第8話 イソール③ 襲来

ー1915年9月2日ー


夜が開けると新聞が配られた。

どうやらこれからは兵士にも最新の情勢がわかるように軍が新たに決定したそうだ。

この新聞はブルーズ・タイムズという名前らしい。

なんとロレアン市内で起きていた大規模な航空戦はオルレアン帝国が勝利したそうだ。

これによりライヒ帝国空軍は二隻の飛行船と多くの航空機を失う大損害を受けたそうだ。

だがあの飛行船の活躍は凄まじく、広範囲を空爆し辺りを火の海にしたそうだ。

聞くだけでも恐ろしいな。

そして俺達は毎朝の新聞を楽しみに毎日を過ごした。


ー1915年12月24日ー


三ヶ月が経過した。

塹壕の周りでは雪が積もり、塹壕内では極寒が俺達を襲った。

一人に一枚毛布が配られたが薄いし小さいのでこれでは寒さしのぎにならなかった。だから死体に火をつけて暖を取らせてもらった。

そういえば今夜はクリスマスだ本当は家で過ごすと思っていたが、まさか戦場でクリスマスを過ごすとは思いもしなかった。

クリスマスということで仲間たちと小さなクリスマスパーティーをした。

再び小隊長から肉や酒をくすねて聖夜を楽しんでいた。

すると突然銃声が鳴った。

俺達は直ぐに持ち場に戻り塹壕の外を確認した。


するとそこには味方の兵士が倒れていた。

どうやらクリスマスということでライヒ兵と一日限りの休戦を結ぼうとしたそうだ。

そして実際に塹壕から出ると撃たれたそうだ。

本当に馬鹿なやつだ、敵を信用するからこうなるんだ。


だが他の塹壕では無事に一日限りの休戦を結び宴を開いたりしていたそうだ。

あいつは本当に運が悪かっただけのようだな、可哀想に。


ー1916年1月5日ー

クリスマスも終わり、ついに新年が明けた。

最近は霧がよく出て視界が悪くなる。

今日は特に霧が濃い。


そういえば最近機関銃の音を全く聞かないし、砲撃もない、なにかあったのだろうか。

俺は腹が減ったので配られたパンを食べ始めた。

相変わらずひどい味だ。

パンを食べていると何か地面が揺れているのを感じた。

揺れはどんどん大きくなっていった。

一瞬地震かと思ったが、俺は嫌な予感がして塹壕の外を見た。

すると霧の向こう側からは大きな鉄くずのようなものがこちらに迫ってきた。

俺は直ぐに銃を取り出して打ち出した、だがヤツはびくともしなかった。

ヤツは代わりに砲弾を撃ってきやがった。

俺はとっさに頭を下げ、危機一髪で避けた。

ヤツは塹壕を難なく突破した。

俺達は塹壕の奥地へ引いていった。


とりあえず俺はマルコじいさんを探した。

どうやらマルコじいさんはまだ最前線にいるそうだ。

俺は急いで最前線に向かった。

途中で多くのデカブツから砲弾を撃たれたが、塹壕を駆使して避けて進んでいった。

最前線に着くとマルコじいさんが一人でデカブツを撃っていた。


「なにやってんだじいさん!急いで退却するぞ!」


「だめだ、ワシはもう走れん。」


「何言ってんだよ、じゃあ俺が担ぐよ!!」


そう言うとマルコじいさんは悲しそうに俺を見つめ、話し始めた。


「お前のその目を見ると孫を思い出す、事故で亡くなったんじゃ。

だからお前だけでも生きてくれ、いいな?」


マルコじいさんはそう言うと俺を立たせて背中を押して言った。


「さぁ、走れ!振り返らずにな!!」


俺は泣きそうになりながら言った。


「マルコじいさんも絶対生き残ってくれよ!後でまた会おう!」


そう言うとマルコじいさんはまんべんの笑みで頷いた。

俺は涙をこらえて後方の塹壕へと退却した。

すると10秒ほど後に後ろから爆発音が聞こえた。

また涙がこみ上げてきたが、我慢して走り続けた。


するとやった後方の塹壕へと到着した。

俺達はこのイソールから退却することとなった。

俺は輸送車に乗り込み退却を開始した。

俺は敵の新兵器の前では何もできなくて自分の無力感で泣きそうになった。

でも泣いてもマルコじいさんは帰ってこない。

そう思い俺は泣くのを止め、強くなることを決心した。




 



                         イソール編完

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