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表面にPLUがない。PLUとは、商品の価格を示すバーコードのことだ。通常はこれをレジでスキャンして商品を登録するのだが、野菜やフルーツなどの青果の一部商品はバーコードが剥がれることも多く、そのような商品をスーパーカブラギでは、手元のスクリーンから該当商品をタッチして登録する手順となっている。これはスーパーがまだ全国に存在していた時期ですらほとんどの店で廃止されていた、古いレジスターのシステムだ。当店のチェッカー達からは「面倒な作業が増える」と不評を買っているが、私は意外と気に入っている。そういった面倒くささこそが、ここで生きる意味みたいなものだと思っているからだ。 

 話を戻そう。私はその「薄茶色のゴロゴロ」を手にして、スクリーンの野菜タブ2をタッチした。根菜系はタブ2に表示されているはずだ。じ、じ、と目当ての文字を探す。見当たらない。もう一度ゆっくりタブの先頭から潰していく。そこでハッとした。「薄茶色のゴロゴロ」は「じゃがいも」ではなく、「メークイン」で登録されていたのだ。点と点が線で繋がった。恐らくA男は私と同じように「じゃがいも」でスクリーンから探そうとした。ところが登録名は「メークイン」だったので、気づけなかった。

 青果の中にはPLUが付いている商品もあり、そのレパートリーは日によって異なる。たまに青果担当者がPLUを貼り忘れていることもあり、そのような商品はスクリーンからも登録できないので、その場合は我々チェッカーが売り場に価格を確認に行く決まりとなっている。店内はレジのそばに青果売り場があるつくりになっているが、それでもレジの場所によっては、片道五十メートルほどかかる。

 今日のA男の持ち場は青果売り場から一番遠いレジだった。しかもそこは惣菜売り場の真横にあり、夕方に客が一番集中する「魔の2号レジ」と呼ばれていた。レジに行列ができると、早く商品を登録しようと焦るものだ。そういう時に青果売り場まで確認に行くのはかなりのタイムロスとなる。客のイライラが伝わってくる時もあり、チェッカーのストレス値は急上昇する。さらにそんな状況で青果売り場まで走って行ったA男を待ち受けていたのは「メークイン」で登録されていたという事実。その場で膝から崩れ落ちてもおかしくないくらいの衝撃、唖然。私はA男の気持ちが痛いほどよく分かる。

 再びレジ周辺は静寂をまとい、私は青果売り場へと全神経を集中させた。

「なあ、どうしてこんな仕打ちができるんだよ。俺たち仲間だよな?身内同士でなんでいがみ合うんだよ」

彼の目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。彼と対峙している青果担当者もさすがに戸惑っているようだ。A男は空を眺めるかのようにどこか遠くを眺めながら、そのまま店の奥へと去っていった。彼は最後まで「薄茶色のゴロゴロ」を強く握りしめていた。その日、彼が2号レジに戻ることはなかった。

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チェッカー見聞録 @satomi_jo

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