第74話 これはデートだ! 6/6

 最後にお目当ての台湾カステラを2人でシェアして食べて、俺たちは商業施設内をブラついてから帰路に着いた。

 一応、千恵や佳希、光希や灯ちゃんの姿を探しては見たのだけど、見つける事はできなかった。

 由比さんたちには、台湾グルメの会場を出る時にまたバッタリ出くわした。

 俺の隣にいるのが、さっき見た人と違う事にびっくりしていたようだったけど、ツッコまれる前に俺はさっさと彼らから離れた。

 ……色々聞かれたら、面倒だからな。


「大尾君たち、来てたのかな」


 帰りの電車の中で、明恵が言った。

 そうだった。

 明恵には、光希たちに会った事、言ってなかった。


「うん、来てた。灯ちゃんも来てたぞ」

「え?」

「光希と灯ちゃん、一緒だった」

「……そう」

「あの2人、なんだかんだ言って、仲良いよな」

「うん」

「あいつらも、デートかな?」

「うん」

「え?」

「え?」


 冗談で言った事に、明恵があまりにナチュラルに同意したんで、俺は驚いたのだけど、明恵は驚く俺に驚いたみたいだ。


「って、あの2人、そうなのか⁉」

「ほんと、鈍感か」

「え、マジで⁉」

「……はぁ」


 俺を見る明恵は、すっかり呆れ顔だ。


「ま、まぁそれはともかく、だ。千恵も佳希と回ってたんだろうな」

「うん」

「え?」

「楽しそうだった」

「そ、そうか」


 なんだろう?

 なんだか胸がモヤモヤする。

 いかん、これじゃあバリバリのシスコンになってしまう!

 千恵が楽しかったんなら、それでいいじゃないか。

 いずれ千恵は佳希と付き合うことになるんだから。


 俺に、彼女ができたら。


 ふと、隣の明恵を見る。

 明恵も俺の視線を感じたのか、目を合わせて小首を傾げる。


 今日、明恵とデートはできた。

 でも、それだけだ。

 この先俺は、どうすればいいんだろうか。


「少し前」

「うん?」

「私のこと、避けてた?」


 小首を傾げたまま、明恵はじっと俺を見ていた。

 この目に俺は、弱い……嘘なんて、吐ける訳がなかった。


「……うん。そう、かも」

「なんで?」

「ん……幸成と二人になりたいんじゃないかって、思ったから」


 俺をじっと見つめたまま、明恵は何度か瞬きを繰り返した。

 顔全体で、なんで? と聞いている。


「まぁ、俺の勘違いだったんだけど、な」

「どんだけ勘違いなの」

「だな」

「ポンコツか」

「は?」

「いや、鈍感か」

「ちょっと?」

「ふふふ」

「おいっ!」


 明恵の中でどうやら俺は、すっかり『ポンコツの鈍感』キャラになっているらしい。

 昔はヒーローとまで思っていてくれていたみたいなのに、なんだろうか、この転落具合は。


「帰りに神社、寄る」

「え? なんで?」

「お礼参り」

「何の?」


 意味深に笑っただけで、明恵は最後の質問には答えてくれなかった。


「じゃあ、俺も寄る」

「なんで?」


 お返しとばかりに、俺も黙ったままニッと笑って明恵を見る。


 今年の元日に俺は、初詣で『彼女が欲しい』とお願いした。

 それはもしかしたら、叶いつつあるのかもしれない。

 だけど、あの時と今じゃ、状況が変わった。

 俺は、誰でもいいから彼女が欲しい、って訳じゃない。

 彼女は明恵がいいんだ。


「お願いの変更とか追加とか、アリかな」

「え?」

「いや、なんでもない」


 ほんと今更過ぎて、何をどうしていいか俺には分からない。

 こんな時は、神頼みに限る。


 俺は明恵と2人で帰りに近所の神社にお参りをした。

 聞いても明恵は何のお礼をしたのか、全く教えてくれなかったけど。

 俺はお願いの変更というか追加をした。


 どうか、明恵と付き合えますように、と。

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