第77話 【灯 vs 光希 ROUND4】 2/2

 つーか、俺じゃなくてあいつが頑張ってどーする。


 購入した紅茶と魯肉飯ルーローハンを前に、光希は頬杖をついて灯を待っていた。

 灯の変化に全く気づけなかった自分を反省しながら。


 まさかの、俺も鈍感なのかっ⁉ 輝良と類友なのかっ⁉


「そっかぁ。テルちゃんはやっぱり、優しいねぇ。ねぇ? 大尾くん?」


 突然上から降ってきた声に顔を上げれば、そこにいたのは灯とトレイを持った輝良。


「は? あ、輝良!」


 2人並んだ姿に、何故だか胸がざわつくのを光希は感じた。


「お前なにやってんだ? 田内は?」

「テルちゃんはねぇ、明恵に席に座っててもらって、お買い物してたんだって~。そこで部活の後輩に会っちゃって、一緒にって誘われて困ってたから、あたしが声掛けたの。そしたらねぇ、テルちゃん、あたしのトレイ、ここまで持って来てくれたんだよ? ほんとテルちゃん、やっさし~♪」


 そう言って灯がチラリと光希を見る。

 まるで、光希への当てつけの様に。

 思わず、光希の口調もムッとしたものになる。


「なんだよ、だってお前がひとりで見て回りたいって言ったんだろ」

「そうだっけ~?」

「あのなぁ、俺だって」


 言いかけた光希の隣に静かにトレイを置くと、


「じゃ、俺行くから」


 と輝良はどこかへ行ってしまった。


「俺だって、なによ?」


 輝良の姿を目で追いかけようとした光希の視界に、灯がずぃっと入り込む。


「あ?」

「さっき言いかけたでしょ。『あのなぁ、俺だって』って」

「……別に」


 言いかけた言葉を思い出しはしたものの、光希はその言葉を飲み込んだ。

 これでは売り言葉に買い言葉になってしまう。

 そうじゃなくても、光希だって灯のトレイを運ぶくらいの優しさは持ち合わせているつもりだった。


「あれ? もしかして、ヤキモチ?」

「ばか言うな」

「図星か」

「うるせっ」


 熱を持った顔を見られまいと背ける光希にクスッと笑うと、灯は両手を合わせて目の前のトレイに向かう。


「いただきます!」


 そして、美味しそうに麺をすすり始めた。


「それ、何?」

担仔麺タンツーメン

「旨そうだな」

「食べる?」

「うん」

「そっちも一口ちょうだい」

「あぁ」


 光希と灯、2人並んで食べる台湾グルメ。


「美味しい~! ね、次何食べよっか」

「次は一緒にまわろうぜ」

「うん。ふふっ」

「なんだよ?」

「べっつに~」


 クスクスと笑いながら、灯が言った。


「テルちゃんと明恵、いい感じになってるといいね」

「……だな」


 嘘臭さの無い灯の笑顔に。

 灯の言葉に。

 高鳴る胸を悟られまいと、光希は何でもない風を装って笑ったが、その胸の内を見透かしたように、灯は再びクスクスと笑った。

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