34話▶️夏の思い出
立ち並ぶ屋台でお目当ての物を購入した俺たちは、運よく空いていたテーブルへと腰掛けた。
「はふっ……」
出来立ての料理を頬張る無邪気な彩菜を見て思わず笑みがこぼれた。
「出来立てなんだから気を付けないと火傷するよ」
「あふいんだけど、……っすごく美味しいよ。凛人も一口どうぞ~」
——いや待て……。これはもしや……あ~ん、という行為ではなかろうか……?
俺の目の前に一口サイズより少し大きめのペンネが運ばれ、どうしていいのか迷ってると……。
「凛人く~ん、早く口開けてくんないと、落としちゃうよ」
「けど……」
「なに今更照れてんのよ!日常茶飯事のことじゃん」
「いやいや……日常茶飯事ではないけど……う~ん。こうなったら」
意を決し、俺は照れながらも口を開けた。
優しい手つきで口の中にペンネが運ばれてきた。
「……あ~ん」
「どうどう?」
食い入るように俺の反応を待つ彩菜。
ほどよい熱さのペンネを噛みしめると、トマトソースの風味が口いっぱいに広がり今まで味わったことのない美味しさを感じていた。
「めちゃくちゃ美味しい!」
「でしょ~」
そう言いながら彩菜は目をキラキラと輝かせながら俺の方を見つめ、何かを待ってるように思えた。
――えっと……。もしかして何か期待されてる?
「彩菜も……あ~んする?」
「うん♡する!」
目を瞑り口を開けて待つ姿――可愛いすぎる!
「あ~ん……んん~美味しさ倍増するぅ」
「そんな大げさな」
「ほんとだよ!さっきよりも美味しいもん!」
傍から見ればただのバカップルかもしれないが、そんな事は気にならないくらい楽しんでいた。すると――。
ヒュー~、ドッーン。ヒュー~、ドッドーン――。
大きな音とともに、空には色とりどりの綺麗な花火が打ち上がっていた。
「花火っ!」
「わぁ!……綺麗」
俺と彩菜は食べる手を止め、空に浮かぶ花火をしばらく見つめていた。
――まさか初めてできた彼女とお祭りに来て、夏の風物詩とも言われる花火まで見られるとは思わなかった……。花火も綺麗だけど、夜空に輝く花火の光に反射する彩菜の横顔も綺麗……なんて言ったらどんな反応をするんだろう。
「……ちょっ、何見てんのよ」
「花火も綺麗だけど、彩菜も綺麗だな……って見惚れちゃった」
「……っ!」
暗がりでもわかるくらい、彩菜の顔は真っ赤になっていた。その反応を見て俺自身も赤くなっているだろうな、と思うくらい顔がぽっぽしていた。
――俺ってこんなストレートに気持ちを言える人間だったのか!?
俺たちはしばらくの間、恥ずかしさのあまり何も話せず、ただ夜空に打ち上がる花火を見るのに必死だった。
花火が打ち上がり10分ほどすると、辺りでは拍手が起きていた。
「終わったみたいだね」
「……そうだね」
「美味しいものも食べられて、花火まで見ることができて……今日は大満足だね!」
「うん!誘ってくれてありがとう、彩菜」
「また来年も来ようね!」
そう言った彩菜は慌てて口元を押さえ、今日何度目かわからない顔を赤らめていた。
――来年と言わず、この先もずっと君とこうしてデートをしたい。君の隣は……俺の特等席だ。誰にも譲らない!
「絶対来よう!」
その言葉を聞き、彩菜はとびっきり可愛く笑ってくれた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、彩菜と俺は桂駐屯地を後にした。
「夏休みの思い出ができて良かったぁ。今までは家族としか来てなかったんだけど、こうして……彼氏……と来ることができて本当に良かった」
「俺も……」
「そうだ!せっかくなんだから、一緒に写真撮ろ!」
「……うん」
人通りがまばらな場所で2人並び、慣れた手つきで彩菜はパシャリと写真を撮った。
そして確認した後、俺のスマホへと写真が送られてきた。
「やっぱこのスマホ、夜でも綺麗に撮れる~」
「確かに綺麗に撮れてる……」
どことなく幸せな空気が俺たちの間には流れていた。
彩菜の自宅が見えて来たところで、前方から見覚えのある姿とどこかで聞き覚えのある声を耳にした。
「あれ?彩菜じゃん!おっかえり~。って……彼ぴっぴと一緒だったんだ!」
――まさかっ!……この声って……、えっ!?
見間違えるはずもない。
聞き間違えることなんてあり得ない。
それくらい俺には自信があった。
俺の目の前に現れたのは、俺の最推し声優でクプラニ【PiliNa】のアイナちゃん役、
「……水梨愛菜さんが……彩菜の……知り合い!?」
推し≠恋 ~才色兼備なクール系ツンデレギャルと陰キャオタの俺が同じ趣味で距離が縮まった、と思った矢先に勘違いされてしまった!どうする俺?!~ 虎娘 @chikai-moonlight
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