第66話 とんだ勘違い、発覚! 3/3

「ほんと、怒るぞ?」


 感情を抑えたような低い声で、幸成は言った。

 だから思わず、俺は言っていた。


「もう怒ってるじゃないかっ!」

「当たり前だ」


 ですよね……はい。


「……ごめん」


 ここは素直に謝るに限る。

 というか、謝る以外の事は思い浮かばない。全面的に俺が悪い。

 謝ればきっと、幸成なら許して……


「さすがにそう簡単には許せないな」


 ……マジですか。


 幸成は滅多な事では怒らない。

 光希と俺が偶に些細な事でぶつかった時、仲裁してくれるのはいつでも幸成だ。

 一歩引いて見ているというか、大人なところが幸成にはある。

 その幸成が、そう簡単には許してくれないと言った。


 俺たち、もう終わりなのか?

 俺が、余りにもアホな勘違いをしたせいで……


 ガックリと、肩を落とす。

 落ち込むと人間って本当に、肩が落ちるんだな。

 そんなくだらない事を考えていた俺に、幸成は言った。


「そうだな。暫くは俺の言う事に、全面的に従ってもらおうか」

「は?」

「それで、許してやる」


 ……マジですか。


 幸成の提案は、有難さ半分、怖さ半分。

 幸成の事だから、おかしな事は言わないとは思うけど、幸成だからこそ、何を言うか分からない。だから、怖い。

 光希なら、なんとなく何言うか、分かるんだけどな。


 それでも。

 それで幸成が許してくれるなら。


「うん、わかった」

「よし、いい子だ」


 ……俺、幸成と同じ年だけど、な?


 満足そうにニヤリと笑う幸成に、エヘヘと愛想笑いなんかを返してみたりして。

 それでも俺はようやく、幸成との間が元に戻った感じがして、安心していた。


「とりあえず、ここの片付けさっさと終わらせるぞ」

「うん」


 それからの片付けは、それまでの片付けよりも格段にスピードアップ。

 あっという間に終わった。


 すっきりと片付いた倉庫で、幸成はスッキリとした顔で言った。


「お前ようやく自分の気持ちに気づいたんだな」

「えっ?」

「ほんと、鈍感か」

「あ、いや……あはは」

「今度は相手の事もしっかり見てみろ」

「え?」

「『見てれば分かる』んだろ?」


 なんですか嫌味ですかそれは。


 ジト目で幸成を見るも、幸成のドヤ顔には到底敵わない。

 それに。


「いいか、これからは相手の事をちゃんと見ろ。……もちろん、俺の言う事には従うよな?」

「う……はい」


 暫く俺は、幸成には逆らえないのだった。


 幸成が言う『相手』とはもちろん、明恵の事だろう。

 明恵の事をしっかり見る。

 見れば、ちゃんと見ていれば、何か分かるんだろうか。

 明恵の好きな人、とかも……


 でも、見てたはずなんだけどな。

 見てたうえで俺、明恵は幸成が好きなんだって、思ったんだけど。

 ……あれ?

 大丈夫か、俺。

 ……もしかして俺ほんとに、ポンコツ、か⁉

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