5話 クプラニの世界観

【クプ☆ホクラニ】略して【クプラニ】は、ユーザーがマネージャー視点でアイドルグループの誕生や、様々な困難を乗り越え成長する姿を見ることができる、4年前に配信されたアイドル育成型のアプリゲームだ。ライブ映像はもちろん、グループ毎にオリジナルの楽曲をゲーム内でリズムゲームとしても楽しめる仕様になっており、俺は配信された当初から沼にはまっていた。


「なな、素朴な疑問なんだけど、クプ・ホクラニって何語?聞いたことないんだけど……」

「ふふん。大八木くん、よくぞ聞いてくれました」


 鼻をひくひくとさせた俺は、人差し指をぴーんと立て、誇らしげな表情……自分で言うのも恥ずかしいが、自慢するように答えた。


「実は、このゲームのシナリオライターがハワイをリスペクトしてる人なんだ!ハワイアンスピリチュアル……っていうのを重視してて、クプ・ホクラニも、それぞれのグループ名もハワイ語で構成されているんだよ」

「へぇ~」

「ハワイ語でクプは育成する、ホクラニはきらめく星っていう意味があって、きらめくスターを育成する、っていうテーマがタイトルになってる」

「雫石さんも詳しいんだね」

「ま、まぁね。けど……神蔵ほどは詳しくないよ」

「……」


 思わず俺は雫石さんに見惚れてしまっていた。

 普段は寡黙な人なのに、こうして少し照れながらも、好きな話オタトークをする彼女は……綺麗だった。


「ちょ、何黙り込んでるのよ!さっさと説明の続きをしなよ」


 タンブラーの蓋を開けながらこっちを見る雫石さん……。


 ――恥ずかしいのかな、雫石さん。手元がすごく覚束ないな。……可愛い。……はっ!俺は何を言ってる、いや考えているんだ!だめだだめだ、大八木くんに続きを説明しなければ……。


 俺は平静を取り戻し、大八木くんへ説明を続けた。


 今現在、クプラニのアイドルグループは3つ――。

'AmOアモ】光のきらめき――という意味を持つ4人のメンズグループ。全員明るく、考え方も基本的にポジティブ。メンバー間の仲は良いが、音楽の拘りが強いキャラが集まっており、衝突するストーリーが多くなっている。その分、彼らの成長を見て応援したくなるファンが多くいる。


LiNoリノ】輝く――という意味があり、きらきら輝くガールズコンビ。メインストーリーで展開される、2人がアイドルとして伸び悩む中、活動休止するしないで葛藤する回は何度も読んだ記憶がある。彼女たちが苦しんでいる姿は、涙なしでは見られない……。


PiliNaピリナ】絆――という意味があり、クプラニ初となるメンズ&ガールズグループ。3周年イベント時にサプライズで発表された期待の新星たち。彼らの立ち位置は【'AmO】や【LiNo】の後輩として設定されている。そして何よりも、俺の最推しがいるグループだ。


 アニメで放送された第1シーズンは、【'AmO】が誕生してドームライブをするまでが描かれている。そして、今月から始まっている新シーズンは、涙なしでは見られない【LiNo】のストーリーだ。1話目だけでも、俺はうるうると泣きそうになりながら見ていた。ストーリーが進むにつれ、俺の涙腺はきっと崩壊するに違いない。


「大まかな説明はこれくらいかな」

「前に言ってたさ、初回はSSRが何回でも回せるってどういうことなん?」

「それは、始めっから推しを選べる特典があるんだよ。無料10連ガチャに必ず推しのSSRが付いてくる!レベル上げには何度もリズムゲームに挑戦しなあかんけど、慣れれば楽しいはず。ほら、案内が出てきたよ」


 大八木くんのスマホ画面には、初回にしか出てこないクプラニのマネージャーとしてのお仕事ストーリーが流れていた。


「俺……このイラストすきやわぁ。男女問わず人気になりそうな感じがする」

「始めは女性ユーザーが多かったみたいやねんけど、ストーリー性とか楽曲の良さに男性ユーザーも魅力を感じて登録する人が増えたっぽいよ」

「そうなんや!……やべぇ。これ……めちゃくちゃ悩む」

「あぁ、最初の選べるメンバーね。俺も悩んだ」

「今すぐは難しいなぁ。家帰ってからゆっくり考えようかなぁ」

「それがいいと思う。また来週、誰にしたか教えて」

「りょーかい!あっ、そうだ!参考までに凛人の推しが誰か教えて」

「俺の推しは、【PiliNa】のアイナちゃん。メンバーカラーは水色だよ」


 俺は大八木くんに、俺が集めたSSRアイナちゃんコレクションを見せた。レギュラー衣装からイベント限定の衣装に至るまで、集めに集めた最推しの数々……。


 ――本当、尊すぎる!


「すっげぇ!これがオタクの極みか!」

「ははは、言い方」

「そうや!週末に入ったら聞きたいことも聞けへんから、連絡先教えてよ」

「えっ、あっ、うん!」

「ねね、雫石さんも連絡先交換しよ」

「私はパス。……別にそこまで仲良くないし」

「あちゃま~はっきり断れたわ!ははは」


 ――そこまではっきりと言うんだぁ。ま、確かにそうだよね……。まだ知り合って数日だからね……。可能なら俺も連絡先を知りたかったけど……残念。


 長いようで短い昼休みが終わろうとしていると、教室の入り口近くで森口先生が誰かを探している様子が伺えた。


「おっ、いたいた!神蔵さんに雫石さん!放課後、ちょっと職員室に来てくれるかな~」

「はい、わかりました」


 雫石さんは先生に向かって小さくお辞儀をした。その姿を見た先生は、伝えるべきことが伝わったと判断し、教室から離れて行った。


「学級委員も大変だな」

「まぁ、……そうだね」


 そう言いながら、俺たちは午後の授業に向けて準備をするのだった。

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