第64話 とんだ勘違い、発覚! 1/3
倉庫に入った俺は、幸成と2人で片付けを始めた。
とは言え、この間光希と幸成でだいぶ片付けてくれていたお陰で、倉庫内は殆ど片付いている状態。
ただ、文芸部のもので、しまう場所が分からないものだけが、床に積まれているだけだった。
「これは?」
「あぁ、それはそこの棚でいいかな」
「わかった。これは?」
「それは……こっちだから俺がやる」
必要最低限の言葉だけを交わし、あとは黙々と床に積まれた本類を棚にしまっていく。なのに、作業はそんなに順調には捗らない。
当たり前と言えば、当たり前かもしれない。全然連携が取れていないのだから。
いつもだったら、他愛のない無駄話なんかをしながらも、連携良く片付けているのに。
作業だって楽しく進むし、時間だってあっという間に経つのに。
幸成と2人だけの空間での沈黙の時間が、俺にはどうにも耐え難い。
いつまでも、こんな状態じゃ、イヤだ。
きっとこれは、俺の気持ちを整理するチャンスなんだ。
だから、幸成とちゃんと話さないと。
そう思って俺は、思い切って口を開いた。
「あの、さ」
「ん?」
「幸成は、灯ちゃんと明恵がまた家庭科実習室で話すの、知ってたのか?」
「いや、ん~……吉野がどうとか言うのは光希から聞いてはいたけど、まさかまたあの場所で立ち聞きとは思わなかった」
「そっか」
幸成も俺も、手を止めることはない。
ノロノロ作業とは言え、このままだともうすぐ終わってしまうだろう。
それはそれでいいことなのだけど、俺の気持ちを整理するには、時間が全然足りない!
だからもう、俺は幸成に直球を投げる事にした。
「あのペン、良かったな」
「ん?」
「喜んだろ」
これで幸成が決定打を打ってくれれば、俺はきっぱり諦められる。気持ちの整理ができる。
そう思ったのに。
作業の手を止めた幸成は、体ごと俺の方を向いた。
仕方なく俺も手を止めて、幸成の方を向く。
久しぶりに正面からまともに見る幸成の顔は、予想外の表情。眉をひそめて、なんだか不思議なものでも見るような顔をして俺を見ていた。
え? なにその反応?
もしかして、明恵、喜ばなかったのか⁉
驚く俺に、幸成は更に驚く言葉を口にした。
「まだ渡してないけど?」
何言ってんだお前? とでも言いたげな顔の幸成。
いやいや、それ俺のセリフだよ⁉
だって俺見たんだから! 明恵があのペン持ってるの!
それに幸成だって、言ってたじゃないか!
『あ、それ』って!!
……もしかして幸成、この期に及んでしらばっくれるつもりか⁉
素知らぬ顔の幸成に腹が立ってきた俺は、素知らぬ顔で対抗して言ってやった。
「でも明恵、あのペン持ってたよな? 俺、見たぞ?」
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