12話▶️クラス内の変化

「神蔵くんおはよ~」

「お、おはよぅ」


 合同交流会を終えてから、クラス内の雰囲気、というか空気感が変わった。


「彩菜おは!これ、昨日言ってたやつだよ~」

「ありがとう。なるはやで読むわ」

「急がないから、ゆっくり読んで」


――待って待って……。彩菜って、雫石さんのことだよね……。いつの間に名前で呼んじゃってんのぉ?やっぱりこの間の合同交流会の影響なのか……。


 合同交流会以降、より一層クラスの仲良し度が増したような印象を受けていた。

 クラス内の馴染み具合に少し躊躇いながら、俺はいつものように自分の席へと着いた。


「凛人、おはよ」

「おはよう、大八木くん」

「お前も気付いた?」

「う、うん……」


 大八木くんは耳打ちするようにいつもよりも小さめの声で話した。


「女子同士の仲が深まってるよな」

「やっぱりそうだよね!俺も思った」

「その証拠に、女子同士では下の名前で呼び合ってるんだよ」

「はは、よくそんなことにまで気付いたね……俺はそこまでわかんなかったや」


 彼の言う通り、周りを見てみると……確かに女の子たちの間では苗字呼びから下の名前で呼び合ってる風景が広がっていた。


――これが1泊2日の研修旅行の成果か……。


 仲が深まったのは女子だけではない!こちらだって男子会を経て仲を深めることができている……はずだ。今まであんまり話をしなかったクラスメイトとも話したり、なんなら連絡先だって交換した。


――何の意地を張ってるのやら……。


 溜息を吐きながら1限目の準備をしていると、隣から雫石さんが声を掛けてきた。


「神蔵、今日の昼休み、クプラニのイベント始まるの知ってる?」

「勿論だよ!」

「俺も知ってる!」

「大八木には聞いてない!」

「つ、冷たぁい」


 雫石さんが言うイベント―—それは、クプラニ初のシャッフルユニットによる新曲お披露目イベントのことだ。これまでは各グループ内での楽曲しかなかったが、グループの垣根を越えてメンバーがシャッフルされる、と発表された時には興奮したのを覚えている。


「まだメンバーは発表されてないんだよね」

「そうそう、全貌が明らかになるのは12時!今から楽しみだね」

「そうだね」


 雫石さんと俺がこうして仲良くなれたきっかけとなったクプラニ、本当にありがとう。

 昼休みが待ち遠しいと思いつつも、学力に支障が出ては元も子もないため、俺は勉学集中モードで授業に臨むことにした。



◇◆◇◆——


 キーンコーンカーンコーン―—


 待ちに待った昼休みを知らせる4限終了のチャイム。


「はい、では今日はここまで。あぁ……皆も知ってると思うけど、ゴールデーンウィークが明けたら中間テストが待ってるんだからな!気を引き締めて勉強しろよ!」

「「は~い」」


 よりにもよって人が楽しみにしているイベント前にそんな事を言う必要があるのか、と思いながらも、教師からすると羽目を外し過ぎるなよ、と忠告しなければいけない事情があるのだろう。ゴールデンウイークに遊べばその分試験結果に支障が出るんだぞ、と言いたげな数学教師はそのまま教室を出て行った。


「中間かぁ。もうそんな時期ぃ?俺……やべぇかも」

「え?……それ本気で言ってる?」

「冗談でそんな事言う訳ないっしょ!」

「まぁ、なんとかなるよ。あれでしょ、ゴールデンウイーク中、部活も休みになるんでしょ!だったらその間に勉強しようよ」

「……そうだ!」


 キラキラと目を輝かせながら俺のことを見つめる大八木くんに、俺は嫌な予感がした。


「凛人の家で勉強会をしよう!」

「却下」

「なんでよぉ!冷たい!」

「俺、バイト入ってるから」

「そこをなんとかぁ。凛人様ぁ」

「予定見て考える……」

「私も参加しようかな……」


 雫石さんの思わぬ発言に、俺はそのまま固まってしまった。


「……三人寄れば文殊の知恵、って言うじゃん」

「あぁ……そうだね。予定……確認してまた言うよ」

「やったぁ!……って、もうすぐ12時になる!俺、ダッシュで購買行ってくる!」


 猛スピードで教室から出ていく大八木くんを見送り、俺はいつも通り弁当箱を出し、黙々と食べ始めた。


――家に来てもらうんだったら……掃除しないとな。ゴールデンウイーク中に友達を家に呼ぶ事言っとかないとな……。


 俺は昼食を摂りながらスマホでクプラニにログインし、待機態勢に入った。隣では同じようにスマホを見ながらサンドイッチを食べている雫石さんの姿があった。


――いつも思うけど、雫石さんって食べ方綺麗だよな……。サンドイッチってパラパラこぼれるイメージがあるけど、雫石さんの場合はこぼれない……。なんかコツでもあるのかな……。


「あっ、いたいた!あーちゃん!」


 大きく手を振り、教室に入ってきたのは1組の……野辺さんだった!

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