第71話 これはデートだ! 3/6

「でかっ! このから揚げでかっ!」

大鶏排ダージーパイ?」

「うまっ! 明恵も食ってみ?」

「うん……美味しい」


 会場に着いた俺達は、さっそくフードとドリンクを購入して席に着いた。

 一通り会場を見回して見たけれど、光希たちも千恵たちも見つけることはできなかった。


「これも、美味しい」

「ん? 魯肉飯ルーローハン? ちょっと貰うぞ」

「うん」

「うんまっ! めっちゃ旨いな!」


 会場内は混雑していて、ようやく見つけた空席。

 俺達は肩を寄せ合うように座った。だから当然、お互いの距離感はめちゃくちゃ近い。

 だけど、俺は何の違和感も無かったし、明恵も普通に笑っていた。


 もうだいぶ昔から、こんな感じだったみたいに。


「俺たちが大人だったら、ここでビールとか飲めたんだろうけどな」


 近くでは、台湾ビールを旨そうに飲んでいる大人が何人もいて、少し羨ましくなる。

 すると明恵が言った。


「飲める年になったら、飲みに来よう」

「だな」


 普通に、言っていた。未来の約束。

 それも、明日明後日の話じゃない。数年後の未来の約束だ。


 その時も明恵は、俺の隣にいてくれる気がある、ってことだろうか。

 それとも、ノリ?


「なに?」


 思わず、明恵の顔をジッと見てしまっていたらしい。


「いや、なんでもない」

「もう、カステラ、食べたいの?」

「いやいや! まだあっちの饅頭みたいのも食べたいし」

「うん」

「俺、買ってくる。明恵はここで待ってて」

「うん」


 2人で回って歩きたい気持ちもあったけど、一回席を立つと、また席を探すのが大変そうだ。

 だから俺は、明恵には席を取っておいてもらって、ひとりで回る事にした。


「せんぱーい! 辻せんぱーい!」


 少しすると、後ろから声が掛けられた。

 振り返ると、少し後ろには文芸部に入った1年の由比ゆいさんがいて、俺に手を振っていた。


「あれ? 由比さんも来てたんだ?」

「はい! 文芸部の1年みんなで来てたんです。こっちです!」

「え? ちょっと、えっ! まっ、ちょっ」


 俺の返事を待たずに、由比さんは俺の腕を掴んでずんずんと進み続ける。

 由比さん。由比ゆい 若菜わかなさん。文芸部に入った1年の女子。

 今年、俺の所属している文芸部には、男子3人と女子5人が入った。中でも由比さんは一番積極的というかなんというか……


「みんなー、辻せんぱい連れてきたよー!」

「「「あ、先輩!」」」


 みんな一斉に席から立ち上がって俺に頭を下げる。


 いやいや、文芸部ってそんな、体育会系のノリじゃないから! 恥ずかしいからやめて!


「先輩も一緒にどうですか?」


 由比さんはそう言ってくれたけど、俺は明恵を待たせたままだ。


「ありがと。でも俺、連れがいるから」

「彼女さんですか~?」


 由比さんに言われて、俺はドキッとした。

 これ、なんて答えればいいものやら……

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