CHAPTER3 「オノボリとピラミッドと無慈悲な何やかや」

十字路症候群(クロスロード・シンドローム)!アジア南部の一端に広がる巨大十字路密集区域である。上方から見ると正方形を描くその空間内は将棋盤のように格子状に区切られており、必然的に無数の十字路が発生する。


駒の代わりに配置された建物に潜む人間は様々だが、区域の出自に似つかわしく、ほとんどが武装犯罪組織である。絶対安全な「昼」の間、ここを賑わせるのは子供たちのかくれんぼの声。「夜」はソレに命を懸ける要素が付加されるわけで、ある意味この世界の何たるかを簡潔に物語っている。


今は、夜である。ソコに男が歩いている。


CHAPTER3 オノボリとピラミッドと無慈悲な何やかや


ファーストインプレッションとしては、幼い。童顔であり、別段高い低いともいえぬ身長、黒のチェスターコートにジーンズ、なぜかパナマハット。両手に一丁ずつ携えた拳銃も、彼のまとう雰囲気と合わせては恐ろしさというよりむしろ調子に乗っているような印象だ。そんな男が「夜」のアジアを闊歩していた。


彼は新人である。数日前にウップン晴らしを目的に「夜」の世界へ踏み込んできた。勢いに任せて既に3人程殺していたが、酔いしれていられたのも一瞬で、「昼」の何倍も複雑な勢力図、うかつに動けばすぐにかぎつけてくるBORDER、何より殺した内の一人が武装宗教のメンバーだったことによる報復を目的とした追跡。彼は今現在、昼以上の不自由さと共に、それでも逃れられぬ魅力を持つ夜を歩んでいた。


(クソッタレ。すぐだ。射撃の精度も上がってきた。すぐに武装宗教ごとき壊滅させてやる。所詮神頼みがメインウェポンだろうが。アーメンなんか中々鋭そうな字面じゃねェかよ)見た目とは裏腹に今年28となる彼。精神成長のまるで無いのが見た目にまで現れているようだ。


街灯とステンドグラスがサイケデリックな影を地面に投影する上を彼、サイカワラはいらだちを鎮めるような規則正しい足取りで歩んでいた。と、その時、角を曲がった向こうから揃った足並みと罵声が、徐々に近づいてくるのに彼は気づいた。街灯の影に身を隠し、様子をうかがう。


「犬と猫は違うッ!」「「「「「違うッッ!!」」」」」「アテモヤとチェリモヤは違うッ!」「「「「「違うッッ!!」」」」」「人間とAIは違うッッ!!」「「「「「違うッッッ!!!」」」」」


(チ・・時代錯誤の人工知能差別主義集団か・・・。違う違うともはや過ぎたコトだというのがナゼ受け入れられんのだ。「昼と夜の原則」もその為にできたとは言え、原理主義から逃れられぬ方が機械じみている)


サイカワラはローブをまとった集団の行進を物陰でやり過ごしながら、胸中で嫌悪をブチまける。・・それにしてもAIとは。AIがここまで忌避される側面があるからには、何か重大な事情が絡んでいるのだろうが、皆さん、ここまででAIだと断定できる人物を見かけただろうか。


答えは否だ。そもそもこの世界でAIがそこまで発展しているらしいことを、アナタ達は彼らのヘイト行進で初めて知ったはずだ。では何だ?狂った宗教団体の集団幻覚なのか?イヤ、サイカワラの胸中を盗み見るにそうではないようだ。


まるで歩調を乱すことなく、プログラムされたかのような正確さのもと、行進は歩を進め、段々と足音を弱めていった。サイカワラは道の中心に戻り、再び足を動かし始めた。殺すのには慣れた。レイプに手を出したい。それも身売りのような積極的な女ではなく、泣きわめいて抵抗する女の片膝ぶち抜いて、痛みと共によがらせたい。手頃なのが転がってやしないものか。


左手側に「シーリングファン」が拠点とする黄色鳥居の神社、右手には邪悪コンビニエンス。特徴的なオブジェクトばかりなので、それなりに場数を踏んでいれば迷子になることはない。道を挟み、左右は正方形上に区切られた土地、仮にこの正方形土地をセルと呼ぶコトにする。サイカワラは「いつもの道」を歩んでいた。危険な団体の出没も無く、正に自分のための狩場だ。しかしその日は様子が違った。


「こんばんは。性交しましょう?」武装イリーガル風俗だ。そう、今日は土曜日、週末は仕事終わりのストレス発散を目的として社会人が多く「夜」に繰り出す。必然的に武装風俗の活動も活発になるのだ!「チッ」サイカワラは素早く撃鉄を起こす。こういったデイリーなイベントに関しては彼はまだ疎い。


「アハン」十字路を曲がって次々に武装風俗嬢が参戦。鋭く伸びた毒爪とモザンビークドクフキコブラが如きポイズンリップ射撃で襲い掛かった!1、2、3、全部で4人。


ズギャマオン!ズギャマオン!対角線上に構えて発砲!「グジャオ」「ウゴ」軌道上の二人の脳天を貫いた!サイカワラは悲鳴を聞く前に背をそらし、拳銃をホルスターへ。その胸の上を嬢二人の飛び蹴りが交差して通過!


フリーになった両腕を伸ばし、嬢二人の片足をそれぞれ掴む。「ウキャオッ!?」思わず寝汚い類人猿的性欲の片鱗がのぞく!(イリーガル野郎の本質などそんなモノッ)サイカワラは特にショックを受ける様子もなく立ち上がり、両手砲丸投げの要領でその場で猛烈に回転!どすピンクの台風だ!


バギョッ!バギョッ!嬢二人はすさまじい勢いで壁面に叩きつけられ、「グワッ!」まず毒爪を折られ!「イギッ!」次にバンザイ状態の腕を折られ!「アバゴッ!!」頭部を徐々に削られ!


「フヌンァッッ!!」サイカワラの全身に力が籠められ、その瞬間ッ、回転は一際勢いを増したッ!「ジャゴボーッ!!」グジャォッ!頭部完全破壊!視界の隅に移る汚損が彼に顛末を教える。回転が止まった。余裕であった接待とは裏腹に、彼は自分の不注意が招いた現状に苛立ちと焦りを見せていた。


(コレで7人、戦闘目的の団体でなければ、もはやあしらうのは容易い。しかし不注意、想定外の戦闘、銃声が居丈高な獣を引き寄せねーよう願うばかりだぜッ・・・)


彼の心情が語るは望みではない。叶わぬコトを知りながらの逃避だ。すでに彼の耳は捉えている、まっすぐにコチラに近づく足音を。聞こえた銃声に嬉々として流れる血潮の赤さを悟っているであろうバトルジャンキーの息遣いを!


日々精進が大切だと、こんな時に限って日頃思ってもないポジティブシンキングを巡らせる。迎撃でなくあくまでけん制、逃走のために撃鉄を二丁とも起こす。足音はますます近づく。耳をすませばソレは非常に機械的で、整然として、夜の空気を介してはこの上なく冷酷なモノとしてサイカワラを震わす。


彼は近づいてくる足音の可能性を考えた。(思いあがったヤロウであってはくれないだろうか、もしくはペアナックル自慢のイリーガル格闘家、それなら望みは十分にある。ここら辺をシマにしてる武装イリーガル団体、可能性は大きい。もしもBORDERだったらば・・・。残す遺言もねェぜ。彼女もデキた子供も売っ払っちまった)


ついに足音はいつ角を曲がり姿を現してもおかしくないまでに近づいてきた。サイカワラは音源の方向に銃口を向ける。一秒一秒が永久にも感じる。予防注射とは比肩するまでもない極寒のプレッシャーに彼が生唾をゴクリと飲み込んだその時!それを見計らっていたかのように物陰からソレは現れた!ズギャマオン!迷わず発砲!


影は銃弾の軌道をたやすく見切り最小限の動作で回避すると、カウンターを狙うでもなく、まっすぐサイカワラの方へ歩いて向かってきた。彼は二発目を打とうとしない。打つ気になれないのだ。これまでも尖った気性を隠すタイミングを完璧にわきまえてきた彼の本能が、二発目と死を一瞬で結びつけたのである。


しかし、撃たなければ何が起こるのかも彼は知らない。相対した時点で彼の夜命を繋ぐ細く頼りない糸は、運を過信しその太さを読み違えていた運命の糸は、切れていたのかもしれない。しかしこんな唐突なコトがあるか。理不尽余りあるのではないか。先ほどまでもてあそぶことを考えていたというのに一瞬で煮るも焼くも目の前の人物の手の中。コレが夜なのだ、と大いなる夜の意思が第一の教えを授けてくれたが、死の危険を伴うようでは、履修し終わる前にお陀仏ではないか。


「恐れることはない、目を開けたまえ」威厳のある低い声。サイカワラは薄目を開き、目の前の男の風貌を観察した。かなり濃く刻まれた皴、だが野心に満ちた面構え。そして鎧をまとっていた。具体的に近いものを上げるなら多聞天だろうか。悪鬼を滅する天部の装束と髪色は淡雪のような白色に統一されており、濁りと冷酷さを感じさせた。口調、佇まい、漂う紳士然とした雰囲気にかえってサイカワラは恐怖した。


「私の名はバイユキユ。時に君、思い上がりでなければ、私に生殺与奪をにぎられているね?」男は誇るでもなくなじるでもない淡々とした声色で言った。サイカワラは何も言い返せない。二つ理由があり、一つは恐怖感、もう一つは戦意無くふるまうコトで、戦闘狂の興味を削げるかもしれないと考えたからだ。ソレを一瞬で見越したバイユキユは、用意されたカンペを読み上げるかのような平坦な声色で続ける。


「つまり君には選択肢がなくなったコトになるね?」答えが返ってこないのに満足そうに頷く。「私から一つ提案がある。君がココを生きて去る唯一の方法・・・」バイユキユは胸元のポケットから水色の電子基板のようなものを取り出した。「君、モニターに興味はないかね?」


「モ・・モニター?」戦闘狂ではないのか?思わず素っ頓狂な声が出る。「そうだ。コレを埋め込ませていただきたい」それで何をすれば?一々聞くことも恐ろしいサイカワラにバイユキユは親切にもレクチャー。「簡単だ。人工知能を殺せばよい」


答えを聞かず、ピッと無造作にバイユキユは基盤を指ではじいた。導かれるようにサイカワラの左肩に着弾する。「ウワッワッ!?」反射的に慌てもがくサイカワラ!基盤はデーモンコアが如き真っ青な輝きを放ち、体内に吸い込まれてゆく!


「報酬は10億」「10億!?」告げられた衝撃の数値に思わず身に起こった不可解極まる現象を凌駕して叫びがソチラに向いた。数舜遅れて、「そういえば肩!」「前金は2億」「2億!?」「そうだ、この場で振り込もう」


数舜遅れて「そういえば肩!」パォォォン!バイユキユの右目から前触れなく射出されたレーザーがサイカワラの頭上を横なぎに走る!「電子でよいか」「・・ハイ・・」サイカワラはもはや自分を情けないとも感じなかった。目の前にいる男は雰囲気だけのこけおどしではなく、一瞬で自分を消し炭に変えてしまえる実力者だ。そんな奴と出会って生き残るコトができるなんて、むしろ今日は人生最良の日。いまや彼は心からそう思っていた。


「先ほどの基盤、まァ君に力を与えたワケだ。ソレを通じて君の動向はすべて遠隔より監視している。・・良い結果を期待しているよ」結局何も話を聞かず、一方的にまくしたてたバイユキユは淡雪色の軌跡をのこしながら大きく飛び上がり、サイカワラの背後に回った。彼が振り返ったとき、既にバイユキユは姿を消していた。


(もしかしたら今のは本当に仏様の使いだったのかもしれねェ・・)サイカワラは思った。(オレにあえて力を与えてその行く末を・・・それならオレはこのままマッスグ帰って・・・)イヤ、そんなわけはない。彼はパァンと一発壁面に撃って思考をリセットした。(殺せば10億、ウソじゃねェだろうな・・)チェスターコートのポケットから携帯端末を取り出し、アジア共通電子決済サービスにアクセスした。どこで暗証番号を知ったのか、残高は確かに2億増えていた。


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「ドゥカドゥカドゥカドゥカ・・」デフォルトのアラームが鳴り響く。出勤時間である。シャルロットが本日目覚めたのは支部のソファー上ではなく自宅、快適な目覚めである。BORDER隊員は眠らなくとも身体機能が鈍らないが、精神的な疲れはたまる。適切な睡眠は非常に重要だ。


私には人の、しかも独身女性のプライベートを逐一垣間見る趣味などない。皆さんもそうであろう。よって彼女の寝起きルーティーンの様子は割愛し、視点はシャルロット宅玄関前である。ちょうど今、黒スーツを身にまとい、面構えを毅然と整えたBORDER隊員シャルロットが扉を開けて出てきたところである。


特殊繊維黒スーツは自宅に支給されたゼツコンゴウ製ケースに一着、支部内にスペアがもう一着ある。皆代り映えしない隊服規格であるが、オシャレのため、あるいは「象徴」として相手の脳髄に恐怖をしみこませるため、ネクタイの柄を固有のモノにしたり、スーツの淵にワンポイント意匠を施したりする隊員は多い。シャルロットはピンクと黒のモザイク模様のブランドネクタイを身に着けている。


道中の猥雑カオスも、慣れてしまえば温かさに変わる。高名な画家であるミスター・プログラミングおじさんは、今日も庭のイスに腰かけ、昼間から子供たちにせがまれて書いた似顔絵を手渡しながら笑っている。シャルロットに気づき、皆が手を振ると、彼女も笑顔で振り返した。


風に乗って流れてくるマフィンの香りも、帰路を急ぐ子煩悩な父親も、学習塾の入り口にかかる「また明日」の看板も、全て誇るべきアジアの一側面だ。そしてモチロン、それを守る私たちBORDERも、誇らなくては。シャルロットは頬を叩いて気合いを入れた。


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夜である。シャルロットがいる。本日は一人だ。BORDERとはいえ全能とはいかない。そのため二人一組で補い合う隊員も多いが、今回は仲間に頼り切らず、ソロでも十分に戦えるコトを示すワケだ。万が一に備えて、正光は非常に近いエリアで殺戮を行っているため皆さん、ご安心だ。


4年間の地獄の隊員志願者用特別研修を経て鍛え上げられた戦闘技能は彼らBORDERの夜における闘争ヒエラルキーのトップを動かぬモノとしているが、ソレでもシャルロットが緊張するのは当然のことであった。彼女は研修を思い出し、波立った心を鎮めた。胸中に描き出されたその詳細は・・、聞いただけでアナタは全身筋肉痛になり、就職、入試等を控えている方は私を、もといシャルロットを恨むことになるであろうから、そういった理不尽な怒りから彼女を守るために記述するのはやめておくコトにしよう。


(今日の殺害リスト筆頭は3年ぶりの復活公演がうわさされる路上武装イリーガルソロ歌舞伎「刃桜三千世界恋慕」の役者。3年前壊滅させたはずの組織を二代目ザ・ヴチコロスゾを襲名したブッポソ・マニカが復興したとの情報・・・ほぼ確実・・)


彼女は公演の候補地筆頭である「十字路症候群(クロスロード・シンドローム)」内の噴水公園に向かう。細かく正確に区画整理されたエリアではあるが、いくつか複数のセルが結合した巨大な区画もある。噴水公園はそのうちの一つである。


昼間はアーティスティックな遊び場としてのポップさを醸し出しているが、一たび夜になればソコは「一寸先は闇」の体現者となる。いかなる酔狂な人物がココを設計したのかは定かではないが、少なくともソイツが子供好きだったとは言い難いだろう。


(・・・)右のセルには武装イリーガル本屋「ホメオスタシス」、左のセルには48人家族が住む一戸建て。両端から発せられる恐怖というよりは不気味さ。その圧によって道が狭く見える。シャルロットはさっそく先輩直伝の恐怖打消し法を実践した。(殺人ゼミ・・、陸を這うサメ・・、紫の巨人・・・)最近見たイディオット映画を脳内に循環させる。


BORDER隊員が畏怖(ビビ)ってどうすると非難、もとい喝を入れてくださる方もいるだろうが、「夜」に漂う恐怖の気配は俗な欲求の香りだけでなく、人間の根源に問いかけるような生暖かい千の目もあり、ソレはどうしようもないということだ。まぁ、一たび戦闘が始まれば彼らの無慈悲なる惨殺拳法に緊張におる陰りが見られることはまずないし、期待もできないが。


「情報通りならこの先の噴水公園でソレは行われる・・」(急ぎたいが・・)「ハァイ。女もいけます」堂々たる宣誓!上玉を仕留めに次々と武装イリーガル風俗嬢が出現。(今日はコイツラもうっとォしーんだよなァ・・・!)


「アナタを持ち帰れば私の番付トップは確実ッ!」頭一つきらびやかな衣装と爪の嬢が一番にとびかかる!ソレを皮切りに次々と襲い掛かる!さらには「絶景の下殺す!絶景の下殺す!」向こうから声!公演が始まったのだ!


「チッ・・!向こうで同時に殺してやるッ!」シャルロットは嬢を引きつけながら噴水公園に向かって高速移動。「アタシラはおっぱいの大きさなンか気にしないよォ~ッ!」次々嬢が追跡!一人たりとも女性を食おうとする姿勢にためらいが見られない!どうやら運悪く武装イリーガルレズ風俗だ!


「ここであったが100年目ッ!!」紅隈に真っ赤な長髪の二代目ザ・ヴチコロスゾは突然の乱入者を快くアドリブで迎える!「絶景の下死ね!絶景の下死ね!」毛振りと共に長髪内から大量の刃物が飛ばされる!千本刃桜が極彩色の幹から放たれ、縦横無尽に乱れ飛ぶ!ブォンブォンザクザクザクッ!!


嬢次々死亡!「アギャポ」「イヨーン」「カコ」「たわいもないッッ!」トップ嬢のみ見切って避けて見せる!そしてシャルロットはその一段階上・・・「シャァァッ!」指の隙間に挟んで受け止めて見せるッ!右足を軸にし回転、慢心したトップ嬢に向き直り、手のソレを高速投擲だッ!ブォンブォンブォン!「何だとッ!?」ザクザクザク!


「グギャッ!」ギリシャ彫刻を意識しながらのけぞるトップ嬢!「しかしッ!この程度ッ!私の美貌と共にあればアクセサリーの範疇ッ!」怒りにゆがむ顔からも漂う均整の取れた美しさ、ただソレは醜悪な鬼面の如き均整だ!「こンなモノでアタシの誇りはッ!性欲はッ!衰えぬッ!必ず犯し、殺すッッ!!」トップ嬢は悲鳴をこらえ、居丈高に瞳を憤怒七色に光らせるッ!「彩る銀の幹、月下のオブジェにゃ小せェ小せェ」ザ・ヴチコロスゾは第二波用意ッ!


シャルロットは二人を一瞬見やり作戦決定。「ならばキサマの素体を砕いてやるッッ!!」トップ嬢に直行!思わず警戒の防御姿勢をとる嬢!しかし黒い一閃は容赦なくクロスした腕をたたき上げ、ガードを解除させるッ!「何ィッ!」「フンァッ!」シャルロットは嬢の右乳に爪を食い込ませワシづかみ、右手を彼女の体に添え、全力で引き抜いたッ!「グギャァ゛ァ゛ーーッッ!!!」右乳をッ、もぎ取ったッ!


「絶景の下死ね!絶景の下死ね!」そして第二波襲来!シャルロットは痛みに悶絶する嬢を肉壁とし、刃物を受けきったッ!「アビホ」刃物の一発が嬢の心臓を貫いた!なんというあっけない!死亡!


シャルロットは打ち終わったザ・ヴチコロスゾに向かって間髪入れずもいだ乳を投擲!黒スーツと、歌舞伎役者と、飛ぶ乳房ッ!「・・・!?」目的は当然・・、視界封じだッ!ベチョァッ!顔面に乳が貼りつく!「アイ・・ヤイ・・ヤイ・・」


生んだ隙が意味するところは・・・、「当然ッ、死亡ッ!」「!!」もう遅いッ!既に目の前に彼女はいる!悟った一役者がとった行動はッ・・・「満員御礼ッ!!」自らの悪趣味劇を賛美するかの如き感謝!「ふざけるなッッ!!」その帰結は当然、シャルロットの憤怒の火種ッ!精々ッ、華々しき散りざまに役者としての悦びを感じながら、苦痛と共に死ぬがいいッ!「セイィッ!」ジョアッッ!!!心臓貫通!貫き手であるッ!


・・・と、その時。


ズブァッ!


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(緊急連絡はなし。自動生命危機通達システムも沈黙。ドンパチやってる音はするが・・今んとこ大丈夫みたいだな・・)円谷正光は後輩の活躍に耳をそばだてながら、淡々と日本刀を振るった。「シャガメ」渋いオッサン専門だという嬢の胴が二つに割られ、血液や内臓をまき散らしながら地面に落ちる。


彼から漂う雰囲気は異様だ。感情の機微の感じられぬ無機質な戦いぶりにも関わらず、悪を滅さんと叫ぶ意思はもはや熱さえ感じさせながら相対するモノを容赦なく焼く。携えた日本刀はソレを象徴するかのように、シンプルな出で立ちでありながらギラギラと鷹の目のように光っていた。


いの一番に飛び掛かった同業が切られようが、普段はお構いなしに追撃する嬢たちも、この寡黙な日本人から発せられる圧を前に汗を流し、足を鈍らせた。ジャイパル。空気を切り裂く乾いた音。嬢たちがとっさに音の方向を見やった時には既に、正光を取り囲む歪んだ円を構成する一人の首が、悲鳴もなく大地に口づけていた。


(新人教育など何年振り・・。・・7年か。支部長の復帰押しが一層強まるンだろうが・・。まだソコは引け目がな・・)考えながら切る。二人、三人・・・。正光を囲っていたはずの悪逆野郎どもはもはや彼の消失と仲間の死亡のあまりのシステマチックさに、困惑のつぶやきと目線を送るだけの歌も歌えぬ機械となり果てている。


最後の一人。スパオンッ!大した絶叫もなく22の死体が生み出された。「フハハハハ!あの数をこうもアッサリとは我と比肩するに値する実りょ」スパオンッ!23である。「フゥーウ」安堵である。今宵殺すべき仇敵はまだまだ尽きぬものの、あの日極東で振るわれた刀が未だ健在であること、操る自分の決して失われぬ崇高な正義と人間性に彼は安堵した。


シャルロットの方からの信号はない。こンな雑兵どもにやられるワケはないとわかっていても逐一確認してしまう自分がいる。正光はため息をついた。彼らは滅多なコトでは死なぬ実力者だ。しかしながら「夜」を流れる波は時にいかな賢者でも欺く異常な迷彩を誇って襲い掛かり、ソレは善も悪もなくすべてを飲み込むのだ。身をもって体験した正光はソレをとっくに過ぎ去ったモノとわかっていながらも、確かに不可視の鎹を自らの心に、未だ見ていた。


(ああいう明るい子と一緒だとパワーをもらえる)それは実感であった。彼はシャルロットの胸中に光るまばゆい光に受ける影響が、自分をも前に進めてくれるだろうと確信していた。彼女は必ずアジアの夜を照らす大物となるだろうと。


(・・いい年度になりそうだ)正光が独り言ちている間に周囲にまた命知らずどもが気配を漂わせてきた。(ヤレヤレ、新人教育はどうなってやがる?ただ鬼の首獲るよう指示したところでなァ・・)


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「・・まさか選んだ相手がBORDER隊員とは。若者らしい思い上がりでございますな。申し訳ありませぬ、国主」男がつぶやいた。前章で登場した、「脳国」のメンバーだ。「構わんさ。どうせあの男は死ぬのだから」六本腕の男、国主と呼ばれたその男は冷酷な声色で室内を震わせる。「むしろアレほどの雑魚が一発でも当てるコトができれば更なる追い風よ。我々の安心材料にもなる」


彼らの目の前のスクリーンには、サイカワラの体内基盤に反応している衛星を介した映像が映し出されている。ソコには顔面に増長の下卑た笑みを張り付けたサイカワラ。黒スーツの死神に向かい、まるで臆する様子なく銃口を向けている。


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ブワォッ!後方上空から新たな刺客あり!とっさに心臓を貫かれぶら下がった悪逆傾奇者を盾とし、ソチラへ体の方向を向ける!ズギャマオン!ズギャマオン!同時に銃声!夜空を黒鉛の鳥が心底気持ちよさそうに滑空し、生暖かい肉の海に飛び込んだ!「チッ」刺客は舌打ちと共に地面に降り立ち、シャルロットをにらみつけた。


言わずもがな、サイカワラである。「フゥーゥー」シャルロットはため息をついた。「もしアナタが今から、三日三晩熟成させた腐敗済みの口上を述べようとしているのならば、私からのアドバイスは一つです。家に帰りなさい。そして勉強しなさい。学生サン」「オレは28だッ!ソレに7人殺している!後戻りはできないなンてネガティブに言うつもりはない!前進しかないのだッ!今のオレにはな!」サイカワラは怒りと興奮がないまぜになったようにまくしたてる。以前に見たときとは似ても似つかぬ。力とは人をココまで変えてしまうのか。


「オマエに心臓ぶち抜かれてンの、知ってるぞ、カブキってヤツだろソレァ。日本のトラディショナル・ミュージカル。良いのかァ?オマエ、好んでコアラを殺すのかァ?文化虐待愛好家じゃねェか?エ?」サイカワラの熱に浮かされたような戯言の奔流はとどまるところを知らない。「フゥーゥー」シャルロットは再度ため息をつき、貫き手を死体から引き抜く。


シャズパァッ!!そのまま振り下ろされた右手が正中線に沿って脳を通過し、脊髄を断ち、死体を真っ二つに割った!鮮血が飛び散る!

「私はアナタのその深刻な虚言を真摯に受け止めてあげるカウンセラーでもなければ、穴だらけの反論に耐えて叱る教師でもありませんよ?端的に言いましょう、こうなりたいンですか?」シャルロットは骸を踏み砕きながら夜の支配者然とした威圧感と共に脅迫する。サイカワラの本能が警報を鳴らす!バイユキユの狂気が脳裏をよぎる!


しかし半ばトリップ状態にあるといってもいいサイカワラの心は言った(過言でなく、コレは勝利)既に彼の脳内演算機能は狂いに狂っているようだ。夜闇よりも尚黒いヴォイドに向かい一歩、踏み出した。「フゥーゥー」

シャルロットが三度ため息をついた。ソレは答えであった。サイカワラがコレから為すコト、シャルロットがコレから為すコト。


灼熱地獄から借りたような熱気を放ちながら、刹那に勝負をゆだねるガンマンのような冷静さを併せ持って、両者は向かい合った。視線が切り裂きあう。ネコよ通るな!九つの魂では到底足りぬ千切りの威圧!十字路症候群(クロスロードシンドローム)内、全てのオブジェクトが、この威圧に共振し、ささやきあう!沈黙を破り、先に仕掛けたのは・・・シャルロット!


瞬きの間にサイカワラから見て右側面に回り込んだ彼女は情け容赦なしの死神横なぎチョップを繰り出す!パォォォン!空気を切断しながら残虐トレインが如くサイカワラの胴に迫る!「クッ!」間一髪!胴体を後方にひねる!わずかに皮膚が裂けたものの避けた!ひねりの勢いで一回転し、スピンキック!


シャルロットはコレをしゃがみで回避!余裕!素早く背筋をそらしブリッジ姿勢、そこから倒立に移行してサイカワラの顎に蹴りを入れた!「ホァッ!」「ジャグッ!」浮き上がるサイカワラ!だがひるまず銃口を下方に向ける!ズギャマオン!ズギャマオン!


「フム、身体能力の底上げ。一撃を受けて千々の肉塊と化さぬとはヤハリてきめんの効果。スバラシイ」モニター越しに国主がつぶやいた。「あァ・・・肢体、荘厳なる六本腕を駆け抜ける喜びよッ!俺は今目の前で行われている蹂躙がッ、野望が着実な段階を踏んでいる証がッ!何よりもうれしいよ!迦陵頻伽の筆舌に尽くしがたき歌声よりもッ、確実にッ!」


発射された弾丸はマッスグ彼女の両掌を捉え・・・ない!すばやい倒立後転によって彼女は既にソコにはいないッ!「クッ!」ではどこに?言うまでもないッ!サイカワラが見据える先、すなわち目の前ッ、当然、目の前ッ!「死ぬがいいッ!」恐怖の啖呵と共にシャルロットが与えるのは、叩きつけるような右フックだッ!「フグッ!」左手で受けるも全身に響く刺激!すさまじい威力だが、彼女が感じていたのは意外さだった。(私のフックを受けてこんなヤツの骨すら折れないだと?)


しかしながら彼女の胸中に生じたノイズのような思いは、動きを鈍らせるには至らない!右足を軸に左回転、地獄速の左ストレートが放たれるッ!フェイントをかけずともそのスピードはとっくに相手の反応速度外ッ!・・・だが!?「クォラァッ!」「何ッ!?」僅かながら・・動かしやがったッ!顔面右半分のみで打撃を受ける!「グゥガハッ!」当然眼球が潰れるッ!だがサイカワラは笑む!「二撃」受けた!


(コイツ・・・、アレだけのいきがりを見せておいて、私の打撃を二度も見切りかけるとは・・・)シャルロットは彼が何者なのか考察しようとして、止めた。(イヤ、いい。思考リソースの無駄だ。コイツを動けなくさせて聞けばいいコトですね)シャルロットは冷静に手足を運ぶ。ドボグォッ!鳩尾に右拳!「フグゥゥッッ!?」「オヤ、少し大人げなくやればコレだ」「フグゥゥッッ!?」次は左拳が肋骨を粉砕!サイカワラが苦痛にうめく!そうだシャル!急所攻撃をためらうな!


反射的に被弾部を抑えようとしてしまうサイカワラ!馬鹿め!本能を克服せずして「夜」の勝利無し!そしてシャルがその隙に叩き込むのは・・、彼女の女性故の身長の低さ、そしてサイカワラの腹の立つスタイルの良さ、つまりウエスト位置の高さ!二つの要素がかみ合って繰り出される・・・、「フンァッ!」「グギャボォ!!」股間部へのトラース・キック!サイカワラは睾丸を砕かれた実感と共に吹き飛ぶ!


「彼女は新人か。つい最近までは見なかった顔だが」国主が側近の男に問いかける。「・・・そのようです。しかし流石はBORDER。例外なく近接格闘に長けている。ほとんどの非道人民はココで振り落とされ、たとえ乗り越えたとしても『オーパーツ』と言うあまりに大きい壁が控えている。つくづく化け物です、彼らは」「しかし我々もココから・・・、もしも一撃与えられたのなら余りに大きい金星となるが・・・」


「クカッ・・・キキキ・・・ッ」壁面に叩きつけられたサイカワラはうめく。彼は全身に走る痛みに自らの思い上がりを一瞬で悟った。忙しいヤツである。いきがったり冷静になったり。そしてソレを今まで知覚するコトの無かった己の愚鈍さに吐き気を催した。視線を上げると、彼は少々離れたところに、その距離と朦朧とした意識の割に合わぬはっきりとした怒りの黒き輪郭を見た。美しいとすら感じる立ち姿。


「さて・・・」シャルロットが口を開いた。「アナタ、このままひと思いに殺してしまいたいトコロですが・・、一つ質問です、アナタ何故私に挑んできたんです?」「・・・」サイカワラは当然答えるのをためらった。答えないコトはこの場において確実に延命、というよりは、答えた瞬間自分の命が潰えるのだから。「先ほどの風俗なら私を慰み者にしたいから。歌舞伎なら公演の邪魔をされたから。狂っていますが合理的です。アナタは何です?ただの腕自慢?新人なら勝てると思って?それとも薬でトリップしてたとか?」「・・・」


サイカワラの息が徐々に荒くなっていく。痛みと共に流れる汗に、油色が混じる。(どうすればココを切り抜けられる?せめてどうにかしてあの圧制者の口から一度でも驚嘆を引きずり出して死んでやる・・。だがどうすれば?クソッ、あの基盤、確かに力は手に入ったけどよォ、こんなぽっちだなンて聞いてねェぜ)死が着実に一歩ずつ近づいてくるのを彼は感じていた。いつ肩をたたかれてもおかしくはない。経験したコトのない絶望感。


「・・答えないつもりですか?答えられないのか?殺すぞ?」カロン。右手の平の穴から爆弾が転がり出た。「『オーパーツ』・・・」サイカワラはいよいよ圧倒的な諦めの境地に達した。だが心は生きたいと叫ぶ。(もしやコレか?仏の教えか?)だとするならば回りくどすぎるだろう。オマエが粋がるのが悪いんだ。ボケめ!「まァいいです。私の後学のためにしようと思っただけですし。アナタみたいな文字通りの玉無しヤロウに何か重大なコトを任せる輩がいるとも思えませんし」


あァ、いよいよその時が訪れようとしていた。十字路症候群(クロスロード・シンドローム)の強みは壁で仕切られていることにより見られにくく、見えにくいというコト。噴水公園から噴き出す余りにも圧倒的な闘気。周囲の武装イリーガルはむしろその目印をありがたがりながら避けた。身の程知らずもさすがに死を悟る熱量だ。よって第三者が介入する可能性はほぼ皆無であるし、仮にしたとしてもサイカワラの運命を変えるほどの刺客が現れるコトは万に一つもないだろう。


ついにシャルロットは振りかぶった。カウントダウンする情すらもない!彼に死を教えてくれるのは、大して中身のない走馬灯と共に近づく足音・・、ソレは魂を迎えに来た死神か・・・。(クソッ!来るんじゃねェ!オレの人生ちゃんと見たのかァ!?こっちゃまだ女体盛りの一つもできてねェっつーのによォ!)何と寝汚い!死の間際の鈍化した時間までも汚らわしい欲求の掃きだめに使おうとは!しかし忘れてやいないか?君の息子はもう不能だ。(来るんじゃねェッ!来るんじゃねェッッ!)


均整の取れた投擲姿勢、サイカワラのにらむ前でコマ送りのようにソレは躍動し・・・、ついに、放たれたッッ!マギュウウーーン!(来るんじゃねェ!来るんじゃねェ!)前方からは爆弾、後方からは死神の足音!迫る、迫る、迫る!(来るんじゃねェ!来るんじゃねェ!)迫る、迫る、迫る!・・・・・・・・・・・・・・そして、先に彼を叩いたのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









ズギャマオン!


ドマオンガッッ!







「何ッ!?」シャルロットは目を疑った。信じがたいことが目の前で起こっている。彼女の恐るべき視力と聴力は克明にとらえていた。違和感の始まりは音であった。爆発音よりも早く聞こえた銃声。確かにサイカワラのモノから発せられていた音だ。悪あがき?では片づけられない。そこまでの反射神経がそもそも彼にあるワケがない。そして信じがたいことはもう一つ・・・。


恐らく・・・直撃していない。手前すぎる爆発位置。(何が起こッ)







ジャグオッ







シャルロットはとっさに体を傾けていた。爆風を突き抜け二つ、デーモンコアの如き真っ青な光弾が銃弾とは比にならない速度で彼女の鎖骨上を駆け抜け、斜め上へと登って行った。「・・・・何・・・?」シャルロットは驚嘆に目を見開く。スーツが・・・避けている。ソレ即ち、あの光弾の速度に彼女が完全に反応できなかったコトの証明!「・・・ハハァ・・」晴れつつある煙の中に、立ち上がる人影が見える。レフェリーのテンカウント、誰もが確信した、そして待ち望んだ敗北。だがソイツはオーディエンスを嘲笑い、いかにも英雄チックな照明を浴びて自らの目だけに存在眩しく・・・。サイカワラが、現れた。


「一撃与えたぞッ!なんと素晴らしいッ!よしッ、お役御免ッ、もう死んでよしッ!」フゥハッハッハッハッ!国主ご満悦の高笑いが響く!今、ココに彼ら「脳国」の野望は絵空事から邪悪余りある計画と相成ったのだ!それにしても何という傲慢!もはや彼らにとってサイカワラは用済み!


「コンバンハ。今日は月がきれいだなァ」両腕が淡く、青く光っている。銃口は他と比べて濃い青。帰ってきた!粋がるサイカワラが帰ってきたのだ!シャルロットの驚嘆はものの一瞬で鳴りを潜め、再び目の前の畜生に対する憎悪が嚙みつぶされた!「死にぞこないがッ!」「ヌォホウ!カタルシスにゃァ十分すぎる業だぜェ!」再びサイカワラが銃口を向ける!


(もう撃たせはせんッ!)大した距離ではない!一瞬で詰める!「新武器にさっそくかまけましたかッ!」挑発と共にがら空きの胴に左手を据え放つは当然ワン・インチ・パンチ!あまりにも刹那の出来事!反省なく確かに調子に乗っていたコトも相まって、サイカワラはその直撃を受けてしまった!「ヌズォォッ!」確かに響くダメージ!・・・・・だが!((先ほどよりも浅いッ!))二人の思考がシンクロする!


しかしディテールは違った。サイカワラは更なる自信!シャルロットは多少の丈夫など意に介さぬ攻めの姿勢ッ!(一発でダメなら死ぬまで叩きこみゃァ良いだけッッ!!)「フンァッ!」サイカワラが右手の拳銃を鈍器とし真横から首を狙う!淡青色に輝くソレのスピードは明らかに増しているッ!後方にのけぞり避ける!「スピードがすごい!」思わず幼稚な感想を漏らすサイカワラ!後方に飛び上がり、セル同士の仕切り壁(4m)に飛び乗る!「機動力もすごい!」「逃がさんぞッ!」


幅1mの仕切り壁、二人からは辺りの景色が、猥雑に並び立つ建物が、観客というよりは品定めするプロモーターが如くに映る!第二ラウンドだ!「死ねッ!」サイカワラが仕掛ける!再び離れた距離、この機を逃さんッ、とばかりに発砲準備!幅の狭いこのフィールドならばどのように動こうが当てられる!(チッ、多少の被弾はもはや仕方がない、スーツを裂くほどの威力、かなりのモノだが、最初の一撃をいなせれば、後は・・・)


刹那に巡らせるシャルロットの戦闘思考!出した結論は・・・、「スワッ!」やはりマッスグだ!彼女の正義感を現すが如くッ!悪逆非道に延ばされる裁きの手のディレクション!ズギャマオン!ズギャマオン!音が聞こえる前に彼女は既に・・・、幅の狭さを活かした技、両者一本道、すなわちスライディングが活きるッ!ズザザザザザ!


髪を僅かに散らしながら弾丸が上空を通過する。80パーセント見切りだ!二発目の前に彼女はサイカワラの下へ到着!そして再び倒立状態に移行!蹴り上げ!「ハァッ!」だがサイカワラ!今度は顎の前に腕をクロス!受け止めた!「反応速度もすごい!」「知るか黙れッ!」


シャルロットは地面についていた右腕で相手の右足をつかむ!「ヌゥッ!?」バランスを崩した!対して片手倒立の彼女は安定!足を曲げ・・・、再びのスプリング蹴り上げ!「フガォッ!?」アゴシャング!決まった!顔面にモロだッ!「何故ッ!」「そンな付け焼刃でBORDERと渡り合えるとでも!?」素早く立ち上がるシャルロット!毅然とした眼差し!ソレは徹底した責め苦と共に存在する漆黒の正義!


一撃まともに喰っただけでサイカワラはひるむ!顔面の痛みくらい耐えろ!ソレで傷つけられるプライドなど捨ててしまえ!大きな隙!「フンッ!」「グゲーアァッ!!」スレッジハンマー!振り下ろされた拳が頭蓋に深刻なダメージ!あっという間にトドメへのカウントダウンか!「そンなワケがッ!」「力を得れば即座に私に勝てる実力者になれると?」胸部へ左右の連打!計8発が瞬きの間に叩き込まれる!「ハイボォ!!」サイカワラがあえぐ!(おめでたいこった!相手が私でよかったな!センパイなら何の弁明のヒマもない!)言い切れない罵言は思考で消化!


「クソッ・・・このッ・・、クソカス売女ヤロウがァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!」銃口を向ける!「セィィッ!」裏拳がはじく!「無駄なンだよッ!」「キサマァ゛ァ゛ッ!!」もはややぶれかぶれッ!虚ろなまなざし、無様によだれを垂れ流す口端!追い詰められたサイカワラの取った最終攻撃は・・・、何という、哀れな!何という、愚かな!何の創意工夫もない、ソレをごまかす飾りもない右手の横なぎチョップ!



だが!当然!「グゥゥ!」ガッシリとその青色は!まるで地球が神の手の平の上にあると説いた古の宗教画のように!シャルロットの左手に!掴まれている!「離さんぞッ!」


「グゥアハーッハッハッハッハ!愚かなコトだ。見えるかあの表情!当然のコトが起こっているだけだというのに!あのような弱者がいかに力を増そうがッ、BORDERに太刀打ちできるワケが無いだろう!新人だろうともな!BORDERはソレほどの組織!そもそも使いこなせるワケがないのだッ!実力!そしてアレを使いこなすために何よりも必要な『意思』!何もかもが最低レベルのあの男にッ!」国主のご満悦は輪をかけて加速!「しかし逆に言えばアレだけの弱者でもあの『効き目』・・・。『ノウメン』によるオープニング・アクトが如きテロにも大手を振って望めそうですな」側近もご満悦!幸せな職場!


シャルロットは右手を固める。「イボ治療の液体窒素みたいに・・・、痛いといやァ止めてくれるなンて思わないコトですね」「黙れ左手があるッ!」直情的横なぎ拳銃チョップ!「当然・・・」予想済みだッ!マガジンを握りしめる指を引きはがす強烈デコピンが炸裂ッ!「グァァッ!?」零れ落ちた拳銃・・・、取り上げられ・・・、ズギャマオン!「アギホッッ!!」相棒の消失に困惑する左手を撃ち抜いたッ!シャルロットは輝きを失った拳銃を見える範囲に捨てる。


「一応元気になったのでもう一度・・・、なぜ私を襲いました?単なる好奇心だったツモリですが、その青い光・・・。もしや『オーパーツ』?話しなさい」ドボグッ!「ゲブゥッ!」鳩尾に右拳!(何故だッ!圧倒的な力に満ち溢れているというのにッ、コイツなどあのバイユキユとか言う男に比べれば軽いというのにッ!)あァ、サイカワラよ。彼は100の恐怖を見たことで、自分が80の恐怖などものともしない人間になったと勘違いしているのだ。実際自分は10にも耐えられない小心者だと言うのに、増長した!


「フグァハッ!」もう一発、鳩尾に右拳!「検死がお望みですか?しかしアナタの手を離れた拳銃は輝きを失いましたから・・・。生け捕り、拷問・・。消化不良は嫌いなので殺し切りたいトコロですが・・、答えないのなら、苦痛が長引くことになりますよ」「・・・」「オノボリさん。『夜』全域を覆って立つ巨大なピラミッドを崩さんと暴走した大バカ者。来世で功徳を積みなさい。もう今世は期待できない」自白、そして楽になれ。シャルロットが促す。増長しては絶望し、その輪廻を幾度も繰り返し、彼が悟りに近づいているかと言えば、ソレは他人に強制されたモノでしかないのだが。


「・・・・・」ソレでもサイカワラは迷う。決断できない人生は彼にいつも凶行を選ばせた。控えめに言って、彼はクズである。「では再び、コレが最後にしましょうか。アナタの今一歩動かぬ唇に、決意を与える最後の痛みです」ゴシャゲッ!「グフゥオッッ・・・」握られていた右手が解放され、力なく倒れこもうとした体に突き刺さる崩拳!吹き飛び・・・、「グガァッ!」4mを落下し地面に叩きつけられた。かろうじて意識を保つサイカワラは上空を見上げる。そして見た!


何を?桃髪?女性?20代?ヨーロッパ人?否、BORDER!!月光をバックに見下ろす真なる「夜」の征服者!「ア・・・ア・・・」サイカワラの心の中で何かがスイッチを押した。というよりは舵を切ったと言うべきか。(そうだ・・・話そう。一刻も早くこの地獄から逃れたいンだ。仏よ許してください。私が悪かったンだ)「・・・え」「!!」満を持して口を開いた、その瞬間!







「エ?」








ブクブクブクブク!アボイアボイアボイ!ボーシューボーシューボーシュー!「エ?エ?エ?」「!?」何が起こっているのか?この状況を何にたとえたものであろうか?非常に悩ましい問いだが、起こっているコトの予想は皆さん、容易いだろう。そう・・・、(何だコレは?オレの体が、水膨れ?)そんな悠長な代物ではない!ソレよりもずっと大きな膨らみがッ、体中にッッ!困惑の間も止まらず膨らみ続ける!顛末は・・・詰まるところ・・・


パォォォォォン!!!!!


強烈な青光と共に弾けたッ!爆風が吹きすさぶ!「キャァッッ!!」仕切り壁をえぐりながらその衝撃はシャルロットを襲う!足元が崩れ、地面に落下する!だが大丈夫です。問題なく着地。(なんだ今のはッ・・・)カタルシスも得られず、生け捕りも叶わず、シャルロットは驚きというより不機嫌が喉元までせりあがってくるのを感じた。「大丈夫か!」爆音を聞きつけた正光がすッ飛んできた。ソレは二つの爆音であり一つは青い自爆、もう一つは激アマ過保護設定の自動生命危機通達システムのアラーム。「一体何が」「すごく不思議なコトが」シャルロットはそう答えるしかなかった。


――――――――――――――――――――


「イヤーハハハ。一見チンカスが力を得て粋がって死ぬコメディ、イヤ、モチロンその側面が楽しかったコトは否定できないのだが・・・、実際、『アイモニウム』は素晴らしい効能であることだ」「『巣』の管理者として、身に余る光栄にございます、国主ビリーヴン」

キングチェアで終始ご満悦のビリーヴンに向かって、バイユキユが片膝をつき、うやうやしく頭を下げる。


「『脳国』の権威回復はもはや時間の問題。『ノウメン』協力の下アピールを行えば、アジア中の武装イリーガル組織からの連絡が止まぬことでしょうな」「しかも前例なく過激なマーケティングによってだ」


――――――――――――――――――――


幸いにもシャルロットに負傷は無し。サイカワラの爆発後、二人で彼の痕跡を探ったが、持ち帰れるようなモノは何も発見されず、シャルロットは正光と並んで歩を進めながら大体のコトの運びを話した。「・・・とは言っても、未知の部分が多すぎますが。しかし、センパイの教えを活かしましたよ。ソレだけは伝えておきたい」(「なるべく拳で戦え。『オーパーツ』は第二形態的要素として相手に絶望を与えるんだ」「喰えるエサを逃がすな。ただしやばそうなときは躊躇せずに頼れ」)金言が翔ける。「でも申し訳ない。私がもう少し慎重に徹していれば何か持ち帰れたかもしれないのに」「気にするな。アレほどの自爆、予想できんさ」


「そうか。・・・しかし、『青色の光』・・・。我々のような『オーパーツ』を一般人が入手するコトは金銭的に難しい」実際、シャルロットの右腕も導入には億単位のACCを有した。「ええ。ソレに私の爆弾を突き抜けたコトから考えてその格は私のモノよりも上。あンな野郎の手には当然、余ります」何か巨大な組織がかかわっているのだろうか。二人は勘繰るが、証拠の遺体は跡形も残さず、ソレこそ肉片一つ、細胞一つすら残さず爆散してしまった。


その証拠隠滅の周到さの割には、そもそも人選が間違っている気がする。狙いは・・?(少しずつ臭わす・・・?)巨大な悪が、少しずつその体を巣穴の外に出し、侮っていた空白の間に、あっという間にニシキヘビ・・・。シャルロットはそンな予感に身を震わせ、同時に、必ず守るんだと、居丈高に頬を張った。


CHAPTER3 おわり

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