CHAPTER2 「アジアの『昼』と『夜』」

 恐ろしい夜が明け、朝がやってきた。現在時刻は11時半。皆さん、昨日の二人組は一体どうしているだろうか。太陽があたりを照らし、アジアの輪郭を段々と際立たせていく。夜間はモノリス的巨大威圧感を発していたBORDERアジア南部支部だが、明るくなってみるといやはや確かにかなりの面積をとっており、縦にもかなりのモノだが、別段周りのビルと比べて異様に高いというようなことはない。


 夜間コレを大きく感じさせたのはウッドストックフェスティバルの熱気と同じように余りに膨大に漏れいずっていた邪悪殺しの覇気だろうか。ともかく、今回は昨日の惨劇とは打って変わって、皆さんにアジアの『昼』を見ていただこうと思う。モチロン、あの二人の視界を通してだ。


 鳥居のように正面玄関の前に設置された危険物探知機をくぐり入場。スキンヘッド黒スーツの受付隊員は、巨大建造物にそそられて仕方ない子供たちを眼力殺害するようなことは当然なく、むしろ老舗おもちゃ屋の店主のようなハードボイルドさと優しさのベストブレンドでリピーターを生み出す始末だ。


 「▲」ボタンを押してエレベーターを待つ。マンションやスーパーマーケットのソレと比較して1・5倍ほどのスピードで5階よりやってきたエレベーターに乗り込むと、ウォッ、Gだ。


 「3階デス」音声と同時に扉が開く。しばらく廊下を歩けば、壁一枚隔てて、休憩室の中より声が。中にいたのは、言わずもがな昨日の二人組、新人の「シャルロット」と、その教育係「円谷 正光」だ。


BORDER CHAPTER2

「アジアの『昼』と『夜』」


 シャルロット!26歳!ヨーロッパ(旧フランス区分)出身!桃髪ショートヘアのコーカソイド女性!身長168cm!昨夜の鮮烈なデビューは皆さんの記憶に新しい!帰還後、ロング缶二本でほろ酔い、そのままソファー上で寝ている!


 円谷 正光(つぶらや まさみつ)!38歳!日本出身!白髪交じりの黒髪モンゴロイド男性だ!身長177cm!寝姿からも醸し出されるベテラン・オーラ!帰還後、ウーロン茶の利尿作用をものともせず、中年疲れによって寝ている!


 昨日オレンジローブと初老を殺害したのが午前1時頃、二人はそこから業務を続け、午前6時に終了。2階の売店で買ったロング缶とウーロン茶、カシューナッツ、サラミ等々と共に、休憩室でささやかなデビュー祝いを1時間ほど執り行い、そのまま現在まで眠っている。


 『デンデケーデーデーケデケードゥワーアーッ゛』メタリカを彷彿とさせるロックンロールな正光の目覚まし。「オゥハ……」正光は右隣をまさぐるが、そこに感触はない。自分が寝ているのが休憩室のソファ上だと気が付く。


 『デンデケーデーデーケデケードゥワーアーッ゛』BPMが上がり、徐々に激しくなるギター・ソロ。「ウウォエ……」シャルロットが不快そうに眉間にしわを寄せ、立ち上がった。「ウォアェ……」焦点の定まらぬ目で懸命に音源に向かう。


 アナタは思うかもしれない。目覚ましへの反応がこんなにトロくて、突然の敵襲があったらどうするのだ、と。心配ご無用。そう思うのなら敵意を持ってこの部屋に足を踏み入れてみるといい。他人の手のひらの上からの眺めは中々オツなものかも知れない。


 ダンッ、ダンッ。件の携帯をシャルロットは連打する。1打、2打、3打目にしてようやく『停止』が押された。正光は定位置にない携帯を探す気力なく、爆音ロックを受け流す謎の中年・図太いを発動、二度寝に入ろうとしていた。


「オハヨウゴザイマス……」かすれた声で呼びかけられて正光は再び途切れかけていた意識を揺り起こし、「あぁ、おはよう……」かすれラリーである。


 酔いはもう残っていない。正光はウーロン茶であったので元々だが、シャルロットの方も欧州のアルコール分解酵素とBORDERの代謝で、平時と変わらぬ目覚めを迎えていた。

彼女は昨日のコトを思い出し口端をわずかに持ち上げた。初めての業務、自分は正義になれたのだ。酒の席で語った『象徴』になりたいという夢、憧れのセンパイ、『アジア南部の日本刀使い』円谷正光の前で宣言し、応援してもらえたのだ。昨日の自分とは違うのだという実感が彼女を満たした。


 正光はノッソリ起き上がると染色体タイプの伸びをあくびと共に行い、卓上のゴミを片付け始めた。シャルロットもあわてて混ざる。「プラゴミは私が」「どうも」


 別に二人掛かりでやるほどのことでもなかったな、と捨てながら二人は思う。終わって、部屋を出た。「……さて、とりあえず既殺リスト作るか」なぜ帰ってスグ作らなかったのだろう。イヤ、いつ作ろうが別段変わりはあるまい。急いては事をし損ずると言われるくらいだし、このくらいが正光のペースなのであろう。


「ハイ」何事も初めてというのは緊張するものだ。レポート一つだろうが、BORDERの大事な業務。「そンな大したモノじゃないから、身構える必要はない。テクニカル・スクールのよりはずっと文字数も少ないってーか、テンプレートに当てはめていくだけだから」


 オフィス・ルーム。(二重)ウイルスや物理・特殊ランサムウェアなど、あらゆる電脳脅威に対する最高峰のセキュリティを誇るコンピュータが並ぶ。自分用に割り当てられたモノの前に彼女は座り、電源を入れる。パスワード入力催促。48桁のパスワードを2秒でタイピングし、網膜認証を経てログイン。彼女のホーム画面はまだ簡素であるが、人によってはココに国家機密レベルのファイルが並ぶこともあるというから驚きだ。彼女は専用のアプリケーションを立ち上げ、タイピングを開始した。


 さて、先ほども言ったようにレポート作業はテンプレートに当てはめるだけで退屈だ。内容も、本日殺害した人物や壊滅させた組織、そのグレード等々・・、アナタの予想通りのモノである。学生時代を思い出して苦い顔をされる方も多くいよう。よって割愛である。というわけで30分後である。


(保存の手順とログアウトがいやに面倒くさかったな……)オフィスルームの自動ドア式出入口から出てきたシャルの表情はおおむねそんなことを物語っていた。


「昼までまだまだ時間あるな……」正光が左手首にはめた極めてシンプルな意匠の耐衝撃腕時計を見てつぶやく。「トレーニングもいいですが……、それなら私、散歩でもしたいですね!自分が守るようになったアジアの姿はまた違って見えるのかなとか思ったりして……」シャルロットの表情は忙しなく笑顔に戻り期待感を口にする。「あァ見えるぞ。サイバーパンクの主人公気分だ。そこまで体裁の取れたシステムがあるわけでもないが」ソレを見て正光も、ほんのわずかにだが口端を持ち上げた。


 彼女の口端はミカヅキァーに反り、足音もリズミカルだ。26になっていきなりスキップを始めるようなコトはしない、もといできないが。無機質な廊下に、桃髪ハピネスと枯れた中年の対比が映える。ソコに向かって長い廊下の向こうから足音。「オイィーッ!」二人に呼びかけてきた。この声色は当然……、「おはよう」「オハヨウゴザイマス」「アイ、オハヨー」緑髪褐色のアジア人女性、正光に名を連ねるほどのアジア南部支部のベテラン、エメラルワだ!


「初業務オツカレ。正光、写真とかねェの?」

「申し訳ないが……」「気の利かないヤツめ」

ベテラン同士の気の置けない会話だ!だがベテランは置いてけぼりにもしない!「どーだった?シャルちゃん」「……色々覚悟はいりますけど……、とりあえず一歩踏み出せたことが今は嬉しいですッ!」「励めよ!」フレッシュな会話だ!今度は正光が二人から漏れ出ずる輝きに気おされる。


「二人はこれから?」回答によっては同行といった感じの声調子だ。「私たちは適当に散歩でもしてこようかと……」「そうか。じゃあアタシの帰路の話し相手になってくんねェか?」通常、レポート作業は業務終了(午前6時)後の数十分で軽く終わるものであるから、支部に泊っている隊員かトレーニングルームを使用する隊員以外はこの時間家に帰って寝ている。完全なる昼夜逆転生活なのだ。


「ちとレポート打ちながら寝ちまって……、せっかくの休日、家族が待ってんのによォ」犯罪にブランクはない。彼ら隊員の貴重な休みの一分一秒をぞんざいに扱ってしまったエメラルワの眉尻が下がる。そんな顔をされて放っておけるほど二人は薄情ではない。


「アイアイ、モチロンですよ」「ウム」「アンガト」三人は並んで廊下を歩き、エレベーター前。『▼』を押して来たソレに乗り1階へ。正面玄関から出る。


「ウワォ……」シャルロットは幻視した光に一瞬目を細めた。確かに輝いて見える気がする。朝日に照らされたアジアの景観がシャルロットにとっては自らの業務の賜物として一層輝いて……


 だが、読者の皆さんにはシャルロットの感動とは乖離する感情を抱かれたのという方も多いのではないだろうか。





『アジアとはこんな風であったか?』





 ゼツコンゴウ製の家屋はその加工の難しさゆえにほとんど立方体。コンテンポラリーな丸みとサイケデリックな色彩を備えた奇妙な家屋。背の低いソレらの隣には唐突にネオン看板まみれの高層建築物……。そこら中がそンな風だ。芸術家基質が多いのは人口の関係上そうであろうが、それにしたって混沌というか……。方向性の違い?国民総芸術家化(言いにくい)?


 ビル群と未発達エリアがアナーキーに入り混じるカオス空間は、サラダボウルではすまされず、さしずめ黒絵の具の海といったところだろうか。しかし皆さん、驚くなかれ。この光景はアジアだけでなく、もはや世界のだれも疑問を抱かない一般的な日常なのである。


 なんでそんな事に?皆さんお手元の疑問リストに書き加えよう。そこには既に一つ、クエスチョンが記されているはずだ。『そもそもBORDERとは?』


 おおっと、なんと都合のいいことか。その疑問に、今まさに回答が出るかもしれない。三人に駆け寄ってきたランニング学生を見たまえ!


(オワッ、ツブラヤ・マサミツ!?本物!?)

(女性二人も侍らせて、さすがベテランは違うぜッッ)少年は憧憬の眼差しと共に三人に近づく。


「あのッ……、オハヨウゴザイマスッ」「オハヨウゴザイマス」「おはよう」「オハヨー」

「あのッ、いつも『夜』にがんばってくれて……、応援してますッ。『昼』に生きる俺たちは犯罪なンか見る機会も知る機会もないから……」フム、彼の言から鑑みるにBORDERとは夜間治安平定組織……、ここまでは昨日の言からも推測できることだが、その後の『犯罪を見る機会も知る機会もない』とは……?まさか一切の犯罪が『昼』では起こらないとでも言うのだろうか。そのメカニズムはBORDERのみで説明できるのか?一つ解決したのに、疑問が増えてしまった。私は当然知っているが、モチロン皆さんには教えない。


「ありがとう。そう言われるとオレ達も身が引き締まるよ」正光が温かさあふれる中年笑顔で応対。一見冷たそうな印象を与える不動表情筋、威圧感ある掘りの深さを有する正光であるが、実際その中身は温厚な日本人のソレにBORDERとしての正義感が付加されたナイスガイであり、ここらを日課として走っている少年もソレを知っていて話しかけたのだ。「コチラコソ!」少年は満面の笑みと共に走り去っていった。「こうなったってことだ、シャルロット」「こりゃ誇らしいこったですね!」シャルロットはますます笑顔だ。


 早朝から気分を良くして、ポカポカ陽気の下を三人は歩む。「正光はレポート朝型だからよォ……、シャルちゃんはそうなんな!任務帰りに即!な!」「別に構わんだろうレポートなどいつ書いても」「そーだけどさァ。別に精査する必要もねェ簡易的なヤツだぜ!?」というほど事細かく覚えさせられトラウマになったという人も少なくないと聞く。


 三人の揃わぬ足音がBGMとなってアジアの風景を彩る。エメラルワは息子がもうすぐ誕生日だ、だの、夫の得意料理がシチュー以外になくて残念だ、だの、とりとめもない話題を語った。久しぶりの休日で高鳴る心と元来の明るさでエメラルワは饒舌に口を動かし続け、気づいたときには家に着いていた。


 少し通り過ぎて、はっと三人は立ち止った。「んじゃ、アタシはココでサヨナラ」「じゃあまた。夫さんとお子さんにヨロシク」「サヨナラ!」二人になり、完全に目的もフリーになり、散歩続行となったわけだが、「13時00分……、何か食いたいモノは」正光はお昼態勢である。「軽くて……甘いモノがいいです」シャルロットはそこまで腹を減らしていない様子だが、ここまでの多幸感をオカズにゴハンという機会もなかなかないであろうと考え、リクエストだ。


「フム、『ソウソウシュガー』あたりでいいか」ソウソウシュガー!?名前のわりに全く砂糖の量を自重していない絶品菓子店ではないか!しかもアジアのローカル……。素晴らしい提案と言える!「おお、一回いってみたかったンですよッ」


「そりゃよかッた」シャルロットのウキウキはさらにウキウキをかけられ100倍と言ったところか。鼻歌を歌うようなタイプではないが恐らく半径20メートル以内の人々は何かウキウキした人いるな、と勘づいている。


 ストリートの左右にはまるで統一感なく様々な業種の店舗が立ち並ぶ。「餃子『君たちより少し高いところにいる』」、「コンセプト風俗『爆発アフロ』」、「『シュレッダー』」、エトセトラ、エトセトラ……。客引きの店員たちも十人十色で、皆商魂たくましく笑顔。働く喜びが感じられる。


 しかしながらそこにイリーガルな雰囲気は一切感じられない。窃盗も強姦も殺人も露出狂も、昼の世界には一切罪悪の気配がない。さらに不思議なのは、それがいわゆる「偽りの平和」ではなさそうなところだ。昼に生きる人々は、本気で犯罪が起こるとも起こすとも考えていないようである。


 さて、そうこうしている内に見えてきた、蛍光ピンクと景観法ブラウンのマリアージュ、デザインしたのはどこのどいつだ?のキャッチコピーでおなじみ、ソウソウシュガーである。老若男女問わず愛されるその裏側には、言わずもがなレシピ開発部の努力、巧みなマーケティング戦略、そして膨大な量の砂糖がある。


 カラァーンコロン。合成耐火木材製の建物はほんのり森の優しい香りだ。ドアを開けて店内に入るとショーケースには和洋中様々なスイーツが一定間隔(所狭しとではない)で並び、選ぶ楽しみ及び目の保養である。


「ホウァー、やはり職人気質なのでしょうか……見た目が整ってますねェ」シャルロットは感心した様子だ。確かに5つ並んだ小ぶりのフルーツタルトは一つたりともかけた姿をしていない。まるで五つ子である。


「何でもいいぞ。1ホールとかでなければ」

さりげないおごり宣言。ベテラン・テクニック!シャルロットはそう言われて遠慮する女性ではない。鷹の如く鋭い目つきで吟味を開始する。


「……エーでは、これにします。シュークリームに」据わった目つきと共にケース内を指さす。ヨーロッパ発祥のシュークリーム、もといシュー・ア・ラ・クレームを頼むところに、期待感のみならず矜持が見て取れるといったところか。


「じゃぁオレもそれに……」スキンヘッドの店員にシュークリーム2つとの注文を伝え「1100ACCになります」サイフを取り出す正光。札と硬貨をちょうどになるよう取り出す。サイフの若干の太り具合からして、彼は現金派であるようだ。


 二人はシュークリームを手に店内の飲食用スペースへと移動する。店員がお冷を二人分、机に置くと、シャルは日本発祥のこの店が持つワビサビ的気遣いに感心した。(日本が事実上滅亡しても、その意思は受け継がれていく……)


「センパイ、常連ですね?」先ほどの店員との会話なき親密雰囲気、日本人の語る目線よりの結論である。「大した観察力じゃないか」正光は優しく笑った。本日はずっとウキウキしているシャルロットだったが、彼女のソレは限界を知らぬ。表に出せば発電すら可能であろう。


「「イタダキマス」」シャルロットは皿上のシュークリームを包み紙の上から両手で支え持ち上げ、生地に歯を立てる。サクッと心地よいスタンダードなパイシュー生地だ。丁寧な香ばしさが鼻に抜け、彼女はこれから始まる数分の非日常に心を躍らせた。


 サクムッ。清潔感ある真白な歯はカスタードを通過し、一口目を彼女の口内に隔絶する。なめらかなクリームはよく考えられた甘さだ。コチラのスイーツは甘いと聞いていたシャルロットだったが、予想外の程よさに舌鼓の16ビート。(見事)


「フーム、ちょうどいい甘さですねコレ。甘すぎず軽い口当たりで、かといってなめらかさを損なわず、満足のいく味わい。若干のサワークリームに似た酸味も非常にうれしい」丁寧なレビュー。高速のつぶやきではなく、正光に語りかけるように感想を口にした。


 ハグム、ハグム、シャクンッ、シャクゴクッ、たっぷり詰められたクリームをこぼしてしまわぬよう注意しながら豪快にほおばる。「コレはもっと色んなモノ食べてみたくなりますねェ」商品の多さもソウシュガの魅力だ。皆さんはよく何を買うだろうか?差し支えなければ教えてほしい。ンゴクッ。二人とも食べ終わったようだ。


「こうしたオイシイモノとか、懸命に生きてる人とか、乱雑ながらも美しい建物とか……、なんかシュークリーム一つ食べただけでも色ンなコトに思いをはせちゃいますねェ」

「その通りだ。守るものが多いからこそ、確かな意思を持ってやり遂げねばならない。我々は全昼を代表して戦っているわけだから」


 そう、皆さんは彼らのことがまだよくわかっていないだろうが、彼らはオイシイモノをオイシイと感じ、美しいモノを美しいと感じ、そして戦うために殺すのではなく守るために殺すのだ。それだけは皆さんもここまでの立ち振る舞いを見て理解したコトだろう。彼らは詰まるところ……、正義の味方であるのだ。


 ところで、正義の味方がいるならば……


――――――――――――――――――――


 昨日のヤツラのように、当然悪が存在するワケだ。


「脳国」国主謁見室


「今月二人目と大変な当たり月でございます」

キングチェアに腰かけた六本腕の男、その右隣に立つ男が嬉々として報告する。彼らの前方の巨大スクリーンに映し出された映像には、老若男女入り乱れた人々が奇妙な装置によって拘束されている。


「しかし二人目は男だろう。男は有限だ。子を産めんからな」「それだけが残念にございます」「しかし確実に近づいている」六本腕の男はほくそ笑み、誰に語るでもなく自分の言に酔いしれる。


「ククク……。この頃『夜』に矮小な輩が増えてきた」脇の男はデコイのように一定間隔で同意を示すのみ。「『自らを虐げた世への復讐』だの、『自分が正しいということを証明する』だの、クダラン思想犯どもがな……。純粋悪……。金、地位、性……。すべてを意のままに操るコトこそ俺の望み。アジア、果ては世界の征服……。忌々しいBORDERの連中も皆殺しだッッ」殺風景な空間に男の野望がこだまする。脇の男はうやうやしくうなずき、壁の向こうのアジアを幻視した。「国主の仰せのままに……」


 彼は大口を開け、ヘイトに汚染された空気をあたりにばらまきながら、支配的に笑った!


BORDER CHAPTER2 おわり

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