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私が、まず記しておかなければならないのは、この見聞録を作成するに至った経緯であり、それを説明するためには、スーパーカブラギを震撼させた「A男薄茶色ゴロゴロ事件」について知っていただかなければいけない。その事件が起きたのは、この見聞録を書き始める数か月前のことである。

「おい、青果担当ごるァ、これ何て言うんだよごるァ」

突然の嘶きに、その時レジにいた私は何事かと周囲をあたふたと見回した。野生の何かが迷い込んできた。そのようなざわつきが私の心を支配した。幸いにも、夕食前のピーク時を過ぎて客が落ち着いている状態だったので、一度深呼吸をして、先ほどの嘶きを分析する。確か声の主は「青果」といった言葉を発していた。そうだ、青果のある場所に答えはある。私はそう気付いてレジから正面に配置されている青果売り場に目を凝らした。

 声の主はチェッカーである同僚のA男君だった。A男は薄茶色のゴロゴロが入った透明の袋を手に掲げ、青果担当の男性に掴みかからんばかりの気迫を漂わせていた。

「…メークインですけど」

青果担当は冷めた様子でボソボソと答えた。彼の気迫に動じない辺り、この男もただ者ではない。

「んなこたァどうでもいいんだよ!!」

A男は、青果担当にまるで理不尽な逆切れをブチかます。私はこの辺りまでは、青果担当に同情していた。気が狂ったA男の餌食となってしまったみたいだと。周囲にいた人間も、みな同じような程よく擦れた目線を青果担当に投げかけていた。しかし、私は同時にひどい違和感を覚えた。これまで長く一緒に働いてきた同僚のA男だが、こんな到底真人間とは思えないような振舞いをするような人物ではなかったのである。私が店内で寒そうにしていた時は、店内の温度調節をいじってくれたり、他人のレジのレシートが切れたら率先して替えを持ってくる。そういった人の心を十二分に思いやれる人材だったはずだ。

 彼の怒りに震える背中を見つめていると、私のレジに女性がカゴを置いた。騒動の経過を確認したい気持ちを抑え、自分の仕事に集中する。女性のカゴの商品をスキャンしていると、大量の商品の中から「薄茶色のゴロゴロ」が現れた。そう、これはA男が手にしていたものだった。


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