第12話 兄妹デート 1/2

 俺はたまに、千恵と出かける。

 千恵曰く、『お兄とデート』だそうだ。

 俺は可愛い妹とデートすることに何の問題も感じていないが、少しだけ千恵が心配になる。

 このまま兄離れしなかったらどうしようかと……


 でもまぁ、好きなヤツもいるみたいだし。そんなに心配することでもないかな。

 そのうち、俺より好きなヤツとのデートを優先するようになるんだろうし。

 ……そう考えると、なんだか寂しい。

 今のうちに、千恵とたくさんデートをしておいた方がいいかもしれん。

 なんて思ってしまったことは、千恵には秘密だ。


「お兄、私ホワイトデーのお返しはね、マカロンがいい!」

「分かってる。千恵はマカロン好きだもんな」

「それだけじゃなくてね。ホワイトデーのお返しって、色々意味を持つものがあるんだよ。だから、慎重に選ばないとダメだよ?」

「そうなのか?」

「もぅっ!毎年教えてあげてるでしょ!」

「ごめん、忘れた」


 そう。

 今日はバレンタインのお返し、ホワイトデーに渡すお菓子の下見のためのデート。

 俺は女子が好むお菓子が良く分からないから、ここ数年は毎年千恵に付き合ってもらっている。

 それより前は、母さんに適当に見繕ってもらっていたけど。


「で?マカロンにはどんな意味があるんだ?」

「『あなたを特別な人だと思っている』だよ」


 えへへっ、と舌を出す千恵は、無邪気でなんとも可愛い。

 千恵は俺にとって大事な妹だ。『特別な人』、ドンピシャじゃないか。


「そういえば、明恵もマカロン好きなんだよな~。今年は明恵も千恵と同じマカロンにしようかな」

「私はいいと思うけど、お兄はいいの?」

「ん?なにが?」

「だーかーら、意味!」

「あ~……まぁ、ある意味明恵も『特別な人』だからなぁ」

「えっ⁉」


 千恵が驚いたように目をまん丸に見開いたが……


「だってそうだろ?保育園からずっと一緒なんだぞ、明恵は。家族以外でそんなにずっと一緒なヤツなんて、明恵以外にいないぞ?」

「……そういう意味、ね」


 少しだけガッカリしたような顔をした。のは気のせいだろうか?


「それに、明恵はそんなものの意味なんて気にしないよ、きっと」

「それはどうかなぁ?」

「じゃあ、その意味とやらを考えると、他の人には何をあげればいいんだ?」

「誰か気になる人とかいるの?」

「いや、いない」

「じゃあ……」


 スマホを取り出すと、千恵はなにやら調べ始める。

 歩きスマホは危ないって言ってるのに。

 そっと千恵の肩に手を乗せたところで、背後から声が掛けられた。


「テルちゃん?」


 振り返るまでもない。

 俺を『テルちゃん』と呼ぶ、その声の主は灯ちゃんだった。

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