第70話 これはデートだ! 2/6
イベントは、自宅最寄り駅から数駅離れた駅近くの大型商業施設で開催されている。
明恵と2人で電車に乗っていると、光希からメッセージが入った。
『幸成は例の先輩と会うらしくて来られないって。やっぱ今日は別行動にしようぜ』
「はぁっ⁉」
思わずスマホに向かってツッコんでいると、続けてメッセージを受信した。
『佳希は千恵ちゃんと2人で回りたいって言ってたし。吉野と田内は、なんとなくあんまり一緒じゃない方がいいだろ? だからお前は田内と一緒に回れよ。ま、会場でバッタリ会うかもしれないけどな』
明恵と、2人で⁉
「どうしたの?」
追い討ちをかけるように、明恵がキョトンとした顔を俺に向ける。
「あー、うん」
なんだよ光希のやつ!
いきなり俺を明恵と2人きりにするなよっ!
どうすりゃいんだよ、俺……
「輝良?」
「あー……」
光希に返信を送らずにそのままスマホをポケットにしまい、俺は明恵に頭を下げた。
「ごめん」
「え?」
「今日、みんなと別行動になった」
「ん?」
「つまり、今日はお前と俺の2人行動」
ガタンゴトンと、電車の揺れる音だけが耳に響く。明恵は黙ったままだ。
もしかして、どうしようか考えているんだろうか。
「それなら帰る」とか言って、帰ってしまうだろうか。
あまりにも長い間黙ったままの明恵に、恐る恐る顔を上げて見ると。
「なんで『ごめん』なの?」
明恵は首を傾げて俺を見ていた。
「え? だって今日はみんなでって言ってたのに、俺と2人だけになるし」
「なんで『ごめん』なの?」
全く同じ問いを、明恵は繰り返す。
あれ? 俺の言葉、聞こえてなかった?
「だから」
「デートみたい、が、デートになっちゃった、から?」
「あ~、うん。そんなと」
「鈍感か」
俺の言葉に被せてそう言い捨てた明恵は、呆れた顔はしているけれども、目は笑っている。
「なんでだよ」
「デート」
「えっ」
「楽しみ」
俯き気味に言った明恵の顔はなんだかすごく嬉しそうに見えたけど、明恵はそのまま窓の外へと顔を向けてしまった。
嬉しそうに見えたのは、俺の気のせいかもしれない。俺がそう思いたかったから、そう見えただけかもしれない。
だけど、間違いなく不機嫌には見えなかった。
「色々、食べる」
「あぁ」
「台湾カステラも」
「うん」
明恵は窓の外を向いたまま。
窓ガラスに映る明恵の顔は、やっぱり嬉しそうな顔に、俺には見えた。
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