第13話 兄妹デート 2/2
休日だから当たり前と言えば当たり前だが、私服姿の灯ちゃんは制服姿の時よりも、より緩くてふんわりとした雰囲気を纏っていた。
けれども、少し顔が強張っているように見える。
「おー、灯ちゃん。偶然だな、灯ちゃんも買い物?」
「う、うん。ところでテルちゃん、そちらは……」
ぎこちない笑顔の灯ちゃんの視線の先にいるのは、千恵。
紹介しようとしたとたん、千恵は手にしていたスマホをポケットの中へと滑り込ませると、両腕を俺の腕に絡め、灯ちゃんに向かってニコリと笑った。
「初めまして、千恵です。輝良の彼女でーす!」
「えっ⁉ちょっ、千恵……」
「ごめんなさーい、今私たちデート中なんで!それじゃ、失礼しまーす!」
そう言うと、千恵はすごい力で俺を引きずり、灯ちゃんから離れ始める。
「ちょっ、千恵っ!ごめん灯ちゃん!またねっ!」
俺は為す術もなく、千恵に引きずられるしかなかった。
しばらく引きずったところで力尽きたようで、千恵は止まって俺から両腕を離し、肩で息をし始めた。
「なんなんだよ、千恵。何やってんだ、お前?俺の彼女なんて」
「私、あの人、なんかイヤだ」
「えっ?なんで?お前、灯ちゃんの事知ってんの?」
「知らないけど、なんかイヤ」
兄の俺が言うのもなんだが、千恵は勘が鋭い所がある。
それに確か、幸成と光希が、灯ちゃんは女子の間で悪い意味で有名だとか言ってたっけ。
だけど、初対面で千恵がここまで人を嫌うのは、初めて見たような気がする。
多少気に食わないことがあったとしても、家族以外には千恵はいつでもニコニコとして人当たりが良い方なんだけどな。
……家族には、素直に感情をぶつけるけど。それはそれでまた可愛いから俺は一向に構わないのだが。
「お兄、あの人からもバレンタイン、貰ったの?」
「あ、うん。貰った、けど……」
俺の言葉に、何故か千恵は眉根を寄せて口を尖らせ、俺を睨む。
ちょっと、前言撤回しようかな。
確かに、素直に感情をぶつける千恵も可愛いとは思うけど。
でも、身に覚えのない負の感情をぶつけられると、いくら千恵大好きなお兄ちゃんだって、ちょっと凹んじゃうぞ?
お兄ちゃん、お前になんかしたか?なんでそんな顔して睨むんだよ……可愛い顔が台無しじゃないか。
「あの人には、マカロンは絶対にあげないで!絶対に!飴も金平糖もマドレーヌも!フィナンシェとかクッキーならいいけど!」
「うん、わかった。気を付けるよ」
正直良く分からなかったけど、千恵がかなり不機嫌そうな顔だったこともあって、ここはとりあえず分かったことにして、俺は大きく頷いた。
だって、マドレーヌとフィナンシェって、何がどう違うんだ?俺には良く分からん。
俺の言葉に千恵はようやく機嫌を直したらしく、俺の腕を取って歩き出した。
「千恵、もう腕は組まなくても」
「どこであの人が見てるか分からないでしょー?私、お兄の彼女って言っちゃったんだから、とりあえず今日このまま歩こう♪」
俺は別にいいんだけど、さ。
どこで誰が見てるか分からないんだぞ?
いいのか?千恵。こんなにお兄ちゃんベッタリで。
……お兄ちゃん的には、嬉しいけど、な?
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