第15話 お返しを買いに行っただけなのに 1/3

 そろそろホワイトデーも近づいてきた。街中の店の飾りつけはホワイトデー一色だ。

 ていうか、バレンタインが終わったらソッコーでホワイトデーに移行だもんな。息吐く暇が無いっつーの。バレンタインの余韻なんてあったもんじゃない……そもそも俺には浸る余韻なんて無いけどさ。みんな義理だし。

 でも、旨かったなぁ……明恵のプリン。5つ入ってたから家族分くれたのかもしれないけど、2つ食っちゃったもんな。

 母さんも千恵も旨いって言ってたし。父さんには悪いけど。まぁ、父さんは千恵からのチョコレートがあったからいいだろう。俺が貰ったプリンだからな!


 それにしても、まだまだ時間あるから大丈夫、なんて最初は思ってたけど、気づけばあと少し。

 ホワイトデーの直前の休みの日の午前中に、俺はお返しを買いに出かけた。

 本当は、一緒に下見に行った千恵にも付き合って貰いたかったところだったが、千恵は別の用事があるということで、俺より先に出かけてしまった。


 でもまぁ、この間千恵に色々教えて貰ったから大丈夫だろう。


 そう思って、ホワイトデーの飾りつけが恥ずかしいくらいに全面に出ている催事場に足を踏み入れる。

 ここは、家から数駅離れたショッピングモールの催事場。家の近所だと知った顔に会いそうだったから少し足を延ばしてみた。


 ……って、なんだっけか?

 飴と金平糖とマカロンはダメで、マドレーヌとフィナンシェがどうとか……んっ?


 催事場に入ったとたんに、俺の頭の中から千恵の助言は綺麗に吹き飛んでいた。


「なんだよ、輝良。お前もか」


 いきなり知った顔に会ってしまったからだ。光希だ。


「なんでいるんだよ、光希……」

「それはこっちのセリフだ」

「いや、俺のセリフだ」


 後ろからも知った声が聞こえてきた。幸成だ。


「なんだよ、幸成もかよ!」


 これなら大人しく家の近所のショッピングモールに行った方が良かったかもしれない。結局俺達は3人揃ってしまった。


「来週はホワイトデー。今日はその直前の休日。休日を有効に使うためには午前中に出かける方がいい。さらに家の近所のショッピングモールでは誰かと会ってしまうかもしれない。それはなんとも気恥ずかしい。だから、それほど遠くは無いが少し足を延ばせば行けるこのショッピングモールの催事場へ足を運ぶ。とまぁ、俺達は3人ともこう考えた訳だな」


 そう分析する幸成。

 確かにそうだ。仰る通り。


「ま、俺達3人は気が合うって事だな」


 あっけらかんと笑う光希。

 確かに気が合うのだろう。だからこそ、光希は小学校から、幸成とは中学校からいままで、なんだかんだとつるんでいるのだ。


「でも、ま。男3人で一緒にお返し選ぶってのも気色悪いからな。ここで解散ってことで」


 そう言うと、幸成はさっさと歩き出してしまう。

 ほんと、あっさりとしたヤツ。


「だな。じゃあなー、輝良。千恵ちゃんに宜しくな」


 そう言って、光希も俺に手を振りながら歩き出す。

 なんで千恵に宜しくしなくちゃいけないんだよ?

 光希のヤツ、まさか本気で千恵が好きとか⁉


 ……いや、ないない。やめてくれ。

 別に光希が嫌いとかじゃないけど、なんかヤダ。


 思わず光希と千恵が寄り添って立っている光景を想像してしまった俺は、思い切り頭を振ってその光景を頭の中から追い払ったのだけど、次に目にした光景に釘付けになってしまった。

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