第17話 お返しを買いに行っただけなのに 3/3
「テルちゃん?」
気づけば真正面に灯ちゃんが男と腕を組みながら立っていた。
俺の視線に気づいたのか、慌てたように男から腕を離す。
別にいいのに、そんなに慌てなくても。
でもまぁ、知ってるヤツに見られたら、恥ずかしいものかもしれないな。
……俺には経験無いから知らんけど。
「あっ……灯ちゃん、ははっ、偶然だね、こんなところで」
「もしかしてテルちゃん、あの彼女にあげるお返し買いに来たのかな~?」
「え?彼女って……あぁ、あれは」
「おに……輝良、みーつけっ!」
言いかけた俺の背後から、ぶつかるようにして抱き付いてきたのは、千恵。
「おわっ!なんだよ千恵、危ないだろ?もうっ」
「あっれー?この間のお姉さん?こんにちは。お姉さんもデートですか?私も輝良とデートなんです~、うふっ」
千恵はよっぽど灯ちゃんの事がイヤなのか、今日も俺の彼女宣言をしている。
灯ちゃんにはもう彼氏がいるんだから、こんな余計な事しなくても大丈夫なのにな。
まったく、何やってんだか。
つーかいいのか?お前、さっき男といただろう?
こんな所見られたらマズイんじゃ……
と思った矢先に、俺の方がマズイ状況になった。
「ほぅ。お前、千恵ちゃんと付き合ってたのか。それは知らなかった。おめでとう、輝良」
「へ~。この俺を差し置いて千恵ちゃんと、ねぇ?許さん、輝良!」
幸成と光希だ。
つーかお前ら、千恵が俺の妹だって事知ってるクセに、何言ってんだよっ!
「くぅっ……千恵ちゃん、俺より輝良を選ぶのか。俺は悲しいっ!」
「ごめんねぇ、こうちゃん。私やっぱり輝良が好きなの」
「俺という選択肢もあったと思うが?」
「ゆっきーは年下より年上が好みでしょー?」
千恵もすっかりノリノリで、光希と幸成と話している。
ほんとみんな、こんな公の場でやめてくれ。メチャクチャ恥ずかしいぞ、俺……
ふと見ると、灯ちゃんはいつものゆるフワな笑顔を消して、じっと俺を見ていた。なんだか怖いくらいに。
もしかしたらこんな小芝居、見抜かれているんじゃないだろうか……余計恥ずかしいぞ、俺。
「そんな訳で、私たちもう買い物も終わったので帰りまーす!行こ、輝良」
「あ、うん……いや、つーか千恵、待てって」
「待たない待たない」
腕を組み、俺にピッタリと体を寄せて千恵は俺を引きずるようにして催事場の出口に向かって歩き始める。
途中、千恵は不思議そうな顔をして立っていた男に、小さく手を振った。
その男も、千恵に小さく手を振り返し、俺にペコリと頭を下げて来た。
あの男って……
反射的に俺も頭を下げてしまったが、あれはさっき千恵と一緒にいた男じゃないだろうか。
にしても、なんか見覚えがある顔のような?
「なぁ千恵。さっき手振ってたあの」
「ねぇ、お兄。明恵ちゃんと私のマカロン、買ってくれた?」
「ん?大丈夫。楽しみにしとけ」
「わ~、嬉しいなぁ!」
「で、さっき手振ってたあの」
「ねぇ、お兄。私お腹空いちゃった。お昼ごはん奢ってー!」
「……はいはい」
俺の質問をガン無視する千恵。どうやら言いたくないらしい。
言いたくないなら仕方ないか。千恵が嫌がる事は俺もしたくない。
でも。
ちょっとこれはくっつき過ぎだ、千恵。兄妹としていかがなものかと、お兄ちゃんは思うぞ?
「ちょっと離れろ」
「えー、なんで?いいじゃん、くっついてた方が暖かいし」
「お前なぁ」
「それに、さっきのあの人に、どこで会っちゃうか分からないでしょ?」
「灯ちゃんなら彼氏がいるよ。さっきお前も見ただろ?」
「……だからお兄はダメなのよ」
「はぁっ?」
良く分からないところで、可愛い妹からの突然のダメだし。
え?
俺なんか変な事言ったか?
そんな事突然言われたら、お兄ちゃん少し凹んじゃうぞ?
「でも大丈夫!私はお兄のこと大好きだからねっ!」
なら、良し!
なんて思ってしまう俺はきっと、単純なんだろう。
結局帰りにファミレスに寄って、2人で仲良く昼飯を食べて家に帰った。
ホワイトデーのお返しを買いに行っただけなのに、なんだか内容の濃い半日だったなぁ……
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