第10話 バレンタイン反省会 2/3

「俺は、全部で12個、かな」

「誰からだよ?」

「千恵からと1個と、クラスの女子から8個と、灯ちゃんから1個と、明恵から貰ったのと、次の日部活に」

「ちょっと待て。灯ちゃんて誰だ?」


 俺の言葉を、光希が遮った。


「もしかして、5組の吉野灯か?」


 幸成の目がキラリと光る。


「なんだ、幸成知ってたんだ?」

「有名だからなぁ、彼女。良くも悪くも」

「えっ?」

「ていうか、輝良知らなかったのか?吉野のこと」


 光希が若干呆れ気味に見えなくもない目で俺を見る。


「そりゃそうだろう、だって俺達2組だろ?5組なんて行かないじゃないか」

「それを言うなら俺は1組だが?」


 幸成まで片眉を上げて少し呆れ気味に見えるのは、俺の気のせいだと思いたい。


「男子の間ではかなり有名だぞ、吉野。可愛いからな。でも女子の間でも有名だ、悪い意味で。なんか、男の前と女の前では態度が全然違うとかなんとか……まぁ、なんとなく半分はやっかみな気もするけどな~」

「で、そんな吉野を、なんで輝良は『灯ちゃん』呼びなんだ?吉野とそんなに親しかったなんて初耳だぞ?」


 俺に向けられる、光希と幸成の興味深々な目。

 何を勘違いしているのか……意味が分からん。


「灯ちゃんとは同じ保育園だったんだよ。ただそれだけだって。俺、バレンタインの日まで灯ちゃんが同じ高校にいるなんて知らなかったんだ、全然。灯ちゃんは気づいてたみたいだけど」

「「なるほど」」

「灯ちゃん、保育園のアイドルでなー。いつもみんなに囲まれてたんだ。でも何故か俺、良く二人で一緒に遊んでたんだよな」

「「なるほど」」

「そういや灯ちゃんも料理部で、明恵と一緒なんだよ。くれたお菓子も料理部で作ったって言ってた。明恵も灯ちゃんの事知ってたなら、なんで教えてくれなかったんだろうなぁ」

「「なるほど」」

「おいっ!」


 声を合わせて『なるほど』しか言わない光希と幸成に、俺はイラッとして声を上げた。


「人の話ちゃんと聞いてるのかっ!?」

「「もちろん」」


 ……腹立つわぁ、なんなんだよこの二人……


「じゃ、そろそろ今年も行きますか」


 光希がその場に座り直して正座をし、パシッと自分の両腿を叩く。

 それを合図に、幸成も俺も座り直して正座をし、目を閉じる。


「今年こそ、彼女ができそうなヤツ、挙手!」


 もちろん、俺は手なんか上げられる訳がない。

 だって、バレンタインに貰ったのは、全部義理だろうから。


「じゃ、そのまま。目を開けるぞ」


 光希の言葉にゆっくり目を開けると、手が上がっていたのは……


「おぉ、幸成。今年は本気なんだな?!」


 手が上がっていたのは、幸成だけ。

 やはり、目元が薄っすらと赤くなっている。

 こんな幸成は本当に珍しい。それほど本気ということなんだろう。


「相手は先輩か?チョコ渡した先輩か?」

「あぁそうだが?」


 少しおちゃらけ口調で聞いた俺を、幸成はギロリと睨んだ。


 こえぇ……こりゃ本当に本気なんだ、幸成のやつ。いいなぁ……


「頑張れよ、幸成。俺、応援してるからな!」


 ポンっ、と幸成の肩を叩いた俺の手を幸成が掴んで、マジマジと俺の顔を覗き込む。


「なっ、なんだよ?」

「お前、なんで手上げないんだよ?」

「へっ?だって……俺は彼女できそうもないし」

「本気か?本気でそう思ってるのか?それともお前にその気が無いだけなのか?」

「はぁっ?」


 幸成の真剣な顔にちょっと引いてしまった俺は、助けを求めて光希を見たのだが。

 光希は光希であからさまに呆れたような顔をして俺を見ていた。

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