エピソード2 第七話
「レジスタンス最大の拠点が帝国に発覚し、現在大規模な撃滅作戦が計画されています。このままではレジスタンスの壊滅は必至でしょう。そこをアステル様に救援して欲しいのです」
「ちょっと待て、勝手に話を進めんな」
いきなり現れて、レジスタンスを助けろだと?いくら何でも話が唐突過ぎる。
見上げるポスカの顔には何の表情も浮かんでいない。全くの無感情だ。
「はい、なんでしょう」
「……確かにスゲルソンには借りを作ったが、レジスタンスを救うことがその返済になる意味が分からねえ。ちゃんと一から説明しろ」
「私が開示できる情報は限られております。アステル様の求める情報は、私の権限では開示できません」
こちらの情報は掴んでいるが、向こうの情報は与える気が無いということか。
スゲルソンには確かに借りを作ったが、これはいくらなんでも不平等過ぎる。
それに、その問題はとてもデリケートなのだ。
自分がレジスタンスを助けることが本当に正しいのかまだ判断が付いていない。それなのに、他人に頼まれたからそっちに着きました、などと軽々しく流されていいわけがない。
「悪いがその話を受けることはできない。こっちにも色々と事情があるんだ。スゲルソンには悪いが、別の形で返済すると伝えてくれ」
「アナタが断った場合、開示せよと言われた情報が一つあります」
「……何?」
「この依頼を断ったら、『勇者』の所在を不特定多数の人間にばら撒く。とのことです」
その言葉を聞いて、思わず巨大な溜息を吐き出した。
今更ながら、スゲルソンに借りを作ってしまったことを後悔する。
特に、不特定多数というのが最悪だ。政府に告げ口する、ではなく、不特定多数と言ったのはつまり、道理を
それがどういう結果を招くか?『勇者』の噂を聞きつけた馬鹿が、第一発見者になるためにこの森を訪れるようになるということだ。
俺が馬鹿共に見つかるだけならまだいい。だがこの森にはボズ
フロリアがスゲルソンにボコの事を話したのだろうか?
とにかく奴は、知ってか知らずかこちらのアキレス腱を掴んでいるということだ。
「……そうか、分かったぞ。あの野郎、俺が借りを作った段階で全部仕組んでやがったな?帝国にレジスタンスの情報を売ったのもお前らだろう。そしてフロリアと何らかの密約を交わしてて、俺をレジスタンスに協力させる腹積もりだな?」
「私のような小間使いに、あのお方の考えは分かりませんので」
「あいつがただの小間使いを俺に寄こすかよ」
「それで、どうしますか?あのお方からのご依頼、受けていただけますか?」
ポスカはそういった事情に本当に興味が無いようで、その表情に一切の変化が見られない。ただ淡々と、受けるかどうかだけを聞いてくる。
スゲルソンめ、次に会ったら文句を言ってやる。そう心に決めた。
「……受けるほかないだろ」
「そうですか。では次の情報を開示いたします」
そう言うとポスカは地図を取り出し、テーブルの上に広げた。帝都を中心に、大陸全体が描かれている。
ポスカは帝都の遥か南東に位置する小さな森を
「現在位置がここです。そして……」
そこから指をズズッと北上させる。
「レジスタンスが現在拠点としているのが、このホークランの街です」
なるほど、この森からそう遠くない。
ここに移動する途中で襲撃を受けたフロリアがこの森に逃げ込んできたのも理解できた。
「そして、現在この街に帝国軍の大部隊が進行中です」
ポスカの指が、帝国軍の現在位置と思われる場所を指示した。
「……かなり、近くないか?」
彼の指が置かれた場所と街との距離は、この森からのそれよりも遥かに短い。
ポスカは無感情な声で答える。
「ええ、本当はもう少し早くアナタに向かってもらう予定だったのですが、この場所を探すのに想定よりも長く時間が掛かりまして」
「これ、今から出ても俺が到着する頃には接敵してないか?」
「そうですね。戦闘の途中でアステル様が乱入する形になります」
「……軍の数は?」
「数だけで言えば、1500ほど」
「レジスタンスは?」
「300弱かと」
数だけで言えば、5倍以上差がある。それに加え、装備や設備、物資の差だって天と地ぐらい差があるのは歴然だ。
本格的な戦闘が始まれば、1時間も持たないかもしれない。
急いで立ち上がり、支度を始める。
「それでは、私は会長に報告をしに戻ります」
ポスカはいつの間にか玄関に立っていた。
こんなに急ぐことになったのは手前らのせいなのに、無感情な声と表情は一切変わらない。まるで他人事のようで、腹立たしい。
出て行こうとするその背中に声を掛ける。
「おい!」
「……はい、まだ何か?」
「この返済、借り二つ分だからな!これで全部チャラだ!」
「……会長にお話ししておきます」
最後まで一切感情らしきものを見せないまま、巨漢はドアを閉めた。
それと入れ替わるように、ベッドの下から毛むくじゃらの魔王が這い出て来る。
「何だ今のやつは?何の話をしていたんだ?」
どうやら事情を上手く飲み込めていないらしい。だが全てを説明するにはあまりに経緯が長すぎる。
無視して最低限の支度を終え、魔王を脇腹に抱えた。
「おい、何をする?放せ!」
「なあ、今その体はどのくらい無茶して大丈夫だ?」
「傷はある程度塞がっておるが……貴様、何をするつもりだ?」
「……
森から一陣の風が飛び出た。
景色が線の様になって視界を流れていく。風圧で顔の皮膚がめくれ上がり、口の中が渇く。
魔王は今にも意識が飛びそうになる中で、ある記憶が頭に浮かんだ。
昔、幹部の一人が勇者と戦うのを水晶を通して観ていたことがある。その幹部は、勇者に捕まったまま高速で走り回られた結果、ボロ雑巾の様になって敗北した。
あの時はその不甲斐なさに憤慨したが、今、それを味わされて理解する。
これは、地獄だ。
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