第72話 これはデートだ! 4/6

「あっ、テルちゃん!」


 ちょうどその時、灯ちゃんの声が聞こえた。

 両手で持ったトレイの上に、飲み物と丼ものを乗せていて、見るからに危なっかしそうな感じだ。


「灯ちゃん、持つよ」

「ありがと、テルちゃん」


 灯ちゃんからトレイを受け取る俺を見て、由比さんたちは何やら納得顔で頷いている。


「やっぱりデートだったんですねー」

「彼女さん、素敵な方ですね!」


 ん? あれ? もしかして俺今、盛大に誤解されているんじゃ……


「えっ? ……あ、いやっ、あの、これは」

「そうなの~♪ 今日はテルちゃん、デートなの。だからぁ、邪魔しないでね?」


 いつもとは感じが異なるアクティブカジュアルな服装ながら、今日もゆるフワ全開な笑顔でニッコリと由比さんたちに笑いかけると、灯ちゃんは俺の腕の上にそっと手をかけ、小声で囁く。


「テルちゃん、あっち」

「あ、うん」

「大尾くんもいるから」

「そっか」


 じゃあまた、と由比さんたちに声をかけて、俺はその場を離れた。

 なんだか誤解をされたままなのは気にはなったけど、その場を離れられたのは好都合だ。


「灯ちゃん、ありがと」

「どういたしまして~。なんだかテルちゃん、困ってたみたいだから」

「うん、助かったよ」

「でも、明恵は?」

「席で待っててもらってるんだ。だからこれ置いたら、すぐ戻る」

「そっかぁ。テルちゃんはやっぱり、優しいねぇ。ねぇ? 大尾くん?」

「は? あ、輝良!」


 見れば、やっぱり飲み物と食べ物が乗ったトレイを前に、光希が席に座っていた。


「お前なにやってんだ? 田内は?」

「テルちゃんはねぇ、明恵に席に座っててもらって、お買い物してたんだって~。そこで部活の後輩に会っちゃって、一緒にって誘われて困ってたから、あたしが声掛けたの。そしたらねぇ、テルちゃん、あたしのトレイ、ここまで持って来てくれたんだよ? ほんとテルちゃん、やっさし~♪」


 そういって灯ちゃんはチラリと光希を見る。


「なんだよ、だってお前がひとりで見て回りたいって言ったんだろ」

「そうだっけ~?」

「あのなぁ、俺だって」


 灯ちゃんと光希の言い合いは続きそうな気配だ。

 テーブルの上に灯ちゃんのトレイをそっと置くと、俺は


「じゃ、俺行くから」


 と一応声をかけて、目当ての店へと足を向けた。


 ちょっと明恵を待たせ過ぎている気がする。

 早く戻らないと。


 明恵の分と2つ買って、俺は急いで明恵の元へと戻った。

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