第63話 灯ちゃん vs 明恵 ROUND5 2/2
「だって、私は灯に言われたとおりに」
「なによ、あたしのせいだって言うの?」
「そんなことは」
「あんた分かってる? 今、最悪の状況だってこと」
「……さい、あく?」
「もしかして、気づいてないのっ⁉ ほんっと、類友ねっ!」
なんだろう?
明恵は今日も灯ちゃんに言われ放題なんだけど。
それにしても『最悪の状況』って? 何が?
それに、『類友』って、誰と?
「別にあんたに恩売るつもりなんか無いけど、あたしは優しいから特別に教えてあげるわ。ちょっと、耳貸しなさい」
「えっ? なに」
「いいから、早くこっち来なさいよっ!」
「ちょっ……あっ」
「よく聞きなさいよ。あんた――――――ことになってるわよ」
「……えぇっ⁉」
えぇっ⁉
という明恵の声に、俺は驚いた。
こんな明恵の大声、あまり聞いた事が無かったから。
それくらい、明恵の声は大きかった。
肝心な所が全然聞き取れなかったけど、一体明恵は灯ちゃんに何を言われたんだろう?
「ちょっと! 声デカすぎっ! それからもうひとつ」
「え、まだあるの」
「そう。あんたには――――――――いることになってるわよ」
「なんで?」
「あたしが知る訳ないでしょっ!」
「灯、それどこ情報?」
「本人、みたいだけど?」
「どうして……」
良く分からないけど、どうやら明恵は今、かなりの窮地に立たされているらしい。
助けてやりたい。
でも俺に、なにができる?
「どうするつもりよ?」
「どう、って……」
「ほんとに、何やってんのよ、あんたたちは」
あれ?
灯ちゃん、また言った。
あんたたち、って。
一体誰の事言ってんだろ?
明恵は知ってる風だったけど……俺には教えてくれなかったけどな。
あの時は、もしかして灯ちゃんも俺たちの立ち聞きに気づいていたのかも? なんて思ったけど、今の話の流れだと、絶対に違うと思うし。
それからもボソボソと灯ちゃんと明恵の声が聞こえていたけど、小さすぎて俺にはよく聞こえなかった。
声に集中していると、突然ガラリと家庭科実習室のドアが開いた。
中から出てきたのは、灯ちゃんだ。
慌ててトカゲみたいに壁にペッタリと貼り付いたのだけど、灯ちゃんはこちら側を見てニコリと笑う。
そして、チョイチョイと小さく手招きをした。
えっ?
驚いていると、壁から体を起こしたのは、光希だった。
「じゃ、な」
そう言って、光希は灯ちゃんと一緒に教室の方へと歩いて行く。
え? 今これ、どういう状況?
「いくぞ、輝良」
ボケッとしていると、幸成が俺の腕を掴み、倉庫へ向かって歩き出す。
明恵、大丈夫かな。
幸成に腕を引かれながら、俺は家庭科実習室にひとりで残っているであろう明恵の事を考えていた。
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