11話 夜♤男子部
昼間、他クラス合同でカレーを作り、なんだかんだ仲良くできたのではないかと思う反面、1人になった途端俺は気疲れを感じていた。
――俺でこんなにも疲れを感じてる、ということは……、雫石さんはもっとかも……。野辺さんの包丁さばき、見ていて怖かったからなぁ……。怪我せんで良かったけども。
とぼとぼと部屋へ向かう中、他クラスらしき男子がコソコソとしていた。
俺は彼らの視線の先を確認してみた。
――やっぱり……。
通りすがりに聞こえて来た内容も想像通りだった。
「あの人が噂の雫石さんやろ」
「そうそう。高嶺の花やわ……まじで」
――男側からすると、確かに高嶺の花かもしれんな……。俺ですらクラスが同じじゃなかったら関わることもなかったやろうし……。
「ねぇ!」
「ふぁい」
すれ違いざまに声をかけられたため、俺は驚きのあまり変な声を出してしまった。
――いきなり何事っ?!
「2組の学級委員されてる方っすよね!」
「あ……、はい」
「あの……し、雫石さんって……彼氏、いるんですか?」
――なんだこいつ。なぜ俺に訊く……。本人に訊けばいいのに。
とか頭の中で思いつつも、答えないわけにはいかず、俺は小声で答えた。
「……本人に訊いてください」
「やっぱそうっすよねぇ」
「頑張れよ!」
「お前はいいよな!彼女いるんだし!」
「だから協力するって言ってるじゃん」
――このまま何も言わずに立ち去ってもよいのだろうか……。俺は一体何のために声をかけられたんだろうか……。
「あの……俺、行きますね」
「あっ、すんませんでした。あざっす」
よくわからない絡みを受けてより一層疲労感が増した俺……。足早に部屋へと向かうことにした。
部屋に入ると、見慣れた人物が元気よく俺を出迎えてくれた。
「お!凛人おかえり~。待ってたよ!」
「……大八木くん」
「え……、なんか急に老けた?」
「……まじか。……そんな風に見えるんだ」
「学級委員ってマジで大変そう」
「そう思うんやったら変わって」
「遠慮しとくわ!……それより、風呂行こうぜ!」
「まだ入ってなかったん?」
「俺ら、凛人を待ってた!」
大八木くん含め、他3人のクラスメイトが俺の事を待っていてくれたと知ると、急に嬉しさが込み上げ、目がうるうるし出した。
「神蔵~、泣くなって!」
「……泣いてない!」
「ほら行こうぜ~」
5人でいそいそと大浴場へと向かい、シャワーで1日の汗を流し、疲弊していた身体を労うように大きな湯舟に浸かりながら温まっていた。
「大人数で入る風呂って、ええよなぁ」
「わっかる~」
「ってか、体つきええな!」
「どこ見てんねん、変態っ!」
「はははは」
他校生なのか、同じ学校の他クラスなのかわからないが、わいのわいのと騒ぐ俺たちを見る視線は痛かった。が、そんなことを気にすることなく俺たちは入浴タイムを堪能していた。
身体もほくほくに温まり、程よい眠気があったが、同室の彼らからは「夜はまだまだこれから~」と言わんばかりの生気が感じられた。
部屋へと戻り、しばらくすると別のグループの男子が入って来た。
「よぅ!」
「おっす!」
――誰が呼んだんだ?……ってか、なんで集まるの?集まる必要ある?ちな、俺……疲れて眠いのだが?
色んな疑問が俺の脳内をぐるぐると走り回っていた。
次から次へとメンズが集まり、2段ベッドの下段も活用するように腰掛けた。
「はい!ではただいまより、2組の男子会を始めま~す」
「いえ~い!」
パチパチパチ――。
「はぁい!ずばり!今夜のテーマは……好みの女の子についてですっ!」
「いいね~」
「それは同じクラス内?他クラスもOK?」
「そこは同じクラスの子やろ」
「挙手制か?」
「ほいじゃ、まずは足立さんが好みの人、挙手!」
こうして始まった謎の挙手制投票……。誰1人として手を挙げない中、投票は進み――。
「はい、じゃあ、次……雫石さんが好みの人~」
予想通り、大半の男子が手を挙げた。周りをキョロキョロと見渡しながら、俺も小さく手を挙げた。
「やっぱそうだよなぁ」
「だって、可愛い……というより、綺麗!」
「ほんとそれな!」
「誰も寄せ付けないオーラと言うか、クールな感じが堪んないよなぁ。あと……男には魅力的な丁度いい膨らみね!」
「大八木とか神蔵は席が近いのもあるんだろうけど、結構話してるよな!マジで羨ましいわ!」
「はあ?だったら喋りに来たらええやん!」
「……恐れ多い」
「何話していいかわからんもん!雫石さんはね、高嶺の花だよ!」
「雫石さんって、彼氏いるのかなぁ」
「年上の彼氏がいそうなイメージ」
「わかるわ~」
好みの女子の話から、いつのまにか雫石さんの話で盛り上がり始めた俺たち……。
――そういえば、雫石さんって彼氏いるのかな……。
ズキズキッ――。
――まただ……。前にも感じたこの胸の痛み……というか違和感。
胸の辺りに手を当てしばらくすると違和感はなくなった。
ズキりとした痛みの正体が何なのか、この時の俺は気づく術を知らなかった。
「あなたたち!いつまでそうやって喋ってるつもり?」
「うおっ!せんせーじゃん!」
「さっさと寝なさい!」
結局、俺が考え事をしている間にどんな話をしていたのかわからなかったが、突然現れた担任の一喝で男子会はお開きとなったのだった。
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