかりではないのだ。怠惰は必ず足元をすくうのだ。


「壁越しの迷い鮭児にも我々の慟哭が響いていることでしょうッ!」「エッ?」男はUターンしようとした足を思わず止めた。その目の前で壁がはじけた!ゴォォォン!「ああ、やっぱりいらっしゃった。外の武装イリーガル組織の活動ペースからして本日が絶好だと思っていたのですよ」「ア・・ア・・」厚い鋼鉄の壁を突き破ったのは大きく振りかぶったソンカパの右拳だ。さすがは8大武装宗教、その首領・・・!


ガオッ!「フワッ!?」無駄な予備動作一切無く、ソンカパの足払いが男をつまずかせた!前につんのめる男の頭部を容赦なく踏みつけ地面に押し付ける!「フグワェッ!?」「私も気が立っていれば殺人くらいしますよ。仮にも武装宗教ですからね?」さらに強く踏みつける!みし・・・、みし・・・。頭蓋がきしむおぞましい音が響く!「いきなり何をッ!?許して!」わけもわからず謝罪!


「古代の神官が羊の肝臓で神の声を聴いたように・・・。我々も彼の献身をもってかちどきとし、来る大差別時代への道しるべとしましょう!心に差別を!」「「「「「差別をッ!」」」」」「理不尽を!」「「「「「理不尽をッ!」」」」」(俺こそが理不尽なンだッ!)足元の声なき絶叫!意に介されるわけもなく・・・、グジャオッ!「エペ」頭蓋粉砕にて死亡!


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いよいよ一週間後に迫った単独ライブに向け、テクノバンド「IRON BEEK」のメンバー二人は舞台で調整を行っていた。行われているだけ今回は幸運だと言える。二年前は当日にセットリストを即興で考え歌った。シュワーシュワーシュワー。コンポーザー兼エアーギターリストのライジングシッダが右手のピックで空気をかき鳴らす。スキンヘッドがグワングワン旋回する。


「八は千より小さいんだよーッ!!(クァクァクァッ、ケツァルコアトルーッ!!)」デュアルヴォーカリストのセンネンオーコクは一つのメロディに二つの異なるリリクスを同時に乗せる。その周りには我々には到底使い方の創造がつかぬ無数のストレンジ形状楽器たち。モチロン彼らも演奏方法を知らない。電子的な伴奏と絶頂しているかの如き異様な笑みを浮かべた二人、素人目にも狂人であるとわかる。


壁には無数の告知ポスターが所狭しと圧迫しあい、相撲取りだらけの満員電車といった装いだ。「IRON BEEK6th anniversary live 5、28、PM17:00開場 PM18:00開演 (『夜』に食い込むため泊まり込みとなります)」大まかな情報はこンな感じだ。「夜」に食い込む異常なライブを企画する異常な二人組。しかし彼らは武装イリーガル組織ではない。狂気的なロック信仰にまみれた音楽の徒であり、つまりは一般的なバンドだ。


よって彼らのライブには毎年BORDERによる護衛が付く決まりである。異常者の身勝手に貴重な人員を割くとはいかがなものか。そう思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかしこの催しは武装イリーガルという蛾を呼び寄せる篝火の如く、または腕試しのダンジョンが如く、驚くほど効率的な撒き餌となり、むしろ隊員の感謝の対象となっているのだ。


「間に合わないねェッ!」「間に合わない!」「たまらないねェッ!」「たまらない!」センネンオーコクが口を開かず顔もむけずに叫び、ライジングシッダはソレにオウム返しだ。アーティストモードの彼らは最早もう一つの人格と言って良い程に洗練されたキャラクターを確立しており、抜こうと思って抜けるモノではないのだ。


本日は諦観の情と共に元の意識を覚醒させ、ソレ即ち勢いで乗り切るコトに合意して音が止まり、元の二人が覚醒する。「・・・」「・・・」二人はしばし互いを見やり、その後同時にため息をついた。「ヌ・・ヌゥゥーーン、一旦ライブのコトは忘れようじゃない」ライジングシッダ、ギョウオン・シジヤオが慰めるような声色で声をかける。「・・そうだね。夜メシどうしよッか」センネンオーコク、ファッカミーン・グイリン・カカノメは沈んだ気分に抗うように明るい声色で返した。


憂いをたたえたグイリンの水色の瞳が揺らめく。本来彼(華奢ゆえに女性と間違われるコトも多いが皆さん)は非常に憶病で心配性な性格であるのだが、どこぞの組織に仕込まれた生体兵器か、あるいは伝説のアーティストの心残りが憑依したか、一度歌唱スイッチを入れると生まれつき彼は、感情の機微が激しくなり、行き当たりばったりな狂気に侵食される。その異常性は彼を一流たらしめる実力をともなっていつも現れるためにここまで登ってきたが、だからこそ彼は憶病を更に募らせずにはいられないのだった。(大丈夫ッ。今回も何とかなるはずッ・・)


「グイリン、オレがついてる。ダイジョブだって!ホラ、右の足をだしたら次は左ってのが人間の定石なんだゼ?」「ウン」ライジングシッダはそんな彼の異常性にわざわざ歩幅をあわせ付き合ってくれる唯一の人間と言って良かった。全身にわたるイレズミは慈愛に満ちた観音様の絵画を写したモノだ。「いつもの酒とタバコでアレやコレやは極まりなしだゼ?」「そうだね、元気出して明日も頑張ろうッッ!」ガッツポーズと微笑みを交わし、備品の破壊がないコトを確認して、二人はスタジオをあとにした。


退出してすぐ、グイリンが携帯の電源を入れると、メールボックスに一件。「オヤ、珍しいな。ボクの人脈に・・」届いたソレを閲覧する。途端、彼の表情は凍り付いた。「何だ?エゴサか?ファビュラス・ハナマサの法則が乱れて・・・ッて」呆れたように画面をのぞき込んだシジヤオの表情もまた、凍り付いた。「コレ、早めの連絡じゃないのか、コレ」「異論が・・・無いです」グイリンはすぐさま電話番号をタップし、かけた。


――――――――――――――――――――


パオンッ!パオイラッ!拳同士がぶつかり合い、空気が音を立てて爆ぜる。場所はBORDERアジア南部支部内トレーニングルーム。ボクシングリングを数倍広くしたような戦闘訓練用闘技場にスパーリング中の二人組あり。その様子をベンチに座って眺めるのも、二人組だ。闘技場の二人は拳を打った反動で飛び離れた。向かい合って着地し、構えをとる。


一方は桃髪の女性、言わずもがな我らがシャルロットである。もう一方は同年代と見える黒髪のアジア人男性。実際彼女と同期である。名はニアラク。27歳。身長172cm。切れ長の目が戦いの場で威圧的に光る。二人は呼吸を整え、構えのまま一定の距離を保ちにらみ合う。誰言うともなく同時に動いた!右拳と左拳がかち合う!無数の連打をさばきあうッ!シャルロット右拳!ニアラク左拳!シャルロット左拳!ニアラク右拳!シャルロット右拳!ニアラク・・・左で受け流したッ!


シャルロットは前方にのけぞる!がら空きの背中にニアラクのヒジ打ちが迫る!横方向に体ごと回転して回避!地面を手で叩き、勢いで立ち上がり、態勢を整える。再び両者向かい合うがソレは一瞬!ニアラクがシャルロットの方に体を向けたほンの一瞬!ジークンドーが如き超高速の蹴り上げがニアラクの股間を狙う!


蹴りはカウンターを受けぬようすさまじい速度で戻る。ニアラクは逆にソレを利用しすぐさま一歩踏み込み右フックを見舞う!シャルロットは後方に飛び離れる!追うニアラク!シャルロット、今度は踏み込んだ相手のアゴを狙ったハイキック!決まるか!と、その瞬間、ニアラクは衝撃を殺すよう上方に飛び上がりながらアゴを閉じ、彼女の蹴りを挟んだ!「何とッ!?」思わず驚愕の叫び!


飛び上がった勢い!ニアラクは挟み込みを解放、跳び箱が如く両手で足を叩き、さらに高く飛び上がった!「チィッ!」拳を出せばそれも飛び台にされてしまうだろう、回避も間に合わぬ、ならば彼が後方に着地した後を考える!ニアラクが彼女の後方、着地!それを見越して彼女は着地前から予想される方向へ回転しながらのハイキック!


ニアラクが着地し彼女のハイキックと逆回転に横なぎチョップを繰り出す!互いの首元への到着時間は・・・、同時ッ!互いに寸止め!「・・・」「・・・」しばし停止の後、手足を下す。適度に離れ、お辞儀。「「アリガトウゴザイマシタ」」顔を上げる。「お強い」「ありがとうございます、シャルロットさんも」「当然、研鑽を重ねていますから」二人は固い握手を交わした。互いに自信家だ。自分の力に自身が持てなければ、「夜」を生き抜くことなどできないとも言える。


「いやァーッ、よく育ってるじゃないか」感染していたうちの一人、南部支部のベテランにしてニアラクの教育係、ランドンが一升瓶を傾けながら言う。ちなみに少しも酔っている様子はない。「ウム、二人の資質も十分」もう一人、円谷正光が拍手しながら喜ばしそうに言う。「瑞々しいモンだ」卑下の響きではないが、若干の憂い、そしてBORDERとしての貪欲な羨望が感じられた。生涯現役の息吹である。「ククック・・・」そしてランドンが口元を抑え微笑んだ。正光が飲み込んだ言葉など推測するまでもないからだ。彼は闘技場の二人を見やった。その瞬間ッ!


突如二人は同じ方向、正光をにらみつけ、跳躍!闘技場外で着地し、正光に向かって全速力の直進!「クハッハッ!」ランドンは笑いを殺しきれなくなり、さらに酒をあおった!当然、微塵の酔いもない!正光はようやく腰を上げようとういう所!完全に立ち上がる前に、当然!二人は彼の眼前に到着!リング上で争っていたボクサー、突如飛び出し観客の一人に暴力しに向かう!一見理不尽・・・、だが!相手は!


渾身のストレートは両方とも届かなかった。文字通り目の前で停止した。動いて避けるでもない、正光は無造作に両手を突き出し、高速移動する二人の顔面を鷲掴みにしたのだ。そして力の差を見せつけるかの如く下方向に押す!「グワワ・・」全身に力を込めるがとても抵抗できない。


二人はすぐに諦め、膝を曲げ尻もちをついた。「瑞々しいもんだ」『だがッ!オレの方が強いッ!』(正光の外面からは想像できぬであろう、彼が持つ子供じみてすらいる自らの実力への信頼!)「二人とも、コイツが呆けて拍手なんかしちゃってるから狙ったんだろうが・・・」正光がアイアンクローを解く。「内に潜めた絶対的自負心が、我々を『夜』の王者たらしめる・・・と・・・」シャルロットが嚙み締めた。


「勝手に来るとは正直思っていなかったんだが・・・」正光は少し困り顔だ。おおむね正しいことが伝聞されはしたものの、急にかかってきて、何か教えを感じているわけだから。「・・・若いってすごいな」正光は少し下を向き、独り言ちた。実際、正光の教育係としての能動的なはたらきが十分かと言うと、そんなことはないのだが、確かな実力とベテランの矜持が、無意識に教えを授ける節があるのだ。大したものである。サイカワラ程度なら余裕で屠る新人達もすさまじいが、ソレが一重に若さゆえの急スピード成長かというとそうではなく、ベテランはさらに上にいる。さらにその上の支部長など妖怪である。非常に層が厚い、コレが「夜」の支配者BORDERだ。


だが、そんな彼らを脅かす畜生は全くいないのかというと、そうではないのだ。「クッハハハ!正光!コフラクジョウの爺さん見てみろ!若いコイツラより元気だぜッ!」ランドンは気のいい笑いと共に酒をあおる。当然、微塵の酔いもない。「ワシのこと呼び捨てにしたよね?」ウワッ、本気の怒りではない!雰囲気への悪乗り!(酔っときゃよかったぜ・・・)一人増えている!この場に計五人!追加された一人は白髪に豊かな口髭、皆さんサンタのようなお爺さんを想像なさったか?


だが、違います。謝りなさい。確かに彼の実年齢は50代・・・。だが屈強なる肩幅、肉体、何より存在が醸し出す火焔的オーラ!そう!この初老の男性こそ、アジア南部支部支部長・・・「コフラクジョウ・・・さん」ランドンがきまり悪そうにつぶやいた。「どうしてここに?」正光が問う。「いや、イッパイいたし。今ワシは少し背中が粟立ってるんじゃよ」冗談めかした口調だが、後半にこの場のものどもは空気を強張らせた。支部長が恐怖を感じるほどの案件が、迷い込んできたとでもいうのか?「とりあえず腰を落ち着けようじゃないの」コフラクジョウが着席を促す。全員素直に従う。


「全隊員にメール送る予定だけれども・・・、言っちゃうね」コフラクジョウが切り出した。「先ほど電話があっての・・、毎年の『IRON BEEK』護衛の件だったんじゃが・・・」空気はすでに剣呑な捕食者殺戮フィールドのソレだ。ワンセンテンス先・・・、そのやばさがやってくるのだろう。全員が身構える。だが襲い来た衝撃は堅牢に張り巡らせたラーフラを、少なくとも新人二人の分は、たやすく突破してしまったのだ!「8大武装宗教を名乗る組織から襲撃予告があった」「「「「・・・!!!ッッッ!!??」」」」


「名は『ノウメン』。一応コチラの既殺リストに若干名お名前があるため、実在の組織だと考えられる。ソレを名乗る冷やかしの可能性も、本物からの報復があるだろうし、低い」アジア8大武装宗教は彼らBORDERの指定した名称ではない。「夜」を生きる武装イリーガルどもが恐怖と畏敬の念をもって口にする、実在可能性が高い八つの武装宗教の総称だ。


「武闘派の首領は支部長とも渡り合えるという噂すらある。『ノウメン』がどれ程武力に重きを置いているかはわからンが、わざわざ予告で我々をおびき寄せるあたり、並みではあるまい」コフラクジョウが紡ぐ言葉は重みを帯びていながらも、その重量の指す先が恐怖の震えでないことは誰からも自明であった。そして彼の思いはこの場の全員に共通していた。「もしソレが本当なら、アジアの見えないタンコブを確実に一つ、潰すことができます」正光の皆殺し宣言!


「激しい戦闘は想定されますが」彼らは自信家であるが、おごりに満ちているわけではない。「ああ。ここ最近類を見ないドンパチになりそうじゃ」コフラクジョウが一筋の汗と共に、凄みを感じさせる笑みを浮かべる。「アジア南部支部、総力をもって殲滅にあたる。新人さんたちも覚悟を決めておきなさい。ディティールは後で通達するから。じゃあソレダケ。じゃね」コフラクジョウは立ち上がり去っていった。


鎮痛でない沈黙が訪れた。すなわちもたらされた情報の反芻と決意である。おもむろに全員が着席を解いた。「・・・食えるエサは逃がしません。やばくなったら、すぐ頼ります」シャルロットが正光の方を見て言った。ひと月前のことである。初めての稽古、ソレは正光が彼女に与えた最初の教えであった。真の実力者はそのエサが「喰える」のか見極められるもの。そうでないと感じたら、いかな実力者、いかな自尊心を持つものであろうが、頼ることに躊躇するな。ヘタレではない。仲間を信じ、自分を信じること、即ち絆の聖句である。


正光は彼女の視線を受け止め、微笑んだ。「あとはソレまで楽しいコト考えておけ。昼メシとかな」「ハイ!」皆さん、今のところ垣間見る機会が設けられていないが、覗く様子はホラ、良い師弟関係ではないか。ランドンも読者の皆さんと同じ意見のようで、二人の方を見て笑った。「クハッハハハハ!」バリトンボイスがトレーニングルームにこだました。


図らずもシャルロットに降りかかった初めての大仕事!アジア南部支部総出!個性豊かなメンバー達もこの戦で一気にお披露目だッ!対する「ノウメン」もそこが知れぬ組織・・・。アジアの「夜」は、禍々しくも美しい、眼球渦巻喀血的狂気アンド正義の渦巻く、絶対殺人徒花フィールドが約束されたッ!シャルロット、正光、コフラクジョウetc・・・、「夜」を駆ける彼らの正義を目撃せよッ!




つづく













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