8話 モヤモヤした気持ち
高校生活は早くも1ヵ月が経とうとしていた。
クラス内もお互いのことを理解し、それぞれが気の合う人同士でつるむようになっていた。
俺自身も、圧倒的陽キャの集団に馴染めるにまでなった、と言っても挨拶程度のレベルだ……。
一方、雫石さんは皆と一歩距離を置いている感じがした。誰も寄せ付けないというか、パーソナルエリアに踏み込んで来て欲しくない、と言わんばかりのオーラがあった。
一応、席が近い大八木くんと俺とは普通……に会話をしている、と思う。
そんでもって迎えた
「はいは~い。みなさ~ん、これからバスに乗りますので、2組の人たちは私に付いて来て下さいね」
大きめの荷物はドライバーに任せ、がやがやと話をしながら俺たちはバスへと乗り込んだ。
基本的に座席は自由なのだが、学級委員は移動中も打ち合わせがあるため、強制的に教員の隣へ座ることになっていた。
――まぁ、雫石さんの隣でもあるからいいか。
高校を出てバスに揺られること約1時間半――。
終始車内は賑やかだった。
やがて看板が見えて来た。『
バスを降り、学年全員が集まれるホールへと案内された俺たちは、クラス内で予め決めた班毎に並び、施設職員のオリエンテーションを受けていた。
「以上でこの施設の案内は終わります」
「ありがとうございました。ではこの後、各自一旦荷物をロッジへと運んで下さい。各クラスの学級委員は荷物を置いたらすぐにここへと戻って来て下さい」
――思うんだが、学級委員ってこんなに色々としないといけないのか?何でもかんでも学級委員頼りなのもどうかと思うんだけどなぁ……。
「学級委員ってさ、色々と任されてる分、傍から見るとすんごい頑張ってる人、って思われがちなんだけど、実際は教師の面倒事を押し付けられてるって感じだよね」
ふと隣から聞き慣れない声が聞こえてきた。
「えっ、あぁ……、うん」
――これって、俺に話しかけてるんだよな……。……そうだよな。っつか、俺たち……面識ありましたっけ。どちらかと言うと初めましてレベルですよね?
「ちょっ、竹ちゃん!」
「ん?おせーじゃん」
「おせーじゃん、じゃないよ!隣の彼、びっくりしてんじゃん!」
「うおっ、まじか。……なんかごめん」
「いえ、お気になさらず」
俺はすぐさま話しかけられた2人から距離をとった。どこからどうみてもギャル男とギャルだ。見た目で判断するのはよくないとわかっているが、どう見ても……1組だろう。
――というか、あの2人の距離の近さはなんなんだ?もしかしてあの2人はそういう関係なのか?……いやいや、憶測で物事を判断してはいけない……仲がいいだけだ、きっと。
脳内で色々と考えを張り巡らせながら、俺は辺りをきょろきょろ見渡し雫石さんの姿を探した。すると、ホールの入り口近くで、他クラスの男子に声を掛けられている雫石さんの姿が目に入って来た。
――あの人たち、この前教室を覗きに来てた人だよなぁ。……確か、この合同交流会で仲良くなる、的なことを話していたような……。
モヤモヤ――。
胸のあたりに何やら違和感を感じた俺だったが、その症状はすぐに落ち着いた。
――さっきの感じ……一体なんなんだ?
「お待たせ」
近くから聞こえてきた声に驚きながら顔を向けると、俺の隣には雫石さんが来ていた。
「あぁ……うん」
――さっきのことは聞かなくてもいいよね。そんなこと聞ける立場じゃないし、そもそも聞かれたくないだろうし……。
「さっきさ、5組の男子に絡まれた」
「ふぇ?」
「ふふ、何その反応。変なの~」
俺の反応に、いつもはクールな雫石さんが口に手をあてて笑っている。
――待って待って……その反応は一体なんぞ?かわ、可愛すぎるでしょ~。それより俺、今しがた変な反応してましたっけ?雫石さんに笑われるような事しましたか……?……どういうこと?
一旦心を落ち着かせ、俺は雫石さんに尋ねてみた。
「絡まれたって……その……大丈夫だった?」
「連絡先教えて欲しい、って言われたけど断った」
「え、あぁ……そうなんだ」
「見ず知らずの人に個人情報を教えるなんて怖すぎでしょ」
「そ、そうだね……」
――ということは、だよ。雫石さんの連絡先を知っている俺って……すごくないか?クラスメイトですら知ってるのは俺だけなんじゃないか。……これこそ優越感、という感情なのでは!?
ニヤけそうになる表情筋を引き締め、俺たちはぞくぞくと集まってくる他クラスの学級委員とともに与えられた作業に取り掛かることとした。
山の家に到着後のビッグイベントその1、として予定されている各班毎でのキャンプ飯――。
雫石さんと俺は、予め用意していた人数分の食器・調理器具が入ったカゴの前に立ち、受け取りに来たクラスメイトへ渡していった。
大八木くんが俺たちの元へ来た際――。
「そういや、神蔵と雫石はどこの班に入るんだ?」
「あぁ……他のクラスの学級委員と合同なんだって。確か……」
「1組と3組」
「そうそう!」
「はは、それはそれで大変そう……じゃあな!」
――他人事だと思って……。大変そう、じゃなくて大変なんだよ!同じ校内にいても面識がない人と一緒に共同作業なんて……。俺みたいな陰キャには無理ゲーだって……。
「他人事だと思ってるよね」
「えっ、……うん」
雫石さんの言葉に俺は一瞬、心を読まれたのかと思った。
「ほんと、こうゆう共同作業って苦手だわ」
「わかる。……俺も苦手」
「人見知りには難易度が高いよね」
「うん。陰キャのオタには眩しすぎる」
「陰キャのオタって、神蔵のこと?」
「俺以外にいないでしょ」
「私はそんな風には思わないけどな」
「え?」
「ほらっ、私たちも準備しに行こ」
そう言いながら俺の前を歩き出した雫石さんの姿は、この場にいる誰よりも輝いて見えていた。
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