08話 絶望郷の青い空 前
ぱっぱらぱー! 番組開始のファンファーレは、いつもよりちょっとだけ盛大に! なにせとってもいいニュースがあるからね! 今日も今日とて、絶望郷の太陽をスポットライトにキメポーズ! お待ちかねのニュースのお時間だ!
『へいへーい! “絶望郷に希望あれ”! 暗くて明るい皆の道化師、ディストピア☆クラウンだよ! 今日も元気に処刑ニュースいってみよう! さいしょのトピックは~こちら! 作戦報告! 軍人さんや、可愛いファミリア達の活躍を発表しましょう! じゃかじゃん!』
さぁて、どんなことをしたのかな? ぽわんぽわんと吹き出し浮かべて、皆の活躍を思い出そう! おや、落書きみたいに描かれた、悪の組織の秘密基地が出てきたよ。
『なんと! 反逆者のアジトを3つ同時に撃滅だ! わーぱちぱち! すばらしい! わんだほー! いぇーい!』
銃を構えて、機械人形と一緒に、軍人さんが突入だ。上からファミリア達もやって来たよ! 魔法をピカピカドカーン! 軍人さんも、構えた武器を一斉発射! わぁすごい! 粉々になっちゃった! アフロになったわるもの達が吹っ飛んでいくよ。おもしろいね!
『軍人さんたち、ありがとう! 皆さんのお陰で、この絶望郷はいつも平和です! 頑張った人には勲章をプレゼント! ひゅーひゅー! 国民の皆も、たくさんの感謝をお願いね! 今回作戦に参加してくれたファミリアの子も、お疲れ様! ゆっくり休んで、また頑張ろう!』
でもでも、油断大敵、油断禁物!
爆発した跡地から、わるもの達が逃げてくよ! 追っかけなきゃ!
『今回、たくさんわるものを捕まえたけど、まだまだ隠れて潜んでる! よくないことを企んでるから、皆注意するように!』
おや、逃げて隠れたわるもの達が、何か怪しく笑っているよ。悪いことを企んでるに違いない! 皆で探してやっつけよう!
『そしてなんと! 今回の作戦で、反乱軍を名乗る反逆者、その首魁の情報を掴んだよ! そいつを捕まえるために、絶望郷の警戒レベルを引き上げます!』
頑張ってくれた軍人さんたちと入れ替わりで、機械兵を引き連れた別の兵隊さんがやってきた! 一糸乱れぬ行進で、やる気も十分元気バッチリ! 早速ファミリアの皆とも協力して、草分け根分け探しましょう!
『国民のみんなも協力お願いね! これまで通り、不穏分子の情報は募集中! みんなが教えてくれたことが役に立ったら報奨金を送るよ! そして今から新キャンペーン! 情報提供者の中から、応募者抽選で私のぬいぐるみをプレゼント! みんな振るって参加してね!』
サイズも色々! 手乗り人形ぐらいから、一抱えのふわふわクッションサイズまで! へへーん、かわいいでしょ! 頑張ってデザインしたんだ!
『だーけーど、深入りは禁物だよ! ちょっとでも怪しいと思ったら、それを教えてくれるだけでいいからね! あとは軍人さんに任せよう! 首を突っ込んで怪我しちゃったら元も子もないぞ! 今回の作戦の公開情報はネットワークにたった今アップしたから、詳しく知りたい人は覗いてみてね! さて、それじゃあ次のコーナーへ!』
カツ、と音が聞こえ、物思いに耽っていたリツは現実に引き戻された。タブレット端末が手から滑り落ちた音だった。
ダメだ。読書に集中すれば余計な考えが晴れるかと思ったが、文章が一つも頭に入らない。端末を机の上に置き視線を上げれば、棚に飾ってある両親の写真と目が合った。
反乱軍のアジト襲撃作戦から一週間。治療も終わり、リツは己に割り当てられた部屋で寛いでいた。いたのだが、列車を逃してしまった失敗を引きずり、気分を切り替えられずにいる。
絶望郷国軍全てと、ファミリア魔法少女全員にはファントムの抹殺命令が布告された。
都市の警戒レベルは引き上げられ、監視カメラが見張る通路であろうと警備の人員が機械兵士を連れ哨戒している。ファントムがクラウンの監視をすり抜けられる現状、監視カメラによる警戒網は著しく弱体化してしまった。
また、やはりオリジナル魔法少女は上手く動けない。クラウンは非常時であろうと一人で行政を回さねばならず、他のオリジナルも各々の役目があり、全力を振るうことは不可能。故にファミリア魔法少女と国軍が実働部隊として動いている。
そんな状況だからこそ、ファントムを……反乱軍の首魁と思しき、あの魔法少女を逃してしまったことはあまりにも痛恨。道化師には褒められたが、他でもない自分があの失態を許せそうにない。
『確かに仕留められはしなかったけど、ファントムが“マンティス”であることを知れただけでも大収穫なんだ。それに、ウィルム含めた魔法少女の名前もね。『ディバイン』の名前が知れて良かったよ。殺したはずのオリジナルの名前を冠してる理由は探らないといけないけどね。……生きてたなんてありえないと思うけどなぁ。ニュークが原子レベルまで分解したし……』
眷属は、その名に上位者の名を戴く。
ディバイン、という名前から推定できるオリジナルは一人。
最初の魔法少女、ディバイン☆フリューゲル。
聖なる天翼、と神の御使いじみた名に反して、彼女は人の形をした災厄そのものである。
最悪の自由時代にて反乱軍の齎した破壊の内、実に七割以上がフリューゲルの魔法によるものだ。コロニーを消し飛ばした破壊の光は、恐怖と共にリツの脳裏に強く焼き付いている。
そんなものがまだ生きているとしたら。
『何にせよ、リツちゃんはよくやってくれたよ! 傷の療養も兼ねて、しばらくお休み!』
己より遥かに多くの情報と責任を持つ道化師がそう言っているなら、それが正しいのだ。延々と自責するのではなく、反省材料として割り切り、次に活かすべき。
余裕があるからくよくよ考えてしまうのだ。さっさとシャワーを浴びて寝てしまおう。
そう思って立ち上がったが、玄関からポーン、とチャイムの音が。
客人だ。珍しい。誰だろうかとモニターを覗き込み……。
『やっほー、リツ。入れてくんない?』
「……夜更けにどうしたのですか」
来訪者はバディであるシアンだった。作戦前にも見た、カスタマイズされた量産服姿で、それなりに膨らんだ荷物を背負っている。
『や、それがさ……。クラウン様が『リツちゃんと一緒に暮らしてね!』って……』
「は? 魔導士官はそれぞれ部屋が割り当てられるはずでは……。……え、まさか」
『うん。なんか、バディは同じ部屋で暮らせって……』
嘘でしょ?
「ちょ、ちょっと待って下さい」
急いで部屋に戻り端末を持ち上げれば、画面が勝手に切り替わって道化師が表示される。デフォルメされた、処刑ニュースでお馴染みの姿が描かれたイラストスタンプだ。
『よろしく!!』
リツは深い溜息をついた。
鍵を開け、シアンを招き入れる。
「……散らかってますが、どうぞ」
「わ、ホントだ。汚いってほどでもないけど散らかり気味だね。意外だなぁ」
「意外は余計です」
上着がソファーにかけっぱなしだったり、ゲームのコントローラーが出しっぱなしだったり。
魔法少女になり所属と階級が変わった事により、住居も移動することになった。アジト襲撃の数日前に国軍学校の寮から移り、今まで一人暮らしだったのだ。寮生活をしていた時は同室の面々に迷惑をかけないよう片付けはきちんとしていたが、自分だけであれば誰に迷惑をかけるでもない。そのため少々油断していた。寝室が二部屋あった時点で気づけよ、と己を叱る。うわやっべ、脱ぎ散らしたインナーがそのままになってる。
「や、生活感あっていいと思うよ。がらんどうより健全でしょ」
ソファーを指し示せば、シアンは外套を空いていたハンガーに吊り下げよいしょと座る。
「魔法少女の電子ポスターとか貼ってるんだ。グレイザー様じゃん。ファンなの?」
「そ、そうですよ。いいじゃないですか私がグレイザー様のファンでも」
「急に早口になるじゃん。……わぁ、クラウン様のぬいぐるみもあるじゃん。かわいい」
「いいじゃないですか別に」
「いやあーし何も言ってないけど? まあ、リツが好きで集めてるのは分かったよ。プロパガンダに迎合してるアピールかとも一瞬思ったけど、ウィルムと戦ってた時の様子見る限り違いそうだし」
……事実、絶望郷に魔法少女のグッズが溢れているのはそういう面も少なからず存在する。確認したことはないが、ぬいぐるみに盗聴器等が仕込まれていても何も不思議ではない。大多数の臣民がそう思っているはずだ。何せ、ディストピアを体現すると言うにしてもあまりに過剰な監視カメラが都市を見張っているのだ。盗聴器の一つや二つ今更である。
しかし逆に言えば、そんなスパイグッズかもしれないものを購入するというのは、自分は後ろめたいことなどしておらず、
無論、秩序を蘇らせたクラウン含む絶望郷のオリジナル魔法少女を英雄視する意識も当然あり、純粋な気持ちでグッズを買う者も多いのだが。グッズの出来自体もかなり良い。
「わざわざそんな方法でアピールせずとも、私が絶望郷に恥じることなど何一つありません」
「部屋は散らかってるのに?」
「部屋は関係ありません!」
バディと共同生活すると分かっていたら片付けたのに。リツは苦々しい表情でため息をつくしかない。
「まあそれはいいや。お腹空いてきちゃったな。食べ物ある?」
「どうぞ。代わりに色々聞かせてもらいますよ」
「いいよー」
散々部屋が散らかっていることをからかわれた後なので、詰問の言葉は何とも格好がつかなかった。
配給食が入ったボックスは机の上に置きっぱなしになっていた。資源の無駄になる個包装ではなく、仕切りに縦に入れられたバーを見て、シアンは目を輝かせる。コップに水を入れてきてやると、口に配給食が入ったままフゴフゴと感謝の言葉を返してきた。
シアンがここに住むなら、その分も届くように申請しなければと端末を操作するが、既に月一で届く量産服や日用品など、他の物も含めて数字が変わっていた。
「んぐんぐ……。やっぱり美味しいね、これ」
「今まで何食べてたんですか?」
「旧時代の食料合成装置で作られた合成食。あんまり美味しくはなかったね」
「まあそうでしょうね。あれを好んで食べたいとは思いません」
「時々裏ルートで流れてくる余りの配給食とかがご馳走だったよ」
当時も最終手段に近かったが、それを食べざるを得ないような状況だった。ちょうどこの配給食から味という味を全て抜いたような感じだったはずである。
端末から顔を上げると、シアンがじーっとこちらの顔を見つめてきていた。
「……何か?」
「……いや、うーん……。これ言うとリツ絶対怒りそうだし……気のせいかもしれないから」
「逆に気になるので言ってください」
「……怒らない?」
いいから早く言え、と顎で続きを促すと、シアンはんー、と頬を掻きながら言う。
「なんかさ、ファントムがリツと似てる気がして」
「は? ……はぁ!? どこがですか!」
「ほらー怒った! ごめんって。何となく思っただけだから」
思わず立ち上がったリツは、肩を怒らせながらぽすんと腰を下ろした。
目を細め強い口調で否定しても、シアンは気にした様子もない。
「奴の顔を見れたのは一瞬でしたが、私の顔と似ているとは感じませんでしたけど?」
「や、だから何となく思っただけなんだって。あんまり気にしないでいいよ」
シアンはひらひらと手を振り、新しい配給食に手を伸ばす。
「そんで? 聞きたいことって? ……まあ予想つくけどね。あーしが反乱軍にいた理由については、ウィルムを挑発する時に言ったことがほぼ全部だよ。反乱軍を抜けて絶望郷に戻るために、手土産として情報を売ったんだ」
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