第3話:庵

 山元桜が中等部のボス中島直美に性奉仕した様子をビデオに収めていた新聞部の八坂庵は、悶々としてベッドに伏せっていた。


 想い人が敵に屈したのを期せずして収めてしまった庵は撮った映像をループさせて流しながら必死に誘惑に耐える。


 直美と同じ加害者に堕ちたくない――しかしビデオの中では愛しい先輩があられもない姿で自慰よりも刺激的な行為に勤しんでいるのだ。


 夕食まで三十分という所でついに庵の理性は限界に達した。右の指を口で湿らせると下着の中に潜り込ませ、反対側の指で胸の突起の周りをなぞる。


「ふっ」思わず息が漏れる。いきなり刺激するのではなく、焦らす様に敏感な所に軽く触れる。頭の中で憧れの桜を犯す妄想に耽る。


「桜先輩……」この映像が有れば実際に桜を自分のものにする事も出来る――それが庵の性感を後押しした。嫌だという桜を無理やり手籠めにする所を想像する。断続的に秘所からいやらしい液が飛んだ。小柄な身体が幾度も跳ねる。シーツを噛んで声を押さえながらも指は止まらない。


「ふむッ!」脳裏に白い光が走り、庵はひときわ強くシーツを噛む。秘所から音を立ててねっとりとした液体が流れ出た。指を引き抜くと口に含む。


 桜に会ったらどんな顔をすればいいんだろう。それ以前に桜は夕食に来るだろうか。今日あんな目にあったばかりなのに。そんな事を思いながら起き上がって髪を分けて三つ編みにする。毛量の多い髪もそうすると魅力的に見える。衣服の乱れを整えて眼鏡を掛けると早めに食堂に向かう事にした。


 桜に会ったら手を握ろう、私の体液で桜先輩を汚したい。桜の痴態で絶頂してしまった以上失うものは無い――そんな思いに囚われた。


 動画も撮れるデジタル一眼レフを首から下げると廊下に出る。桜の部屋に行ってみよう、そう思った庵は寮生たちに挨拶しつつ目的地に向かう。


 愛しの先輩は部屋の扉にもたれかかっていた。庵を見ると疲れた様子でごきげんようと言ってくる。


「先輩。ごきげんよう」庵は敢えてそれに気づかないふりをした。桜の前に立つとその手を握ろうとする。


「庵――どうしたの?」桜は触れられた時にびくっと身体を震わせた。


〝先輩こそ、本当はそんな穏やかな顔をしてられないんじゃないですか〟そう言いそうになるのを何とか抑える。


「桜先輩――」庵は桜が泣きそうな顔になったのを見て、思わず桜の胸元に飛び込んだ。


「ちょっと、庵?」庵の突然の行動に桜は驚きの声を上げる。


 周りの女生徒達もざわめく。庵は頭を桜の胸に押し付けると首を振った。桜先輩を私のものにしたい。その思いが溢れる。


 桜は優しく抱き止めると抵抗を無視して庵を離そうとした。しかし庵は離れない。たっぷり五分ほど桜に抱き着いていた庵はようやく身体を引き離した。


 桜はどうして庵がそんな事をしたのか知る由も無い。


「真理愛先輩の件、上手くいったんすか――」庵はまるで心を見通したかのような表情だった。自分が何をされたのか知っているようだと思った桜はぎくりとした。


「まかせて。直美ごとき問題じゃなかったわ」内心の動揺を悟られないよう努めて明るく言う。


 庵から身をもぎ離した。


「食堂に行きましょう」桜の呼び掛けに庵は頷く。二人は夕食を取りに大食堂に向かった。


 *   *   *


 桜は真理愛に下着を取り返した事をすぐ伝えるべきか迷っていた。その事で頭がいっぱいでなぜ庵が執着するのか分かっていない。それは庵の恋を更に燃やす事になるのだった。


 桜に執着するのは後輩だけでは無かった。三日後――桜が真理愛の下着で自慰してしまった日、それをネタに桜はルームメイトの斎藤梓にまで身体を弄ばれたのだ。


 自慰を見られた時にそうされただけでなく、夕食から戻ってきた後もだ。


「冗談でしょ、梓――?」桜がベッドの上で後じさる。食事前にされたことを考えれば不思議では無かった。


「私が冗談なんて言ったことがあった?桜。私は本気」怪しく目を光らせて梓は言い放った。


「そんなことされたら、梓を嫌いになっちゃうわ」桜はとっさに言う。


「大丈夫、優しくしてあげる」梓はそう言いながら桜の右手を押さえる。


 梓の瞳には桜しか映っていない。


 幼馴染みがそんな暗い欲望を持っていた事に血が引けた。友達だと思ってたのに――裏切りだと思った。


 梓の手がひどく優しく胸を揉んだ。


「止めて」


「止めてあげない」制服の上から冷酷に梓の左手が桜の胸をキュッと絞る。


「痛い」その声に梓は口の端を上げた。優しさを込めながらも激しく桜の身体を蹂躙する。桜は抵抗していたが、ついに反応するのを止めた。


 桜はされるがままになる。


 不意に桜は頬に温かい雨が落ちてくるのを感じた。目を開く、梓の瞳から涙が零れている。


「梓……?何で泣いてるの」


「泣きもするわよ!」梓は怒鳴った。


「私がどんなに想っても桜は真理愛の、中等部の聖母様のところに行ってしまうんでしょ!桜を一番良く知ってるのは他でもない!私よ!その私の、想いは!どうなるのよ――!」


 桜は梓が自分を犯そうとする理由を悟った。自分のものにならないなら、せめて忘れられない傷をつけようと――それが分かった時、梓の想いを受け入れる覚悟が出来た。


「梓」


「何よ」梓はムッとした顔で桜を睨む。


「私、真理愛を諦める事は出来ないわ。でも貴女の想いを拒むこともしない」


 梓は桜を嬲る手を止めてその言葉を反芻する。自分の事だけで、桜や桜の真理愛への想いを全く考えていなかった――その事に思い至ってようやく我が身を引き裂く激情から逃れられた。桜は自分を拒んではいないのだ。


「処女は捧げられないわ。でも――」


「残念」泣き笑いになりながらも梓はいつもの調子を取り戻す。


「身体はしっかり堪能させてもらうわよ。一人占めできないんだからせめてそれくらいは」


 そして梓は満足するまで桜を弄ぶ。


 改めて桜の制服を一枚ずつ脱がせてゆく。


「私のも脱がせてよ――」桜を促す。桜が服に手をかけると梓は声を上げる。真理愛よりも先に桜をものにした。それが梓に優越感を抱かせる。


 桜が自分の上着とスカートを脱がせるのを待って彼女の首元に頭をうずめながらブラのホックを外す。


 こぼれ出た年の割に大きな双丘に手を伸ばす。房に触れると桜は鼻にかかった声を上げた。


 桜が梓をそっと押す。二人は一旦仕切るように身を離した。


 蛍光灯の光の下、お互いに胸を隠し、ショーツだけになって見つめ合う。梓は感極まって桜に抱きつく。


「今は私のことだけ考えて――」梓は桜にそうささやいた。そのまま耳をしゃぶる。桜は身を震わせながら梓のショーツに指をかけて脱がせようとしてくる、梓は歓喜に腰を浮かせてそれに応えた。桜も膝立ちにさせると、同じように脱がせる。


 梓は自分の秘所が潤ってくるのを感じた。桜のそれはどうなのだろうと手を伸ばす。想い人のそこが自分と同じなのを感じて歓喜する。


「桜ぁ……」桜の手を取って自分の女の部分に触れさせる。桜の指がそこをまさぐる。秘芽を指が掠め思わず声が漏れる。桜の瞳に映る自分は女の顔をしていた。梓はもどかしく桜の唇を奪う。最初はついばむだけだったがすぐに桜の口内に舌を侵入させた。


 桜はそれを受け入れる。梓は気ぜわしく桜の口腔を犯す。その間にも胸と秘所を嬲ることも忘れない。桜の指が焦らすように同じ所を触ってくるのがもどかしくも心地良かった。段々と身体の中心に熱がたまってくる。梓は桜を押し倒すと彼女の舌を舐め回した。


 桜は泣き声の様な声にならない声を上げる。指は梓の秘所と胸を優しく刺激していた。桜も息が上がっている。自分と同じように快感を味わっていると知って梓は胸が締め付けられるような高ぶりを覚えた。桜の秘芽を輪を描くように触る。


 梓と桜はお互いを貪り合う。


 桜は梓を受け入れられるか心配していたが、それは杞憂だった。梓への愛しい気持ちがこみあげてくる。前から自分はこうなることを望んでいたのかと思う位だった。夢中になって梓の女の部分を触る。真理愛一筋だと思っていたのに、自分はこんなに無節操な女だったのだろうか。そんな思いも自分にすがってくる梓の目を見るとどうでも良くなる。梓の奉仕は間違いなく自分に快感を与えている。なら今、彼女も喜ばせることに何のためらいも無い。快感に悶えながら桜は梓にそれ以上の快感を与えることに暗い情熱を燃やしていた。この女を私の奴隷にしたい、そんな情欲に身を駆られる。誰でも良いという訳じゃない、梓だから、昔からの愛しい人だからそうしたいのだ。


「あ……」二人は吐息を零すと一心にお互いを気持ちよくすることに集中した、


「桜、桜・……ッ」「梓、あ!」時折チカチカと白い光が脳裏に走る。互いの名を呼び合いながら高まっていく。


「桜……好き……」梓が恍惚とした表情で呟く。梓は桜の秘芽を触る手を一瞬止める。直後、指で秘芽を押し潰した。


「ンああッ――!」桜も頭を振ると同時に梓の秘芽を圧しひしぐ。


「ああっ……あー!」二人は殆ど同時に高みに上り詰める。互いに身体に力一杯しがみついた。


 快楽に放心した二人は息も荒くベッドに身を投げ出した。


 桜の上にのしかかっていた梓は潤んだ瞳で唇に口付ける。


 名残惜しさを見せずに、実際はもっと余韻を味わっていたかったのだが、梓はベッドから降りた。桜に格好悪いとこは見せられない――精一杯の意地だった。


 散々喘いでしまって意味が無いと思いかけたがそれでも負けたとは思いたくない。


「お風呂に行ってくる。桜はどうするの?」目にかかった髪をかき上げ息を整えながら問い掛ける。


「私は――」桜は言いかけて言葉を止めた。結局梓の言いなりになっちゃった。快楽と後悔の狭間で複雑な思いだった。真理愛に初めてを捧げるつもりだったのに流されてしまった。自分の想いはそんなものだったのか、桜は首をぶんぶんと振った。そんなことは無い。真理愛のことはこれ以上ないくらい愛している。ただちょっと梓が可哀想に思ったからで――処女は奪われなかったんだから良いじゃない。桜は身勝手だと自覚しながらも無理矢理自分を納得させた。


 桜は両手で頬を叩くと気合いを入れ直した。真理愛に告白しよう、振られても良い、自分の想いを伝えないまま何も無かったことにしたくない。そう決心して、桜も風呂に向かった。


 このままだと流されるまま梓と沼にはまるような関係になってしまう。


 あと出来れば取り返した真理愛の下着は私のものにしたい。


 桜は部屋の明かりを消す。窓から月明りが差し込んでいる。


 部屋を照らす月はどこまでも静かだった。


 自分の邪まな思いが見透かされているように感じた桜はバタンと戸を閉めて部屋の外に出た。

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神様なんて大嫌いと少女たちは叫ぶ ~山元桜の愛と友情その2と2分の1~ ダイ大佐 @Colonel_INOUE

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