9話 見かけによらず家庭的
雫石さんとともに1組と3組の学級委員が待つエリアへと向かうと、案の定とも言うべきなのか、見覚えのある2人の姿があった。
「おっ、やっぱし君たちと一緒だったんだぁ。よろしく~」
「……よろしく」
大きく手を振り、俺たちを迎えてくれているが、雫石さんは至って冷静……というべきか、彼らを視界に入れてないようだった。
「2組の神蔵と、こちらは雫石さんです。よろしくお願いします」
「3組の
「1っ組の
簡単に自己紹介を終えた俺たちは、早速調理へと取り掛かることにした。
「料理とか普段からしないし~野菜とかってどうやって切るの~」
「俺もわっかんなぁい」
「だったら、野菜の下準備とかはこっちでするから、竹中くんと野辺さんはご飯……炊いてくれる?」
「りょっ!……つっても、それすらわっかんないわぁ」
「……」
――なんだこの重たい空気は……。こんなことを言ってはいけないとわかっているのだが、言わざるを得なくないか?協力どころかむしろ、足手まといです……と。
「じゃ、じゃあ、私と一緒にご飯を炊く準備をしませんか。私、よくキャンプするので、ご飯の炊き方教えることできますし」
――金森さん、ナイスフォロー!機転が利くと言いますか……さすがですっ!
ふぅ、と一息吐き、ちらっと隣で野菜を洗っている雫石さんの方を気にかけてみた。
「……何?」
「あっ、いや……何でも……」
「1組の2人、今時の高校生って感じだよね」
「えっ?」
「明るいし、できないことははっきり言う。積極的にコミュニケーションも取ろうとしてる。……なのに、私は自分で壁を作ってしまっちゃてる」
「べ、別に、そこまで気にしなくてもいいと思うよ。皆が皆、仲良くなんてできないんだし」
「ふふ、ありがと。神蔵ならそう言うと思った」
「あ、あははははは」
「よし、これで一通り洗えたし、田邊くんのところ行こっか」
「うん」
ざるに洗い終えた野菜を詰め込み、雫石さんと俺は調理台へと戻ることにした。
キャンプ飯の定番といえば、なぜにカレーになるのか……。俺はいつも疑問に思いつつも、美味しければ何でもいいかと適当に自分自身を納得させていた。
「そういえば、雫石さんって家で料理するの?」
「たまにするよ」
「やっぱり。手慣れてる感じがしたからそうだろうな、と思った」
「そういう神蔵だって手慣れてるじゃん」
「そうかなぁ」
「野菜の切り方、私よりもリズミカルだし、早い」
「……お褒めに預かり光栄です」
――雫石さんに褒められると、なんだか胸のあたりがむずむずする……でも嫌じゃない!
「うわっ、マジで手慣れてるぅ」
雫石さんの隣から、ひょっこりと顔を出した野辺さんが包丁さばきをまじまじと見ながら言った。
「ちょっ!急に顔出すな!危ないだろ!」
「ごめ~んって」
「……」
「そんなに怒んなくてもいいんでない」
「別に……悪気がないなら……いいよ」
「ねね、あたしもやりたい!」
「は?包丁、持ったことあんの?」
「ないけど、いけるっしょ!」
「いけるっしょって……。ってか、野辺さん……さっき、ごはん炊きに行ったんじゃないの?」
――そう言えば……3組の金森さんがフォローしてくれてるはず……だよね?
ふと気になり後ろを振り向いてみると、金森さんと竹中くんが2人で何やら楽しそうにお喋りをしている姿があった。
「竹ちゃん、誰とでも仲良くできるし、今はあたしがいない方がいいかな~って。安心して!ご飯はちゃんと炊けてるから」
片目ウインクパチっ――。
――眩しい……これぞ、典型的なギャルパワー。……俺には眩しすぎる!
「指には気をつけて!猫の手だよ」
人参を切ろうとしている野辺さんに向かって、雫石さんが言葉で教えようとしていた。
「ねこのて、って何っ?」
「指先を、こうやって丸めるの!じゃないと、指先切り落とすよ!」
――切り落とすって……そんなオーバーな。
雫石さんが指先を丸め、野辺さんに手本を示しながら一生懸命教えていた。見る限り、確かに野辺さんの包丁さばきはヒヤヒヤすることが多く、その度に雫石さんが慌てふためくようにフォローしていた。
――いつもとは違う雫石さん……。なんかいいなぁ……。
「神蔵くんっ!」
「ふぇっ?!」
「ぼーっとしてると、神蔵くんの指がカレーの中に入っちゃうよ!」
田邊くんに指摘されるまでジャガイモと一緒に俺自身の指を切り落とすところだった。
「ちょっと、指なんてマジ勘弁だかんね~。何ぼ~っとしてたんよぉ。もしかしてぇ、あたしの包丁さばきに見惚れたのかなぁ?」
「野辺は自分のことに集中しろっ!」
――雫石さんに見惚れていたなんて、口が裂けても言えないわ!
頬を少し赤らめながら、俺は目の前のジャガイモと向き合うことにした。
始めは距離を感じていた面々とも、次第に打ち解けることができ、何事もなく美味しいカレーを完成させることができたのだった。作り終えたグループごとに昼食時間となり、俺たちも他のクラスメイトよりも少しだけ遅くなったものの、美味しくいただくことができた。まぁ……、具材の大きさに違和感を覚えたが、味が良ければすべて良し、と俺自身に言い聞かせ束の間のランチタイムを楽しんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます