24話 ビバッ夏!
蝉の鳴き声、日の出とともにジリジリとした暑さで目を覚める季節がやって来た。
アスファルトの照り返しで地面からくる暑さと、天から振り落とされるギラギラ太陽の暑さのダブルパンチを受けながら登校するのも今日で最後――。俺は、俺自身をそうやって鼓舞しながら教室へと向かっていた。
教室の扉を開けると、ひんやりとした冷気が火照った身体へと瞬時に染み渡り、生き返る心地を身をもって感じていた。
「生き返る~」
後ろから聞こえた声に思わず振り返ると、俺と同じように全身で冷気を感じる大八木くんの姿があった。
「大八木くん……おはよ」
「おはよぉ、凛人。毎日毎日暑すぎて、俺はもう干からびそうだぁ」
「確かに……。学校に来るだけで汗だくになるもんね……。けど、それも今日で終わりじゃん」
「んだねぇ」
2人揃って席へと向かうと、既に雫石さんも登校していた。
「雫石さん、おはよう」
「おはよう」
夏季休暇前もあってか、教室内は朝から和気藹々としていた。
終業式を終えたままHRが始まり、担任から夏季休暇中の注意事項について説明が始まった。
「夏休み、だからといって羽目を外し過ぎないように!それぞれ科目別に課題もあれば、夏季休暇明けには期末試験も控えているので、充実した実りある休みを過ごしてくださいね!」
――なんだか言い方に棘があるが……、まぁ担任がこうやって注意しないと示しがつかないもんな……。中間試験よりも範囲は広いし、課題もこなして各教科の総復習もしないと……。
長いようで短いHRが終わり、校内大掃除を終えた後、長期夏季休暇の幕開けとなった。
その日の夜――。
ブブッ――。
スマホには雫石さんからのメッセージが表示されていた。
『さっき店長からシフトの案内来てた。ほとんど一緒だったよ。よろしく』
――おぉ!……って俺にはまだ来てないけど……。さすがは店長!きっと一緒になるように采配してくれたんだ!感謝感謝~。
『そうなんだ、よろしく』
『もしかしてまだ店長から連絡来てない?』
『うむ』
『じゃぁ送るね!』
『ありがとう!』
こうして送られてきたシフトを見ると、確かに雫石さんと丸被りの日がいくつもあった。
――祇園祭りの日は……、おっ!午前中だけだ!……夕方までだと、人込みで帰れなくなるからな……この日は誰が……あぁ店長自ら犠牲になるのね……。ご愁傷様ですが、ありがとうございます。
窓に向かって俺は手を合わせ、心の中で店長にお礼を唱えていた。
◇◆◇◆
夏休みに突入して以降、何かと忙しい毎日を過ごしていた。
決まった時間に起床し、バイトまでの短い時間の合間に課題を進め、バイト先では雫石さんと一緒に商品の入れ替え作業に追われていた。
「この時期って、結構商品の入れ替えがあるんだね……」
そう言いながら雫石さんは、てきぱきと作業を進めていた。
「夏のイベントに向けて関連商品が出たりするからね……にしても多い」
倉庫はエアコンが備え付けられておらず、いくら朝とは言えど暑さが半端なかった。
「ちょいちょい休憩挟んでね~。今年の夏はかなり暑いみたいだし、脱水にならないように気をつけてね……」
店長も汗だくになりながら荷ほどきをしたり、オンラインで発注されたお客様の商品を、受け取り日別に合わせて棚に置く作業をしていた。
「そういえば、クプラニの夏イベント進めてる?」
「もちのろん!今回はサマフェスが舞台だし、各グループの新曲も披露されてる激アツなイベントだよねっ!」
「さすが神蔵……やりこんでるな」
「ちなみに……SSRカードがアイナちゃんともなればガチャを回すよねぇ」
「神蔵の推し、そういえばアイナちゃん……だったね」
「そう!あの少し吊り上がった目に、綺麗なハワイアンブルーの瞳、前髪ぱっつんによく似合うロングヘアが特徴的なアイナちゃん……あぁ尊い……その上、アイナちゃんの声を担当している水梨愛菜さんがまたいいんだよ」
いつも以上にトークスピードを上げ、ペラペラと話してしまったことに後悔するも、推しに対する想いを話すときには致し方ないことだからと、俺は気にかけないことにした。
「……神蔵は声優も詳しいんだ……」
「詳しい、というか、クプラニに出会って声優さんにも詳しくなった感じかな」
「そっか……」
雫石さんの表情はどこか切なそうに見えたが、その理由を聞く間もなく、店長に呼ばれ俺たちは別々のブースで作業をすることになった。
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